ねえちゃん姫
<1>



 昔々……緑豊かな長閑な王国の片隅、小さな荘園を有する地方小貴族のお屋敷に、という名の養女がおりました。

 養女とは言っても、年子の実の娘と何ら別け隔てなくのびのびと健やかに育てられ、無邪気で愛らしい少女に成長していきました。

 の両親はが物心付くかつかないかの頃に亡くなって、母親の親友であったそのお屋敷の奥方に引き取られたのでした。

 の育ったお屋敷は、中央の上級貴族と比べると決して裕福とは言えず、荘園の果樹園や畑仕事はお屋敷の人間も一緒になって働いていましたが、それは決して苦になる仕事ではありませんでした。時々大変な時もありますが、にとっては、むしろ、楽しい仕事だったと言えます。

 



 夢――――
 夢の中でも夢だとはっきり分かる夢。
 自分は大きなお城の庭園にいて。
 お姫様のような着心地のいい、綺麗なドレスを着て。
 一緒に遊んでいるのは、王子様みたいな綺麗な少年。
 手入れの行き届いた色とりどりの花に囲まれて。鮮やかな緑は、綺麗に刈り入れされていて。
 素足で走り回っても危なくないように、細心の注意で掃除がなされた芝の上、自分は王子様とじゃれ合ってる。
「もっと、大きくなたら、俺、君を迎えに来るから」
「うんっ!」
 小指と小指を絡ませて、そう約束した。
 まるで、別の世界の出来事。
 夢だと分かる夢。
 けれど、どこか懐かしくもある……そんな、夢。

 




 さて、それは、まだ春。お城のお世継ぎの王子様の誕生日に国中が賑わっている頃。

 地方貴族のお屋敷にまではその賑やかさは届きませんでしたので、はいつものように畑からその日の夕食に使う野菜を収穫してきて、お屋敷に運んでいました。


「なっちん! もうちょっと真面目に働いてよぉ!」


「やーだってさぁ、ほらほら、お城の方見てよ。花火上がってるよー。さっすが世継ぎの王子の誕生日だなぁ。きっと、すっごい賑わいだろうな。私も城下に遊びに行きたいー」


 庭で一番背の高い木の上に上って、お城の方を眺めながら言う義理の姉の奈津美を見て、は溜息です。


「だったらぁ、さっさとまどかくんに勘当取り消されるようにがんばってもらえば? あの人、一応城下の大商人のひとり息子でしょう?」


「あぁ〜。ま、ね。でも、アイツはねぇ……。意地張って、絶対帰らないってまだ言ってるからさー。それくらいならうちに婿に入るって。ばっかだよねー。こんな貧乏貴族の家に婿入りするより、実家に頭下げて帰った方が絶対楽できんのにねぇー」


 少し前にふらりと現れ、荘園の仕事を手伝いたいと言って、そのまま屋敷に居着いた少年と奈津美はそれなりの仲に進展しているようです。

 元々鷹揚な奈津美の両親は、その彼……まどかの真面目な働き振りと、意外に誠実な様子に、娘との付き合いを止めはしませんでした。

 はそれ以上の説得は諦めて、大きく溜息をつくと、野菜の入った大きな籠を持って歩を再開しました。


「あー奈津美ちゃんっ! またサボってるぅ!」


 声に振り返ると、ご近所に住む珠美が弟の玉緒と共に何やら籠を持ってやってきたところでした。

 珠美は樹上の奈津美をしかりつけると、の方を振り返ってにっこり。

ちゃ〜ん、今日はお魚とお肉持ってきたの。お父さん、昨日すごい収穫だったんだよ! 見て見て!!」


 ととと、と、走り寄ろうとして……。


「きゃぁ!?」


 見事にすっ転び、籠の中のお魚をぶちまけました。


「ねえちゃん! 大丈夫? あぁ、魚、ちょっとダメになっちゃったかなぁ」


 玉緒が珠美のところまで駆け寄って、姉が起きるのと魚を拾うのを手伝ってあげてます。


「ごめんね、ありがと」


「まったく、しっかりしてるんだけど、やっぱりどっかダメだよね、ねえちゃんって……」


 溜息ながらの玉緒の言葉に、珠美は少し頬を膨らませます。


「いつも私に世話ばかり焼かせる玉緒に、そんな事言われたくないわよ!」


 そんな光景に、は微笑みます。

 なんだか、弟がいる珠美が時々とても羨ましいのです。自分にも弟がいたらな、と、思います。
 血の繋がった家族ではなくとも、とても暖かいお屋敷の皆ですが……それでも、実の両親や肉親への憧れは拭い去れるものではありませんでした。

 が珠美と玉緒を見てしんみりしかかっていると、遠くの方から聞き慣れた声が。


「ギャリソン、ここまででよろしいわ。しばらく待っていらして」


 どうやら、今日は千客万来のようです。


「まぁ。皆様お集まりですの? Bonjour. 瑞希、本当はこんな田舎の荘園になんか来るつもりはなかったんですけど、お母様のお使いで仕方なく来ましたのよ!」


 外国生活が長かった大貴族のお嬢様、瑞希は母親が奈津美の母親の友人だという事もあり、昔から時々この荘園に遊びに来ていて、や珠美、奈津美とも仲が良い……はずです。奈津美とは、しょっちゅうくだらない喧嘩をしていますが……それでも、特別用がない時でも、わざと用を作って会いに来る程度には、ここの荘園が気に入っているようです。決して素直ではありませんが。


「豆タヌキ様方、城下のa la modeが気になりません事? 瑞希が特別にお教えさしあげてもよろしくてよ?」


 まったく素直でない瑞希風の言葉を、は「私もお話の仲間にいれてください」と頭の中で変換します。

 ただ、奈津美は分かっていても腹が立つのか、ベーっと舌を出して瑞希を煽りました。

「まぁ! まぁまぁっ!! 失礼な方ねっ! 木の上から、人を見下ろすものじゃありませんわよ!?」


 そうして、いつも通り、ふたりの低レベルな言い争いが始まると見て取ったと珠美、玉緒は、溜息をついて、お屋敷の厨房に食材を運び込みにかかりました。


 食材を運びえた頃、言い争いしながら瑞希と奈津美がやってきて、またまた賑やかさが膨らみました。

 もその賑やかな雰囲気が楽しくて、ふふ、と、笑います。

 けれど……。


 が外に出ると、遠く続く畑の向こうの西の方に赤い空が広がっていました。もうすぐ、東の果樹園の方から月が昇ってくるでしょう。

 他の皆は一息入れて、奥方の焼いたケーキでお茶をするとの事でしたが、はそれを断って何となくそんな夕暮れの光景を眺めていました。

 昔、お城勤めをしていたという奥方との実の母。奥方は決して詳しい事を語りませんが……の母がどれほど素敵な女性だったか、という事は何度となく話して聞かせてくれました。もっとも……の父親については、一度も聞いた事がありません。聞こうとすると奥方が決まって険しい顔になるので、は父親についての事は想像を膨らませるしかありませんでした。


 決して会えない両親。

 せめて、絵姿でもあれば心慰められるでしょうが、それさえもないので、は心の中で思い描いた両親の姿をいつも思い浮かべるのです。

 その日も、暮れていく一日を全身で感じながら、そうして思いふけっていましたが。


「??」


 遠く、犬の鳴き声と馬の嘶きがします。

 犬の声は、恐らく、屋敷の裏の方で変われている番犬と猟犬を兼ねた犬達でしょう。
 馬の嘶きは……。

 この荘園にいる馬の数はさして多くありません。がその馬たち全部を覚えているくらいですから。

 それに、この時間は、何か特別の用がない限り、馬達は大体厩舎で休ませてあるはずです。

「何か、急な伝書でも来たのかな?」


 はいつも来客や伝書が来る、屋敷から続く小道へと駆け寄りましたが、それらしき影はありませんでした。

 しばらく待っていましたが、影も形も現れず、諦めて引き返そうとした時。

 すぐ間近に馬の嘶きと、人の声がしました。


 そして。


「止まれっ! 止まれって言ってるだろっ!!」


 のすぐ隣の茂みから栗色の馬が飛び出してきました!


 見たことないくらい立派で手入れが行き届いた馬です。

 そして、その上に乗っているのは……身なりのいい少年でした。

 馬は、荒ぶって暴走を続けましたが、屋敷への入口の柵に躓いて、横転!

 騎乗していた少年の悲鳴が響きました。

「きゃあぁ! だっ、大丈夫!?」


 馬は、息を切らせながら、きょとんとした顔で座り込んでいて、その上に乗ってた少年は……畑の中に転がり込んでいました。


「痛っ、て……」


 うめき声が聞こえますが、怪我は酷いものではなさそうです。


「大丈夫……?」


 は、畑の中の少年に手を差し伸べて起こしてやりました。

 まだ10歳をいくつか過ぎたくらいの少年が、痛そうに顔をしかめながらすりむいた膝や肘をさすっています。

「くそっ……とんだ暴れ馬だな、コイツ……」


 ぶすっとして馬を眺め、それからに視線を移しました。


「ね、擦り傷以外に痛いところない? 頭、打ってない?」


 は心配でおろおろしています。


「別に、なんともない」


 強がりたいのでしょうか。少年は、傷をさする手さえ止めて、憮然としています。


「とっ、とりあえず……その傷だけでも何とかしなきゃ……! 薬とか、持って来るからっ!」


 は少年にくれぐれもそこにいるように釘をさしてから、お屋敷に薬箱を取りに走りました。

 が息せき切って戻ってくると、少年は、柵の上に腰掛けて、沈む夕日を眺めていました。

 見たことのない少年です。

 この身なりや、立派な馬からして、恐らく上級貴族の子息といったところでしょう。とは住む世界の違う人たちです。きっと、がこの田舎の荘園で暮らしている限り、会う事がないような人でしょう。
 なのに、何故かは、その少年に奇妙な懐かしさと親しみを覚えてしまうのです。

「傷、見せて?」


 怪我の手当てをしている間、少年はまったくの無言で、のしたいようにさせていました。


「他は、大丈夫? あ、服、破れてるね? それも繕ってあげるよ!」


 絹でできているだろう鮮やかな服の裾が見事に引き裂かれています。それに、良く見れば、ズボンも破れています。

 は、再びお屋敷に駆け出そうとしますが、少年はそれを引き止め……はにかむように笑いました。

「服は、いいよ。ありがと。それより、俺、もう帰らなきゃ」


「帰る? この馬で?」


 だって、さっき、あれだけ暴走していたのに……?

 の心配が伝わったのか、少年は苦笑いしました。

「馬なんて、もっとガキの頃から乗ってるし……コイツは今日初めて乗った馬だからさ、ちょっとコツが掴めなくて」


 自分で起き上がったのでしょう、馬は長い首を下ろして、あぜ道の草を食んでいます。

 少年が手綱を引き寄せるとごく従順にしたがって、柵の傍まで歩み寄ってきます。
 大人でも、背の高い馬に乗るのはなかなか困難なので、よりも幾分背の低い少年は、柵の上から馬の背に飛び乗りました。

「あんた、名前は?」


 馬上の少年の問いに、が名を名乗ると、少年はにっこりと笑いました。


、か、うん。俺は、尽って言うんだ。なぁ、またここに来てもいいか?」


 少年が軽く手綱を引くと、栗毛の馬は低い嘶きを上げて足を踏み鳴らします。

 尽……どこかで聞いた名前だ、と思いながら、は大きく頷きました。

 少年は、の承諾に嬉しそうに笑うと、手綱を引き締めて、馬の腹を蹴りこみました。

 最後に少年は軽くに手を振ると、そのまま、馬の背に乗って駆け去りました。

 少年の姿が見えなくなるまで見送った後、はふっと思い出しました。


「あぁ、そういえば、王子様の名前と同じなのね、あの子。王子の生まれた年は、王子の名前をつけるのが流行ったみたいだからかな。そうね、王子と同じくらいの年頃だし」


 薬箱を抱えて屋敷に戻りながら、は微笑みます。


 あの尽という少年、初対面なのにとても心惹かれました。是非、また会いたいと思うくらいに……。





 少年は、存外早くやってきました。

 ほんの数日後の事です。

 たった数日で、あの栗色の馬をすっかり上手く乗りこなして。

〜〜!!」


 馬を屋敷の柵にくくりつけ、果樹園で作業をしているの元へと無邪気に駆けてきました。


 隣で、適度にサボっていた奈津美が「これが、例の?」と、呟いて少年を不躾なまでに観察しています。


 今日も随分いい身なりをしています。

 上質の絹で出来ている服は、腕のいい職人に縫製されているのでしょう、達が普段着ている自分達で作った綿の洋服とは比べようもありません。

「尽くん、いらっしゃい。怪我、大丈夫? お家の人に怒られなかった?」


 の歓迎に、少年は……尽は、少し表情を曇らせました。


「まぁ……大丈夫だよ」


「心配したんだよ。結構遅い時間だったし、服だって破けちゃってたし。お母さんに怒られたんじゃないかなぁ、って」


 間引きした青い果物を入れた籠を地面に下ろして、は尽を見ました。

 尽は、やっぱり表情を曇らせて、唇を尖らせています。

「怒られたっていうか…………いいよ、もう」


 言葉を言いよどませた後、顔を上げてを見上げました。


「なぁ、それより、! 馬に乗って出かけないか? ここに来るまでに、大きな木の生えた丘を見たんだ。あそこまで、行ってみたいんだ!」


 尽の誘いは嬉しいのですが……は一応仕事中です。自分だけ仕事を放り出して、遊びに出かけられません。

 困惑して苦笑して、どうやって断ろうかと考えていると、ふたりの間に奈津美が割って入ってきました。

「あんた、かなりいいトコの坊ちゃん? すごい服。絹だよね」


 奈津美の無遠慮な態度に、尽は少しムッとした表情を覗かせます。


「あんまり気にしたことないから、分からないよ。それより……俺、今、と話してるんだ。話に割り込むの、無粋じゃないかな?」 


 生意気とも思えるその態度に、奈津美の眉がぴくぴくっと震え、唇が奇妙な笑みの形に歪みました。


「あんたねー、年上の女性を呼び捨てはないんじゃないかなー? ほら、もなんとか言ってやんなさい」


、俺が呼び捨てるのは、嫌だった?」


 奈津美と少年のやり取りを唖然と見ていたは、急に自分の方に話を振られても、ちゃんと答えられませんでしたが……奈津美の厳しく催促するような眼差しと、尽の戸惑うそれに……。


「あ、えーと……あの、それじゃ……」


 ふと、思い浮かぶのは、珠美と玉緒。

 あのふたりが羨ましいと思い、弟が欲しいと思った気持ち。

「じゃあ、"ねえちゃん"って呼んで欲しいな!」


 の言葉に、尽と奈津美は目を丸くして、殆ど同時に口を開きました。


「ねえちゃん〜〜!?」


「だって、だって……! 私、弟が欲しいなって思ってて、だから………!」


 の言葉に、奈津美は……微かに微笑みました。肉親のいないが、時々、本当にごく時々、すごく寂しそうにしているのを知っていたからです。

 そして、無遠慮極まりなく尽の頭に手を置いて、そこをくしゃくしゃにしながら言うのです。

「じゃあ、あんたは今後を"ねえちゃん"、って呼ぶことに決定。勿論、はこの子を呼び捨てでね! 姉弟っぽくていいでしょう?」


 奈津美の言葉に、は少し驚いた顔をして、頭をくしゃくしゃにされている尽に視線を移しましたが、尽は……奈津美の手を振り払って、真っ赤な顔で頷きました。


「べっ、別にいけどさ……」


 その態度には、照れもありそうです。


「尽くん、本当のおねえさん、いるの?」


 が気になって聞くと、尽はう〜ん、と唸って少し思い出すように視線を彷徨わせました。


「いた、みたい。けど、俺が生まれたばかりの頃に、死んじゃったらしくて……記憶にもないんだ」


 大した悲壮感がない尽の結構ショッキングな言葉内容ですが、なんだか、は嬉しくなりました。

 だって、なんだか……その亡くなったおねえさんの代わりを自分が務められる気がして。

、ほら、"くん"はつけなくていいじゃん。ねー尽!」


「つか、あなたにまで呼び捨てにされる覚えはないんですが?」


「細かい事は気にしない。ほらほら、アタシの事もお姉様、って呼んで御覧なさいな」


「………却下」


 結局、尽はとの遠乗りは諦めたようで、代わりに、たちの仕事の手伝いをする事にしました。


 しかし、尽は恐らく、普段からそういった仕事はしたことがないのでしょう、手伝いと言うより、最初の頃は足を引っ張ってばかりで、奈津美がここぞとばかりにいじめていましたが……すぐに、コツを覚えました。尽はもともと、かなり頭と要領が良い上に、器用なようです。


 そして、日が暮れかかる頃、尽は自然とを「ねえちゃん」と呼ぶようになり、も「尽」と呼ぶようになっていました。

 そんなふたりは、まるで、本当の姉弟のようでした。



 は尽を弟のように可愛がりましたし、尽もによく懐いて、数日に一度はこの荘園に馬を駆ってやってきました。

 荘園の仕事を手伝ったり、仕事がお休みの時は荘園の丘や花畑、小川なんかに遠乗りやピクニックに出かけたり。

 尽はすっかり荘園の他の面々とも仲良くなっていました。

 もっとも……尽は、自分の家の事をあまり好ましく思っていないらしく、自分の家の事は何も語りませんでした。詮索好きの奈津美が聞こうとするたびに、口をつぐんでそっぽを向くのです。

 けれど、にはそんな事、正直どうでも良かったのです。

 尽と本当の姉弟のように楽しい時間を過ごせる事がただ嬉しくて。

 本当の姉弟なんかじゃないのに、やっぱりには肉親なんていないはずなのに……それでも、尽との日々は、にはまるで本当の弟と過ごしているように、とても楽しいものでした。

 本当の姉弟のように、一緒に食事をして、笑い合って、時々喧嘩もしたり。



 そして、そんな日々が続き、ひとつふたつ季節を越えたある日……日暮れ近くにやってきた尽は、少し様子が変でした。


 妙に焦った様子で、を見つけると、馬から飛び降りました。


 かなり馬を急いてやってきたのか、馬は荒い息遣いをしていましたので、尽が馬の手綱を離してやると、すっかりここの荘園になれた馬は、勝手に水の流れる小川の方に向かっていきました。

 尽自身も、少し息遣いを荒くして、夕食に使う井戸水を運んでいたの手を引っ張りました。

「ちょっと、尽! 水こぼれちゃうじゃない!」


 の抗議を無視して、尽はの手から水桶をもぎ取るようにしてそれを地面に置いて、を庭の大木の陰まで連れて行きました。まるで、誰にも話を聞かれたくないように。


「ねえちゃん、あのな!」 


 尽の意を決したような表情に、も抗議しようとしていた口を閉ざしました。


「俺……俺さ……」


 何か言いかけて……でも、それを躊躇して、止め、今度は顔を上げて真っ直ぐにを見詰めました。



「ねえちゃん、俺と結婚しよう!」



「…………………え?」


 あんまり唐突な言葉に、は声を無くします。


 それはそうでしょう。

 まさか、尽に……弟のように思っている幼い少年に、そんな事を突然言われても……。

「勿論、今すぐじゃなくてもいい。少し、待ってて欲しい。そうしたら、俺、きっと……」


「ちょ、ちょっと! まっ、待ってよ!」


 尽のやけに真剣な様子に驚いて、は尽の言葉を中断させました。


「だって、尽は私の弟みたいなもので、だから、結婚なんて………!」


 の言葉に、尽は、すぐに押し黙り、唇を堅く引き結びました。


 そして、俯いて……。


「つ、尽……?」


 震える小さな肩が泣いているように見えて、は尽の肩にそっと手を置こうとしましたが……。

 尽はその気配に気付いたのか、の手を払いのけて、顔を上げました。

「うん……そうだな。俺は、弟だもんな……けど……俺……っ!!」


 叫ぶように言い切って、尽は再び唇を噛み締めました。泣きそうな表情で。


 そこで、は、自分が尽をひどく傷つけた事を悟りました。

 けれど、は、にとって尽は、やっぱり弟みたいなもので……。
 咄嗟には何も言えずに立ちすくんでいると、尽は、泣きそうな表情のまま言葉を続けました。

「ねえちゃん、俺、いつか、こんなガキじゃなく、ねえちゃんが驚くようなとびきりイイ男になって……俺を弟だって言ったねえちゃんを後悔させてやる! だから、ねえちゃん、それまで………誰のものにもならないで」


 には尽の言葉の意味が、いまいち分かりません。

 けれど、尽が真剣なのだけは分かります。

 だから、真剣な尽に答えようと、自分の中から尽に向ける言葉を探しますが、その間に尽は、口笛で愛馬を呼び寄せて「ねえちゃん! 俺、行くから」止める間もなく、駆けて行きました。


 そして、その記憶は、の中にずっと、ずっと残ります。


 その日以来、尽が、姿を見せなくなってしまったからです……。






つづく




--BACK--





<はじめに…言い訳アリ>

……と、いうわけで、現段階完成未定のお話をUPしてみました。
まだ書き上げていないので、何話になるかは分かりませんが、
確実に10話は超えそうです。
そんなわけなので、次回2話以降のUPは、お話が書きあがってから、
もしくは、書きあがる目処がついてから、になりますので、
ご了承くださいませ。

童話ちっく目指しています。
ただ、魔法使いも妖精も出てきませんが。
時代、国等は、ご想像にお任せしますが、少なくとも東洋ではない感じ。
(当初は、名前はカタカナ表記してましたが、なんか違うので止めました)
イメージとしては、シンデレラとか、そんな感じの世界観で想像しておいてください。
長い割に、先読みしやすいありきたりなストーリーだと思われるので、
先読みできる方は、先読みしてみてください。おそらく、あたります(笑)。

今回のお話は、子供尽に色々名台詞を言わせて見ました(笑)。
尽台詞の基本がないと、GS話とはまった縁が切れてしまう気がして。
これで、GS度が5%くらいはUPしたでしょうか。(当社比)

今後、オリジナルキャラ(名前は出す予定はないですが)も
既存キャラもちらほら出ます。
ご覧の通り、お話そのものが、本来のGSとはかけはなれているので、
合わないなーと、思われた方は、申し訳ありません。
見なかった事にしておいてください。



どうでもいいけど……
「ねえちゃん姫」英訳すると「Sister Princess」?
(つか、Princess Sister か?)
やー偶然偶然。まじで。
つか、シスプリ、どんなゲームか実は全然知らないし。