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Perfume 尽が、私に触れない。 尽が、私を見ない。 尽が、私に声を掛ける事も、ない。 怖い。 それ以上のものが、私を責めたてた。 尽の態度が、私を徐々に憔悴させていった。 尽に冷たくされるのが、こんなにも自分自身をぼろぼろにするものだなんて……思っても見なかった。 尽に冷たくされて、はじめて、私は……尽の事しか考えられない自分を実感した。 自分の心の中が、こんなにも尽に占領されているのを初めて知り…………自分の恐怖が、どこからやってくるのか……分かった、気がした。 私は……………。 けれど、分かったからといって、その恐怖が消えるわけではなく、むしろ、恐怖は更に私の心に広がった。 自分の中の矛盾が、ただただ……ばかばかしくて、可笑しくて、愚かしくて……。 気持ちを自覚する事の不安に怖くて震えていたかと思えば、自覚したらしたでその気持ちそのものが恐怖となって自身を侵す。 じゃあ、どうすればいいんだろう? 考えても、その答えは見付かることなく……堂堂巡りを繰り返す。 しかも、尽の終始の冷たい態度に、自身がどんどん憔悴していって……結果。 「ねえちゃん……最近、顔色悪いな」 ある日、尽がふいと声を掛けてきた。 それは、単なる彼の気紛れだったのかもしれない。分からない。 けれど、その少し心配そうな真っ直ぐな眼差しは、確かに私だけに向けられていて……。 尽の眼差しが、胸に突き刺さった。 胸が痛くて、苦しくて………泣き出して、しまった。 わけもわからず溢れた涙は、わけもわからず激しい嗚咽交じりになっていて、子供みたいに泣きじゃくってしまった。 「ねえちゃん!?」 ひどく慌てた尽の声。 私を、心配してくれてる? 「……ないで……」 でも、心配されるほどに、胸の痛みは増していって、私は、自分の頭に差し伸べられた尽の手を払いのけた。 「優しく、しないでよぉ!」 優しくされるのも、また辛い。 冷たくされて、憔悴して……優しくされて、泣き喚いて。 私は、一体、何がしたいんだろう。 尽に何を求めているんだろう。 6歳も年下の弟に、私は、一体……。 すぐそばに感じる尽の存在が、とても……大きく思われた。 伸ばされた両腕に、そっと抱き寄せられる感触。 「やっ……止めて、もぉ……嫌っ!」 感情がひどく乱れて、ヒステリー状態になっていたんだろうと思う。 今度は尽の腕を払いのける事ができず、尽の胸元をぐいぐい押しやったり、ぽかぽか殴ったりして、そこから逃れようとしていた。 もがいて、もがいて……でも、尽の腕は私がもがく度、より力強く私を抱きしめて……。 「尽の、ばか……ばかぁ!」 言いながらも……今度は、尽の胸元にしがみついていた。 暖かな、尽の腕の中。 何も考えられなくなる。 尽のぬくもりだけが、私を包み込む。 私の身体をすっぽり覆う尽のぬくもりは、私を抱きしめるその腕の力強さは、とても優しくて……私は、少しずつ気分を落ち着けていって……同時に、己の想いを、改めて思い知る事となる。 思い知りたくなんて、なかったのに。 思い知るのが怖くて、怖くて、怖くて……今まで、気付かないフリを続けてきたのに。 「好き……尽が、好き……」 弟に恋をしてるなんて。 血の繋がった弟を好きだなんて。 そんなの、あってはならないのに。 だから、その感情を自覚する前に、無意識に恐怖を感じて、気付かないように己で己の想いを隠し通して……。 友人と恋人は別。 はっきりそう割り切って……割り切れるからこそ、今まで恋人がいなかった私が、なんで、なんで、よりによって、弟に! ずっと、ずっと、一緒に育ってきた血の繋がった弟なんかに! でも……そんな理屈じゃなく、私が尽を、男の人として好きになってしまったのは……きっと、事実。 自分自身を怖がっていた原因は、きっとこれなんだろう。 あってはいけない己の感情に、無意識に恐怖を覚えていたの。 そして、尽が怖かった原因は……。 そんな気持ちを、彼に悟られたく、なかったから。 弟に恋してるなんて、ありえない感情、彼自身に悟られて……軽蔑されるのが、怖かったから。姉としてさえ、傍にいることが敵わなくなる事が、怖かったから。 それに……尽が、時々、まるで、そんな私の心を見破ったかのような……いや、見破ってなおかつ、私を追い詰めるような言動を、取るから……。 ……私は、猫に追い詰められた鼠。 追い詰められて、どうしようもなくて……今、こうして、猫に向かって素直に想いをぶつけてしまった。 あんまり意外な鼠の反撃に、猫は……きっと、獲物を狩る気もなくなるに、違いない。 素直に吐き出した自分の言葉に、私は更に激しく泣き出した。 これで、もう、オシマイ、だ。 なにもかも、お終い。 きっと、私が、これまで無意識的に何より怖れていた事が、今、終に起こってしまったんだ。 私は姉でなく、女になった。そして、尽はそんな私を見限り、弟じゃなくなる。 姉弟でなくなったふたりに訪れた破局は……すべての終焉。 きっと、もう……ふたりが、穏やかな時間を共に過ごす事はないだろう。姉弟としても……もちろん、それ以外の存在としても。 自分を包み込む尽の優しい温もりと、サヨナラする決心をする。 止まらない涙を堪える努力をしながら、尽の胸をそっと押しやる。 私の意外な告白に唖然として、固まっていたであろう尽は、見限った私を簡単に解放するだろう。 そう思った。 けれど……。 押しやろうとしても、尽は私の身体に回した腕を解こうとはしない。 「っ、も、離して……」 そう呻いて、身をよじろうとするたび、尽は……私を、より強く抱きしめてきて……。 「離してっ!」 涙声で、激しくそう言って、尽の胸を押しやりつづけながら、その顔を見上げたら……。 尽は……………。 「……尽……?」 泣いていた。 「ばか、見るなよな……」 苦笑しながら震える声で呟いて、驚いて力の抜けた私を再び自分の胸の中に覆い込み、強く、苦しいくらいに強く抱きしめる。 「男が泣いてるトコ、見るなんて悪趣味……」 くすっと笑って、相変わらず震える声でそう囁いた。 「すっかり諦めてたもんが手の中に転がり込んできて……馬鹿みたい、俺……女々しく泣いちゃってるよ……」 何を言ってるの……? 「勝手に思い詰めて、煮詰まって。……自分の馬鹿げた感情でねえちゃんを壊してしまいそうで、そんな自分が怖くて……だから、諦めようとしてたのに……」 怖い? 尽も、自分を怖がってたの? だから、私を、避けてたの……? 「ねえちゃん……」 耳元で熱い吐息と共に囁きかけられる。 顔を上げて、泣き顔に笑みをのせた尽に見詰められる。 「俺、自惚れても、いいんだよな?」 「……尽……?」 「ねえちゃんも、俺を、弟じゃなくて、ちゃんと男として好きなんだ、って……そう思ってもいいんだよ、な?」 私の呆然とした思考が、尽の言葉の意味をしっかりとした形で理解して……私は、尽の背中を抱きしめた。 今度は、嬉しくて、涙が溢れた。 尽の言葉が私の恐怖を吹き飛ばして。尽の心が私の不安を払いのけて。 私は、泣いた。 そして……耳元での尽の呼びかける微かな声に顔を上げて……口付けを受けた。 今度は、私も素直にそれを受けて……更に強く尽を抱きしめた。 口付けを続けながらも、私は、溢れる涙を抑えられなかった。 あり得ないハズの想いの成就は、それほど、嬉しかった。 「自分の気持ち自覚してから……いつも、嫉妬に狂いそうだった……。だって、ねえちゃん、あんまり無防備に男友達と馴れ合ってるから……」 うめくように告白する尽の切ない声に、私はめまいさえ覚える。 それが……胸を躍らせるほどに嬉しい言葉の数々だと思えたから。 「俺……ダメなんだ。俺……ねえちゃんを、独り占めしたくて、たまらない。ねえちゃんに、俺だけを見ていて欲しい……。ねえちゃんが、他の男と一緒にいるだけで、たまらない……!」 その告白に、体中の血が徐々に熱を持ち始めた。 大好きな人に、独占したい程に想われるのは……こんなに甘美な悦びなのだと、はじめて知った。 独占されたい。 それも、また、恋という感情なのだろう。 己の想いに気付き、実感し……それまで霧がたちこめたようにもやもやしていた私の心は、突然に視界が開けた。 開けた視界の向こうに見えるものを理解した途端、私のそれまでの怖れは……知らないもの、見えないものを怖れる感情だったのだと、思い知った。 ……そう、霧の向こうに、私は、無垢な自分の恋心を見つけたのだ。 相手は、弟だけれど……血を分けた弟で、生まれた時から一緒に育ってきて……でも、それでも、なぜか純粋に愛おしいと感じてしまう。勿論、それは弟に対するものではなく、胸の痛みとときめきと……そんな恥かしいような感情を含んだ愛おしさ。 尽を想うと、胸が痛くなる。 尽を感じると、胸が躍る。 尽に微笑みかけられると、胸がときめく。 そんな、感情。 今まで、まともに恋はしたことないけれど……でも、尽へのこの感情が、自分の恋なのだと、わかってしまえる。 単なる、弟への愛情なんかじゃないと、理解できる。 尽が、好き。 尽を、愛している。 「……独占、してくれていいよ……私も、きっと、もう……尽しか、見られないから……」 私を抱きしめた尽の腕がぴくりと震え、更に私を抱きしめる。 「愛してる」 低い告白の言葉に、全身が痺れるように震えて……私は、泣いた。 なんだか、すごい幸せと安堵と……そんなものが一気にやってきたように、体の力が抜けて……尽の存在を強く感じて……自分が、解き放たれた気がした。 「周りの奴らがどう思ったって、俺、ねえちゃんを離さないから」 力の抜けた私の顎を持ち上げて……私たちは、深い口付けを、交わした。 見ようとしなかったものを真正面から見据え、あり得ない想いを達観した私は、もう、尽を怖いなんて思うことはないだろう。 ただ……私が怖れるとしたら、それは、いつ来るとも知れない『尽と別れる時』かもしれないけれど……。 おわり
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<言い訳とか>
訳の分からない話で失礼(^^;)。
これでも、それなりに手直しはしてますが…。
ま、とりあえず、ハッピーエンドって事で。
このねえちゃんは、うだうだ色々考えちゃう人みたいですね。
ま、実弟への恋なんて、普通ならうだうだ考えちゃうでしょうが。
つか、普通なら、有り得ない、ですがね。はは…。
(いや、だから、それがイイわけで……笑)