|
ねえちゃん姫 茜は瑞希と着ている服を交換し、早朝、城に留まる貴族たちが起きださないうちに馬車で出立しました。 友人たちの誰もが同行できませんが、でも……心細さに挫けるわけにはいきません。 尽の想いを聞くまでは。父王とお話をするまでは。 離宮から王城まで半日はかかるはずですが、瑞希の言いつけ通りに御者は常より早く馬を走らせ、日が天高く上りきる前に王城にたどり着きました。 上級貴族の瑞希の家の家紋の入った馬車は、容易に門の中に入れるでしょう。 けれど……真正面から王城に入ったとしても、今、茜が王城に戻ってきた事が公になっては騒ぎが起こるだけ。 何より、大きな王城ですから、正面の公式な区域から王族の居住域までこっそり入り込むのは難しいでしょうし、茜が王女だとしても、以前の経験から尽と会うにはかなりの手順が必要でしょう。 茜は、ただ、尽とふたりでちゃんとお話がしたいだけで、そこに余計な横槍は望みません。 だから、茜は御者に呼びかけました。 「お願いします。裏門に回ってください」 何度か尽と抜け出すのに使った裏門。そこからこっそり入れば、尽の自室まで誰に見咎められる事なくたどり着けるかもしれません。 ただ……日中は人の出入りの多い裏門ゆえ、誰かの目につくかもしれないというのが危惧されますが。 幸い、裏門には今、人の気配がありませんでした。 茜は御者に礼を言い、馬車から降りると、門兵の詰め所を覗き込んで、顔見知りの門兵であるならば、入れてもらうように頼もうと思いましたが……実際、そこにいたのは、既に顔見知りとなった門兵の渉ではありましたが……。 「もうっ、兄貴ってば、なんでそう不貞腐れるのよ」 メイドらしき格好をした少女が渉の前で腰に手を当ててお怒り気味のご様子です。 茜よりいくつか年下の、見たことのないメイドです。 その少女に対して、肩を落とした渉は盛大に溜息をつきます。 「あのねぇー、いくら王女が気さくで可愛らしい人でも、兄貴にとっちゃ高嶺の花なのは分かってるでしょ。懸想だけにすませときなさい」 何の、会話でしょう。 「それに、王女の婚約の話はまだ公式じゃないから、絶対に他の人に言わないでよねっ。内密よ。極秘事項よ」 今度は、ひそひそ気味の声で、渉の耳元で囁きますが……極秘事項にしては、こっそり覗き込む茜の耳まで届くような声ではあります。 婚約の話……恐らく、茜と珪王子の婚約の事でしょう。まだ決定していない事とはいえ、メイドの噂話になるほどには確実な話となっているのでしょう。 「王子の乳兄弟の私だからこそ、仕入れられた情報なんだからねっ」 エヘン、と、胸を逸らします。偉そうです。 会話から察するに、渉の妹のようですが……兄を兄とも思っていないような態度に見えます。 というか。 初耳です。尽に乳兄弟がいるなんて! 茜は、思わず、メイドの少女を観察してしまいます。 確かに、渉と血が繋がっているのが分かる顔立ちをしていますが……渉よりも随分気が強そうで、しっかりした感じの雰囲気を漂わせています。喋り方からしても、雰囲気だけでなく、気は強いのでしょう。けれど、同時に……明るくはきはきとして、面倒見が良さそうな、好ましい感じでもあります。 「ミノホド知らずのバカ兄貴」 さっきから、バカにした口調ではありながら、差し入れと思しき皿に乗った食事を差し出して、飲み物までかいがいしく用意してやっているあたり、きっと、いい子なのでしょう。 尽の乳兄弟。そして、すでに顔なじみで信頼できる門兵の渉。 メイドの少女がその場を離れるまで待とうと思っていた茜ですが、そこで声を掛ける事にしました。 しばらくの観察でメイドの少女が、もしかすると頼れる相手かもしれないと思ったからです。 「あのぉ……」 遠慮がちに声をかけると、ふたりの人物が同時に振り向き……まったく違った反応が返ってきました。 「……っ!!!?」 口に頬張った食べ物を喉に流し込む前に詰まらせそうになるほど驚く渉と。 「え……?」 不審そうに眉根を寄せて、観察するようにこちらを見てくるメイドの少女と。 茜は、何をどう言っていいか考えて、とりあえずメイドの少女に自己紹介でもしようかと思いましたが、その前にメイドの少女が声を張り上げました。 「うっそぉ!! もしかして、もしかして………なんで、こんな所にいらっしゃるのぉ!?」 王女、とか、茜、とかいう単語は無理して呑み込んだのでしょう。頭の回転の速い子のようです。 茜は見たことのないメイドの少女ですが、相手は茜の事を見知っているようです。 少女は慌てて詰め所から外に出ると、門扉を開けてくれます。渉が戸惑っている間の事です。 そして、周囲を気にしながら茜をすばやく詰め所に導き入れると、がっちりと茜の手を取りました。 「茜さま、お会いしたかったですっ!」 声量を落としながら、とてもとても嬉しそうに少女は言い、自分の名前を歩美、と、名乗りました。 「王子の乳兄弟のご縁があって、王子のお傍仕えのメイドをしているんですよ。茜さまの事、王子から色々伺っています。実はこっそり何度か、茜さまの姿を拝見にお部屋近くにも伺った事があるんですよー。あの王子がそこまで想う姉上さまってどんな方かなぁって思って」 小声でありながら、早口に実に楽しそうに喋り続ける歩みに、茜は呆然です。渉も口を挟む余地なく呆然としています。 「いやぁ、まぁ、今回の事、さすがに王子は落ち込まれてますけどねぇ。茜さまご自身が決めた事なら素直に身を引くでしょ、あの王子も。今だって、ひどーく落ち込んで、ちょーっとウザいくらいなですけどねぇ。普段ちょーしこいてる王子のあの落ち込み方! まるでカビが生えそうで鬱陶しいですけど、一生に一度二度くらいあれくらい凹まされないと、あの自信過剰王子、イキすぎちゃうでしょ。ってか、ちょっといい気味なんて密かに思ってたりするんですけどねぇ」 どうも、なにやら……この乳兄弟である歩美と尽の関係性が見えるような言葉。 歯に絹を着せなさすぎ。 それでも、それが不愉快でない。 多分、尽自身に対してもそうなのでしょう。 茜は、面くらいながらも、微笑ましい気持ちにもなっています。 というか、尽が茜を想っているというその事を、この少女が知っている事は、少々驚きではあったわけですが……もしかしたら、尽はこの少女なら信用できると思って話していたのかもしれません。 「まぁ、そもそも、うちの兄貴以上に無理な話ですって。いくら地下書庫漁ったって、古い系譜の貴族の古文書調べたって、叶うわけないですって。だって、おふたりは姉弟なわけなんだし……って、あれ?」 叶うわけない。姉弟だから。 その通りです。 茜の胸が疼きました。 歩美ははっとして言葉を止め、じっと茜を見つめました。茜の瞳に、涙が浮かんでいるのに気づいたのでしょう。 少女はカンも鋭いのでしょう。 茜の様子に、何かを悟ったようでした。 そう。 何故、離宮にいるはずの王女が、今、この時、王城にいるのか。しかも、人目につかない裏門に。 そして、今の様子からして。 「もしかして、茜さま……王子に、会いに、いらした……?」 茜の瞳から、一筋、涙が零れました。 園遊会の準備に備えて、王城の一角は慌しい雰囲気があります。 メイドも、コックも、下働きの人間達はお客様方をお迎えする瞬間まで慌しく動き続けています。 見たことのないメイドがひとりふえていた所で、誰も気にしません。 実は茜も、こうやって動き回ることは嫌いではないのです。 むしろ、動きにくいドレスを着て、机に向かってお勉強をしているより、余程楽しいかもしれません。 何しろ、幼い頃から田舎の広い荘園でのびのびと働き、遊んできていますから。 「茜さ……ん、ごめんなさいね。今、王子に会える最速の場所はこの園遊会開場だと思うから。今は色々な御付の人間に囲まれて準備中で近づけやしないでしょうし」 一緒になってお料理を運びながら、歩美が申し訳なさそうに詫びます。 本来なら、尽付きのメイドである歩美は普段はこういった全体に関わる雑務はしないようですが、尽王子の「花嫁決定」の時期が近づいて、毎日何かしらの催事がある昨今では、とてもそうは言っていられないらしく、こうやって借り出されている有様なのです。 良く良く見れば、普段、茜についているメイドの幾人かの姿も見えますが……忙しすぎて、また、離宮にいるはずの王女がメイド服を着て雑務をしているなんて事が有りえるはずもない為、まったく気づいていないのは幸いでした。 そうです。今茜は、歩美に借りたメイド服を着て、「メイド」として王城に潜入しているのでした。尽に、会う為に。 園遊会の準備はあまりに慌しく、あっと言う間に開始の刻限となります。 王城の庭園の一角の開場、緑の芝の上に多数設えられたテーブルの上には真っ白なテーブルクロス、美しい花々……そして、見た目も美々しい料理の数々。 あおあつらえ向きの快晴! 招待客が続々と集まってきます。 いずれも、登城されるのが許される上級貴族の人々です。 壮麗な衣装を身に纏い、立ち居振る舞いも優雅な人々……かつては茜も憧れの気持ちを抱いた事もある世界。けれど、今の茜には目の前の世界は空虚な絵物語のように写るばかりです。 そこには、まだ尽の姿はありません。 前準備の落ち着いたメイドや下働きの人間達は、一部を除いて一端裏方に引っ込みました。茜も、怪しまれて見咎められない為に他のメイド達と共に会場を出ないといけませんでした。 早く、早く尽に会いたい。 強く後ろ髪引かれながらも、茜は会場の外に出ました。 「しばらくは、休憩のつもりでいましょう。大丈夫、メイドの仕事は腐るほどありますよ。王子に話かけられそうな状態になったら、即出動ですからね!」 歩美は茜を元気付けるように言います。 会場の外、メイドや使用人達が待機するそこまで会場のざわめきは聞こえます。そのざわめきの波が一層大きくなった時こそ、尽や王が人々の前に現れた証拠なのでしょう。 数度ざわめきの波が大きくうねり……そのたびに茜の鼓動は早まりました。 歩美が、接客の為に会場に出入りする顔見知りの他のメイド達に会場の様子を伺います。 けれど、どうやらまだ尽も王も開場には現れていないようです。 茜はざわめきを遠くに聞きながら、早まる自分の鼓動を感じながら……尽に聞きたいこと、父王に聞きたいこと……それらを必死で心の中でまとめようとします。 ここまで来る道程の馬車の中でも色々考えました。 けれど、聞きたいことが多すぎて……心が、感情が乱れすぎていて、結局きちんとまとめる事なんてできませんでした。 今も、また、会場のざわめきが心を大きくかき乱して、思考がきちんと働きません。 深呼吸を繰り返します。 けれど、早まった鼓動は落ち着かず、乱れた心は収まりません。 「あの……歩美さん、少しだけ、静かな所で気持ちを落ち着けてきても、いい、かな?」 このざわめきの聞こえない場所で、鼓動を落ち着け、心を平静にしたかったのです。 会場となっている王城の一角は、広大な王城の自分が住んでいたごく一部分しか知らない茜にとっては見ず知らずの場所、と言ってもいい場所でした。 それなので、ざわめきの聞こえない所まで……と、考えながら歩いてきた茜は、見事に迷ってしまいました。 いくつもの渡り廊下や中庭、庭園、数々ある部屋。 分かっているつもりで歩いていましたが、はっとして気づいたら、もう、帰り道を見失っている状態だったのです。 どちらから曲がってきたのか、どの扉から出てきたのか。 確かに、茜の望み通り会場のざわめきの聞こえない場所です。ざわめきは、聞こえません、が……それは、目印を失ったのと同じ意味。 「どっ、どーしよう!?」 きょろきょろ辺りを見回して、使用人なり兵士なり、場所を聞けそうな人間を探しますが、王城の人間の大半が園遊会の手伝いに向かっているのか、人気はありません。 とりあえず、来た道を……と、戻ってみましたが、少し戻っただけなのに、そこはまったく知らない場所であるようで。 「もしかして、さっきは左に曲がるべきだったのかな?」 正しく、右往左往。 絡まった糸をほぐそうとして、ますます絡まってしまうように……茜は、はっきり『迷子』になってしまっていました。 かといって……人気のない場所にいつまでも立ち止まっているより、人気を探して歩いた方がまだマシというもの。 茜は、居直って右往左往、前身後退を繰り返し、やっと人の声を聞きつけました……! が……。 喜色満面として人の声のする方に小走りで駆け出しましたが、声が近づいてくるに連れて、首をかしげました。 二人の人物の声です。けれど、何か言い争っているようでした。また、同時に、それらは聞いた事のある声でもあり……。 「……ですから……!」 「……っ、だろ!?」 音にしかすぎなった声が、はっきり言葉となって聞こえてくる場所まで来て、茜はぴたりと歩みを止めました。 まさか、と、思う声であり、会話だったからです。 「だから、桜弥先生なら、なんとでもなるだろ?」 「何度も言っていますけど、無理ですよ。そりゃあ、今までのように、公にされていない文書や密書の類を探し出したりするのは僕の得意分野でもあるから、お手伝いさせてもらいましたけど……それ以上は、僕に何の権限も……それに……」 「それに……今更、か?」 「今更、ですよ。だって、もう、あちらは決まってしまったと言うではありませんか。王子だって。今日は王様も見えているんですし……」 「志穂先生からは?」 「同じです。彼女も、王様がおっしゃった事と同じ内容を伝えてきただけです」 「……けど、俺は、まだ」 「諦めましょう。諦めてください。王子さえ諦めれば、四方上手く納まります。王様は、全てを上手く納める方向で物事を考えて見えます。王様の判断は、正しいんです。王子は、まだ、若い。だから……」 「俺のこの見合い話も……本当なら無理に押し付けられてしかるべきなのを『俺自身に選ばせて』くれてるんだもんな」 「そうですよ! 王が独善的な判断で物事にあたる人ではないのは、ご存知でしょう? あの方は、物事を正しく見通せる、情の深い方です」 「……情が深いから……ねえちゃんが……茜が生まれたわけだ。そんで、今、こんな状態になっているわけだ」 尽と、桜弥でした。 ふたりが、言い争うような会話をしていました。 それも、その話題の中心は、茜。自分自身なのです。 尽がいた! 尽に、会える! そう喜ぶ心より、緊張が心を占めました。 ふたりの会話の内容、意味までは把握できません。 けれど、茜は、ふたりには見えない位置で立ち止まって、その会話を聞かずにおれませんでした。 「解決の糸口は、見つかったのに! 今なら、まだ、間に合うのに!」 「いけません!」 「諦められるわけないだろう!?」 「王子、冷静になってください。先々の事を考えてください」 「今まで、散々冷静に考えてきた。先々の事だって、想定済みだ。ただ……あの、親父が……っ!」 「王子。無理です」 「無理じゃない」 「時が経てば、王子の気持ちも……」 「変わるわけ、ない! コレは一生モノだ。俺は、変われない。変わりたくも、ない」 ふたりの姿は見えません。けれど、会話に耳を傾けて、ふたりがどんな表情をしているか、手に取るようにわかります。 尽のひどく焦った顔が目に浮かびます。 尽はもしかして、まだ、茜を諦めたわけではないのでしょうか? お互いに届いていなかった手紙、すれ違った心。 尽と、話したい! 茜は、胸の前で拳を強く握り締め、深く呼吸を繰り返し、ふたりの声方に踏み出そうとしました。 一大決心でした。 けれど、運命は皮肉なもので、茜が尽の姿を目に入れる前に新たな別の声が茜の耳に届いてしまったのです。茜は動きを止め、それどころか、再び踏み出した足を引き返しました。 聞こえてきた別な声は、茜が尽以外に会いたいと思っていた人ではありましたが……尽とふたり同時に会うなんて事、考えてもみませんでしたから。 「政務で帰ってきたついでに様子を見てやろうと思えば……」 呆れたような口調は、それでも朗々と良く通る重厚な声。 茜の耳にも良く馴染んだ、父王の声でした。 「茜の件はお前の耳にも入っておろう? もう、決まった事だ。おまえも、さっさと自分の気持ちをまとめるがいい。……そう……明日、だ。私は離宮で報告を待っている」 厳しすぎる声でした。 言われた尽自身だけでなく、聞き耳を立てている茜さえも心の奥に重いものが落ちるような気分になりました。 それに、茜の件が決まったなどと……茜にはまだ聞かされていない内容でしたが、父王の考えがはっきり分かりました。 そもそも、一国の王女たる茜に、自分の生涯を左右するはずの伴侶の選択権は与えられていませんから……。 茜は強く唇をかみ締めました。 父王とお話はしたい。 けれど……茜には優しく甘い父王ですが、父親の顔の前に彼には国王としての顔があります。娘ひとりよりも、国民全体の幸せを考える必要があるのです。だから、想像できてしまいます。 茜に対して声を荒げる事はないでしょうが、茜がたとえ反論するような事を言えば、優しく諭すように茜を説得するのでしょう。父王が国王として決定しなければならなかった、父親として選んだ……望みうる限り最高の伴侶、珪王子。国王として、国の利害だけ考えれば、珪王子以上に国に利益をもたらしうる、茜にあてがうべき王子はいくらでもいたでしょう。けれど、父王は珪王子を選んだ。国王として父親として、愛しい娘に選びうる最良の決定を。茜には、彼を受け入れる必要があるのだ、と。 父王との会話の決着は、はなからついています。 父王は茜に父親としての精一杯の愛情を示してくれています。 茜が父王に問いたかったのは、父王の真実の気持ち。 何となく分かってはいましたが、確信が持てずにいた、父王の気持ち。 愛情と。利害と。 そのどちらも両立させ得る正しい選択ができる……それが、一国の王の有り方。 父として、王として尊敬できる人。 そう、正しい父王。 ……だから、もう、茜は父王と話す必要は、ないのでしょう。 茜は、正しい選択ができていません。 父王の深い愛情を裏切る気持ちを持ち続けています。国に背く行動を取ってしまっています。 茜こそ、父王を裏切ってしまっているのです。 茜には……尽を、諦めきれない。それが、父に、国に対する最大の裏切り。 姿の見えない尽と父王の会話は、続く事はありませんでした。 茜に聞こえたのは、通り過ぎる足音……それから、尽のうめくような声、激しく壁を叩きつける音。 「……っ、くしょ……ッ」 何度も、何度も。 ガツガツと、壁を叩く音。 「王子! 王子ッ! おやめくださいっ! 手から血が……ッ! ああっ、服にも……誰か、誰か!」 「なんで、なんで……っっ!!」 桜弥の慌てて人を呼び寄せる声と、尽の獣の唸りにも似たうめき声と……。 茜は胸の前で拳を握り締め一歩足を踏み出しましたが、同時に数人の人が茜の傍の扉からも飛び出して来て……茜は流されるように数歩を踏み出して……尽の姿を目にしました。 桜弥に背後から押さえつけられ、右の拳から血を滴らせ、その血が美しい衣服にまで飛び散って……。その表情は悲痛そのもので。 尽……尽……ッ! 尽と、話さなければ……! 話さなければ、いけない、のに。 尽はあっという間に大勢の人間に取り囲まれ、茜の視界から消えました。 だから茜は……次の機会を求めて、園遊会の会場に戻ったのです。 「茜さん! どこに行ってたの!? 探したのよっ!!」 会場に戻ると、歩美が心底心配していた表情を表せて、駆け寄ってきました。 「もしかして、顔見知りの人にでも見つかって連れ戻されちゃったのかと……って、顔色、悪いけど……何かあったの!?」 聡い歩美に、茜は苦笑しました。 確かに、何か、ありました。 けれど、茜は微笑んで首を横に振りました。 「ごめんなさい、心配かけて。大丈夫。ちょっと、人気に当てられただけだから」 茜の言葉を、歩美はその通りに受け取ってはいない様子ですが……深く問いただす事なく、茜の表情をじっと見つめました。 「そう……なら……そろそろ、お仕事手伝ってもらわないと、かな? 無理はしない程度にね!」 にっこり歩美が笑い、茜も微笑み返しました。 つづく |
<言い訳>
尽登場です。とっても久しぶりです。
でも・・・ほんの少しだけ。
茜との会話もなし。
次回更新するのがいつになるかは分かりませんが、
次回は、尽と再会します。
どきどきのシーンです・・・多分。
その後のシーンがまだ滞っているので、
何とか書き進めないとー。
・・・というか、どうやって進めてどうやって完結させるか、
まだ妄想がまとまっていないので・・・更新はいつの事やら・・・。