猫少年Z

XY.進展?



「はじめてだな。おめぇと、こうして外歩くの」

 月のない夜。

 ふたりは、夜風にふかれながら、外を歩いていた。

 そう、ふたり。

 ゼフェルは、人間の姿だ。

「うん、そう、だね……」

 どこか、照れた様子のアンジェリーク。

 ゼフェルと肩を並べて歩く、なんて、あんまり意外なシュチュエーションに、戸惑っているのかもしれない。

 ちょうど、頭ひとつぶんほどの身長差。

 ゼフェルを見上げる形になって……話をするときも、なぜか、ちゃんと目を見て話せない。

 初デートにして、夜のデート?

 なんて、そんないいものでもない。

 近くのコンビニまで文房具を買いに出るアンジェリークに、ゼフェルが付き合う、と、言い出したから、こうして並んで歩いているだけだ。

 ちなみに、近くのコンビニまで、片道徒歩10分ほど。

 たかだか往復20分の夜デートだけれど、ゼフェルの顔は、にやけて止まない。

「風、気持ちいいな」

 斜め上から見下ろすアンジェリークは、また、格別にカワイイ。

 外灯の明かりに煌くように浮かび上がる金の髪、白い肌……鮮やかなエメラルドの瞳。

 緊張しているのか、少し表情は硬いけれど……。

「そっ、そうだね……」

 かわいらしい声が、かすかに震えるのもまた、ゼフェルにはとんでもなく可愛く感じられる。

 そう、人目さえなければ、この場で抱きしめて、そこいらへんの茂みの影にでも連れ込んで………………はい、完全に前回の欲求不満が凝ってますね〜。

 つーか……アンジェリークの肩に触れそうな位置で、手がワキワキと蠢いて……。

 目が怪しい輝きを放ってたり。口元が、何かを企んでいるように歪んでたり。勿論、頭の中では、妄想が勝手に進行中。

「アンジェリーク!!」「ゼッ、ゼフェル!? やん!もうっ!」「いいだろ?」「うふふ…勿論、いいに決まってるわ」「じゃ、行くぜ?」「きゃ、ゼフェルのエッチ。うふっ」「かわいいぜ、アンジェリーク」「ゼフェル、大好きよ。優しくしてネ」「勿論だ、アンジェリーク、オレに任せとけっ」以下ゼフェルの妄想の中で続く……

 けれど……。

「……あ! 着いたわ!」

 10分なんて、そんなモンです。

 ゼフェル、またもや欲望空振り。

 暗い夜の闇に、煌煌と燈るコンビニの明かりの中にアンジェリークは駆け込んでいった。

 ゼフェルは……待ちぼけ。

 コンビニの自動ドアの脇に、中腰で座り込んで……まるでガラの悪いおにーさんのよう。しかも、欲求不満がありありと表れた、不機嫌極まりない表情。

 善良なご近所のおばちゃんが、訝しげな表情で、ゼフェルを避けるようにコンビニに入っていきます。

「お待たせ♪」

 目的のものを買い込んだアンジェリーク。手元には、ゼフェルへのお土産のつもりか、ミネラルウォーターのボトルを持っていた。

「お、おお、サンキュ」

 アンジェリークの心遣いは嬉しいんだけれど……とても、嬉しいのだけれど……。

 小さな溜息を禁じ得ないゼフェル。

 本当に欲しいものは、そんなものじゃないのだけれど……アンジェリークが、それをくれる日は、いつになるやら。

「………はぁ〜」

 今度は、あからさまに肩を落として溜息をついた。

 前回の“思春期真っ盛り、清純派少女アンジェリーク”の言葉を思い出せば……自主的にくれるのは、ほぼ、不可能に近かろうと、“青春真っ盛り、欲求不満少年ゼフェル”は思うのだった。

 がっ、同時に、手応えも感じている!!

 そう、ここの所のアンジェリークの態度の軟化!!

 と、いうか、アンジェリークが自分の事を憎からず……いや、むしろ、意識してしまう程度には好意を持ち始めていてくれている!

 それは、ひどく嬉しい手応えである。

 前回も、寝ている時にアレコレしていても、抵抗するでなく、目を醒ますでなく、身を委ねきっていた、と、いう事は……そりゃ、本人の意思を除いた物(<肉体と無意識下の心)がおっけーのサインを出しているに相違ない!!

 ……と、思いきり勝手にゼフェルは解釈して、顔をニヤケさせている。

「ゼ……ゼフェル?」

 さっきから、溜息をついて肩を落としたり、ふいにニヤケ出したりした、変な様子のゼフェルを不安に思ったらしいアンジェリークが下から覗き込んできた。

 いや、ゼフェルが“変”(もしくは“変態”)なのは、アンジェリークの意識下にしっかり刻み込まれているのだが……真横で、百面相されたら、キモチワルイ。

「……っ、と、おう、もう帰んだな?」

 まだ、少しニヤケ顔を戻しきれないまま、ゼフェルは立ちあがりアンジェリークに並んだ。

 月のない星空が、綺麗だ。

 とりあえず、行きと同じくに真顔に戻ったふたりは、肩を寄せて歩き出した。

「ね、ゼフェル?」

「あん?」

 緊張も解けたらしいアンジェリークが、ステンドグラスの破片を撒いたようにキラキラ輝く星空を見上げながら声をかけた。

「この間からね、私、ゼフェルの事情について、色々考えてたんだ……」

「あ……?」

「あの、ね……そのぉ……この前、ほら、勝手に私に……」

 言いよどむアンジェリークの言葉の続きは、聞かなくても分かる。

 ゼフェルは、少々気まずそうに空を見上げた。

「……ああ、あん時は、悪かった……」

 素直に謝ってくるゼフェルが微笑ましくて、アンジェリークはふっと息を吐き出す。

「んっ……だから、ね……その……」

 あの時の事を思い出したのだろう、頬を染めて、言葉を詰まらせながら、それでも続ける。

「ああして、人間に戻れる、っていう事は、ゼフェルのお母様もそうだったのよね?」

「ああ。多分そうだろうな……」

 自分の両親のラブロマンスなんて、あんまり考えたくないらしく、少し眉根を寄せた。

「ゼフェルが出来たから、人間に戻れた?」

「みてぇだ」

「じゃぁそれまで、お母様も、村を出て、猫姿で色々放浪されてたんだ?」

「……詳しい話は、聞いてねぇけどな」

「ゼフェルみたいに、銀の鎖を月のない……ううん、日の光のない時に外すことで、人間に戻って、お父様に出会ったの?」

「だろおな。この首輪も、元々お袋のもんだ。名前入ったプレートの部分だけ、作りなおしたってよ」

 アンジェリークなりに色々考えてまとめた、ゼフェルについての情報に、ゼフェルは逐次肯定を加える。

「それじゃ……その首輪って……どういうもの、なの?」

「あ?」

 まとめた情報で、合点の行かない点をゼフェルに問いかけた。

 ゼフェルは立ち止まって、アンジェリークを見下ろし……しばらく考えた後、首を傾げる。

「わっかんねぇ。どうやら、例の村の錬金術師達が、思考錯誤して作ったみてぇ。事情を知ってる同じ村の中なら、日の光の届かない日に突然人間になってもかまわねぇけど、村の外に出たらそうもいかねぇもんな。猫が突然全裸の人間に、なんてよー……それこそ、変態、異常自体、だぜ。けど、この首輪してたら、少なくとも、突然全裸の人間、にはならねぇかんな」

 言っていおいて、改めて自分の体質の異常性を実感したららしく、ふぅと息をつく。

「まぁ、オレの“呪い”そのものも、よくわかんねぇもんだろ? だから、原理なんて、イチイチ考えてたら、全部否定する事になんぜ?」

「そうね……でも、じゃぁ、どうして、そうまでして外に出る必要があったのかしら? 村中でだって、その……好きな人、見つけられるでしょうに?」

 前回のゼフェルの言葉“子供を孕めば人間に戻れる”を意識して、つい、赤面して言葉を詰まらせるアンジェリーク。

「ああ、それだ、それ。勿論、広いとは言いきれない同じ村の中で結婚繰り替えしゃ、血が濃くなっちまう。その事もあったんだろうけど、なにより、呪いにかかった人間同士ガキ作ったら、呪いは100パーセントガキに遺伝しちまうらしい。神代の頃からの呪いが消えてないってのは、そういうわけだろ? 普通の人間とガキつくってさえ、遺伝しちまうってのに」

 そして、ゼフェルはふいに顰め面をして、息を吐き出した。

「で、猫とガキ作った場合、完全に猫になっちまう……らしい」

「……は?」

 あんまり意外な言葉に、アンジェリークは目を丸くした。

 唖然とするアンジェリークに、ゼフェルは溜息。話したくはないけれど……と、いった風に、口を開きなおす。

「あんま、考えたくねぇんだけどな……。この呪いって、年間の大半、猫姿なわけだろ? 時々……いや、ほとんどの時期、猫姿でいると、意識は“猫”に支配されちまう」

「猫の、意識?」

「ああ。日の光の薄い日なんかだと、人間の意識も表れるんだけどよ……人間の意識だけ持っていると、色々厄介なわけだ。理性とか、知性とか……猫として生きるにはには邪魔だろうが。だから、なんだろうな。もっとも……お袋の言葉によると『好きな相手ができたら、それどころじゃない』らしいんだけどな」

 さらっと言ってしまった、自分の言葉の最後の部分に、かすかに頬を染めて、ゼフェルは続ける。

「で、猫の意識に支配されたままでいると……つまり、野生の本能のままだよな……で、猫と……って、事もあるらしい。人間とガキ作れば人間になれるように……。……厄介な呪いだぜ……」

 ふうっと、息をつき、アンジェリークを見つめなおす。

「まぁ、オレは……その……おめぇと会えて、その心配もなくなったんだけどな……多分」

 アンジェリーク、どう応えていいか分からない。

 ゼフェルが、やけにそういった事をしたがるのかは、単に早く人間に戻りたいとか、えっちな下心だけでない、と、理解したのだろう。

 そんな、戸惑ったようなアンジェリークの様子を見て取ったゼフェル、口元に、笑みを浮かべた……そう、企む、笑み。

 企み……言葉を続ける。

 ゼフェル、結構策士? つーか、アンジェリークが誰しもに理解出来る程度の単純な思考回路を持っているのかもしれないけれど。

「けど……シーズンが来ちまったら、わかんねぇな」

「シーズン?」

「発情期。猫につきもの。来ちまったら、理性なんて吹っ飛ぶらしいからな。もしかすると、オレ、一生猫かもな……」

 少し、しおらしく言ってやると、やはり効果覿面!

 途端に、単純アンジェリークは、不安そうで、切なそうで、哀しそうで……泣きそうな表情をした。

「……私……」

 何か言いかけ、止める。

 何を、どう言っていいか分からないのだろう。

「……アンジェリーク……」

 ゼフェルは、アンジェリークのふわふわした金の髪に触れ……柔らかなそれを梳いてみる。

 彼女の反応なんて、分かりきっていたけれど……その様子が……心から自分を気遣うような彼女の反応が、嬉しかった。

 嬉しくて……妄想が再び、心の中で鎌首もたげる。

 そぉう、むらむら、っとね〜。

 ついでに、自分が髪をいじっても、ちっとも嫌がった素振りを見せないアンジェリークに気を良くしても、いるのだろう。

 で、ふいにアンジェリークの腕を取り。

「……え? ゼフェル? 何!?」

 アンジェリークを引っ張って……どこに連れて行こうとするのか。

「幸い、そこは公園だ。大丈夫、誰もいやしねぇ、こんな時間。いたって、イチャつくバカップルだけだ。他人の事なんざ、かまってねぇよ」

「え?」

 赤い瞳が、爛々と輝いている。

「手ごろな茂みもあるし……おっけーおっけー。さぁ、レッツ青○!!(←漢字一字を当てはめてください。ヒント:女×3)」

 言葉の意味がわからなくて、暫し……ゼフェルに手を引かれて、公園の敷地に引っ張り込まれるアンジェリークだったが……。

「やっぱ、ヤるんなら、ちゃんと同意もらわなきゃな!」

 意気揚揚。とても、嬉しそう。

 ――ヤる??

 で、やっと、アンジェリークも意味が把握できたらしい。

 一瞬で顔を真っ赤にして、いつもの絶叫&日々鍛錬されつつある強烈なビンタ。

「ゼッ、ゼフェルの、馬鹿ぁ〜〜っっ!!!」

 ……はい、どうやら、ゼフェル、ほぼえっちな下心だけ、だったようです。

 


 

「………ったく……おめぇは、なんで、そうお堅いんだ?」

 公園の、ベンチ。

 あと5分も歩けば帰りついてしまう。それも、なんだか寂しくて、ふたりで並んで座っている。

 ちなみに、顰め面ゼフェルの両頬は、真っ赤になっている。……誰がやったなんて、いわずもがな。

「ゼフェルが、えっち過ぎるの……」

 先ほどの事を怒っている証に、ぷぅっと可愛らしく頬を膨らませているものの……ゼフェルと、こうして並んで座っている事に、妙に幸せを感じているアンジェリーク。

 なんだかんだ言ったって、結局……アンジェリーク自身も、自覚しかかっているのだろう。ゼフェルへの、想いを。(と、いうか、この期に及んで、自覚していない方がオカシイ?)

「せっかく、珍しく真剣な話、してると思ったら……さ」

「けど、オレの言った事、皆本当だぜ?」

「………うん」

 しばらく、ふたりして無言で、月のない空を見上げる。

 お互い、何か言いたいのだけれど、言えない。

 ふんわりした夜風がふたりを撫ぜるように流れていく。

「……あの、ね……」

 やっと、口を開くのはアンジェリーク。

「その……え、と………」

 とても、言い出しにくそうに、何度も言葉を詰まらせる。

 ゼフェルは、無言でそんな彼女を見つめて、言葉を待つ。

「ん、あの……私、ね……」

 すうっと息を吸い込む。

 言いたい事がまとまったのだろうか、頬が真っ赤になっている。

「今は、まだ、全然早いし……そういう事について、決心とか、つかないけど……もう少し、したらいいよ……」

 語尾が小さくなっていく。そして、言いきった途端、耳や首筋……いや、全身が真っ赤に染まった。

 自分が言葉を終えた一瞬の沈黙が、居たたまれなくて……言ってしまった事が恥かしくて、すぐに再び口を開く。

「あの、あのねっ! その、だからっ、子供とか……そういうのはまだまだ早いけど、でも、ゼフェルが、その、したいのなら……っ………じゃ、じゃなくて、え、と……」

 自分の言葉を言い訳するように、早口で言って……結局、何を言ったらいいか……いや、言うほど恥かしくなって、全身を真っ赤にしたまま、俯いて押し黙ってしまった。

 夜風が、火照りきった全身の熱を、少しずつ奪っていって……アンジェリークの耳に、ゼフェルの小さな笑い声を届けた。

「………すっげ、嬉しい……」

 心からの、言葉だろう。

 ゆっくりと顔を上げたアンジェリークに、柔らかく微笑むゼフェルの表情が飛び込んできて……長い指が頬に触れた。

「おめぇが、そう思ってくれただけで、嬉しい……」

 半分閉ざされかかった赤い眼差しが、ますます近づいてきて……アンジェリークは素直に瞳を閉じた。

 もう、何度も交わした口付。

 そう、瞼を閉ざして待つアンジェリークの唇に、ゼフェルの熱い唇が、触れ……………なかった。

「……????」

 しばらく、目を閉じていても、一向にゼフェルの唇の感触が伝わらない。

 なんで?

 と、思って、薄っすらと片目を開けてみると………。

「……? ゼフェ、ル?」

 ゼフェルは、なんだか、後ろを振り返っていた。

「????」

 何? 何だろうか??

 (煩悩塊)ゼフェルが(大好きな)キスを中断してまで、振りかえってるものって……??

 で、アンジェリークも、首を大きく伸ばして、ゼフェルが注視している方を見やれば……。

「………!!?」

 アンジェリークも、押し黙らずにはいられなかった。

 だって、そこには……人が、いたのだ。

 しかも、こっちをじぃぃっと、見つめて、いる。

 いや、もう、さすがに、人前でちゅーできるほど、ゼフェルも豪胆ではなかったわけか……。

 つーか、ふたりが振り向いているのに気付いても、そこで見つめる人……そう、栗色の髪と青緑の瞳をした、自分たちと同世代らしい、可愛らしい少女は、恥じ入る事無くふたり見つめ続け……にっこり、笑った。

「こんばんは〜♪」

 なんだか、能天気な口調だった。

 ――なんなん(の)だ、この女(の子)は!?

 ふたり、同時に思う。

 けれど……。

「こんばんは……」

 と、返してしまうあたり、アンジェリークも相当マヌケ。

 栗色の髪の少女は、アンジェリークの反応に更ににっこり笑って、言った。

「あなたも、アンジェリークって言うんだ? 不思議な偶然……ううん、きっと、運命、かな。お日様みたいな髪と、緑に溢れた瞳と……とっても、暖ったかい、笑顔。あなたが、きっと、本物のアンジェリーク……」

 その言葉はまったくもって意味不明。

 けれど、彼女の言葉に理解する。彼女が自分たちを知っている事。

 そして……その腕に付けられている、見覚えのある銀のブレスレットは……。

「おめぇ……!?」

 ゼフェルは、ブレスレットを視界に入れた途端、弾かれたように立ち上がって、少女を凝視した。

 アンジェリークも……そう、目の前の少女に、ロザリアの言葉を思い出していた。ロザリアに、呪いの村の話しを語って聞かせたと言う、“アンジェリーク”の事を。

 栗色の少女は、にこっとコケティッシュに笑って小首を傾げて見せた。

「本当は、色々とお話ししたくて来たのだけれど……今日は、久しぶりに彼が早く帰ってくるって言うから……ごめんね、続きは、また、今度……。月のない夜、ひさしぶりだから。……それと、お邪魔して、ごめんね」

 少女はくるり、と振り向いて歩き出すと、一度ふたりを振りかえって手を振り、再び小走りで駆け出した。

「ちょ、ちょっと待て!!」

 ゼフェルは追いかけようとしたけれど……アンジェリークが引きとめた。

 少女を見つめる、あまりに真剣なゼフェルの眼差しに、少し……ほんの少し、嫉妬した、せいかもしれなかったが……彼女自身は、その、自身の感情に気付いていないだろう。

「アンジェリーク、なんで止めんだ!?」

「……っ……だって……その、あの子、また今度って言ってたよ……。また、今度会えるよ……きっと」

 ゼフェルの服の裾を掴んで、まるで縋りつくような眼差しをしていたかもしれない。

 ゼフェルは、そんなアンジェリークの眼差しに気勢を削がれたのだろう、押し黙ってしばらくじっとアンジェリークを見つめて……元の位置にストンと座った。

 腕を組んで、星空を眺める。

「………引き止めて、ごめんね……」

 ぼそり、とアンジェリークは呟く。

「……もしかして、ゼフェルと同じ呪いにかかった人だったかもしれないのに……」

 ゼフェルは、何も言わない。

 しばらく、ふたりの間に沈黙が横たわった。

 ゆるゆるした夜風が、ふたりの周囲を包むように流れる。

「…………オレ、自分と同じ状況の人間って、初めて目にしたかも、しんねぇ……ちょっと、興奮しちまったみてぇだ……悪ぃ」

 ふうっ、と、大きく息をついて、月のない星空を仰いだ。

「っつても……会ったって、別にどってことないはずなんだけど、な。……今までこんなケッタイな体質、自分だけかもしんねぇとか、思ってたから……。……同病相憐れむ、なんて、オレ、嫌ぇなはずなのによ……ヘンなもんだ」

 アンジェリークに微笑みかけ……再び空を見上げる。

「……同じ、境遇の女の子………やっぱり、気に、なる……?」

 恐る恐る、どこか不安そうに問いかけるアンジェリーク。

 ゼフェルは、星空を見上げたまま、眼差しだけでアンジェリークを見て……口元を緩めた。

「………ならねぇわけ、ないな」

 ゼフェルが言った途端に、表情を暗くするアンジェリークが、あんまり素直で……ゼフェルは、くくっと、笑わずにはいられなかった。

 鈍すぎる彼女は自身の素直過ぎる反応を自覚していないだろうと、分かっている。だからこそ、無意識でいてさえ自分への好意を・・・・・・嫉妬を隠しきれていないアンジェリークが可愛いい。

「おめぇ……分かりやすすぎ……」

「!? ゼフェルぅ?」

 アンジェリークは、やっぱり、ゼフェルが何を指してそんな事を言うのか、よく分かっていなかったけれど、からかいを含んだ口調に、少しむっとしたように、顔を顰めた。

 そんな表情さえ、ゼフェルひどく・・・・・・愛しい。

 だから、アンジェリークの頬に手を寄せ、彼女が何か考える前に、唇を奪った。

 先ほど、邪魔された分、長く丁寧な口付だった。

 口付ながら、ゼフェルは、ベンチの上でアンジェリークの手を強く握り締め……アンジェリークも、また、躊躇いがちに握り返した。

 頭上に広がる囁くような星々の煌きがふたりを見つめ、涼しい夜風がふたりを包み込んで、ほんの少しの優しい時間をふたりに提供していた。

「………帰る、か?」

 唇を離して、ふぅと息をついたゼフェルの声は、とても優しくて、愛情に満ちていて……幸せな気分のまま、アンジェリークはコクンと頷いた。

 公園から家まで徒歩5分。

 ゼフェルは、また、猫に戻らなければならない。

 少し、寂しいけれど……猫のゼフェル“も”大好きだから……アンジェリークは、手触りのいいゼフェルの毛皮を胸の中に抱きしめて、幸福に微笑んだ。

 


 

 ―――って、キレイに終わって見せたかったものの、ゼフェルの内情はなかか、思春期真っ盛りのドリーマーな少女とは違って、キビシイものだっりして・・・・・・。
 猫姿、アンジェリークの胸の中で、ぶつぶつぼやいたりしていた。

 

 こいつ、さぁ……鈍いにしても、大概だよな!?

 自覚してないにしても、こんだけ、素直に感情表現しといて、キスだって、最近、素直にさせてくれんのに……オレ達の仲、一向に進展してねぇように感じるのは、オレだけか?

 こういう状況って、ふつー『恋人』って呼ばねぇ?

 そんな感じ、しねぇのが謎だぜ……つーか、恋人っつたら、交尾くらいさせてくれてもいいもんだろーがよっ!

 いや、許可、くれたのは、マジ嬉しいんだけどよ……『もう少し』って……いつだ?

 とことん鈍い、こいつの事だから…………ふぅぅ…………オレ、いつまで待たされるんだろ……。

 

 嗚呼、憐れ、猫ゼフェル。
 おあずけ状態、いつまで続く。
 激鈍アンジェの無自覚さ、いつ目覚めるやその感情。
 いっそ、このまま押し倒し……けれど、それさえままならぬ。
 恨めしきは猫の体。
 いつか時来るその日まで。
 頑張れ、ゼフェル。
 負けるな、ゼフェル。
 おまえの夜明けは、目の前に。(多分)

 (↑節付きで読んでください・笑)

 



  




<言い訳>

これまでの、辻褄合わせと、整理を兼ねた今回のお話(^^;)。

一応、栗色の髪の少女は出てきたものの、ほんのちょっと。

とりあえず、ラブラブなふたり。

アンジェリークは自覚してませんけどね(^^;;)。

次回は……どうでもいいかもしんないよーなシーン。進展、少なし。

コメディ班ロザリンちょっと出(予定)。