猫少年Z

]U.浴室の告白

「あっち向いててっ!」

 上機嫌の猫ゼフェル、ごろごろ喉を鳴らしながら、アンジェリークに背を向ける。

 衣擦れの音、衣服が床に落ちる音……妄想が膨らみます。

 カチ、小さな金属音←ブラのホックを外した音。

 シュル……肌と触れ合う布の音←ブラを外した音。

 パサ、ゴソゴソ、柔らかな布を擦り合わせるような音←バスタオルを体に巻く音。

 ゴソ…ゴソゴソ…ススス……←バスタオルの下からショーツを脱ぐ音!

 瞼の裏に、その光景がくっきりと浮かぶようで、ゼフェル、興奮を隠せない。

 自然、息遣いが荒くなっている。

 パサッ←ショーツを脱衣籠に入れた音。

 で、ゼフェル、その瞬間に、くるっと振りかえる。

「ゼッ、ゼフェルッ!」

 そこには……ああ、そこには……。

 バスタオル1枚を体に巻いただけの、少女が、頬をピンクに染めて立っている。

 ――かっ、かわいい!! 青い色気ったぁ、こういう事か!?

 象牙のごとき白さと滑らかさを持ち合わせた、瑞々しい肉体を覆うのは、淡いピンクのバスタオル。

 そう、バスタオルのその下は……………。

 ――………下から回り込めば……。

 と、不埒な事を思うゼフェルに、釘をさすのを忘れず、アンジェリーク。

「先に浴室に入って!! 絶対に振り向いちゃダメだからねっ!!!」

 ――チッ……。

 普段はテンデ鈍くさいくせに……女のカンって奴ですか?

 ゼフェルは、しぶしぶ浴室に入っていった……良からぬ事を思い描きながら。

 そして、ゼフェルの良からぬ事などまったく気付いていないアンジェリークは、しきりにバスタオルの胸元と裾を気にしながら、ゼフェルの後に続く。

 冷たい浴室。

 裾から下がゼフェルの視界に入らないように、アンジェリークは膝をついたまま、カランを捻って浴槽に湯を満たして行く。

「…………ゼフェルぅ?」

 足元に擦り寄ってきたゼフェルに、はっきり不信な眼差しを向け、その体を思いきり向こう側に向ける。

「スケベっ!!! ……もうっ!」

 ふうっと溜息。

「お行儀悪いけど、バスタオル巻いたまま入るからね!? 変なこと、しちゃだめよ!?」

 形いい眉を吊り上げて、アンジェリークはがなってみせる。

 が、それを耳にいれるゼフェルでは、ない。

 にゃぉん。

 と、鳴いて、体を舐める仕草をする。

 体を洗え、との、あからさまな催促であろう。

「……せっかくだから、体くらいは洗ってあげるケド……」

 しぶしぶと、シャワーに向かって、カランを捻りそうになって……ふっと気付く。

「あ、首輪、とらなきゃ、ね」

 ゼフェルの首元に光る、銀鎖。

 アンジェリークは、何らかの要因を揃わせた場合にその首輪を取ると、ゼフェルが人間に戻る、という事を知っているはずである。

 その、はず、だったのだが……。

 以前、お風呂に入った時に、首輪を取っても何も起こらなかったし、ゼフェルが人間姿で現れるのはいつも夜だったから、今度も大丈夫だと、思っていた。

 と、いうか、そこまで、深く考えてなかった。

 だから……何気なく、ゼフェルの銀鎖に手をかけて………ゼフェルが、目を細め、ヒゲを立て、口元を弛めている(何か企んでいる表情!)のも気付かず………首輪を、とった。

 そしたら………。

「…………!? きゃううっ!!?」

 ガシャーン!!

 と、お風呂の椅子とその上に積まれていた桶が、激しい音を立てて崩れ、タイルの上に跳ねた。

「……………ご苦労サマ……」

 呟くのは……アンジェリークをバスマットの上に押し倒した、人間姿のゼフェル。

「ゼッ、ゼッ……ゼッ……」

 まるで、風邪を引いている状態の激しい運動直後の呼吸のように、濁ったセリフを繰り返すアンジェリーク。

 大きな緑の瞳が、小ぶりの顔から零れ落ちそうなほどに、まん丸になっている。

「ゼ、ゼフェ……ゼフェルぅ!?」

 真上に顔を寄せて、ゼフェルはニンマリ笑った。

 赤い瞳が、心底嬉しそうに細められている。

「オレをわざわざ人間にもどしてくれて、サンキューな」

「だっ、だって、だって??? ええ、だって、まだ、夕方なのに!? 夜じゃないのにぃ!?」

 アンジェリーク、混乱。

「夜じゃなくても、こんな分厚い雲が日差しを隠している日にゃ、元に戻れんだよ、オレは。何しろ、呪いをかけたのは『日の神様』なんだからな」

「え? ええ? えええっ!? そんなの、聞いてないわ!!」

「そりゃ、言ってねぇんだけどな。……おまえも、それまでの状況で普通気付くぜ?」

「えうう……だって……そんな………」

 アンジェリークの混乱した瞳が、落ちつきなく動く。

 ゼフェルの細められた瞳。細いけれど、くっきりした眉。形のいい鼻梁。薄めの唇……すっきり細い首筋……はっきり浮かび上がった鎖骨、それから………。

 アンジェリークは、そこでやっと、相手が全裸なのだ、と、気付いて……一瞬にして顔を真っ赤に染め上げた。

「ゼ、ゼフェル! ちょっと、ヤダ! だって……!!」

「なにが、イヤ、だ? だって、おめぇ、‘オレ’と一緒に風呂、入ってくれんだろ?」

 意地悪く口元を歪めて……あからさまに、アンジェリークの反応を面白がっている。

「だって、それは、猫のゼフェルで……人間になるなんて……」

 アンジェリークの脚が、落ちつきなく、もぞもぞ動いた。

 ………アンジェリークの上に全裸で跨って、押さえつけているゼフェル。

 当然、全裸ちゅーことは……。

「………!?」

「………!? おい………おめぇ、自分から、誘ってんのか……?」

 当るものに当ってしまったらしい。

「………やっ! ゼフェルの、スケベ!!!」

 顔が完熟トマト程真っ赤になり、恥かしさのあまり瞳に涙まで浮かんでいる。いや、顔だけでなく、耳や、首筋や……全身が、ほんのり赤くなっている。

 そんな様子が、いかに男の……ゼフェルの本能をくすぐるかも分からずに。

「……そうだ……オレは、スケベだぜ……」

 ゼフェルの上体が沈む。

 アンジェリークに体重を掛けるほどに。

 それでも、あまりアンジェリークがその重みを感じていないのは……ゼフェルがぎりぎりの所で体重を自分の腕と脚に乗せているからだろう。

 素肌が、触れ合う。

 まるでヴァンパイアが乙女の首筋に噛みつくように、半眼を閉ざし、ゼフェルは、そっとアンジェリークの首筋に唇を寄せた。

「……ッ!!」

 熱い吐息がかかる。そして、湿った唇が……。

「……ゃ……ダ、ダメ……」

 ゾクッとしたものが背筋を駆ける。

 浴槽にたまってきたお湯が、どんどん室内を暖めて行く。

 湯気が、ガラスにはりついて、水滴を作る。

「ゼ、ゼフェル……」

 震える、小さいアンジェリークの声が、湿度の増した浴室に奇妙に響く。

 ゼフェルの唇が、軽く、アンジェリークの首筋を、鎖骨に向かって滑り落ちる。

「……んっ……! やめ、て……」

 アンジェリークは、どう反応していいか、分からないのだ。

 そんな事されるのはイヤなはずなのに、そんな事するべきじゃないと思って、抵抗しなきゃと理性が告げているのに……でも、不思議なことに、それをすんなり受け入れてしまっている自分もいるのだ。

「ゼ、ゼフェル……ダメ……そんな……」

 手首を絡めとリ、拘束していたゼフェルの手が離れる。

 けれど、アンジェリークは動けない。

 ゼフェルの指が、アンジェリークの髪に触れ、少し乱暴に指先に絡める。

「っ……ぁ!」

 髪を引っ張られて、顎を仰け反らせると、それを狙っていたかのように、ゼフェルの唇が、アンジェリークの顎の下にもぐり込んだ。

 顎の下を、唇が這う。

 そして、それは、徐々に、這いあがってきて……唇、に。

「ぁ……ふっ……ゼフェ……!?」

 アンジェリークの言葉を続けさせず……ゼフェルの唇は、アンジェリークのそれを覆っていた。

 反射的に目を閉ざすアンジェリーク。

 アンジェリークの髪を絡め取っていたゼフェルの手が、彼女の頬に滑り落ちてきた。

 少女らしいふくよかな両頬を、強く捕らえ……離さない。

 逃げるように顔を動かそうとするのを、許さない。

 アンジェリークの手が、自分とゼフェルの胸の間の空間に入り、苦し紛れに、引き離そうとするけれど、びくともしない。

 猫のゼフェルなら、軽々と抱き上げられるのに。

 猫のゼフェルなら、簡単に振り払えるのに。

 猫のゼフェルなら、こんな事、しないのに……。

 そう、今自分に圧し掛かっているのが、人間なのだと……自分と同年代の少年なのだと、アンジェリークは、その時、改めて実感した。

 だから……。

「……………おい……なんで……」

 ゼフェルがやっと唇を離した時、ぼろぼろに涙を流していた。

 緑の瞳の周りが、真っ赤になっている。

「っ、えぅ……だって……えっく………ゼフェル、そんな事……」

 嗚咽交じりで、何が言いたいのか、よくわからない。

「……だって、急に……男の子に……っく、そんな、事、されるなんて………ゼフェル、猫なのに……どうして……っぁ、っく……」

 なんだか、本人も随分混乱していて、何を言いたいのかよく分かっていないらしい。

 ゼフェルはそんなアンジェリークを見て、早まりすぎたかな、と、ちらりと思った。

 けれど……ゼフェルを早まらせたのは、アンジェリークでも、あるのだ。

「……あの、種馬野郎には、簡単にキスさせようとしたくせに……」

 ぼそり、と、呟く。

「……種、馬???」

「誰もいねぇ家に上げて、口説かれて、ぼぅっとなってたくせによ……!」

「……???」

「何が、先生だよ。学校じゃなきゃ、ただの男だ。しかも、ありゃ、相当、女癖が悪ぃぜ? オレがいなきゃ、おめぇ、今ごろ、もっとひでぇこと…………!?」

「それって、オスカー先生の、事!?」

 突然、アンジェリークの瞳が、キッと険しくなった。

「オスカー先生は、そんな事、しないわっ! 私、送ってきたもらっただけなんだからっ!」

「もしかして……おめぇ……マジ、だったのか?」

 ゼフェルの瞳が、不安そうに揺れる。

 アンジェリークは、それに気付いているのか、いないのか……ヘソを曲げてしまったものだから、ひたすら頬を膨らませて、意地になって言いきる。

「そうだとしたら!?」

 強い緑の眼差しが、睨み上げた先には……なんとも形容し難い、不安? 哀しみ? そんな色を宿したした赤い瞳があった。

「……ゼフェル?」

 さすがに、不安になって、眼差しを弛めたアンジェリークは、小首をかしげた。

「おめぇ、あいつが好き、なのか?」

 言いながら、ゼフェルは、アンジェリークから離れ、タイルの上に座り込んだ。

 湿気を含んで、ぼさぼさになった髪をクシャっとかきあげる。

「え? 好き、って……」

 アンジェリークも、バスタオルの裾を気にしながら、上体を起した。

「だって、先生よ? 教育実習の短い期間だったけど、授業もとても楽しくて分かりやすいいい先生だったから、好きと言えば好きだけれど……? ………ゼフェル?」

 アンジェリークのアンジェリークらしい回答に、ゼフェルは肩の力を落すしかなかった。

 ――まったく………こいつは、こんな無防備だから、あんな男に狙われそうになんだよ。そう、こんなに無防備で、純粋で、無邪気で、可愛くて、そのくせ、そんな自覚、これっぽっちも持ち合わせてなくて……だから、知らねぇ間に、男の心を簡単に掴んぢまえるんだよ、な……オレも、きっとそのひとりかもしれねぇ……けど……。

 クククッと自嘲をこめて笑い、きょとんとするアンジェリークに視線を移して、ふと、気付く。

「おい、湯、溢れるぜ?」

 そう、今にも浴槽から流れ落ちそうなラインまで満たされた、お湯!

「………え、あ、きゃっ!?」

 慌ててカランを捻ねり、危機一発……だったけれど……。

「あ〜こりゃあ、シャンプーのボトルひとつでも溢れンな? 人間ふたりが入れば……随分不経済だ」

 ゼフェルの前半部分のセリフに溜息をついたアンジェリークは、後半部分のセリフに、顔を上げた。

「人間ふたりっ!? って、もしかして……!?」

「一緒に、入るん、だろ?」

 ニイッと笑う。

 アンジェリーク、ぐっ、と、言葉に詰まる。

「ねっ、猫に戻ろ!? ね、猫に、もどったら……」

「イ・ヤ・ダ!! 一緒に風呂入んなきゃ、猫に戻ってやんねぇ!」

 瞬時にアンジェリークの提案を却下。

 泣きそうに表情をゆがめたって、情にほだされやしない。

 ひたすら、今日の目的の完遂を目指すゼフェル。

 アンジェリーク……半べそ。

「だって……えううっ……」

「だって、じゃねぇ! さっさと入るぜ!!」

 意気揚揚、自分が全裸だという事を自覚しているのか、しないのか、ゼフェル、すっくと立ちあがって……アンジェリークに小さく悲鳴を上げさせて……それでも、そんなのお構いなしに、突然、アンジェリークを抱きしめ……

「え?」

 抱き上げ……

「ええっ!?」

 ドボーン! と……。

「きゃっ!?」

 で、お湯が溢れ出す浴槽に、続いてゼフェルもどぼーん、と……。

 お湯がふたり分、浴槽から溢れ出して、湯気を浴室に広げる。

 有無を言わせぬゼフェルの行為に、アンジェリークただただ唖然。

「ちょうどいい湯加減だ」

 弾む口調で言って、湯船の中、浮力を利用して、アンジェリークの体を簡単に自分の腕の中に引き入れた。

「ゼッ、ゼフェル!!!」

 はっとして、ゼフェルの腕の中から逃げようとしてみるが、背後からばっちり羽交い締めされていて、逃れられないっ!!

「やっ、やめなさいっ!」

 アンジェリーク、首を捻って、後ろのゼフェルを睨みつけるものの、そんなのゼフェルに効く筈がない。

「猫ん時は、抱きついても怒らねぇくせによ……」

「そりゃ、猫だもんっ!」

 当り前のアンジェリークの言葉に、ゼフェルは軽く肩をすくめて見せる。

「ま、猫の役得だわな……けど……猫じゃこんな事ぁできねぇもんな……」

 まったく、懲りてないゼフェル。

 片手と、脚でアンジェリークの体を動けないように固定しながら、金の髪をかけあげて、その首筋に、キス。

「……!!!!」

 アンジェリークの背筋が、ビクンと、まっすぐに伸びる。

「っ……!! そーいう事、やめてっ!」

「気持ち、良くねぇか?」

 くっ、と低く笑う。

「ゼ、ゼフェルが、そんな変態だとは思わなかった!!」

「男なら、自然な欲求だと思うぜ? てゆーか、オレ、今までよく我慢できたよな。その方が賞賛に値すらぁ」

「……我慢って、我慢って……」

「好きな女の傍に、始終いっしょにいて、着替えやら、寝姿やら、色んな日常の姿見て……それでも、絶対に手を出せないなんてな……男にとって、それ以上の拷問、あるか?」

 多分、のぼせているのかもしれない。

 ゼフェルは、素直に口を開いた。

「飼い猫の姿でいるのって、かなり辛ぇ。触れられても、触れてねぇみてぇだ。毛皮ごしに撫ぜられても、なんか、触れ合ってる感覚にならねぇんだ。手も握れねぇし、好きな時に、髪に触れられもしねぇ。抱きしめる事もできねぇ。……好きな女が、すぐソコにいるっていうのに、だぜ?」

 アンジェリークの肩に顎をのせ、独白する。

「本当は、毎日抱きしめてぇくらいなのに……。猫の姿じゃ、しがみつくのが精一杯だ。……猫姿の役得もあるけど、な……」

 呟かれた最後の言葉はともかく……『好き』だと、はっきり告白されて、アンジェリークは動けないでいた。

 女子高育ちのアンジェリークは、家族以外の男性にほとんど免疫がなく……ゼフェルだとて、ほとんどペットの猫の延長の認識しかなくて……ついさっき、彼が男の子だと、はっきり認識できたばかりで・・・…。

 男の子に「好き」と言われる事は、愛の告白で……。

 目を、丸くしていた。

 今更ながら、心臓が早い鼓動を刻み始めた。

 それ以前に、全裸のゼフェルと、半裸の自分が一緒にお風呂に入っているという物理的な事の方が、余程衝撃的だろうが、そこはそれ、思春期のオトメである。精神的な事にこそ、激しい動揺を覚えたのだ。

 ゼフェルの唇が、再びアンジェリークの肩をなぞる。

 アンジェリークの味を楽しむように。

「……! ゼ、ゼッ……!」

「今日はおめぇ、そればっか……」

 ふっとゼフェルは鼻で抜けるような笑い方をする。

 それから、アンジェリークの肩に、かぷっと噛みつく。

「!!!」

 甘噛み、というのだろうか。

 決して、痛くない。それどころか、噛みついた口内で動く、熱を持った舌の感触がなんとも心地よかった。

「……おめぇは、オレのもんだ……」

 自分が、噛みついた部分を指先でなぞり、ふっと笑う。

 そう、ゼフェルが噛みついた部分には、くっきりと、痣が残っていた。

 左肩の首筋に近い場所。

 ピンクに染まった肌に、色を濃くした花びらのような痣が残っている。

「オレを、人間に戻せんのは、おめぇだけだ……。オレが人間に戻るまで、オレの烙印は、絶対に消させねぇ……。何度でも、つけてやる……」

 肩越しに振り向いて、呆然とするアンジェリークに、ニッと笑って見せた。

 途端……アンジェリークの体の力が、ふっと抜け、ゼフェルの手をすり抜けて、湯船の中にずるずると………。

「って、おい、アンジェリーク!?」

 完全に、のぼせて、湯当りを起したようだった。

 そりゃそうだ。

 湯船に使っているだけでも運動の効果はあるというのに、そこで、鼓動を早くしたり、頭に血を上らせたりしちゃあ、いけません。

 アンジェリーク、意識を失う前に、ゼフェルに「好き」だと言われた言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。

 ――男の子に、好きだって言われちゃった……。どうしよう? 私は、なんて答えたらいいのかなぁ? 

 呑気で、あった……。





 気がついたら、アンジェリークは自分の部屋のベッドで、パジャマを着て眠っていた。

 部屋の照明は、夜行灯だけ。

「え? アレ? わたし……」

 半身起きあがって、自分はどうしたのか、頭の中を反芻してみる。

 けれど、いまいち判然としない。

「今、何時?」 

 枕もとの目覚まし時計を見てみれば、まだ、PM8時前。

「なんで……えーっと……」

 部屋の電気をつけ、ゆっくりと記憶を手探りして……顔を真っ赤にした。

 ゼフェルと一緒にお風呂に入っていたんだわっ!!

 首筋に唇を這わされた事や、キスされた事や 好きって言われた事や……肩に、痣を残された事なんかを思い出した。

「あれって、あれって……夢、じゃないの!? 夢……じゃ、ない……」

 慌てて、パジャマのボタンを外して、肩の部分を露出させてみると……確かに、残っていた。ゼフェルの残した烙印が。

 頭に血が上った。

 どうしたらいいか分からなくて、とりあえず、ベッドの上でもがいてみた。

 恥かしい。

 恥かしくて、ゼフェルと顔を合わせられそうにない。

「ど……どう、しよう……」

 ひとり、もがいていると、ノックの音。

「アンジェリーク? 起きたの?」

 ママさんの声だった。

 慌てて、もがくのをやめ返事をすると、ママさんは部屋に入ってきて、首を傾げた。

「お風呂入って、寝ちゃったの? 珍しいわね。夕食、残してあるから、食べにいらっしゃいね」

 お風呂……そう、アンジェリークは、確か、のぼせて、湯船に沈んで……。

 ――そういや、どうして、私、パジャマでベッドにいるの? あれ? 意識なくしながら自分で、着替えて、ここまできたの?

 そんな事、あり得ない。

 と、いう事は、残る可能性は、ひとつ。

「ゼフェルが、運んでくれた、の?」

 それは、多分、とてもありがたいこと。

 けれど、でも、そうすると…………。

「着替えだけ、自分でできるわけ、ないよ、ね? じゃぁ……………」

 ゼフェルが着替えさせてくれたと考えるのが、自然だ。

 と、すると……………。

 アンジェリーク、再び、ベットの上でもがきだす。

 きっと、湯船から引き出して、バスタオル剥がして、体拭ってくれて……。

 はい、当然、全裸は見られているでしょう。

 枕の中に、激しく顔を埋めて、擦りつける。

 そうでもしなきゃ、恥かしさにちゃんと座っていられない。

 パジャマのズボンの下に、ちゃんと下着をつけている事を考えれば、それも、ばっちりと………。

「あああああぅぅう〜〜〜!!!」

 恥かしさのあまり、唸ってみるが、それで何も解決しない。

 もう、どうしたらいいか、さっぱりワカラナイ!!

 ゼフェルと顔を合わせられない!

 会いたくないっ!!

 全身が真っ赤に、鳥肌立つほど、恥かしかった。

 けれど……会わないわけには、いかない。

 ちゃんと、お礼も、しなきゃ………。

 律儀なアンジェリークであった。

 結局、全身を恥かしさで真っ赤にしながらも、アンジェリークは階下に降りていって、猫姿でソファーに寝そべるゼフェルの頭を撫ぜて、

「今日は、ありがとう……」

 真っ赤な顔のまま、そう言った。

 猫のゼフェルは、瞳を細めて喉を鳴らし、なうぅん、と鳴いた。

 窓の外は、いつしか晴れて、雲の合間から月が姿を見せていた。

 きっと、今日はゼフェルはもう人間の姿になれないだろう。

 『日の神様』の呪いにかかったゼフェルが、日の明るいうちだけでなく、月のある夜にも人間になれないのは、月が太陽の光りを反射して輝くものであるから。 

 なんとも、融通の利かない呪いだ。

 次回、ゼフェルが人間になるには、長ければ次の新月……あと、半月後になるだろう。

 あるいは、天候の悪戯で、空に厚い雲がかかっている日、か。

 アンジェリークは、悩む。

 人間姿のゼフェルに、会いたくないのか……会いたいのか……。

 分からない。

 けれど……会えば、きっと……恥かしさでのたうちまわらなければならないことは、自分でも分かってしまえて、なんとも悲しい。

「あーあ……なんか、ゼフェルにとんでもない借りを作っちゃった気がするなぁ……」

 部屋に入り込もうとするゼフェルを瀬戸際で追い出して(だって、さすがに、恥かしいものッ!byアンジェ)、アンジェリークは布団にもぐり込む。

 見る夢は、きっと……………。

「やっ、ゼフェル、ダメ! そんな事しちゃ、ダメぇ!! ……むにゃ、むにゃ……」

 そんな夢だったり……。

 

  




<言い訳>

宣言していたほど、13禁っぽくはなっとりませんね〜(^^;)。

でも、お風呂でいちゃいちゃ(?)、ってゆーことで、

妄想・・・膨らまないか・・・・・・。

本当は、我慢している哀れなゼフェルくんにチチくらい

揉ませてやる予定だったんだけど(爆)、アンジェ、ガード堅すぎでした。

でも、キスマークは残しているし、いいでしょう・・・多分。

次回、ロザリン出てくれるといいな〜♪<当初のプロットと予定が狂ってきたため、

先が未定となりました(T-T)。あうっ。