猫少年Z

]W.ある雨の日




「ここのところ、雨ばかりね……」

 アンジェリークは、窓の外を見て、憂鬱そうにぽつりと呟いて、溜息ひとつ。

 そう、窓の外は、まだ夕方だというのに、どんより暗い。

 しとしとと、粒の小さな雨が絶え間なく降りつづけ……喜んでいるのは、薄暗がりのなかでより色鮮やかに見える緑の木々だけかもしれない。

 ……いや、ここに、もう一匹……いや、ひとり……。

「連日雨で、こっちは嬉しいんだけどな」

 普段、絶対に食べられないであろうタバスコたっぷりタコスを、実に美味しそうに食べているのは……いわずもがなの猫少年。

 アンジェリークの兄の服を着て、アンジェリークの自室でくつろぎモードだ。

「………………はぅ……」

 アンジェリークが憂鬱な原因は、コレも、あるようだ。

 いや、別に、口でアレコレ言うほど、人間のゼフェルは嫌いではないのだけれど……と、いうか、妙に意識してしまったりもするのだけれど……。

 湿気の多い空気に負けず、鬱々したじとーんとした眼差しでゼフェルを睨みつける。

「……あん?」

 ミネラルウォータのペットボトルに口をつけるゼフェルを見て、また溜息。

 その原因は……?

「アンジェリーク、いい?」

 ドアの外から声。

 はい、ママさんのものです。

「ちょ、ちょっと待って〜」

 とりあえず、返事をしておいて、無言で慌てるゼフェルとアンジェリーク。

 慌てつつも、ゼフェルはどうにか、手首のブレスを装着。

 その間、約5秒。もう慣れたものだ。

「いいよ〜」

「ねぇ、アンジェ、最近、どうしたの? こんな辛いもの食べたり、普段めったに飲まなかったミネラルウォーター飲んだり……?」

 これが、原因。

 ゼフェルの事、バレないようにしなきゃならないから、イチイチ家族に気を使うのだ! 上手くはない嘘も、つかなきゃならなかったりする。

「うん、友達から勧められて、ちょっとハマっちゃってるの」

 エヘヘ、と、笑って、ゼフェル食べかけのタコスを齧ってみて………笑顔が凍りついたり。

 慌ててミネラルウォーターを口に運ぶアンジェリークを見て、ママさんは目を丸くして、くすっと笑う。

「夕食までに、食べすぎないようにね……って、そうそう、お買い物お願いしたいんだけど、いいかしら?」

 激辛タコスの余韻に涙を滲ませるアンジェリークは、それでも笑顔で頷いて、ママさんを早々に部屋から遠ざけた。

 で……。

「ゼフェル……もうっ!」

 ママさんの足音が完全に階下についた途端、再び人間化するゼフェルに、手もとのクッションを投げつけてみる。

 ここのところ、ずっと、こう。

 ゼフェルのおかげで、本来くつろげるはずの自宅でさえ、常に気を使っていなければないらない状態。

 激鈍能天気なアンジェリークでも、溜息をつきたくなるというもの。

 飛んでくるクッションを、眼前でしっかと受け取ったゼフェルは、苦笑を浮かべ……少し切なそうな調子で口を開く。

「ああ……すまねぇな。いつも、おめぇに迷惑かけてる……」

「ゼフェル?」

 ゼフェルの妙にしおらしい態度に、アンジェリークは小首を傾げた。

「マジ、悪ぃ……けど………けど、さ……オレが、人間になれんのって、こういう時だけだし……おめぇの前でだけなんだ………」

 あからさまに肩を落して、俯いて……。

 そんな風に、そんな事言われたら、アンジェリークは何も言えない。

 それどころか、ツキン、と胸が痛んでしまう。

「あの……ゼフェル……ごめんね……。あのね、その……うん、いいよ、人間になれるときは、人間になってくれてて。そうだよね、ゼフェル、こういう時にしか、人間になれないんだもんね……」

 単純。

 俯いたゼフェルが、アンジェリークに見えないように、口元に悪辣な笑みを刻んでいる事なんぞ、アンジェリークに分かるわけがない。

 またもや、野生化した欲求不満男ゼフェルに隙見せまくり。

 純真無垢。言いかえれば、単純隙だらけ。

「アンジェリーク……」

 細めた瞳で、アンジェリークを見上げるゼフェル。

「おめぇ、やっぱ……いい女だな……」

 口元に、優しい笑み。

「え……?」

 ゼフェルに見つめられるだけで、頬が熱くなる。そう、鼓動が早まって、頭に血が上っていく。

 ゼフェルの手が伸びて、アンジェリークの頬に触れる。

 繊細そうな形良く長い指先が頬をそっとなぞり、その温もりを伝える。

 ドクン、一瞬、心臓が痛いくらいに跳ねあがる。

「ゼ、ゼフェ……ゼフェル……?」

 ゼフェルは、無言のままアンジェリークに顔を寄せる。

 うっすらと優しい微笑を浮かべ、半眼を閉じて……。

 アンジェリークもまた、つられるように瞼を落した。

 そして……。

 ――お約束?

 いえいえ、今回は、お邪魔は入りません。

 ゼフェルの企むままに、アンジェリークの唇は、ゼフェルのものに……。

 熱いゼフェルの唇の感触。(←先刻までタコス食べてたからか?)

 触れるだけの、優しい口付。

 アンジェリークは、ぼうっとなってしまった。

 ああ、これって、もしかすると私のファーストキス?

 とか、勝手に思ったとか。

 ちなみに、アンジェリークのファーストキスは、ゼフェルが初めてやってきた夜、彼女が寝ている隙にばっちり奪われてます。(←泥棒ゼフェル)

 さらに、ちょっと前、お風呂場で、大人のキスも経験してます。

 はい、年若い娘さんの、ロマンティックなメモリーでしょーか。勝手に記憶を改竄しとります。

 どーせなら、ちょっくら雰囲気出してしたいですもんね。

 アンジェリーク、素直にゼフェルの口付を受けて……唇がゆっくり離れても、ぼうっとしてしまった。

(ゼフェルが己の企みのままにアンジェリークの唇を奪えて、心の中、ガッツポーズを取っているとも知らずに)

 相変わらず胸はどきどきとしているけれど……でも、なんだか……幸せな気分だった。

 それが、『恋』だと自覚するには、至ってないけれど……。(くは〜! 青春だねっ!!<突っ込み可)

 と、いうか、いつも、自覚に至る前に、ゼフェルが……。

「きゅ……!?」

 またもや、隙を見せるアンジェリークを押し倒しましたとも。

 ここのところの、恒例ですね。

 もしかすると、(欲求不満17才の)ゼフェルの頭の中には、キスをもらったらオッケーという公式ができあがっているのかもしれない。

 若気の至りですね!(使い方間違い)

「アンジェリーク……キスされんの、イヤか?」

 でもって、行動を拒絶される前に、真剣に聞いてみるのも今回のゼフェルの手だったり。

 アンジェリークは真上に見えるゼフェルの真剣なルビーの瞳に、返答に詰まってしまった。

 嫌じゃない……。ううん、むしろ……。

 と、答えはすぐに浮かんだのだけれど……それを口に出すのが気恥ずかしくて、顔を真っ赤にして口を空回りさせてしまった。ぱくぱくと、酸欠の金魚のように。

 ふっ、と、ゼフェルが小さく笑う。

 アンジェリークの答えなんて、聞かなくても分かる、と、いうように。

 余裕の大人、まるでどっかの種馬さんのような態度ですが、その実、頭の中はぐーるぐると回ってます。

 そお、いかにして、アンジェリークをソノ気ににさせるか、と。(種馬さんがシンクロしてるよーな本日の猫少年!)

 ――今日は、イケるか!? やっぱり、コイツにはこの手!? 真剣に迫られるのに弱いのか!? よっしゃ〜〜!!

 結論は、出た?

「アンジェリーク……オレ、初めておめぇを見たときから、ずっと……。だから……」

 再び、口付。

 アンジェリークは拒まない。

 ゼフェルの指がアンジェリークの顎を押えて唇を開かせ……ゼフェルの舌が、そっと歯を割って入り込み、口腔を確かめるように蠢く。

 アンジェリークは、僅かに眉根を寄せるけれど……抵抗は、しない。

 ゼフェルの舌先が、アンジェリークの舌に触れる。それだけで、身体は、ピクンと跳ね、顕著な反応をするのに、ゼフェルにされるがまま……いや……。

「ん……っ!」

 アンジェリークも微かに動こうとする。恐る恐る、と、いった風に。

 完全に、ゼフェルの思う壺?

 けれど……ゼフェルは、初々しいアンジェリークの反応に、どんどん、野生の本能を全開していく。

 理性がね、本能に食われかかってます。

 強固に理性を保ち続け、そういう雰囲気まで傾れ込ませるほど、ゼフェルは大人じゃない。(それが、種馬さんとの違いらしい)

「ふっ……ん……」

 アンジェリークが、鼻から抜ける甘い息を漏らす。

 今までカーペットの上で拳を握り締めていた手が、ゼフェルの腕を掴んだ。

 準備万端、後は落ちついて、優しく事を進めれば……。

 とは、思ったゼフェルだったが……。

 唇を離して、自分を見上げる潤んだエメラルドの瞳と出会って、濡れたピンクの唇で「ゼフェル……」なんて、甘く囁かれたら……!!!

 理性ぶちぎれ。

 その瞬間、下克上がなされる!! 

 そう、本能の大勝利!!!

「アンジェ……!!」

 ゼフェルは、慌しい動きでアンジェリークのカットソーの裾を捲り上げ、その白い腹部、のみならず、淡いピンクのブラの位置まで露わにさせた。

「……え? ええっ!?」

 あまりに突然かつすばやい動きに、アンジェリークは、事態をよく飲み込めていないらしい。

 けれど、ブラの上かから、胸を揉みしだかれ……スカートの裾が捲り上げられるに至って、やっと事態がはっきりと飲み込めた。

「っ……きゃ……あぅ!! だっ、だめ!! ゼフェル、やぁ〜〜!!!」

 太股を割って入っている手から逃れるために、身を捩って、ゼフェルの腕を掴んでいた手に、力を入れ……爪を立てる。

「……っ!? ぃ、てぇ!!」

「ゼフェルの、ばか〜〜!!!」

 痛みに怯んだゼフェルを激しく突き飛ばし……アンジェリーク、貞操を死守!!

 息を乱して起きあがったアンジェリークは、涙目でゼフェルを睨みつける。

 対し、アンジェリークに突き飛ばされて、自分の食べかけのタコスに突っ込んでしまったゼフェル。情け無いかな、タコスのソースまみれ。

「なっ、なにしやがんだ!」

「それは、こっちのセリフっ! ゼフェルの、馬鹿、馬鹿、馬鹿、大馬鹿〜!!」

 そして、いつもの売り言葉に買い言葉。

 微笑ましいですね〜。

 青い春ですね〜。

 これも、ひとつの愛情表現?

 もちろん、お約束アリですが。

「アンジェ〜? アンジェリークぅ??」

 階下からのママさんの声と、階段を上ってくる足音。

 慌てて猫に変身っ!!

 これさえも、アンジェリークを憂鬱にさせる一因でしょうね〜。

 ノックと共に扉を開けたママさん。

 鼻息粗いアンジェリークと、タコスのソースまみれのゼフェルを見て、目を丸くする。

「ママっ! お買い物、行ってきます。その間に、この悪戯お馬鹿猫、お願いっ!!」

 珍しく憤っているアンジェリークが、足音荒く部屋を出て行くのを見たママさんは、肩をすくめて、ゼフェルを見た。

 ゼフェルは……逃げる用意万端?

 タコスソースにまみれたまま、アンジェリークの部屋を縦断しようとする所を、むんずを捕まえたママさん。にっこり笑って言いました。

「じゃ、お買い物はアンジェリークに任せて、ゼフェル、お風呂に入る?」

 ゼフェル、肉球にじんわり汗を掻いて、ママさんの思うがまま。

 このママさん相手じゃ、抵抗もできないし、妄想も抱けるはずがない。

 結局、おとなしーく、ママさんに洗われるゼフェルだったとか。





 あの女、あの女、あの女っ!!!

 もーう、いい加減、オレだってぶち切れらぁ!

 今まで、こっちは散々紳士的に接してやってたのにっ!!(←どこが?)

 我慢の限界だっ!!

 今度、人間に戻れた時こそ…………覚えてろよっ!!!

 

  




<言い訳>

毎回、おなじよーな事繰り返してますね〜(^^;)。

でも、3歩進んで2歩下がる程度には進んでるからいいのでは・・・。

で、次回は、やっと、マトモな(笑)13禁のシーンです。

すでに書きあがってるんですが次々回の目処が立ってからのUPとなります〜。

つーか、次回のお話、実は、このお話を思いついて、

一番最初に書いたシーンだったりします(笑)。

筋を繋げるために、ちょっと手直ししないとね〜。