俺のねえちゃん

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 はば学の卒業式。

 ねえちゃんは妙にしょぼくれて帰ってきた。


 てっきり、俺は、告白してふられたからだ、と、思っていたんだが……。

 それが、驚いた事に、全然逆だった。
 ふられたのではなく、ふった、っていうんだ!
 しかも、その相手は、あの、葉月……!!!

 ねえちゃん、一体、何考えてるんだ? 正気か?

 あんなイイ男が、わざわざねえちゃんなんかに告ってきてくれたのに、それをふるなんて!
 高熱出してるんじゃないか?
 それとも、受験地獄から開放されて、意識がどっかにいっちまったのか!?

 卒業式後の追い出しパーティの準備にもそもそ取り掛かっているねえちゃんに、俺は、質問を投げかけ続ける。


 だっさ、あんまりじゃないか!?

 あの葉月珪をふるなんて、女のする事じゃないぞ!?
 葉月から告られるだけでも相当な異常事態なのに、それをふるなんて……天変地異の前触れとしか、いえないだろ!?
 世間の女たちが聞いたら、一体、どんな反応起こすよ!?
 葉月の、何が気に入らなかったんだ!?

 顔よし、スタイルよし、頭よし、性格だっていい人だ、って、ねえちゃん自身が言ってたろ? 高校生で売れっ子モデルなんてしてて、稼ぎもあるし……実家も結構資産持っているみたいだし。

 俺の調べでも、とっつきにくい所もあるけど、悪い奴じゃないって出てる。懐に入り込めば、結構イイ奴だ、って。

 だからさ、俺も、葉月の情報をねえちゃんに流してやってたんだけど!?

 あんな好物件、滅多とないじゃん!
 自分の手で逃がした魚は、でかすぎだとか、思わない?

 なぁ、なぁ、ねえちゃん、ねえちゃんってばっ!!!

 なんでだよ〜〜!!?

 あわあわと慌てふためきながら、ねえちゃんの周りをうろうろする俺とは対照的に、ねえちゃんは冷静……つか、ちょっと虚ろな感じで俺に微笑みかけた。

 微笑みかけて……でも、俺の言葉には一切応えずに……さっさと、追い出しパーティに出かけてしまった。

 一体、なんなんだ!?

 今まで、俺が知らなかっただけで、もしかしてねえちゃんって、男より女の方が好きだったりしたとか!?

 う〜〜〜!! 女心って、わかんねぇ〜〜!!!!





 ねえちゃんの卒業式の翌週は、俺の卒業式だった。

 ねえちゃんってば、高校卒業以来みょ〜に、様子がオカシイ。

 元々うちのねえちゃんって、元気つか、空元気つか、無駄元気つか……それだけが取り得みたいな所あったハズなんだけど……卒業以来、すっげぇ大人しい……つか、ブルー入ってる?
 何があったのか、何度問い詰めても、まったく俺に話そうとしないし……。

 本当に、何があったんだ!?


 俺の卒業式の日も、俺と両親を送り出しながら、なんとも複雑そうな表情をしていた。

 うちの能天気な両親は「思春期の女の子だから、色々あるんだろ」って簡単に済ませてるけど……普段、両親より俺の方がねえちゃんといる時間が長いんだ、俺、ねえちゃんの異常がそれだけじゃないって確信持って言えるね!

 むむむぅ……。


 折角の卒業式だってのに……卒業生代表、なんて、ご大層な役どころを演じなきゃならないのに、俺は、それに集中できてなかった、ねえちゃんの変な様子が心配で。


 まさか、俺たちがいない間に、自殺とかしてないよな!?

 とか、ひどく不吉な事も思ったりして……。

 色々考えながらも、俺は……ソツなく答辞を読み終えて盛大な拍手をもらう。


 ――ああ……卒業式なんか、早く終わらないかな!? ねえちゃん、大丈夫かな!?

 すました顔の俺が、そんな事を考えているなんて、きっと誰も気付いてなかったろう。

 式が終わり、体育館から校庭に出て……在校生の唱和が終わると白い鳩が空に向かって放たれる。

 なんとも、感動的な光景。

 さて……これで式は終わり、後は小一時間程度、卒業生と在校生、あるいは保護者同士の勝手気ままな交流会となる。更に、その後、指定の時間指定の場所で、二次会のようなものが行われる。さらにさらに、私生活で仲の良い友達同士、あるいは保護者同士が寄り集まって、お別れのイベントが……。


 ……って、面倒くせ〜〜〜!!!


 俺は、一刻も早く帰りたいんだよ!

 つか、帰らせてくれ。
 ねえちゃんが、心配すぎるっ!!!

 一応、生徒会長とかしていて、人望もあった俺は、やっぱり式後はそれなりに多くの人間に囲まれた。

 色々と話し掛けられたり、プレゼントをもらったり……人付き合いが上手い、というか、器用というか……俺は、それにひとりひとり愛想良く対処しつつ……やっぱり、頭の中には【帰りたい】の言葉が浮かんでいた。

 頼む、早く開放してくれ。


 が、とてもとても正直な気持ち。

 だから……一通りキリがつくと、ごく親しくしている数人の連れに声をかけ、他の人間が近寄りづらい雰囲気をわざと作った。

「玉緒、俺、ちょっと気になる事あるから、一旦家に帰るわ。俺の親、話に夢中だからさ、聞かれたらそう言っといてよ」


「ちょっと、なんで? 二次会には来るんでしょう? ここから親と移動した方がいいじゃん?」


 日比谷が言うのに、俺は、仏頂面で答える。


「色々、事情があるんだよ、能天気なおまえと違って」


「なに〜!? あたしのドコが能天気!?」


「まぁまぁ……。尽くん、二次会には来るんだし……いいじゃない。先に帰ったら? 僕から言っとくよ、尽くんの両親と、皆にも」


 おっとり言う玉緒に感謝しつつ、ぷりぷりする日比谷を無視しつつ、俺は、できるだけ人に気付かれないようにそっとその場を抜けて……足早に家路を急いだ。

 頼むからねえちゃん、無事でいてくれ、と、祈りながら。
 



 果たしてねえちゃんは……。

「尽? あれ?」


 リビングで朝見たパジャマ姿のまま、ぼーっとテレビを見ていた。

 大丈夫、なのか?

「どうして? 卒業式は?」


 きょとんとするその姿に、俺はふぅぅと、深く息を吐いた。

 走ってきて乱れていた呼吸も、徐々に落ち着いてきている。

「卒業式は終わった……ちょっと、気になる事あって先に帰ってきた……けど……」


 卒業証書の入った筒を放り出し、皆から貰ったプレゼントが入った紙袋を放り出し……俺は、へたへたとそこに座り込んだ。


「尽? ちょっと、どうしたの?」


「あ〜……ううん……大丈夫。ちょっと、疲れだだけ」


 ほっとして力が抜けたなんて、言えるか、格好悪い。

 まったく……。
 ねえちゃんってば、ねえちゃんってば……もぉ!

「あのさぁ……ねえちゃんも、二次会、来ない?」


「え? なんで??」


 本音は、この状態のねえちゃんを家にひとりで残しておくと、俺が心配でたまらないから、なんだけど、俺は平気な顔で嘘をつく。


「ひとりで家にいても、退屈だろ? 別に、会費払えば身内なら出てもいいみたいだぜ。実際、兄弟が来るって奴、結構いたし。あ、日比谷んトコも来るってさ。玉緒の所は、どうかな? あそこも仲いいから、来るんじゃないか? ねえちゃん、ひとりが嫌なら、珠美ねえちゃんにも声かけて、来たらどうだ?」


「え? 行ってもいいの?」


「?? 構わないだろう? どうせ、会費も親父達が払うだろうし」


「尽が、嫌じゃなきゃ……うん、行くっ! そうね、タマちゃんにも声かけてくねっ♪」


 あれれ?

 急に元気になったぞ??
 う〜ん、なんなんだ?

 けど、俺が放り出したプレゼントの山を見て、小首をかしげて……また、少し、沈んだ口調になったんだけど……。


「さすが、モテるね、尽って……」


「あ? うん、そりゃ……??」


「うん……すごいよ。私……」


 言いかけて、止める。

 ん? 一体、何?
 ねえちゃんの言葉の続きを待っている俺……けど、ねえちゃんは言葉を続かせず、大きく息を吸い、吐いた。

「二次会、何時からだっけ? 今から準備しても間に合うかな?」


「っ……あ、うん、まだ余裕はあるし……会場遠いから、多分、親父が迎えに来てくれると思うけど?」


「じゃ、張り切って、準備していこ〜! 尽の晴れ舞台だから、ねえちゃん、綺麗にしてくねっ」


 あ、無駄元気……ねえちゃん、復活か?

 でも……なんか……やっぱり……ねえちゃん、ヘン!?
 一体、なんだってんだろ……?
 分かんねぇよぉ!?



 二次会とか、その後の仲間内の飲食会とか(日比谷家や紺野家込み)、ねえちゃんはごく普通、普段どおりのねえちゃんに思われた。
 不自然なところなんて、全然で……。

 実はこっそり珠美さんと日比谷にねえちゃんの卒業式前後からここの所の様子を聞いてみても、ふたりとも揃って「え? 普段どおりだけど?」って、答え。


 俺の心配が杞憂じゃないのか、とも、思った。

 思ったんだ、ケド……。




つづく



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<言い訳とか>

3話完結。
一話一話が短めです。

尽、小学生。姉、高校生。
なんで姉の様子がヘンなのかは……最後にわかります(^^;)。

尽、ガンバレっ!(苦笑)

壁紙チェリーはチェリーボーイのチェリー(笑)。