猫少年Z

[.猫がワープロを打てない理由

 

 ゼフェル、めでたく釈放……でなく、退院!!

 あれから4日後の事である。

 

「無事に退院できて、よかったわねぇ!!」

 はしゃぐ母親。

「もしかして、アレ、取っちゃう事になるかと思ってドキドキしてたけど、やっぱり、可哀想ですものね。あの女医さんは、取りたがってたみたいだけど」

 うきうきしているのは、やはり、彼女にとっても既にゼフェルが家族の一員になっているからだ。

 そして、ここ数日のアンジェリークの元気のなさが、ゼフェルが入院した事によるものだと思い込んでいるためでも、ある。

 アンジェリークは、上目遣いに母親の能天気な顔を見て、深ぁく溜息をついた。

 今、ゼフェルは車の後部座席のキャリーケースの中にいる。

 病院から引き取る時は母親に任せて、アンジェリークは助手席で待っていた為、まだ、ゼフェルとは顔を会わせていない。

 ゼフェルと、顔を会わせたくない……会わせられない。

 そう、あれから4日、毎晩のように夢に見るのだ。

 ゼフェルの事を。

 猫ではなく、人間のゼフェルの事を。

 その度に、うなされて、目が覚める。

 何にうなされているのか、起きたらすぐに忘れてしまうけれど、もろ見の○○○○(ピー<文脈を考えて、好きな文字を当てはめてください)の事だけではないのは確かだ(アレはアレでかなりショックだったらしいが)。

 どういう顔をして会っていいか、分からない。

 今までちょっと変わってはいるけれど、普通の猫だと思っていたのに……なのに……。

 ―――実は、同世代の男の子だったなんて……! まるで、今まで私……同棲していたも同じじゃないの!!
(だから、大きな問題はそこらへんではない)

 氾濫する自分の感情をどうやっておさめたらいいのか分からないから、顔を会わせたくない。どう対応していいか、分からないのだ。

 猫が人間になるなんて、気持ち悪い!

 不思議と、そうは思わなかった。

 勿論、『見世物小屋・猫少年〜普通の猫が白金髪・赤目の美少年に大変身!』を開いて女性客相手にがっぽり稼ぐほど、商魂たくましくもない。

 マスコミに引き渡す事も、学者に提供する事も、とりあえず、考えない。

 お金持ち相手に(特に有閑マダムなんかが喜びそう)「世界にただ一匹! SPCAでさえ把握しきれていない珍動物!!」として売り飛ばす事なんて、問題外だ。

(見世物小屋で小金を稼いだ後、マスコミにそれとなく情報を流して、興味を持ったアラブあたりの大金持ちに裏で売り渡すのが一番金儲けが出来そうだが、そんな事ぁ、考えてはいけない)

 だから、ゼフェルを放り出すつもりは、ない。できない。

 猫姿のゼフェルに、情が移りすぎている。

 けれど、人間であると分かったゼフェルとこれまでと変わりなく一緒にいられるか、と、言えば……それは、イヤ。

 身内でもない同世代の男の子と同じ屋根の下で暮らす事に抵抗があるのは勿論、人間となったゼフェルのあのイヂワルな性格がどうにもひっかかってしまうのだ。

 けれど、その相反する考えは、彼女の中でぎりぎりの状態で拮抗していて……どちらも選択できない。だから、混乱している。

 いっそ、ゼフェルがずっと、人間の姿だったのならば、そのまま放り出す事も出来ようが……。

 実はあの首輪、手術するのに邪魔になるといって、入院中はずっと外していたようなのだが、何も問題になっていなかった所を見ると、病院にいる間は人間に変身しなかったのだ。つまり、首輪だけが、人間⇔猫の変身の鍵ではないらしく、人間姿ゼフェルになるには何かしら他の原因があるのだろう。

 と、言う事は、ゼフェルが人間姿になる要因が見つからなければ……首輪をかけたゼフェルは、ずっと、猫姿のまま? 

 ――だから、猫姿のゼフェルを放り出すのは、しのびないんだってばっ!!

 それならば……ゼフェルが完全に人間姿になる要因を、見つければいい。

 ――ゼフェルが常に人間になるというのなら……遠慮なく放り出せものっ!!!

 なんとなく、アンジェリークの結論らしきものははじき出された。

 なんだか、現実問題を先送りした、逃避的な思考になっている気も多々するが……この時点でのアンジェリークは、そう結論付ける事で、自分を落ちつかせようとしたのであろう。

 そう、目先の問題を失念したままで。

 アンジェリークがそれに気付いたのは、家に着いてからだった。

 鈍い事、限りなし。

 


 

 母親がキャリーケースをリビングに運び……アンジェリークはそこでやっと、はっとして、硬直した。

 目先の問題に直面したわけですな。

 ――どんな顔をすればいいかワカラナイ!!

 冷や汗が、アンジェリークの額をつっと流れ落ち……その(ひとり)緊迫した雰囲気の中、母親の手がキャリーケースの鍵にかかって、カチャっと音をたててケースは開き、ゼフェルの銀色の毛並みが覗いた。

 途端に……。

「いやあああ〜!!」

 張り詰めた緊張の糸がプツンとキレて、パニクったアンジェリークがとった行動は……。

 手にしていた自分のバックをゼフェルめがけて投げつけた!!

(どうも、何かを投げつけるとゆうのが、アンジェリークのノーマルな拒否手段らしい)

「え? ちょ、ちょっと、アンジェ!?」

 でもって、リビングを飛び出して、自室に駆け込んでいた。

 自室のベットの上でうつ伏せになって、必死で己をおさめようとするアンジェリーク。

 悪い事をした、とは、思う。

 小さくて、暖かで、ほわほわの、大好きな猫のゼフェル……。

 けど……猫のゼフェルは人間で……人間が猫になって……。

 やっぱり、混乱している。

 この混乱した心を、どうすればいいか分からなくて、ただ、逃げてしまう。

 結局、アンジェリークはその日、ゼフェルに顔を会わせたくないがため、自室に閉じこもっていた。

 ちょっと前に自分が導き出した『ゼフェルを完全な人間にして、さっさと放り出しちゃおう作戦』は、実行されないままに水泡に帰すのか!?

 ・・・・・・そう、自分の考えたその作戦が実行されるにあたって、自身がとんでもない目に遭おうとは、この時のアンジェリークは、まだ、知らない。

 てゆーか、知らないほうが、精神衛生上よろしかろう。

 結果おーらいだしネ☆

 


 

 ゼフェルと同居(?)しているからには、いつまでも、部屋に閉じこもっているわけにもいかない。

 アンジェリークが、素直に部屋を出ようと思えたのは、朝、机の上に置かれた、A4サイズの用紙を見つけたからだった。

 そこには、ワープロ文字で、何か、書かれていたのだが……その内容は、あまりに意外なものだった。

 

『アンジェリーク

 あの時は、突然驚かせて悪かった。
 オレも、入院している間、色々考えたんだ。
 おまえに伝えるのは、あんまり、急すぎたかもしれないと。
 けど、オレの話をちゃんと聞いて欲しい。おまえにだから、聞いて欲しい。
 オレを拾って、大事にしてくれたおまえだから、理解して欲しい。
 オレの抱えるどうしようもない事情を。
 おまえが落ちつくまで、オレは出来るだけおまえには近寄らないようにするから……。
 猫の手でワープロ打つのも大概疲れる。
 本当は書きたい事は山ほどあったが、続きは今度。


ゼフェル』

 

 猫のゼフェルからの手紙!

「ワープロって……お兄ちゃんの部屋の、あれで書いたの?」

 室内にゼフェルがいないのを確認し、更にドアをそっと開けてそこにもゼフェルがいないのを確認すると、隣の兄の部屋を覗く。幸い、そこにもゼフェルの姿はない。

 ほっと胸をなでおろしたアンジェリークは、兄の机の上で白い布を被っていた、使われなくなって久しい旧型のワープロを見た。

 そっと、白い布をめくってみると、使い辛らそうなキーボードには、猫の爪跡とおぼしき引っ掻き傷が各所に残っていた。

「これで、書いたの?」

 猫のゼフェルがワープロの前に座って、四苦八苦しながらキーボードを打つ様を想像したアンジェリークは、思わず吹き出してしまった。

 ちょっと短気なゼフェルだから、きっと、ままならない猫の手にイライラしていたに違いない。イライラのあまり尻尾がタワシみたいにブワブワになっていたり、背中の毛が馬のたてがみみたいに逆立っていたり、耳がペタンと伏せられていたり、長いおヒゲがぴったり頬に貼りついていたり……もしかすると、猫特有の逃避行動=爪研ぎ、ふて寝なんかをしていたり……。

 確かに、兄の部屋の隅に置かれた、いかにも猫の歓心をそそりそうな籐製のゴミバコが結構いい有様になっていたし、布団の上にはゼフェルが寝ていた跡とおぼしきへこみ・抜け毛の散乱(<猫はシーズン問わず抜け毛が多いもの)があった。

 なんだか、その様子がありありと想像できて、アンジェリークはくすくす笑ってしまった。

(この際、寮生活で留守中の兄の部屋の惨状は、どうだっていい)

 ちょっと、気分が高揚してきた。

 ゼフェルと顔を合わせるくらいなら、出来そうな気がした。

 けれど、着替えて階下に降りて……ゼフェルの姿はなかった。

「ゼフェルは?」

「外に遊びにいっちゃったわよ」

 手紙にあった“出来るだけ近寄らないようにする”の一文が頭を掠めて、アンジェリークは溜息をついた。

 きっと、しばらくの間、本当にゼフェルはアンジェリークを避け続けるつもりなのだろう。

 そりゃあ、顔を合わせるくらいならできるが、以前のような関係を戻すのはまだ無理そうなアンジェリークにとっては、その方がいいかもしれないが……。

「そうか、それなら……」

 ちょっと、いい事をひらめいた。

 学校から帰ってきたら……と、アンジェリークはどこかうきうきする気分のままに思った。

 アンジェリークの思いついた良い事とは……。

 

『ゼフェル

 あの時は、ごめんね。
 それに、昨日もごめん。
 ママに聞いたら、あなた、しばらく気を失ってたんですって?
 あのね、正直、まだ、あなたを許す気には、なれない。
 だって、猫だ、って嘘ついて、私の家に入りこんだでしょ?
 一緒に寝たり、独り言とか聞かれたり、着替えとかも……。
 ……ともかく……あなたの事情っていうのも気になる。
 ワープロでいちいち打つのは大変でしょうから、人間に、ならない?
 その……突然裸で現れたり、ヘンな事しようとしなきゃ、私も大丈夫だと、思うから。
 また、お返事くれると嬉しい。


アンジェリーク』

 

 人間のゼフェルに対する警戒心はまだ抜けてはいなかったのだけれど、なんだか、面と向かっていないと少し素直になれる気のするアンジェリークだった。

 ワープロ書きのその手紙を、アンジェリークは兄の部屋の机の上に置いておいた。ゼフェルは昨夜、この兄の部屋で寝ていたらしいから、またここに来るだろうと考えての事。

 なんとなく、文通のノリである。

 いや、その後、毎日続いた事を考えると、交換日記と言った方がいいかもしれない。

 ビバ、男女交際!

 若かりし事は、スバラシキカナ……。

 

『アンジェリーク

 人間になれるのは、あと一月先だ。
オレは、別に、猫だと嘘ついておまえの家に入り込んだんじゃなくて・・・・・・詳しい事情は・・・・・・長くなりそうだから、人間になってから話す。
 だから、おまえ、あの時に、素直にオレの話を聞いてくれてれば、こんなややこしい事にならなかったのものを。
 ともかく、あと一月待て。


ゼフェル』



『ゼフェル

 一月ね。分かった。
 でも・・・・・・素直にあなたの話しをきいてれば?
 あの時は、突然で驚いたんだもん。
 それに、女の子の部屋に、夜中に入り込むって、常識外れもいいトコだわ!
 しかも、あなた、裸だったじゃないのっ!


アンジェリーク』



『アンジェリーク

 だから、当初はおまえの兄馬鹿の服借りて、着てただろ?
 おまえがオレの話を聞こうとしないから!


ゼフェル』



『ゼフェル

 あの状況で、聞けるわけないでしょ!?
 私、ホントに、襲われるか、殺されるか、覚悟決めてたのよ!?
 


アンジェリーク』



『アンジェリーク

 襲う? 殺す!?
 そりゃ、襲ってやってもよかったけど、イヤがる女を押し倒して面白がるような趣味はオレにはねぇ。
 


ゼフェル』



『ゼフェル

 襲ってもよかったですって!?
 やっぱり、そのつもりだったんじゃない!
 スケベ、ヘンタイっ!
 あなたを信じようとしてた自分が情けないわっ!
 いいもん、もうあなたなんかと会わないからっ!!
 


アンジェリーク』



『アンジェリーク

 なんで、そうなるんだっ!
 おまえ、短絡的すぎるぞ!
 


ゼフェル』



『ゼフェル

 どうせ、短絡的だもんっ! おばかだもんっ!
 早合点で、おっちょこちょいで、しょっちゅうドジばかりで、いい歳して夢見がちで、ブラコンで、ファミコンで、猫と交換日記してるような大間抜けだもんっ!


アンジェリーク』



『アンジェリーク

 どっかで聞いたようなフレーズだな……。(<Xあたりをご確認ください^^

ゼフェル』









『アンジェリーク

 だから、こうして、謝ってんだろ!?

ゼフェル』



『ゼフェル

 だって、真剣味がないんだもんっ!

アンジェリーク』



『アンジェリーク

 猫の手でキー叩くのも、面倒なんだぜ?
 この馬鹿ワープロ、変換すんのにも、一苦労だし!
 何より、2つのキーを同時に押せないから、!や?の記号出すのに、どんだけ大変だと思ってるんだっ!
 そもそもこの肉球は、柔らかすぎてキーボードが押せないんだっ。
 イイカゲン、ここらで、折れてくれ。


ゼフェル』



『ゼフェル

 ゼフェルは、ズルイ!
 いつも、そうやって、猫のせいにするのっ。


アンジェリーク』



『アンジェリーク

 だって、オレは猫なんだから仕方ねぇ!

ゼフェル』









 は〜……どっこいしょ。

 ちゅーようなしょうもないやりとりが、一月近く続いたらしい。

 一時ヘソを曲げていたアンジェリークだが、ゼフェルの真摯な説得によって(?)どうにか機嫌を直したらしく、人間のゼフェルと会う事を確約した。

 ちなみに、その間、アンジェリークと猫ゼフェルの関係は、どうにもギクシャクしたものだった。顔を会わせるまではいいけれど、近づきすぎない距離で互いを警戒していたのだ。

 手紙はいいけれど、直接顔を会わせるのは、お互いまだ、なにがしかの抵抗があったのかもしれない。

 また、アンジェリークの部屋への入室拒否をまだ解除されていないゼフェルは、その間、馬鹿兄ランディの部屋で寝ていたらしい。

 当然、ランディに関しては遠慮がないらしいゼフェルによって荒され放題。

 アンジェリークも、ゼフェルを文字通り猫可愛がりしているその両親も、当然、その事には目をつぶっていた。

 

――悲劇は、その後!!<誰の?

 


 

【おまけ:ふたりのやりとりから一部抜粋】

『ゼフェル

 ゼフェルのヘンタイ〜!!
 ロザリアに、タマつつかれて、喜んで腰動かしてたくせに〜!!


アンジェリーク』



『アンジェリーク

 !!ちょっと待て〜!!!
 おまえ、あれを喜んでいたと思うのか〜!?
 てゆーか、おまえ、自分の言ってるイミが分かってるのか!?


ゼフェル』







 事実は、Uあたりに。

 まぁ、アンジェリークの言っている事も(表現に問題はあるけれど)事実なんだけどネ☆

 日本語って、ムズカシイですね。

 

   




<言い訳>

猫がワープロを打てない理由は、肉球が邪魔だからです<根本的に違う。

かなり、遅くなってしまいました(T_T)。

こんな駄文でなんですが、お待ちいただいていた方、お待たせしました〜。

でも、なんだか、まだまだふたりのカンケイは進んでおりませんが・・・・・・。

男女交際は交換日記からっつー事で(爆)。

次回は、誰かに悲劇が起こるかも・・・・・・起こらないかも(^^;)。

運が良ければ(?)ふたりのカンケイに何か異変が起こるかも・・・・・・起こらないかも<殴。

現段階で、まだ進んでないらしいです・・・・・・(T_T)。

所詮、猫の肉体では、アンジェを押し倒せましぇ〜ん。

がんばってね〜。ゼフェルぅぅ〜(=▽=;)。