| 猫少年Z Y.出会い きらきらと揺らめくように輝く星たちは、 「…………!!?」 ふたりとも、同時に固まった。 寝ているとばかり思ってたアンジェリークが突然飛び起きて手首を掴んだ事に対して少年が驚いて固まっているのはわかるが、心構えの出来ていたアンジェリークが固まったのは……少年が、見覚えのある洋服を着ていたから。 「……そっ、その服……お兄ちゃんのじゃ、ないの!?」 兄が好んでよく着る色合い――赤と青のトリコロール調の服を中学生の兄が着ているのを、アンジェリークは何度か見たことがあった。 どういう、事だろう? なんで、見ず知らず(?)の男が、兄の服を着ているというのか? まさか……痴漢であるだけでなく、泥棒!? ゾッとして、それまで鷲掴んでいた少年の手首を離した。 身の危険!!! 当然の危機感が、今更ながらにアンジェリークを打ちのめす。 こういうときのうまい対処方法がとっさに頭に浮かんだわけではないが、パニックになりかかったアンジェリークが取ったきわめてオーソドックスな危機回避方法は……。 大きく息を吸い込んで、そして、口を開いて……。 「きゃ…………」 が、最初のひとことで、アンジェリークの口は塞がれた。 口をふさいだのは、少年の手だった。 恐ろしいほど軽い身のこなしで、いつの間にか彼女のバックを取っていたのだ。 「……オレの、話を聞け……」 耳元で、ひどく掠れた少年の声がした。 ぶっきらぼうなその口調は、脅しているように聞こえ……怯えて震えあがったアンジェリークは涙目になりながら、こくこくと頷くしかなかった。 「……・・・」 が、その状態のまま、しばらく、沈黙が続く。 話を聞け、と自分で言っておきながら、少年は、押し黙ったままだった。 アンジェリークには、ひどく不気味で恐ろしい時間に思われた。 体に密着した少年の体温が……まるで、体中を縛り付けるように纏わりついてくるような気がして、怖くて恐ろしくて……不覚にも泣き出してしまった。 これまでの人生17年、家族以外の男性にこれほど密着されたことなぞなかったアンジェリークにとって、自分が今、見知らぬ少年の腕の中で身動きできない状態は、人生の終わりを覚悟するほどに恐ろしい事だったようだ。 「…………泣いてんのか?」 ふいに、戸惑ったような、少年の声が耳をつく。 痴漢で泥棒が、今更なんで気弱な口調をするのか……。 恐怖を感じながらも、むっとしないではなかった。 「……すまねぇ」 さらに、信じられないことに、痴漢で泥棒な少年は謝罪して彼女を抱きすくめていた腕をほどいた。 「……ぐすっ……えぐっ……」 少年の手が離れて、やっとちゃんと呼吸が出来るようになったアンジェリークは、涙のついでに流れ出す鼻水をすすって、嗚咽をもらす。 言葉は急には出てきてくれなかった。 当然悲鳴も出ず、ひたすら、涙でぐちゃぐちゃになった顔を、元通りにするのに必死だった。 「あの、よ……」 ベッドサイドのティッシュボックスから引っ張り出した何枚ものティッシュを使って、涙と鼻水を拭うアンジェリークに、少年は横柄ではあるが、どこか気遣うような口調で話し掛けた。 当然、アンジェリークは警戒して身を震わせる。 「ンなに、怯えんなよ、アンジェ」 痴漢で泥棒な少年が、自然と自分の愛称を呼ぶのに、アンジェリークはぎくりとする。 なんで、見ず知らずの痴漢で泥棒な男が、自分の名前を……しかも、愛称を知っているというのか? 面識など、あの夜以外に、まったくないというのに……。 ――もしかして……ストーカー!? 痴漢で泥棒で、更にストーカー!! アンジェリークの少年に捧げる肩書きが上乗せされた。 危険! 要注意人物!! ガーン、ガーンと、頭の中で警鐘が鳴り響く。 「痴漢」で「泥棒」であるだけでなく、「ストーカー」と来た日にゃ、貞操の危険だけでなく、命の危険も感じなくてはならない。 ちょっとした一言で、殺されかねない! ここは、従順に少年に従って命の危険を回避するのが得策か、悲鳴を上げて助けを求め、万が一の可能性にかけるのが得策か……。 究極の選択が、頭の中をぐるぐる巡る。 涙と鼻水を拭って、表面は取り繕った顔をしているが、選択できない究極の選択に頭は混乱している。 恭順か抵抗か……。 「なぁ、おめーがさ、今晩してた話だけどよ……あれ、おめー、信じんのか?」 混乱するアンジェリークの背後に、少年は話し掛けるが……ロクにアンジェリークの耳には入っていなかった。 「本当に、あの夢物語、信じてんのか?」 究極の選択に悩まされているアンジェリークの頭の中は、少年の言葉どころではなくて、思わず……。 「あーもうっ! 黙っててよぅ! 考えがまとまらないじゃない!! ……って……あ……」 と、叫んだ。 恭順か抵抗か……痴漢で泥棒でストーカーな少年相手に、こんな風に叫んだら、もう、それどころじゃないだろう。 青くなって、口元を押さえた。 何かされるのではないかという恐怖に、一瞬にして体が凍りついた……の、だけれど……。 「……人がせっかく、真剣な話してんのによー……まぁ、おめーって、そーいう奴だよな……」 少年は、肩をすくめて、ため息をついていた。 「早合点で、おっちょこちょいで……・・・」 なぜか、優しい口調だった。 「しょっちゅうドジばっかで、いい年して夢見がちで……」 少年が並べたてるアンジェリークの特徴に、どんどんアンジェリークの顔色が変わって行く。 「ブラコンで……いや、おめーの場合ファミコンか(昔はやった某ゲーム機ではなく、この場合、ファミリーコンプレックスを意味)。そんでもって、いつも、猫に話し掛けるような大間抜けで……」 「うっ、うるさいわねっ! 人が気にしていること、並べ立てて!! あなた、なんなのっ!!」 ぶち切れた。逆ギレである。 「どうせ、私はおっちょこちょいだし、ドジだし、夢見がちだし、ファミコンだし、胸もくびれもないわよっ!(そこまでは言ってない)」 一気に言い切って、鼻息荒くふーふー息をつくアンジェリーク。 彼女自身、めちゃくちゃ気にしていることばかりを上げ連ねられたものだから、ショーとしてしまったらしい。キレるよりタチが悪いかもしれない。 勝ち誇ったような笑みを浮かべる目前の少年が、痴漢で泥棒でスト―カーな危険人物であるという事をすっかり失念しているようだ。 更に、少年が、なぜ、自分の事にここまで詳しいのかを疑問に持つことさえ忘れているらしい。 「鼻は低いし、彼氏はいないし、この間赤点とっちゃったし……(だから、そこまで言っていない)」 しまいには、自分自身が気にしている事を顧みだして、涙さえ浮かべた。 昼間、ロザリアにからかわれた憤りも相まって、すっかり、ヒステリー状態になっているのかもしれない。 「どうせ、どうせ……猫のゼフェルにさえも、いつも馬鹿にされてるわよぅ」 「あのなぁ……アンジェリーク……」 痴漢で泥棒でストーカーで根性の悪い(追加項目!)少年は、自爆して、感極まって泣き崩れそうになるアンジェリークに、困惑した表情をした。 「その……オレが、悪かったよ。だから、顔を上げろ……」 ぽんぽんと、軽くアンジェリークの頭をたたいて、やれやれ、とばかりにため息をつく。 不器用ながら、とても優しい口調と言葉。 なぜか、どこかで聞いたように懐かしくて、胸がきゅぅうとするような切ない感じさえした。 今日、初めて会話しただけなのに……。 痴漢で泥棒でストーカーで根性悪なくせに、アンジェリークが顔を上げてみた少年は、とても優しい表情をして、アンジェリークを見つめていた。 ――どうして? 危機感は、不思議になくなっていた。けれど、不信感が拭えるはずがなかった。 だから、むむむぅっと、眉根を寄せて少年を睨み上げてしまう。 もっとも、元々くるくるとした大きな瞳をした、愛らしい顔立ちのアンジェリークのすごんだ所なんて、迫力皆無であるが。 「まぁ、落ち着いて、オレの話を聞け」 あからさまに不信感を体中で表しているアンジェリークに、少年は肩をすくめただけで、自分自身はその場にどっかりと腰を落ち着けた。まるで、よく知った部屋でくつろぐように、躊躇いなく傍にあったクッションを、あぐらをかいた膝の上にのせてそこに頬杖をつく。 「……〜〜う〜〜」 随分と距離をおいて、猫であれば背筋から尻尾の毛を微妙に逆立てた警戒の状態で、自分を見るアンジェリークに対して、少年は苦笑してみせわざとらしく両手を上げてみる。 「オレは何も持っちゃいねーし、おめーを襲うつもりなんかないぜ」 夜光灯をつけただけの薄暗い部屋に、たよりない星の光が入りこんで、少年の手首に光る金属製のブレスレットを煌かせた。 少年としては、アンジェリークを落ちつかせるための行動であったのだろうが……少年の腕に巻きつけられた、その、馴染み深いブレスレットに、アンジェリークはぎくりとして、咄嗟に口を開いた。 「それ! ゼフェルの!!」 愛する猫の首輪を、少年は手首に巻いていた。 よもや、まさかの不安がアンジェリークを再び激しい危機感に陥れる。 少年は、一瞬、きょとんとした表情をしてみせた後、自分の手首に巻きついた“ゼフェルの首輪”を見て、にっと意地悪く笑った。 「ああ、あの猫、ね……」 上目遣いにアンジェリークを見る。 少年としては、極めて悪戯っぽい微笑みにすぎなかったのだろうが、今のアンジェリークには、それは邪悪なものを内包しているようにしか見えなかった。 「ゼフェルを、どうしたの!?」 「……さぁてな。あんまり、邪魔だから、窓から放り投げてやったのかも、な……」 「……!!」 ショックに、アンジェリークの体が固まる。 ―――そんな……そんな、まさか……。 まぁ、猫を二階から放り投げたところで、余程トロくない限りは死にゃしないだろうが、この時、雰囲気に流されたアンジェリークには、ショックが先立った。ノリがいい。 「うそ……なんで……」 で、本気で泣き出しそうになるアンジェリークに、驚くのは少年の番だった。 「お、おい……ちょっと、待て……」 「ゼフェルが、あなたに何したのよぅぅ〜」 えぐっえぐっ。 今晩二度目の泣きに入った。 「〜〜う゛〜〜」 さすがに、少年も、頭を抱えた。 実はこの少年、アンジェリークの涙に相当弱いのである。 もともと泣き虫気味で、悲しいドラマやニュースでもすぐに泣きだすアンジェリーク。 その泣き顔を見るたび……側に寄り添って、慰めたかった。等身大で、慰めたかったのだ。 こっ、これは、見事にチャンスではないか!? いささか、状況が違うような気もするが……少年は、突っ伏して泣くアンジェリークの傍に寄って、その頭にそっと手を添えた。 なんて、柔らかな金の髪の感触!! ああ、ずっと、こうして触れたかった髪を、今、触っている!! ……じ〜んと、感動するのも束の間……。 「……!?」 突然、顔を上げたアンジェリーク。 涙でいっぱいの緑の瞳が、厳しく彼を睨み上げている。 『私に触れないで!』の言葉がはっきりと、その顔には書かれている。 拒否されたにもかかわらず、少年は、初めて見る少女のそんな表情もまた『か・・…かわいいかも……』とかとか、思って見とれていた。 が、油断していた。完全に、油断しきっていた。と、いうか、少年には警戒する必要もなかったのであるが。 そのちょっとした隙に、手首をつかまれて、大事なブレスレットをとられたのだ。 そう、そのブレスレッドは……アンジェリークの言うところの『ゼフェルの首輪』は、彼にとっては、非常に重要なものだった。 多分、アンジェリークが『ゼフェルの首輪』として大事に思う以上に、彼にとって、その首輪は……なくてはならないもの。 単に、生まれたときから肌身離さず持っているから、という感傷ではない。生きていく上で、絶対に、必要不可欠な、もの。なくては、生きていけないもの。 だから……。 「っつ……!? かっ、返せ!!」 思わず、本気になってしまった。 顔からは血の気が引いていたかもしれない。 「キャァ!!?」 とっさにアンジェリークの腕に飛び掛って首輪を掴み……。 バランスを崩したアンジェリークは、そのまま、その場に倒れこんむのと一緒に、少年もまた、倒れこんでしまった。 「……!!」 結果……まるで、少年が彼女を押し倒したような形に、なった。 首輪を取り返すよりも前に、少年は……そのまま、その形で固まってしまった。 目の前にあるアンジェリークの緑の瞳は、驚きに見開かれていた。頬は淡く色づいていて、浅い呼吸を吐き出しながらわななく唇は濡れたようなパールピンク。 彼が理性をどこかに取り落とすのは、仕方のない状況だったかも、しれない。 そう、少年は自分が首輪を取り返そうとしていたのも忘れ、その思考は別方向に向かって活発に動き出していた。 嗚呼、若さ故の抑圧し難いリビドー!! 眼差しを伏せて、そうっと寄せる唇。まるで彼女の唇に、引力があるかのように、自然に近づいてゆく。 唇が触れるまであと5センチ。お互いの吐き出す息がかかる位置だ。 その間にも、少年の頭の中には、こう、もやもやっと浮かぶ、先走った妄想が……彼女の唇はさぞ柔らかいのだろうな、とか、どんな味がするのだろうか、だとか……。 ……あと、1センチ。彼女の吐き出す吐息はとても甘かった。 どくん、と、期待に胸が高鳴る少年であったが……。 「………きゃあああああああっ!!」 大絶叫に、目が覚めた! ついでに、すごい勢いで、押し返されて、ゴツン、と、テーブルの端にしたたかに頭をぶつけた。 「……ってぇぇえ!!」 目の前の星が飛ぶような感覚は漫画だけの表現だけかと思っていたが、確かに存在するんだなぁ……とか、妙に感心してしまったものの……そんな場合では、ない。 アンジェリークの声に、きっと、家の者たちは起きてくるだろう。 できるだけ騒ぎは、起こしたくない。 騒ぎを起こすために、わざわざここに現れたわけではないのだから。 彼には、一応、目的が、あった。 ……もしも、彼女が目を覚ましたら……もしも、自分の話を聞いてくれるならば、話そうと思っていた事があった。――彼女が語ったあの物語……あの物語に刺激されて、話す決意がつきかかっていた。「もしも」を逃げにした、躊躇いながらのあやふやな決意ではあったが。 月に一度づつ巡る新月の夜、月のないこの夜だけ……月に一度だけのチャンス。 いつかは、彼女に打ち明けようと思っていた……秘密。 それこそが、今日の目的だった。 もっとも……本日、目的は、徒労に終わりそうだが……。 ――なんて、ついてねぇ。 心の中で吐き捨てるように呟くと、真っ赤な瞳に涙を浮かべたまま、たんこぶになってくるだろう頭を抱えようとした少年は、指先にじゃらりと慣れた鎖の感触を覚えて、小さく笑った。 ――まぁ、これを取り返せただけでもよしとするか。 少年を突き飛ばしたままの姿勢で呆然とするアンジェリークに一瞥向けると、彼はまたもや窓から逃走した。 アンジェリークには、止める間もなかった。 夜風を孕んだカーテンが、ふんわりとふくらんで、彼女の視界の中を、雲のように漂っていた。 ――って、またもや、お約束? 「アンジェリーク!?」 「どうしたの!?」 またもや、あわただしく両親が、部屋にやって来た。 そして、夜風に揺れるカーテンと呆然とするアンジェリークを見て、少し前にも似たような事があった、と、思い起こさずにはいられなかった。 「アンジェリーク? 何があったの?」 そうっと母親が彼女に近づくと、彼女は母親に抱きついて……泣き出した。 「へっ……変な、変な人……」 「変な人ですって!? 何か、されたんですか!?」 いつもはおっとりした父親も、さすがにかわいい娘の危機とあれば、敏捷性が通常人くらいにはUPするようだ。 父親の言葉に、アンジェリークは、ついさっきまでの少年とのやり取りを瞬時に思い出すものの、さすがに、両親には後ろめたい気がして……首を横に振った。 アンジェリークの返答にとりあえずほっとした父親は、揺れるカーテンに近寄ってそうっとそのふくらみを抑え付けます。 「その変態(に、昇進!)は、窓から逃げたのですね!?」 こくこく頷く娘を見るまでもなく、(彼にしては)意外なほどにすばやい動作で、カーテンを押し広げ、その身をベランダへと滑らせました。 しばらくの、沈黙。 「パパ……どうしたのかしら?」 心配になったらしい母親が、落ち着きを取り戻しつつあるアンジェリークからそっと離れて、窓辺に寄ると。 にゃぁぁああん。 猫の声? そう、ゼフェルの声だった。 ゼフェルを抱き上げた父親が、微苦笑して、室内に戻ってきた。 「……とりあえず……その変態はいませんでしたが、ゼフェルがベランダで丸くなっていましたよ。彼が、しゃべれればいいんですがねぇ」 いつもの首輪をしたゼフェルの喉元をくすぐるようになぜながら、父親はため息をつき、母親は眉を寄せる。 「一応、警察には言っておきましょうか? 何かあってからではおそいですからね。アンジェリークも、戸締りはちゃんとしておくのですよ」 ごろごろと喉を鳴らすゼフェルを腕の中に渡されたアンジェリークは、その確かなぬくもりにほうっと息をついて、先ほどの奇妙な少年のことを思い出していた。 ――あの人、いったい……? 怖いことをされそうにはなったけれど、決して、憎めそうにない人だと、そう、思った。 ゼフェルにきちんといつもの首輪がついている事を確認したアンジェリークは、訳のわからない状況に、困惑を深めた。 ――本当に、あの人は……? 瞳を細めて喉を鳴らすゼフェルが、油断なく彼女の様子を見つめている事に、アンジェリークは気付かなかった。 <言い訳> ああ……まだ、進んでくれない〜(T_T)。 本当に、どこが13禁なんでしょう……。 でも、多分、次回こそは……・・・(;_;)多分……。 て、言いますか、多分、これからがやっと本番?? アンジェ、ガードが堅すぎます〜。 GoGo猫ゼ、さっさと勢いで押し倒してくれ〜(T_T)あううっ。 |