| 11111hitのカウンターリクエストで差し上げた創作です |
| 天使の実を手にする者2
−2− 「やぁっと、ついたぁ!!」 渡し板を渡り終えたアンジェリークは、思いきり伸びをすると、潮風に微かに混ざった緑の風だけをより分けるように吸い込み、自分が今大地に足をつけているのだと実感する。 後ろからは、金の髪の少女……紛らわしいので、船上ではリモージュと呼ばれていた少女が、オスカーに手を引かれて降りてきた。 「さぁ、お嬢ちゃん、足元に気をつけて」 「ありがとう、オスカー様」 ゆったりとした動作で渡し板から降りたリモージュは、あっさりオスカーの手を離れ(オスカーをがっかりさせ)、アンジェリークを真似するように、伸びをした。 ちなみに、彼女が着ていた、高級レースをふんだんに用いたひらひらピンクの服は、狭い船上では不便であるため、アンジェリークの服を借りている。もっとも、動きやすい(=丈が短かったり、薄かったり、肌にぴったりだったりする)アンジェリークの服の中でも、極力肌の露出が少ない、おとなしめの服を選んだのは、さすがにお嬢様らしい恥じらいか。 「買い物もしたいけれど……とりあえず、宿をとりましょう」 「そうだな。1週間滞在できそうな宿……こんな街だ、多少高くても表通りがいいだろうね。今回は、リモージュもいる事だし」 「っ、たく……女がいると、メンドーだよな……」 「ゼフェル!? 私は、女じゃない、と?」 「あ、ああ、いや、おめぇは、その……ヘタな男より強ぇから……イテエェェェ〜!?」 ゼフェルの耳を思いきり引っ張るアンジェリークに、リモージュはクスクスっと笑った。
――港に立ち並ぶ倉庫。その影に、一人の男がいた。 黒衣を身に纏った、長身細身で、黒い髪、金と緑の色違いの瞳の、闇をその身に宿したかのような、冷たい美貌の男。 彼らのその様子を見つめる……その唇には、冷たい笑いが、貼りついていた……。
滞在4日目。 表通りのBクラスの宿に部屋を取った6人は、それぞれが、それなりに楽しく日を送っていたものの……地上に降りた海の男達は、そろそろ、気難しくて我侭で、母のように優しい大海原を懐かしみはじめていた。 ついでに、あまりの平穏無事な日々に、血騒ぎ肉踊るハプニングも懐かしんでいるようだ。 「つまんね〜!」 ゼフェルは、作りかけの改造銃をテーブルの上に投げ出して、頬杖ついた。 その前には、ゼフェルを見咎めるような眼差しをしたアンジェリークと、きょとんとした表情のリモージュ。その後ろのベットには、惰眠を貪るオスカー(昨日は朝帰りだったらしい……)。 「平穏無事で、いいじゃない? たまには?」 「平穏無事だぁ? そりゃ、最初は、メカの部品やら、カスタマイズのアイテムやらを揃えるんのに便利だったけどよ、それを使うアテがないんじゃ、意味ねぇじゃねぇかよ!」 「なら、ランディみたいに、体鍛えに一日ジョギングにでも励めば?」 「オレは、筋肉馬鹿じゃねぇ!!」 「じゃ、セイランみたいに、料理の研究がてら街中のレストラン・食堂を梯子すれば?」 「オレは、作るより、食う方が好きだ! てゆーか、街中のレストラン食いつぶせるほど、巨大な胃袋してねぇよ!」 「じゃぁ、いっそ、オスカーみたいに夜遊びにでも徹すれば?」 「俺をこんな種馬男と一緒にすんじゃねぇ!!!」 いちいちアンジェリークに反抗していたが、呆れたように肩をすくめるアンジェリークを見るにいたって、勢いよく今まで座っていた椅子から立ち上がった。 「つまんねー! つまんねぇったら、つまんねー!! オレ、街に出てくるぜ」 「あんたねっ! どうせまた、自分から騒動起そうって魂胆でしょ!? だめよ、あと4日、私達はここにいなきゃならないんだから! ヘタに騒動起して、逃げ出さなきゃならないハメになったら、リモージュが困るでしょ!?」 「……」 リモージュを引き合いに出されたら、ゼフェルだとて、黙らずにはいられない。 出遭ってからまだ1週間と経っていないのに、ゼフェル、この天然お嬢様にかなり惹かれていた。恋愛感情……とまではいかないだろうが。 ゼフェルは、横目でリモージュを見、その、心配げな表情に目を止めて……深く息を吐き出した。 「……んなこと、しやしねぇ……」 肩を落とし、それでも、ドアに向かう。 「どこ、行くの?」 「ちょっと、息抜きだ」 「……ホントに?」 「なら、おめぇも来ればいいじゃねぇか?」 「……そうね、そうする。リモージュも行くよね?」 「あ……私は、今日はここにいますね。読みたい本もあるし」 「あら? そう? でも……大丈夫?」 「大丈夫ですよ。オスカー様もいるし」 「……だから、心配なの……」 アンジェリークは、ゼフェルが先程放り投げたカスタム済みの銃をアンジェリークに渡し、極めて真剣な調子で言う。 「いいわね、リモージュ。いざとなったら、これを使いなさい。できれば、死なない程度にね。できればでいいから。大丈夫、美少女がケダモノを撃ち殺したって、誰も何も言わないから」 こと女性に関する出来事では、まったく信用されていないオスカー。日ごろの行いの成果ですね。 ともかく……ゼフェルとアンジェリークは特に目的もないままに街へと出かる事にし、ホテルにはオスカーとリモージュが残った。
「あ……うん?」 「起して、しまいました?」 午後の陽射しが少し眩く入り込む室内で、開眼一番、オスカーは自分の正面……上から覗き込んでくる緑の瞳を見つけた。 「お嬢ちゃん?」 「……ごめんなさい。オスカー様が、あんまり気持ち良さそうに眠っているものだから……」 「……」 しばしの絶句。 オスカーは、今まで眠っていた自分の思考が徐々に回転を始めるのを感じ、ゆっくりと微笑み、少し意地悪く口を開く。 「それで、君も昼寝をしようとしたわけか? オレの隣で?」 「……え、ええ……あの……本当に、ごめんなさい……はしたない事、してしまって……」 オスカーの横に座り込んでいたリモージュは、顔を真っ赤にして、その場から飛び退ろうとするが。 「そりゃ、嬉しい……」 言って、オスカーはリモージュの腕を取り、少女の小柄な体を自分の胸の中へと強く引き寄せた。 小さな悲鳴をあげて、リモージュはオスカーの胸の中に転げ込む。 「お嬢ちゃん……時には、女性が積極的になってもいいんじゃないかな?」 「え?」 抱きしめられたオスカーの胸の中、顔を上げたリモージュが目にしたのは、とぎすまされた刃物よりも鋭い、心の奥底まで切り込んでくるアイスブルーの瞳。 「お嬢ちゃんは、俺が、好きなんじゃないのか?」 からかいと真剣さ五分五分の口調だった。 一瞬にして頬を真っ赤に染め上げたリモージュは、オスカーのアイスブルーの瞳に捕らわれたまま、口を開く。 「私…………好き、です。オスカー様が……好き……」 恥かしさのあまり、耳の端まで真っ赤にして、目を閉ざして顔をオスカーの胸に押し付ける。 オスカーは、大きな手でリモージュの頬をなぞり、その顎を捉えて、そっと上向かせると、その唇に自分の唇を、寄せた。 オスカーの胸をきつく掴んだリモージュの手は……ひどく、汗ばんでいた。
「オスカー様、天使の実って、ご存知ですか?」 リモージュはオスカーの耳元で囁くように問う。 オスカーはその響きにアイスブルーの瞳を見開き、閉ざし、小さく息を吐き出した。 「聞いた事は、あるな……。お嬢ちゃん?」 「……父が、持っていたんです、天使の実。多分、海賊達はそれを狙って、船を襲ったんでしょう……」 うなだれたリモージュの白く細いうなじに視線を落し、オスカーは目を見開く。 「……!?」 そう、リモージュを見つめながら、オスカーは驚愕の表情を隠せなかった。
「ねぇ、ここって、とぉっても、マズイんじゃない?」 いつものように喧嘩しながら目的もなくふらつくふたりは、何時の間にか、暗くてじめじめしていて、快晴の昼間だと言うのにどうにも暗雲の立ち込めていそうな通りに入り込んでいた。 大きな建物の影になって、日当たりの非常に悪そうな石畳の通りには、清潔という言葉が存在しないように、腐敗して異臭を放つゴミ、錆びついた鉄くずが散乱し、人通りというものがまったくない……いや、人の気配ならば……。 「……」 「ねぇ! ゼフェルってば!」 「……」 「早く引き返しましょう。私、ここにいる間に、厄介事に引き込まれるのはゴメンなんだから!」 「……」 「もぅ! こんな所、いつまでもいたら、オカシクなっちゃう」 「……」 「ほら、早く……………!?」 アンジェリークがゼフェルの手を引いて、来た道を引き返そうとした所……。 「もう、遅ぇかもな」 ゼフェルが、唇を歪めて笑う。 そして、四方の建物の影から現れる男達。 身構えるふたりに、じりじりと間合いを詰めて近寄ってくる。 「……金目のモンを置いてけば、殺さねぇ……いや、そっちのねぇちゃんも、置いていってもらおうか」 5,6人の男達のうち、首領らしい一際体格のいい男が低い、ドスの聞いた声で言う。 「ちょ、ちょっと、ゼフェル、ほらぁ、言ってる傍から!」 「オレのせいか?」 「あなたが、ぐだぐだ言うから! こんな所に迷い込んだのよ!?」 「おめぇが、小うるさいからだ」 「私は、正当な事を言っているだけで……」 「……っ……てめぇら、うるせぇぇ!!!」 TPOを考えないふたりの喧嘩に、さすがに、首領らしき男は怒鳴る。お怒りごもっとも。 けれど、豪胆なのか無神経なのか、当のふたりには、効き目ナシ? 「ほら、怒っちゃったじゃない」 「おめぇがうるさいんだ」 やっぱり、責任転嫁のキャッチボール。 「…………こいつら……!!」 首領の男は、完全に切れる。当然でしょう。 「おめぇら、さっさと身包み剥いじまえ!! 男は殺ってもかまわねぇし、女も殺さなきゃ、かまわねぇぞ!!」 首領の号令に、賊達は、皆一様ににんまり笑って、ふたりににじり寄る。 ふたりも、さすがにその剣呑な気配に、少しばかり息を呑んで、お互い背を合わせて警戒の体勢を取った。 「……私、ナイフあんまり持ってないんだけど……」 「オレも、銃火器類は置いてきちまったし……接近戦は、基本的に苦手なんだが……」 じりじり、間合いを詰め、ふたりをどこから襲うか……楽しそうに貪欲な瞳を光らせる男達。 けれど、ふたりの会話は結構呑気だったりした。 「……どうする?」 「……どうするって……」 「使う?」 「使うか?」 何を、か。 それは、ふたりの間では言わずもがなの暗黙の了解。 「ん〜。まぁ、減るもんじゃないし……」 「疲れんだけどな」 互いに振り向き、背後の相棒と視線を見交わし、笑う。 それが、合図。 「叫ぶら…………!?」 「火炎のは…………!?」 けれど、ふたりがソレを、使おうとした時、だった。 「おめぇら、何してやがる!?」 突然、緊迫した空気を振動させる男の鋭い声が、薄暗い路地に響いた。 その場にいた全員が、咄嗟にそちらを振り向くと……そこにいたのは、銀の髪の、男。 けれど、アンジェリークとゼフェルが、その人物に対して何らかの判断を下す前に、男は、動いた。 すばやい、そして、流れるような動きだった。 駆け寄ってきたかと思えば、次の瞬間、銀の光が一閃。 研ぎ澄まされた銀剣が、光りの軌跡となって、男達の間を駆け抜け……何が起こったかよく分からないまま、男達は次々とその場に倒れて行った。 「!!! ……うおぉぉぉ!!!」 一際体格のいい首領の男は、さすがに銀の男の一撃目は交わし、唸りを上げながら己の剣を振り上げたものの……銀の男の動きは、風のようで淀む事はない。あくまで、滑らかですばやい。 首領の男の眼前に飛び込み、ニッと笑うと……剣は、巨漢とも言える首領の、腹に食い込んでいた。 目を見開き、傾ぐ、男の体。 首領の腹の筋肉に食い込んだ剣をすいっと抜き、正面から石畳に倒れ込む巨漢を避け、銀の男は……唖然とする二人の前に立った。 それは、1分にも満たないような出来事だった。 「おまえら、危ないところだったな。てゆーか、おまえらみたいなガキが、どうしてこんなヤバイトコにいるんだ?」 剣についた血をうるさげに払い落として、長い刀身を腰の鞘に収め、青年は肩をすくめてふたりを見る。 銀の前髪の間から除く、緑の双眸は、彼の持つ剣と同じくらいに鋭い煌きを放って見えた。 「田舎から出てきたおのぼりサンが、迷いこんぢまったのか? オレがこなきゃ、身包み剥がれた上に殺られてたぜ」 からかう言葉に、最初にカッとするのは……意外にアンジェリークだった。 「助けてくれてありがとう。一応お礼は言う。けどっ、あなたに助けてもらわなくても、私達だけでなんとかなってたわ! これでも、私達は海賊なんですからっ」 「海賊?」 アンジェリークの言葉に、男は目を真ん丸くして……吹き出した。 「あー、はいはい。じゃぁ、海賊のおふたりに聞くが、家はどこだ? 送って行ってやる。ここいらはヤバイ地域だ。おまえらみたいなガキは、また狙われかねん」 信じていない。 「ガキガキって、うるさいわね! それに、あなたに送ってもらわなくても、私たちだけで大丈夫だわ! ……行きましょう、ゼフェル!」 本来なら、短気なゼフェルこそがこういう局面で怒り出すのが常だろうが……アンジェリークが先にキレてしまった為、ゼフェルは結局冷静な傍観者になっていた。 で、アンジェリークは、ゼフェルの手を引いて……表通りへと向かった。 立ち去る前に、ゼフェルは助けてくれた男を振り向いた。男は、肩をすくめて、ふたりが去って行くのを見つめていた。唇には、どこか……奇妙な笑みが宿っていたと思うのは、ゼフェルの気のせいだろうか?
その後、宿に戻った二人は、オスカー、リモージュと、先に帰ってきていたセイランとランディに、先程の騒動を話した。 「ほんと、イヤな男だった。助けてくれたのは、まぁ、ありがたかったけれど」 爪をぎりっと噛み、アンジェリークは憤りを顕にする。 「あんくらいのザコ、なんとでもなったが、ふたりとも接近戦は苦手だからな。正直、助かったのは事実だぜ」 ゼフェルは冷静に言う。 夕食にはまだ早いため、お茶とセイランの調達してきた菓子を囲みながらの談話。 「ねぇ、アンジェリーク。それで、その剣士はどんな男だったの? 名前は?」 いつもは、あまり自分から口を挟まないリモージュが珍しくアンジェリークに先を促す。 「名前は、知らない。けど、銀の髪をした、緑の瞳の男だったわ。ぱっと見は、てんで細身のヤサ男風」 「剣の腕は相当確かそうだったけど」 ゼフェルの付け足しに、オスカーはふっと笑う。 「なるほど、一度手合わせ願いたいもんだな。お嬢ちゃんも、オレの真の実力、見たいとは思わないか?」 馴れ馴れしくリモージュの肩に手なんか置くオスカーだったが、リモージュの考え込むような様子に、眉を寄せた。 「お嬢ちゃん?」 「あ……ごめんなさい。私も、オスカー様の勇姿、拝見したな、って」 にっこり笑う、無邪気な笑顔。 オスカー始め、男どもは皆骨抜き。 面白くないながらも、リモージュに好意を抱いているアンジェリークは、ふっと息を吐き出すだけにとどめた。 進む談話の途中、ドアがノックされる。 「ああ、ちょっと前にたのんでいたものかな?」 セイランが、髪をかきあげながらドアに向かう。 開くドアの向こうには……メイドの女性? 「おや?」 滞在四日目にして初めて見るメイドの女性に、オスカーは眉を上げた。 「やあ、お嬢ちゃん。はじめまして、かな? 今まで見なかったが、新しく入ったのかな?」 どうも、この宿のメイド嬢は、ほとんどチェックしているらしい……マメな事だ。 オスカーに声をかけられたのが意外だったのだろうか。メイドの女性……というより、少女は、青い目を丸くした。 キレイな少女だ。青い瞳と、同色のカールした髪をした、どこか気品を感じさせる顔立ち。 「ああ、いえ、暫くお休みをいただいていたのですわ」 その声もまた、美しく澄んでいた。 セイランがドアを開けている間に、メイドの少女は、セイランが頼んでおいたもの……何らかのフルーツをふんだんにつかったデザートがのったトレイを抱え室内に入ってきた。 「この島特産のデザートだそうだよ。幸い、この宿のパティシエはこのデザートでは名を馳せている人らしくてね、部屋に戻る前に頼んでおいたんだ」 大きなガラス製の容器と人数分の食器をそっとテーブルの上に置いて、メイドの女性は恭しく一礼し、部屋から出ていった。 「わぁ、おいしそうだね!」 「ホント!!」 「うえっ……甘そう……」 それぞれに感想をもらし、セイランがデザートを分けにかかっていた所、リモージュが不意に立ちあがった。 「さっきのメイドさん……落し物?」 ドアの手前に、小さなブローチが転がっていたのを、目ざとく見つけたようだ。 「ああ? 柔らかいマットの上だから、音がしなかったんだね」 「俺が届けてくるぜ」 セイランとオスカーが続けて言うのに、にっこり笑うリモージュ。 「拾ったついでですもの、私が届けてきます。まだ、追いつくわ」 言うが早いか、駆けるように部屋を出ていた。 別に、何事もない、光景。 しばらくして戻ってきたリモージュと共に、(ゼフェルを除いた)皆は甘く、蕩けるようにまろやかな風味のそのデザートに、舌鼓を打った。
<言い訳> アリオス、ご登場〜♪ やっぱり、ここでも謎の(美?)剣士です。 でもって、ロザリンメイド〜♪ 次回も、できるだけ早い目にUPします(^^)。 |