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「私を、抱いてください・・・・・・」 アンジェリークを抱きとめていたヴィクトールの体が、一瞬震え、そして、強張った。 「女王陛下に宣誓しました……私達は、もう夫婦です……だから……」 しばらく、ヴィクトールからは何の反応もなかった。 どれくらい、沈黙が続いていただろう。 「……ヴィクトール……?」 さすがに、不安になったアンジェリークが顔を上げて、ヴィクトールの顔を覗きこむと、ヴィクトールは、強く眉根を寄せて目を閉じていた。 「……っ」 低いうめき。 「ヴィク……」 手を伸ばして、彼の頬に触れようとした。 「アンジェリーク……ッ!」 目を開いたヴィクトールは……少し険しい眼差しで彼女を見た。 アンジェリークは、びくりとしてしまう。 ヴィクトールは、すぐに顔を彼女から背けて、そうっと身体を離すと、立ちあがった。 ―――もしかして、嫌われたかもしれない……。 アンジェリークは、泣きたくなった。 ふしだらだと、思われたのだろうか? 女のほうから、誘うなんて……。ヴィクトールが、そういうのを得意でないと知っていながら……。 「……もう帰るか……送って、いこう」 言葉少なに、言う。アンジェリークに背を向けていて、表情が見えない。けれど、声調は低く、感情を抑えているようだ。 ヴィクトールを怒らせてしまった! 彼が怒る事なんて、滅多にない。というより、アンジェリークは今まで彼が本気で怒った所は見た事がなかった。 彼は、感情の統制が出来る大人で、軍人で……でも、いつも優しくて……。 甘えすぎていたのかもしれないと、ふと思った。 我儘を言えば、多少の事でも苦笑しながら何とかしてくれると……それが当たり前になっていたのかもしれない。 ……アンジェリークが自分で言う所の我儘など、無理難題とは程遠い可愛いものにすぎないのだが、彼女はそう思ってしまった。 未来を誓い合ったばかりなのに……明日になれば、もう、遠いところに行ってしまって、次はいつ会えるか分からないのに……。 このまま、別れたくない……。 でも、この場で、これ以上何か言っても、さらにヴィクトールを不愉快にさせるだけかもしれないと思うと……アンジェリークは、何もできなかった。 ヴィクトールの背を見ながら立ちあがる……何も言わない彼の背中は、アンジェリークを拒否しているようだった。 胸に楔を打たれたような鈍く強い痛みが走った。 ―――痛い……痛いよぉ……。 痛みを堪えるために唇をかみ締めたにもかかわらず、涙が出た。 「……ッ……」 搾り出すような嗚咽が喉から漏れてしまった。 涙が、俯いた顔から床に滴って、静寂の空間にかすかに音を立てた。 ヴィクトールは、振り返る。 「お、おい?」 慌てた声だ。 「アンジェリーク」 ヴィクトールの手が髪に触れた。 アンジェリークの身体があからさまに震える。 「……いで……」 アンジェリークの嗚咽混じりの声が、痛々しくヴィクトールの耳に届いた。 「……嫌わないで、ください……」 そこで、ヴィクトールは自分の態度がひどくアンジェリークを傷つけてしまった事に気がついた。 彼は怒ってなどいなかった。 怒っていたのではなく……感情を抑えるのに必死だったのだ。 アンジェリークの突然の言葉に戸惑って……彼女が自分からその言葉を口にした事に……驚くよりも、胸が痛かった。 そして、また、自分の態度が彼女を傷つけた事に……後悔した。 腕を伸ばして、アンジェリークを胸に抱きしめる。 彼女の身体は、ひどく硬直していた。 いつものようなしなやかさや柔らかさが……心の硬直と共に失われていた。 「すまん……そうじゃ、ないんだ……。俺は……。俺の方こそ、お前に嫌われるのが、怖い……。頼むから、泣くな……。お前を傷つけるつもりはなかった……。俺は、ただ……お前を、汚したくないんだ……」 ヴィクトールの胸の中で、アンジェリークは首を振った。 「……お前には、綺麗なままでいて欲しいんだ……」 アンジェリークは、真っ赤になった目で、ヴィクトールを見上げた。 じっと。 「……綺麗って……」 おさまりきらない嗚咽で、アンジェリークは言う。 「……どうして、汚れる、なんて、考えるの? 私は、私、だもの……。私は……ヴィクトールが好きだもの……ヴィクトールと、セックスしても、私は、変わらない……汚れない……。愛してるわ……愛してるから、抱いて、欲しいの……。離れてても、変わらずあなたを愛し続けられるように……。心だけじゃない……想い出だけじゃなくて、身体にも、あなたを刻み込んでおきたい……。あなたのいない空虚な時間に、私がおかしくなってしまわないように……」 アンジェリークは、大人の女性の顔をしていた。 まだ、涙で潤んでいる赤い瞳には、強い輝きがあった。 「大好きな男性(ひと)と愛し合うのに、汚れたり、しない……」 凛として言い切った。 今まで硬直していたアンジェリークの身体には、若々しい弾力が戻っていた。 そして、彼女からは、女性を感じさせるような独特の香気が感じられた。 アンジェリークを汚したくない―――ヴィクトールはずっとそう思ってきた。 汚れなき純粋。純真無垢。処女雪のように白く、涌き水のように澄んだ、まさしく天使のような彼女を、自分が汚して良いはずがないと、そう思ってきていた。 けれど、彼女は、自分からちる事を望んでいる。……いや、堕ちるのではない……愛し合うのだと、彼女は言うのだ。 愛しい彼女……ずっと大切に守ってやりたいと、そう、思う。誰にも傷つけられないように、大切に、大切に胸の中に囲って、守ってやりたい。自分だけが、彼女を守ってやりたい、と。 それが独占欲と呼ばれるものである事は、自覚している。そして、その独占欲がいつか、彼女の心に対してだけではなく……その肉体にも及んでいくことも……。 だから、その思いを必死で抑えてきた……彼女を自分の手で汚したくはないから。 なのに、彼女は、セックスをしても自分が変わらないと言う。汚れないと、言う。それは、大好きな人と愛し合う事だから、と……。 ―――逃げ、なのかもしれない。 ふと、そう思った。 彼女を抱いてしまう事で、この心地よい二人の関係が変わってしまうことを畏れて、彼女と一線を越えない理由を、こじつけたのかもしれない。 「私の事、嫌いじゃないのなら……」 ヴィクトールの腕の中で、アンジェリークはしなやかな身体を、彼に寄せる。 彼女が望むのなら……いや、自分も望んでいるからこそ……。 逃げる必要はない。 彼女も、自分も、互いを強く求め合っている。 「……後悔はしないか?」 生涯一度の“最初”の相手が自分でいいのか、という確認に、アンジェリークは小さく笑った。 「するわけ、ない。だって、私は、あなたの妻だもの……」 細いアンジェリークの身体を軽々と抱き上げて、ヴィクトールは自分の寝室へと向かった。 ヴィクトールの首筋にしがみついているアンジェリークの、鼓動が伝わってきた。 「緊張しているのか?」 「……少し……」 「怖くないか?」 「うん……」 アンジェリークは頭をヴィクトールの肩に乗せ、息をつく。 「……本当はね、今日、あなたの家に来たの、あなたとこうしたかったからなの……」 ヴィクトールはアンジェリークの表情を見る。 真っ赤になった顔……でも、いつも通りの優しい微笑みが浮かんでいた。 「そうか……」 ヴィクトールも少し笑った。 「本当に、私、あなたの事大好き……もし、私の我儘が現実になるなら……片時も離れずにあなたといたい……。だから、ね、今日あなたに抱かれるのって、すごく自然な流れかな、って思うの……。明日から、ずっと、長い間、会えないから……」 階段を上がり切ったところで、アンジェリークはヴィトールに唇を寄せる。 濃密なキス。 ヴィクトールの唇を離れたアンジェリークの唇が、彼の顎から頬……そして、古傷の上を這う。彼の耳に唇を寄せて、熱い息を吐きかける。 「自分でもこの気持ち持て余すくらい……愛してるの……」 ヴィクトールの、アンジェリークを抱く腕に力がこもった。 寝室のドアを開けると、しっとりした闇の空間が広がっていた。 ヴィクトールと同じ匂いがする、彼の身体に馴染んだ空間は、アンジェリークには心地よいものだった。 そっと、ベッドに下ろされる。 「闇って、安らぐためのものなのね。今、とてもよく分かる」 聖地での日々、守護聖のひとりを思い出して、ふふっと笑うアンジェリーク……少し、緊張している。関係のない話で気持ちを落ち着けようとするくらいには。 ヴィクトールがいつも着けている手袋を外す。いつか、聖地での夜に見た、あの傷だらけの手で、あの時のように、頬を包む。 「お前に見てもらわなきゃならんものがある……」 低く囁くヴィクトールに、アンジェリークは首をかしげた。 ジャケットを脱ぎ捨て、シャツのボタンを外す。 無言のまま、ベッドのサイドテーブルのスタンドランプをつけた。 ほんのりとした明かりが、闇の中に広がる。 「気持ち悪いか?」 淡い明かりに浮かんだヴィクトール。少し、気遣わしげな彼の表情が、まずアンジェリークの視界に入る。 それから、裸になった上半身。厚い胸板、引き締まった腹筋……鍛え上げられた肉体だ。 そして……身体じゅうに走った無数の傷跡。 アンジェリークは、傷跡を目にし、ヴィクトールの表情を見る。 彼は、小さく失笑していた。 「見ていて、気分の良いもんじゃないだろう? お前は、こんな男に抱かれてもいいのか?」 ……それは、失笑ではなく自嘲であった。 怯えて、いたのかもしれない。アンジェリークに顔を背けられる事に……。 けれど、アンジェリークは真っ直ぐに彼を見上げて、微笑んだ。 立ちあがり、手を伸ばす。 傷跡の中、一際深く残っている、右肩から胸元に走る傷に指を這わせる。 「この傷はみんな、あなたよ。今のあなたを形作っている、あなたの要素のひとつだわ。この傷の分だけ、あなたは生きてきた。この傷の分だけ、あなたは悲しみを知っている。私が、愛するあなたの、一部だから……」 顔を上げて、今度は顔の傷を指先でなぞる。 自嘲から苦笑に変わった彼の唇に、唇を寄せる。 何度目のキスだろうか。 キスをするたびに、互いをより愛しく感じられる。 「お前は、本当に……」 苦笑して、言いよどんだヴィクトールは……強い愛おしみを孕んだ眼差しで、アンジェリークを見つめた。 「……俺が、望んでいた言葉を与えてくれる……そして、俺の心のしこりを、いともあっさり溶かして行くんだな……」 今度は、ヴィクトールから唇を寄せた。 自分の身体の半分もない、アンジェリークの細い身体を強く抱き寄せて、そのまま、彼女をゆっくりとベッドに横たえる。 「……自分で、脱ぎます……」 スモルニィの制服……もう今日で最後。 ヴィクトールと出会ったのも、この制服を着ている時……女王試験の時……。 想い出の詰まった制服。 少女でいた日々の想い出。 クリーム色のジャケットを脱ぐ。ヴィクトールが赤いリボンを解く間に、シャツのボタンを外していく。スカートのファスナーを下ろすと、ヴィクトールがやんわりとそれを脱がせる。 シャツを脱ぎ、ブラのホックを外す。ヴィクトールが、靴下を脱がせてくれる。 「やっ……」 ヴィクトールの唇が、足の甲に触れたのだ。 「小さな足だな……」 「ちょっ……足は、やめて……」 「……?」 「だって……その……綺麗じゃ、ないでしょう?」 その言葉と、ヴィクトールを伺うようなアンジェリークの表情に、彼は笑う。 大人の女性かと思えば、少女らしい顔を見せる。 今日はアンジェリークの新しい面をたくさん見る事が出来た。そして、これからも……。 「どうして笑うの?」 胸を両手で覆い隠しながら、頬をふくらませるアンジェリークが可愛かった。 笑いながら、両手の塞がった彼女の肩を軽く押し、彼女を仰向けに寝かせると、真上から彼女を覗きこむ。 「お前が、可愛いからだ」 ストレートな彼の物言いに、アンジェリークは目を丸くしてから、真っ赤になった。 「……ヴィクトールって、時々、オスカー様みたいな事、言うのね……」 「……そうか? そりゃあ……」 言いかけた言葉を飲みこむヴィクトールに、アンジェリークは笑う。 「ショックだ、って言いたいの?」 聖地にいる間、ヴィクトールが炎の守護聖であるオスカー様と、あまり仲がよくなかった事を知った上でのアンジェリークの科白だ。 図星のアンジェリークの言葉に、ヴィクトールは笑顔で応えた。 アンジェリークの腕が伸び、ヴィクトールの背中を捕らえる。 「でも、そんなあなたが大好きです」 軽いキス。 そして、ヴィクトールの手がそっとアンジェリークの首筋から鎖骨をなぞった。 「細い首だな……」 首筋に口付ける。 ぴくりと震えるアンジェリークが愛しかった。 白磁器のように滑らかで、つきたての餅のようにしっとりと手に馴染む肌ざわりの彼女の肌は、心地よかった。 思ったよりも形良く膨らむ、青い果実のような胸を愛撫する。 まだ、未成熟の少女の肉体は、どこか硬く、天に向かって伸びる植物のように真っ直ぐだ。 けれど、彼女を感じさせる香気やそのぎこちない喘ぎ声に、ヴィクトールは安堵感と共に愛しさを感じた。 そして、彼女に初めて触れる男が自分である事に、狂喜さえした。 愛しかった。 愛しくてたまらなかった。 「……ヴィク、トール……」 乱れた息の元、自分を呼ぶ彼女に、自分の全てを刻み込みたい欲望に駆られる。 もたげる征服欲を、理性で必死に抑えこみ、ヴィクトールは優しく彼女を愛する。一筋の傷も彼女には残したくないから……優しく、まるで宝物を扱うように彼女を愛した。 細い身体は、抱きしめれば壊れてしまいそうだ。 彼女が自分を受け入れて、無事ですむのかどうか、ヴィクトールは不安に思ったけれど……見た目に細い身体は以外に強く、柳のようにしなやかに、強い弾力で彼を受け入れる。 心のままに、身体も素直なアンジェリークは、ヴィクトールのの導くままに身体を開いていった。 「痛かったら、我慢するな……」 低く囁いて、うかされた意識に潤んだブルーグリーンの瞳を見て、微笑んだ。 やはり、ひどく痛がったアンジェリークは、悲鳴に近い喘ぎ声をあげて、しがみつくように彼の背中を抱きしめていた指先に力がこもった……けれど、すぐに、彼の背から手を離した。彼の背を抱きしめすぎて、引掻いて、傷つけてしまいそうだったからだ。 それに気づいて、ヴィクトールは微笑む。 「……お前に残された傷跡なら、それは幸せな記憶になるよ……」 耳元での囁きに、痛みに目を閉じていたアンジェリークが半眼を開いた。乱れた息と喘ぎ声を吐き出しつづける唇には、微笑が浮かんだ。 若いが故に、未経験な故に、硬い彼女をゆっくりと開かせてゆく。 優しく、優しく……彼女の心に、身体に、傷を残さないように。 ヴィクトールの身体の下で、オルガズムに支配された意識で、アンジェリークは何度も彼の名を呼んだ。 そのたび、ヴィクトールはアンジェリークの頬に触れる。 そうすれば、彼女はかすかに微笑んで、彼を見上げるのだ。 アンジェリークの全てが心地よい。そして、何もかもが愛おしい。 無意識のアンジェリークの喘ぎ声が徐々に甲高くなる。―――そして……エクスタシーに弾ける彼女の身体を抱きとめて、ヴィクトールも息をついた。 瞳を見開いたアンジェリークの意識は、まだはっきりとは覚醒していないようだった。 ヴィクトールはアンジェリークの身体の上に覆い被さり、彼女の頬を両手で挟みこむ。 うつろな彼女の瞳に自分を映して、その名を囁き、唇に優しくキスをする。 「アンジェリーク……」 しばらくの間、何度か彼女の名前を囁きながら、その髪を指で梳く。力のこもらない彼女の手をそっと取り、指に口付ける。 アンジェリークがはっきりと意識を取り戻したのは、どれくらいしてからか……しっとりとした闇の中では、それは長い時間に感じられたが、もしかしたら、ほんの十数秒のことだったのかもしれない。 「……ヴィ、クトール……」 アンジェリークはかすれた声で、言い、ゆっくりと瞬きした。 微笑むヴィクトールを見つめ、自分も微笑んだ。 「……ヴィクトール……息、乱れてるよ?」 アンジェリークの第一声に、ヴィクトールは吹き出し、笑いながら答える。 「俺も年なのかな……」 「……初めての女の子抱くのって、そんなに疲れるものなの?」 「……セックスはヘタな運動より疲れるもんだ……」 「……そうなの?」 答えず、笑ったヴィクトールはアンジェリークの上から横に身体を移した。 腕枕を彼女に提供して、愛し合った後のふたりは甘い時を言葉で埋める。 「大丈夫か?」 「んっ……思ってたより、痛くなかった、かな……」 「そうか……」 そんなふうに、優しく、穏やかに笑うヴィクトールを、アンジェリークは初めてみるようで、嬉しかった。 汗ばんだ彼の胸に手を添え、頬を寄せる。彼の胸は乱れた息遣いに上下していた。激しい鼓動の音がしていた。 「ヴィクトールに聞いて欲しい事があるの」 アンジェリークは顔を上げる。彼と視線を合わせる。 「私の、夢。あなたと聖地から帰ってきたときから、ずっと思い描いてた、夢」 「お前の、夢? どんな夢だ?」 アンジェリークは瞳を細めて笑う。 「あなたの、お嫁さんになる事」 くすっ、小さくヴィクトールが笑った。 「今日、叶ったよな……」 「ええ。それから、まだ、あるの……あのね……」 アンジェリークは身体を動かして、正面からヴィクトールと視線を合わせる。 「あなたと家族をつくりたいの、幸せな、家庭を、ね……子供は3人欲しいな。男の子ふたりと、女の子ひとりがいいな……。私、一人っ子だから、ヴィクトールみたいな三人兄弟って、憬れるの……」 アンジェリークの、アンジェリークらしい家族計画に、ヴィクトールはただただ微笑む。 彼女を愛しく、思う。 「子供3人、か……大変だな。俺はもう三十三のオジさんだからな……。お前が二十になれば三十五……がんばれるかな」 「大丈夫、ヴィクトールはまだオジさんなんかじゃないわ……でも、四十歳くらいになったら、十分オジさんかも」 アンジェリークは笑いながらも、瞳を潤ませて、いった。 「―――そうよ……だから、私が二十歳越えちゃう前には……ヴィクトールがオジさんになっちゃう前には、帰ってきてよ……私の所に、帰って、きてよ……私の夢、叶えられるのはヴィクトールしかいないんだから……」 アンジェリークは眼差しを伏せて、ヴィクトールの肩に頭を預けた。 「ヴィクトールだけが、私の夢、叶えられるの……私の、生涯唯ひとりの、ハズバンドですもの……。だから、誓って。必ず、私の夢、叶えるって。絶対、叶えるって!」 アンジェリークは、ヴィクトールの瞳を見つめた。 些細な迷いさえ見透かす、その澄んだ眼差し。 ヴィクトールが彼女に逆らえるわけがなった。 「ああ……誓うよ。必ず、お前の元に返ってくる。お前の、夢を叶えるために」 誓いの証は、長く甘い口付け。 これからの会えない時を埋める、長い口付けだった。 アンジェリークの細い身体を抱きしめる。彼女の柔らかな身体と、甘やかな香気を自分自身に刻み込む。ここに……彼女の腕の中に戻ってこられるように……アンジェリークの夢を、叶える為に。 ―――朝日が、カーテンの隙間から入り込んで、闇を溶かしてゆくまで……ふたりは安らぎに満ちた空間で憩った。何度も愛し合い、何度も口付けを交わし、これから始まるふたりの未来を語り合った。 別れがやって来た時も……辛くなかったと言えば嘘になるが、それでも、近い未来、ふたりが幸せな家族になれる事を信じていたから……。 派遣軍の制服を着て、すっかり仕事モードに入っているヴィクトールであったが、最近アンジェリークに関してだけは例外になったようで、そっとその身体を抱きしめて、優しくキスをした。 「すぐに戻ってくる。約束だからな……」 「んっ。待ってる……」 アンジェリークも、彼に優しくキスを返した。 ―――アンジェリークが二十歳になるまでに、ヴィトールは彼女の夢を叶えるために、必ず戻ってくると、そう、約束した。ふたりの約束は、絶対だった。
「寂しくない? アンジェ?」 レイチェルの問いに、アンジェリークは笑顔で答えた。 「寂しくないわ。だって、ヴィクトールが戻ってきたら、それからずっと、私達一緒にいられるんですもの。たった三年くらい、すぐよ」
<言い訳> このシーン、書いているときは、結構あだると? とか思っていたけれど、今、改めて、自分の裏創作読むと・・・・・ そうでもないですね(^^;;)。 続きは・・・・・・一転、甘くないっす。守護聖と協力者のゲストが出ます。 |