猫少年Z

]V.栗色の髪のアンジェリーク


【ゼフェル・地獄篇】

「おっ、おい、アンジェリーク!?」

 湯船に沈んでしまったアンジェリークを、慌てて引き上げて、頬を軽く叩いてみるが……意識はもどらない。

「この、鈍くさオンナ……!」

 舌打したゼフェルは、四苦八苦しながらもアンジェリークを浴槽から引っ張り出した。

 お湯の中は浮力で楽々と動かせるのだけれど、湯の中から引き出すのは、かなりの重労働!!

「…………っ!!!」

 この際、色気やなんだと妄想する余裕はない………………………はず、だろうけど……。

 バスマットの上に横たえたアンジェリークは……限りなく、色っぽかった。

 全身濃い桜色に染まった体、濡れて頬や首筋に絡みつく金糸の髪。水分を含んで、ぴったりと体にりついたバスタオルの裾はめくれあがり、形のよい脚のラインを惜しげもなく露出させている。

 半開きになったピンクの唇は、真珠のような輝きを持っていて……ゼフェルに誘いをかけているようだ。

「………!!!」

 ゼフェル、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。

 ――………………………。

 しばらく、呆然としてそんなアンジェリークを見て……けれど、今がそんな場合ではないと気付く。

「このままじゃ、こいつ、風邪ひいちまうだろ!? ちゃんと着替えさせて、部屋まで…………着替え……させる……?」

 そこでまた、頭に血が上る。

「つー事は、その、このバスタオルとって、体を拭って……………」

 妄想が頭の中で開花しはじめ、ゼフェルは激しく頭を振った。

「だから、今はそんな場合じゃねえっ!!」

 自分の顔をパシン・パシンと激しく叩いて、脱衣所からバスタオルを持ってきて……更に、浴室の明かりを落す。

 そう、自分の良心に、ゼフェルは従った。

 普段猫なものだから、目は闇に強い。けれど、電気をつけている状態よりは、まだ、視界がききにくい。

 直視しないように、アンジェリークの体を覆う、濡れたバスタオルを取って……現れる女の子の肉体の稜線に、刺激されそうになる自分を諌め、アンジェリークの体を乾いたバスタオルで包み込むようにして、拭う。

「まさか、湯当りで気絶しているオンナを襲うほど、堕ちゃいねぇ……」

 バスタオルで体を覆ったまま、アンジェリークを抱き上げ、脱衣所まで運ぶ。

 再度、脱衣所の明かりも落して、アンジェリークが用意していた着替えに手を伸ばす。

 ショーツと、パジャマ。

 ちなみに、アンジェリークは、寝るときはブラをつけない派らしい。

 アンジェリークの好きな、淡いピンクを基調にした、肌触りのいい綿のショーツ。

「色気はねぇけど……こいつらしい」

 ぼそり、と、呟いて、ゼフェルはできるだけ、見ないようにしながら、ショーツに脚を通してずり上げて行く。

「……………」

 ゴクン、と、生唾を飲み込んでしまうのは、しかたがない。

 だって、若い男の子だもん。

 そう、若く、健全で、しかも、ここのところ、すっかり欲求不満を持て余している、年頃の男の子、だから………。

「………あ……?」

 なんだか、さらりとしたお湯とはまた違う、妙にまったりした液体が鼻から唇あたりに……。口の中に染み込んでくるその味は、鉄くさい………はい、はなぢですね。

 興奮が極限に達したらしいです。

「っつ……マジかよぉ……」

 ゼフェル、自分がとても哀しくなりました。

 なんだか、とても、とても、自分が不幸に思える。

 客観的に見た場合にはどーみえようが、ゼフェルは、今、まるで『血の池地獄』でも『針地獄』でも『餓鬼地獄』でもなく、『おあずけ地獄』という、とびきりのエサを目の前にちらつかされているのに、まったくそれに食いつけない、ひどく居たたまれない地獄を見ていた。

 賽の河原で石積みをしていた方がまだましじゃ〜!!

 と、器用な彼は思ったとか……。

 ……ともかく、ゼフェル、否応なく口の中に流れ込むはなぢを、ペロリと舐め取り………アンジェリークの下着を、一気に上まで上げた。

 勿論、どこにも、触ってない。

 触りたいのに、触れない!!!

 触ってしまったら、それでなくても、砂場の棒倒しの棒状態(しかも、あと数度砂をかけば、倒れてしまうくらいの危うさ!)の理性は、あっさりと倒れ、気絶しているアンジェリークを襲い兼ねない。

 ――それなら、それでも……。

 と、ダークな思いがちらりと脳裏をかすめたものの……それを実行に移して、アンジェリークに本格的に嫌われるのだけは、ごめんだ。

 単に自分を人間に戻すための手段として、彼女に着いてきて、自分の本性を晒したわけではないから。

 どうせなら、きっちりと合意をもらってから………。

 とは、思うものの、鈍くさいこの少女から、合意がもらえるものはいつになるかどうか…………と、思うと、眩暈を感じるゼフェル17才・青春真っ盛り。

「気ぃ、遠くなるぜ……」

 最大の難所であるショーツさえはかせればあとは早いもの。

 パジャマのズボンと上着を着せて、ゼフェルは、アンジェリークを抱え上げた。

「けど……オレは、別に人間に戻りてぇからおめぇを選んだわけじゃねぇんだから……焦りは、しねぇさ…………ただ……」

 抱き上げたアンジェリークを2階の部屋に運ぶ。

 気絶しているアンジェリークの体の確かな重みを腕に感じて、ゼフェルは苦笑するけれど……。

「……んっ……」

 甘い喘ぎを上げて、頭の位置をずらしたアンジェリークの熱い吐息が首筋にかかって………………先ほどから元気なままの自分自身が更にはちきれそうになって「……っ、ぁぁ……!!」なんて、唸ってしまう哀れなゼフェル・只今欲求不満度200%!!

 オンナには分からん、オトコの悩みですか。

 理性で欲望を抑えつけて、実際の行動には移さないとしても、どうやら“彼自身”は理性を中継しないで欲望とホットラインで繋がっているらしいです。

 欲望がありのままに現れて、とっても元気。

 アンジェリークを彼女の自室に運び込んだ後、ゼフェルがナニをナニしていたかどうか は『あなたの心の中で』(きゃっ)。





 休日の昼下がり。

 うらうらと長閑な日差しがレースのカーテン越しに優しく入り込む。

 室内は、落ちついたロイヤルブルーとウォールブラウンを基調にした豪奢な装飾・調度で品良く飾られていた。

 そこには、ふたりの少女が居た。

 その雰囲気は彼女のためにあるのだというような、上品で高雅なお嬢様と、ちょっとその雰囲気にはそぐわないような、庶民。

「久しぶりだわね、あなたとこうしてお茶するのは」

 優雅な仕草で、上品な絵柄のついた底の浅いティーカップを口元に運び、取り寄せたばかりの新茶の香りを楽しんでいる。

 身に纏うのは、上質の素材を用いた、ロイヤルブルーのワンピース。

 青い髪を縦ロールに巻いた、どこからどう見ても上品で高雅なお嬢様……言うまでもなく、ロザリア・デ・カタルヘナは、庶民アンジェリークに微笑む。

「そうねぇ。ここのところ、ロザリアってば、忙しそうで、ちっともゆっくりできなかったものね。それでなくても、特待生のロザリアとは滅多に会えないのに」

 にっこり笑い、カタルヘナ家おかかえのパティシエのケーキに舌鼓を打つ。

「寂しかった?」

 小首を傾げて問うロザリアに、アンジェリークは一度目をぱちくりさせてから、ふにゃっと笑って見せる。

「うん。ロザリアの高飛車な笑いが聞けないと、なんだか力が入らないから」

 かわいい顔して、言うもんだ。

 ロザリアは、ふふっ、と笑う。

 久しぶりに、心許せる友人とのんびりした休日を過ごしているせいか、彼女の表情は、とても穏やかに見える……けれど……ふいに、ロザリアは、じぃっと、アンジェリークを見つめる。

 青い瞳が、アンジェリークの一挙手一投足を丹念に観察しているようだ。

「……? ロザリア?」

 お菓子から顔を上げたアンジェリーク、小首を傾げる。

「ねぇ、アンジェリーク、あなた……」

 ロザリアは表情を厳しくしてアンジェリークを見つめている。

 激しく眉根が寄っている。

「え? え?」

 戸惑うアンジェリーク。

 なんだか、みょーな危機感。

 突然、ロザリアは立ちあがり、丸テーブルの向かいのアンジェリークに詰め寄ってきて……。

「きゃぅ!?」

 アンジェリークのブラウスの襟元を、押し広げたっ!!!

 カタルヘナ家のお嬢さま、百合説は本当か! 白昼堂々と、アンジェリークを襲う!?

「あなた、コレ、キスマークじゃありませんの!!?」

 目を険しくしたロザリアは、アンジェリークの左肩の首筋、色を濃くした鬱血の跡を指先でなぞった。

 百合ではなかったらしいが、ある意味、見つかったら一番厄介な人に、厄介なものを見つかってしまったようだ。

「え? え??」

 アンジェリークきょとんとしています。これは、誤魔化しでなく、マジぼけ。

 “キスマーク”の意味がよく分かっていないらしい。

「いっ、いつの間に!! わたくしに内緒で、男と、ふしだらな事っ!?」

 ……ロザリアに内緒じゃなければ、ふしだらな事、してもいいの?

 と、いう突っ込みは置いといて。

「え? は?」

 やっぱり、状況がよく分かっていないらしい、アンジェリーク。

「相手は、どんな男ですの!? 正直にお話なさいっ!!」

 アンジェリークの両の肩をワッシと掴んで、がくがく揺すぶるロザリアの形相は、まさしく般若?

「どんな男かは知らないけれど、わたくしのアンジェリークに手を出すなんて、フトドキな奴ですわっ! きっと、何も知らないアンジェリークを言葉巧みにだまして、導いて……ああ、おぞましい!! そんな男は、極刑に値しますわ! こうなったら、カタルヘナ家の権威を用いて、その男に鉄槌を……!!」

 ひとり、大盛り上がりのロザリア。<どさくさにまぎれて、“わたくしのアンジェリーク”なんて言ってるし。

 けれど、やっぱり、アンジェリークはきょとん。

「えぇ、と、ロザリア?」

「で、相手はどんな男なのっ!?」

 詰め寄るロザリアに、気圧されつつ、アンジェリークは目をぱちくりさせた。

「キス、マークって……?」

 その質問は、ロザリアをこっぴどく息消沈させるには十分だった。

 こんな大間抜けに、男ができるはずなんて、ない。

 と、一瞬で悟らずにはいられなかったようだ。

 ふううっ、と大きな溜息をついて、ロザリアは、元居た席に座りなおした。

 心配が、杞憂だったようで……嬉しいは嬉しいが、ひとり盛りあがっただけに、自分がムナシイのだろう。

「肌に残ったキスの跡、ですわ。強く吸いつかれると、鬱血して痣のように残ったりするんですわ、よ…………?」

 ロザリアの説明を聞いて、何故か、アンジェリークは真っ赤になったりした。

 そう、キスマークという名詞じゃ判然としなかったけれど、“強く吸いつかれて残る痣”と文章にしてやっと理解できたようだ。

 そして、あの日のあれらのシーンを思い出して、真っ赤になってしまった、と。

 どこまでも大鈍者。

 再び、ロザリアは眉を寄せる。

「……アンジェリークぅぅ?」

 地のソコから響くような、呼びかけ。

「やっぱり、あなた………!?」

 ロザリアの、美しい切れ長の目が、キラリン☆と光る。

 美人さんが怒るのは、迫力!

 アンジェリークは、そこで、やっとロザリアが何に怒っているのか分かったような気がして、慌てて言い訳を。

「ち、違うの! これは、ゼフェルがつけてたものなの!」

 言い訳になってない? なってない、でしょう?

 これじゃ、告白! カミングアウト!!

 本人も、そう思って、言った直後に思いきり息を飲み込んで、口を塞いだ、けれど……。

 どうやら、言い訳として通用したようだ。

 ロザリアの表情が、緩まった。

「……ゼフェルが?」

 ロザリアは、アンジェリークが嘘なぞつけない事を熟知しているし、彼女にとって、ゼフェル=猫、の公式は絶対のものだから。

「それじゃ、噛まれたの? あの猫! わたくしのアンジェリークを傷ものにするなんて……!!」

 次回会ったら、お仕置き100連発ですわっ!!!

 と、心の中に浮かんだのは、猫の嫌いなものイロイロ。柑橘類の香り・犬・しつこい子供(しつこければ、大人でも可!)・重低音が心地よいAVデッキ・シャンプーセット・掃除機・ガラスを引っ掻く音……等々等々。

 カタルヘナ家の財力を用いて、猫一匹に嫌がらせの数々っ!!

 ――10円パゲくらいじゃ許しませんわ! せめて、500円玉大くらいにはならないと!

 と、思い描くロザリアの企みの表情になんとなく気付いたものの……アンジェリークはとりあえず、お茶を飲んでみた。

 ロザリアには何を言ってもムダ、だと分かっているのかもしれない。

 そして、鼻息を粗くするロザリアが、落ちついて来た頃を見計らって、アンジェリークは口を開く。

 ちょっと、聞いてみたいことがあったのだ。

「ねぇ、ロザリア?」

「何かしら?」

 乱れた縦ロールをさらりと背に流し、いつも通りの毅然とした態度で問い返す。

「あのね、前にロザリアが話してくれた、日の女神様のお話、あったでしょう?」

「え? ……ああ、あのお話?」

「あれって、どこで聞いたお話なの?」

 あのお話の村の出身だというゼフェル。

 そんなに、有名な話なのだろうか?

 知ってたって、どうだという事はないのかもしれないけれど……強い好奇心があった。そして、知ることで、ゼフェルをもっと理解出来るのかもしれない、とも。

「知人から聞いたのだけれど。どうして?」

 少し前の興奮はどこへやら、ロザリアは、冷静にアンジェリークに問いかける。

「ううん。とても、切なくて、なんだか気になるお話だったから」

「ええ。いいお話よね。わたくしも好きだわ」

 にっこり笑い、紅茶を口に運ぶ。

「あのお話は……知人から聞いたものなのよ。と、いっても、一面識しかない人だけれど……」

 記憶を手繰り寄せるような、少し遠い目をして、ロザリアは話した。

「確か、父の知己の王立派遣軍の将軍様の、在官10周年の記念パーティだったわね。そこで出会った、同い年の女の子。将軍様の部下の婚約者だって言ってた。とても良い子で、初対面なのに、妙に気が合っちゃって……あなたと、どこか雰囲気が似ていたかもしれないわね。そうそう、何より、名前がアンジェリーク!」

 くすっと笑うロザリアに、アンジェリークも目を丸くする。

 自分と同じ名前の少女、と言う事で、ますます興味を惹かれたようで、必死で聞き入っている。

「で、ね……そうそう、確か、あの日は生憎の雨で……当初、庭園も解放して催される予定のパーティだっただけに、残念ね、って言ったら、彼女は、雨の日はとても好きって言って……そして、お互いの事を少し話して……彼女が、自分の故郷に伝わる話だ、って教えてくれたんだわ」

 瞳を細めて、少し懐かしそうに微笑む。

 余程、その女の子と気が合ったに違いない。他人への評価がかなり辛辣気味のロザリアにしては、珍しい。

「連絡先、聞かなかったのは残念だったわ。あなたとも仲良くなれそうな子だったわよ? 栗色の髪と青緑の瞳をした、おっとりした女の子」

 故郷に伝わる、話?

 アンジェリークが小首を傾げていると、ロザリアは思い出しながら、くすっと笑った。

「そうそう、とてもカワイイ子だったんだけれど、手首にその時着ていたドレスとは不釣合いな銀のブレスレットをしていてね、わたくしのアクセを貸してあげる、って言ったのに、それはとても大事なブレスレットだから、って。 婚約者からもらったのかしらね? 年上の随分無骨そうな人だったから、女の子の趣味、分かっていらっしゃらないんだわ、きっと」

 銀のブレスレット?

 なんとなく、符丁が合うような……。

 それって、もしかして……?

 と、疑問が浮かんだものの……連絡先を聞いていないと言う事は、その女の子と会うことも出来ないだろう。

 でも、会ってみたい!

「ねぇ、ロザリア、もし、またその子と会う機会があったら、連絡先とか聞いてくれないかなぁ?」

「? あなたが、そんなにあのお話に興味を持ったなんて……どうしたの?」

「え……ううん、ただ、ね……あのお話の村や呪いって、今はどうなってるのかなぁ、って思って……」

「………」

 アンジェリークの答えに、ロザリアは少し目を丸くしてから、小さく息を吐き出した。

「そう、ねぇ………今ごろ、呪いかかった人間達は絶えてしまって、ダムの下、とかじゃない?」

 はっきり茶化している。

 アンジェリークにもそれがわかって、ぷうっと頬を膨らませた。

「ロザリア、夢がないっ!」

「夢ばかり見られる年頃は過ぎつつあるわね」

 すまして、クッキーを口に運ぶ。

 アンジェリークが、ロザリアに反論出きるはずがない……。

「ま、いいわ。確か、近いうちに、その将軍様の誕生日のパーティがあるの。今度は、ごく親しい人の集まりみたいだけれど……そっちのアンジェリークの婚約者さん、将軍様の片腕みたいだから、運が良かったら会えるかもしれないわ」

「え! じゃあ!」

「ええ。もし会えたら……いいえ、会えなくても、連絡先くらいは聞いてきてあげる」

「ありがと、ロザリア!!」

 にこっと、破顔して笑うアンジェリークを見て、ロザリアは至極満足そうに微笑んだ。

 アンジェリークをからかうのも楽しいけれど、やっぱり感謝される方が気持ちいいわ。今度は、どんな恩を売ってやろうかしら。

 と、その笑顔の下で考えているとは、アンジェリークに分かるはずない。

 ついでに……

 そうそう、近いうちに、アンジェリークの家に遊びに伺って、是非、ゼフェルに会っておかないとね。

 その頃、庭の木陰で転寝するゼフェルが、奇妙な悪寒を感じて飛び起きていたのは、言うまでもない……かもしれない。





 夜、いつものように、ベットでくつろぐゼフェルに、アンジェリークは語りかける。

「ねぇ、ゼフェル?」

 なうぅ?

「同じ村出身の呪いのかかった人間、まだいるの?」

 あぉうん。

 すっと瞳を細め、耳をかすかに伏せ気味にする。

「そうよね、ゼフェル、お母様の出身の村なんて、行ったことないから、わかんないよね……」

 なぉん……なぅぅ。

「ん? そうよね、だって、どんどん呪い解いて、普通の人間になってるんだもん、呪いにかかってる人なんて、もうほとんどいないかもしれないよね?」

 なぁう。

「私も、そう思うんだけど……もしかしたら、いるかもしれないよ?」

 なぅ?

 アンジェリークの言葉に、ゼフェルの耳がピンと立つ。赤い瞳が、アンジェリークをじっと見上げる。

「うん、ロザリアがね、あのお話を聞いた人、もしかすると、あの村の出身かもしれないんだ」

 ぐなぁん?

「ゼフェル、今まで仲間に会った事ないんでしょ?」

 あぉう。

「会って、みたくない?」

 にゃぅ? うにゃぅ。

「興味は、あるでしょう?」

 うるにゃ。

「うん、もしかして、近いうちにね、会えるかもしれない……ロザリアが、連絡先、聞いてくれる、って」

 ぐにゃ?

「うん、まだ、そうかどうかわかんないから、とりあえず、私、会えたら会ってみるよ」

 なぁん

 ゼフェル、眼差しを伏せて、きちんと前でそろえられた自分の腕の上に、顎を落す。

「会って、どうしたいか分からないけど……ゼフェル、仲間と会えたら、気がまぎれるかもしれないし……どう? 乗り気じゃない?」

 なう。

 そっぽを向いて、目を閉ざしたまま、尻尾が、パタパタ揺れる。

「ん、そんな事言わないでよ……。あ、そうそう、その子ね、アンジェリークって言うんだって! 私と同じ名前! 栗色の髪の、女の子。ロザリアが誉めてるくらいだから、きっと良い子だよ」

 なぁう? にゃあぁん

 途端に、ゼフェルは起きあがって、アンジェリークを見上げた。そして、かすかにアンジェリークの腕に頭を摩り付ける。

「え? 会ってみたい? もうっ、ゼフェル、ゲンキン!!」

 猫と会話する少女。

 端から見れば、とてもとても異様な光景……まぁ、でも、通じ合っているからいいんじゃないだろうか……。

 でも、きっと、両親が見てれば、アンジェリークの額に手を当てる事請け合いだけれど。

 

 当のゼフェルよりも、アンジェリークの方が“ゼフェルと同じ呪いにかかった少女”に会えるのを楽しみにしているようだった。

 もちろん、実際、本当にそうであるかどうかは分からないけれど。

“どんな子だろうな。楽しみ。色々、お話できるといいんだけどな♪”

 多分、それは、もう少し先の話……。






  




<言い訳>

またもや、生殺しのゼフェルくんでした。

ロザリンにも登場していただきましたし。

次回は・・・・多分、短めかなぁ・・・。

栗色の髪のアンジェリークは、もちっと先に出てくる・・・予定。