永遠の少年(暗)・5
女がいる。 波打つ日溜りの髪をした、万緑の瞳の……あれは? あれは、アンジェリーク。 そう、オレの拾いっ子の、少女。 ………………いや、違う? 「あなたは、いつもそう。私の気持ちをはき違えて、自分勝手に決めてしまうの」 万緑の瞳を細めて、責めるようにオレを見る。 大人びた、女の表情で。 ――オレのアンジェリークは、そんな表情はしない。 「だから、私も……こうするしか、ない。あなたに誹られても、憎まれても、こうするしかないの。私は-------である前に、ひとりの女にすぎないのですもの……」 言葉は、いまいち不明瞭。 アンジェリークによく似た女は、苦渋に満ちた顔で瞳を閉じる。 「許して欲しいなんて、言わない。言わないから……お願い、私を探して。見つけて……そして、あなたに……」 ――……? 女は言葉を途切れさせ、はにかんだように微笑みかける。 そして、オレに近づき頬に手を寄せると、そっと、唇を近づける。 妙に生々しいぬくもりを感じて、オレは、目覚める。 宇宙船の中の、一時の夢。 冷や汗をかいている自分に気付いて、オレはくしゃりと髪をかきあげる。 あの娘と別れた事が辛くて見た夢だろうか? 分からない……けれど……。 夢の中のオンナは、それから、幾度となく、オレの夢を訪れて、同じ言葉を繰り返した。 その場面以外、前振りも、続きもない。ひたすら同じシーンをリプレイする夢。 そう、夢の中でオレの拾いっ子に良く似たオンナは、そのよく似た姿で、声で…… オレを責めて。 オレをなじって。 言いたい事だけ言って、消えちまう。 まるで、オレの心に、永遠に抜ける事ない杭を打ち込むように。 『おまえは、アンジェリークを捨てたのだ』 いや、オレ自身が、その杭を打ち込み続けているのかもしれない。 過ぎる歳月ごとに、胸に深く突き刺さる杭は、いつか、オレを突き破るだろう。 長い、長い時の流れの中生きてきたオレが、僅かに数年共にあっただけの少女との想い出で壊れて消えるかもしんねぇ。 ずっと探し続けている、こうしてオレが生きている理由や、呪縛を解く方法の事なんて、忘れ去ってしまうくらいに“アンジェリーク”という杭は、鋭く、深く、オレの心に突き刺さり、抉り続ける。 ――それでも……いい……あいつがいない世界で、生きていても、仕方が、ねぇ。 夢を見るたび、オレは呟く。 呟いて……いつか、杭がオレを突き破ってくれることを夢見る……。
なううぅ。 しなやかな身体をした緑の瞳の猫が、足元にすりよってくる。 餌の時間だ。 すでに、オレの一部になったともいえる旅の相棒に、先の惑星で買ってあった猫缶を与える。 先の惑星には1年いた。 ここの所の状況を考えれば長い方だ。 猫も大分地域になじんできちまったから、そろそろ潮時だと思い、とにかく当日定員の開いている宇宙船に無作為に飛び乗って旅立った。 あいつと約束している以上、この猫を手放すわけにゃいかねぇからな。 宇宙船の船室で、最低ランクのこの一室には、様々な人間が溢れかえっている。 その隅っこの方で、オレは猫が餌をがっつく様をじっと見るともなく見ていると、すぐ側の労働者風の男達が話している声が聞こえてきた。 「おめぇ、主星に行くんだろ? 前のトコよか、働ける場所はあらぁな」 「主星もいいんだが……おれぁ、エリューシオンにいこうかと思ってる」 「なんでまた、あんな小惑星に?」 「知らんのか? あそこは、先年内乱が終ったばっかでな、今ちょうど復興中で、労働者は引く手あまただ」 「そうか……じゃぁ、次の寄港地でお別れだな」 「ああ。おめぇは、予定通り主星行きか?」 「おう。知り合いに仕事、紹介してもらってるからな」 「じゃぁ、終点までか。ご苦労なこった」 「この汚ねぇ船室とさっさとオサラバできる、おめぇが羨ましいや」 男達の話題は、そこから船室がいかに汚いかの話題に飛んだ。 ――なるほど、この宇宙船は主星行き、か。 なら、そのひとつふたつ手前の惑星ででも降りるかな。 滑らかな手触りの猫の毛を撫ぜながらオレが考えていると、ふいに、声がかかる。 「君はどこに行くんだ?」 弾んだ清清しい声に、何故かオレは背筋が寒くなった。 顔を上げると、柔らかな茶色の髪と空色の瞳をした、顔かたちだけでなく体躯も良い青年が、オレの前にしゃがみこんでいた。 見知らぬ男だ。 見知らぬ男なのに、なんで、一目見ただけでこんなにムカツクんだろう? その、あまりに爽やかな笑顔のせいか? なれなれしい口調のせいか? それとも、この最低ランクの船室には不似合いな身なりの良さのせいか? 多分……全部、だ。 こいつの、全部が癪に障る。 オレは、男を睨み上げた。 なのに、男は動じず、僅かに肩をすくめただけで、自分のペースを乱す事無く喋り出す。 「俺は今から主星まで行くんだ。というか、知人からとっても大切な用を言い付かってね、それを果すために主星に帰る所」 「んな事、オレの知ったこっちゃ……」 小さく言いかけるオレを無視して、青年は続ける。 「でも、これがなかなか厄介な用事でね、結構困っていたりするんだな。俺、身体動かすのは得意だけれど、人の心のキビ、っていうのに対して、鈍いらしいし。……なんて、これは俺の年下の親友から言われた分析結果だけど、かなり当ってるんだ。あいつ、時々俺より大人びた考えするんだよな、昔から……って、俺ばかり喋ってるね。なんか、随分浮かれてるかもしれないな……はははは」 うるせぇ、奴……てゆーか、めちゃムカツク。 オレは、だんまりを決め込んで、その場に膝を抱えてうずくまった。 関わり合いになりたかなかった。 無視し続ければ、この青年もあきらめてどこか余所に行くだろうと思ったのだ。 が……。 「君も主星に行くのかな? それとも、途中下船? できれば、主星まで一緒に行ってくれるとありがたいんだけどな」 無視。 「俺、実は、一人旅ってほとんどした事なくて、今回も結構緊張しどうしだったんだ。その点、君は随分旅慣れてるみたいだね」 無視・無視。 「見たところ、君、まだ17歳くらいだろ? とすると、学生さんの貧乏旅行かな? なら、もし、特に目的がないのなら、俺と一緒に主星まで行ってくれたら、いい宿も紹介するけど、どう?」 無視・無視・無視。 「いい話だと思うんだけどなぁ……。ついでに、スモルニィのお嬢様でも紹介してあげようと思ったのにな」 無視………………できない。 スモルニィという言葉に、僅かに反応しちまった。 男は、それを見逃さなかったようで、含み笑いをしながら更に言葉を続けるのだ。 「その用を言いつけた知人、実はスモルニィの教師。いい話だと思わないかい?」 スモルニィ……あいつは、アンジェリークは、何をしているんだろう……元気に、しているのだろうか? 膝に顔をうずめたまま、オレが自分の考えに没頭し出すと、青年は、突然、意外な……意外すぎる餌を、オレの前に吊り下げた。 「その知人の教え子の特待生に、とてもかわいい子がいてね……俺、いいかなぁ、なんて思っているんだ。確か、名前はアンジェリークだったかな?」 思わず、反射的に顔を上げちまった。 鳩が豆鉄砲食らったような顔、というのは、まさしくこん時のオレの顔だったのかもしれねぇ。 青年は、そんなオレの態度をどう思ったか、少しクセのある髪の中にくしゃっと手を入れて、瞳を細めてくすくす笑い出した。 「……いいね、その反応。ふぅん、おまえにもそんな反応がでたんだ」 まるで、旧知の友人に対するように柔和になった口調にこん時のオレは気付かず、ひたすら癪に触る青年を、睨みつけるだけだった。 「まぁ、おまえが来ないなら、いいか……。俺、なんとかひとりでもやっていけるかもしれないし……。そうだな、帰ったら、ご褒美にアンジェリークとのデートでも斡旋してもらう、って思えばな」 「……!!」 オレは……咄嗟に何か言おうと大きく口を開きかけた自分に驚いた。 何を言おうと思ったのか……自覚はねぇが、黙っちゃいられなかった。 年頃になっているだろうアンジェリークが恋愛をするのは自由だ。 けど…… この目の前の青年のように、整った顔立ちとしっかりした体躯の青年に言い寄られて、嫌な気分のする女は少ないかもしれない。 そう思うと、無性に腹がたった。 オレの拾いっ子、アンジェリークがいつか恋愛し、結婚し……ずっと、当たり前にそうなるだろうとオレ自身考えていたその近い未来の現実を、突然目の前につきつけられる事で、妙にリアルに実感しちまって……嫉妬したのかも、しれない。 実際、この目の前の男がアンジェリークと恋愛するかどうかは分からねぇのに……。 「ああ、そうしよう。ちょっと気分が楽になったぞ、うん。帰ったら、早速、レストランの予約でもして……」 立ちあがって、オレに背を向けて歩き出した青年を一瞥して、 ――オレには、関係ねぇんだ……。オレは、もう、あいつの人生には立ち入らないんだから……あいつを、捨てたんだから……。 そう、自分に言い聞かせたものの、雑多な人の雑多な声が入り混じる船室を後にしようとしかかった青年が、ふいに振り向いて、人と人の間を縫って俺を睨むように見つめた。 ざわめきにかき消されかけたその言葉。 「俺、ずっと前からあの子に焦がれていた。だから、今度こそ、やり直せるかもしれないって、本気で嬉しいんだ。なぁ、俺の気持ち、おまえも気付いてたよな、ゼフェル?」 オレはあいつに自分の名前なんぞ名乗っていない。何より、その内容は、まるで、以前のオレを知っているかのようなものだった。 「……!?」 驚いて、思わず立ちあがったオレを見て、小さく笑った青年はそのまま船室を出ていった。 勿論、オレは、雑多に集まる人を押し分けてそこを飛び出し、青年の後を追いかけたが……青年の姿はもう、どこにもなかった。 宇宙船を一通り見て回ったが、やはり、青年の姿はない。 一部立ち入りを制限されていた、VIPルームの区画だけは確認する事ができなかったが……もし、青年がそちらに部屋を取っているのだとすると、まず、会う事はないだろう。 オレは、歯噛みしながらも、青年を探すのを諦めるしかなかった。 けど……けれど……。 「主星……あいつのいる所……」 一旦、気になったら、後はもう……。 「絶対に、行くまいと思ってたんだが……」 青年を、青年の言葉を思い出して、オレは、ぎりっと唇を噛んだ。 「……一度だけなら……諦めも、つくかも、しんねぇ……」 それが、自分を甘やかしたいい訳にすぎないと自覚しても……その考えに胸踊る自分をたしなめることは難しかった。 そうして、オレの次の目的地は決まった。 「なぁ、おまえ……もしかして、近いうちに……。……いや、なんでも、ねぇ……」 寝転んだオレの頭の横に丸くなった猫に語りかけ、やめる。 会うわけではないのだ。 会ってはいけないのだ……絶対に。 なのに……どうして、こんなに胸が弾むんだろう。 あいつに、会うことを期待しているように……。 「あいつに見つからねぇように、ちょっと覗くだけなら、構わねぇだろう……たぶん」 目を閉じて、思い出すのは愛しい拾いっ子との思い出……。 その日は、日溜りと万緑のオンナが夢に現れないかわりに、無邪気なあいつがオレに笑いかけた。 ――ゼフェル、大好き!! 今まで見た事もねぇような見事な花畑の中で幸福に笑う少女は、記憶に残る別れた頃より随分成長していた……今のあいつが、ちょうどこんくらいになっているだろうと思われる程に。
それから、主星までは三日かかった。 その後、例の男を探すのに船内をうろうろしてみたが、結局あの男を見つけ出す事ができなかった。けれど、あの男の目的地が主星だと言うのならば、宇宙港ででも見つけられる事ができるかもしれない。 そう思ったオレは、主星に到着すると、真っ先に宇宙船を出て、男が下船するのを待つ事にした。 果して、男は……。 「あれ? もしかして、俺を待っていてくれたのかい?」 爽やかにご登場だ。 「おめぇに聞きてぇ事が山程ある」 睨みつけるように青年を見上げると、青年は動じることなくくすくすと笑った。 「それは、ちょうど良かった。俺も、おまえに聞きたいことが山程あるんだ」 まるでオレを探るように、明るい青の瞳を細めて、じっとオレを見る。 そんな男の態度が、妙に腹立たしい。 「外に迎えが来ているはずだな。スモルニィに行く前に、おまえと話がしたい。どこか静かな所に場所を移そう」 男は、言いながら、人ごみの中に見つけた迎えの者に手を振って呼び寄せて、荷物を持たせた。 ――こいつ、何モンだ? まだせいぜい二十代半ばほどだと言うのに……どっかのバカボンか?(馬鹿なボンボンの略) いぶかしむオレの荷物――とは言っても、小さなショルダーバックひとつと猫の籠だけだが――も持たせようとするのを、オレは拒否し、警戒心を全身に表しながら青年の後に続いた。 「……げっ」 「突っ立っていないで、乗ったらどうだい? ゼフェル」 しかも、車はといえば……黒塗りの某高級リムジン。当然、さっきのお迎えが、運転手。 更に、オレは警戒せずにはいられなかった。 こんな奴が、オレに何の用があるというのか……というより、こいつは、なんでオレを知っているのか……。 気に食わないだらけの青年だったが……こんな疑問を抱えたまま、放っておくなんてできるわきゃねぇ。 しぶしぶと、ふかふかのソファーに腰を落すと、ゆっくりと車は走り出した。 「さて……」 青年はゆっくりと口を開く。 「俺も、聞きたいことがあるんだけど……おまえの質問にこたえる方が先かな?」 「あたりめーだ……そっちだけ、オレの事知ってるなんて、おかしいぜ」 いくら広いとはいえ、密閉された慣れない場所で、居心地が悪そうにするオレに気付いて、青年は少し窓を開けた。 風が、オレ達を取り巻くように流れ込んでくる 「いい風だ……」 瞳を細め、風に身を任せているような青年。 「さて……それじゃ、まずは名前から、かな?」 頷くオレを確認し、青年は微笑む。 「俺の名は……ランディ」 「ランディ?」 失ったはずの記憶に引っかかって、鈍い頭痛がオレのコメカミに走る。 「仕事は……まぁ、公務員、といったところかな。昨年、以前の仕事を引退して、この主星の政府関連の仕事を任されるようになった……もっとも、実質は、仕事らしい仕事はしていないんだけどね……」 「以前の仕事?」 「ああ。随分幼い時から、否応なく決められた仕事だった……俺としては、結構楽しかったんだけどね。けど、在任中に、何度か大変な事態に巻き込まれて、力を使いきって、予想以上に早い引退になってしまったんだ……。もっとも、おまえよりは随分マシだったけどね」 「……は?」 「言ってる事分からない? ん、まぁ、それならそれでいいよ」 「おめぇ……!?」 失ったオレの過去を知っているのだ、この男は!! そう確信したが、知っていながら的確な答えを教えようとしない男に、オレは苛立つしかなかった。 「もう、おめぇの身の上話は結構だ! それよか、オレの事を……どうしてオレがこういう状態になっちまったのか、おめぇは知ってるんだろ!?」 「う〜ん……知っているというより……つい最近知らされた、というのが正解かな」 「だったら、知っているだけの事を……」 「その前に……もうちょっといいかな?」 「……! てめぇ……!!」 いきり立つオレを制するように、青年は柔らかく微笑んだ。 「俺は、おまえの事情を知ってはいる。けれど、俺から全てをおまえに話すわけにはいかない。何故なら、それがおまえにかけられた呪縛だから。おまえだけでなく、周囲の者さえ、その呪縛にかけられている。それが、呪縛をかけた彼女の望みだったんだ」 「……!!」 いつか……そう、アンジェリークを拾ったばかりの頃、出遭った神官のオンナの言葉に、それは似ていた。 「俺が話す事で、おまえの記憶は戻らない。むしろ、俺が話す事で、おまえが本当におまえを取り戻す時の弊害になり得るんだそうだ……。それでも、おまえは、聞きたいか?」 挑戦的にも見える、真っ直ぐな青年の眼差しに、オレは感情を抑えきれない。 「……なら、なんで、オレに構うんだ!?」 イライラして、青年の胸元に掴みかかると、青年は唇を歪めて苦笑した。 「おまえが、変わらないからだ。記憶を失ってなお、おまえが変わらないから……俺たちは、空回り続けるおまえたちを、いつまでも見てはいられない、待ってはいられないんだ」 また、ワケのわからない謎かけに、オレは振りまわされる。 「……オレに……オレにどうしろってんだ!!? わけ、わかんねぇ……!!!」 たまらなくなって、髪をくしゃくしゃにかきむしった。 もどかしい。 ただ、もどかしい。 記憶の破片は確かに残っていて、時折オレを苦しめるのに……記憶は戻らない。戻る術が分からない。 なのに、こいつやあのオンナ神官……夢の中のオンナも、オレに自分で記憶を戻すんだ、と、やけにせっつく。 「ムリだ! んな事言われたって、ムリなもんはムリだ!! おめぇら、勝手にオレを責めて、急かして……。オレには、何がなんだかわかんねぇんだよ! オレだって、出来る事なら、こんなもどかしい事、さっさと止めにしてぇんだ……!! 何もわかんねぇオレに、おめぇら、勝手に期待すんじゃねぇよ!!!」 混乱していた。 こんなに感情を乱すのは、久しぶりだったかもしれない。 そんなオレを、青年は見守っていた。 冷静に、オレが落ちつくのを待っていた。 オレのタイミングを知っているように。 言いたい事を叫ぶように言いきって荒い息をするオレに、青年は落ちついた声で言葉をかける。 「ひとつ、言える事は……自分の心に、もっと素直になる事だ。おまえは、おまえのやりたい事をやればいいんだ」 明るい青の瞳でじっとオレを見つめる。 「おまえが、おまえに還える事を望むのなら、な……」 オレの興奮を収める冷静な声……オレは、昂ぶりだけは落ちついた。 もっとも、わけのわかんねぇ事に関する混乱だけは、相変わらずオレの中で暴れていたが。 ひとつ、ふたつ、ゆっくりと息をついて、オレは落ち着きをとりもどしていく。 しばらく、車内には静かな沈黙が広がった。 車は、宇宙港から出て主星の主都市の郊外を回っているようだったが、青年が運転席と区切られたガラスの壁を数度ノックすると、向きを変えて目的地に向かって走り出した。 オレは、すうっと息を吸い込む。 「……おまえが、オレに聞きたい事って、なんだ?」 真っ直ぐ前を向いて何か考えてた青年は、斜向かいにオレを見、再度前方に視線を戻した。 「おまえは……記憶をなくし、長い時を生きてきて……幸せを、感じた事があるか?」 「……?」 質問の意図が、わからない。 ――幸せ? そんな事……あいつと一緒にいた時間だけだ……。 答えはすぐに用意できたが、青年が何を思ってそんな質問をしたのかがわからず、青年の様子を探ってしまった。 青年は、横目でそんなオレを見て、小さく笑った。 「答えが、分かっているならいい。敢えて言えとは言わないよ」 「は……?」 やはり、青年が何を言わんとしているのかが分からず、戸惑ってしまうオレに構わず、青年はわざと明るい声を出す。 「ところで、今スモルニィに向かってるんだが、おまえも乗っていくか? それとも、行く所があるのなら、送っていってもいいが、どうする?」 スモルニィに? あいつの所に? ……行きたい、けど……こんな混乱を抱えたまま、あいつの所に行けやしねぇ……。 「そこらへんに止めてくれ……歩きたい……」 オレは、適当な所で車を降りて、青年に別れを告げた。 青年は……じっとオレを見つめた後、爽やかに笑って「またな」と、言った。
そいういや、もうすぐだな。 オレが、あいと出遭った時期。 あいつとの出会いから、12年。 そのうち一緒にいたのは7年。 たった12年。そのうちのたった7年。 けど、その7年が何より幸せだった。 そして、あいつと別れてからの5年が、もっとも辛かった。 籠から出した猫は、いつものように、オレにつかず離れずついてくる。 オレの足は自然と主星の中心……スモルニィのある方向に向かっていた。
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<言い訳>
ちゅーわけで、成長したあの方、ご登場。
暗いお話しの中、すこぅしコミカルになりました。
でも、この方、かなり成長してます(^^;)。外も、中も。
上手い具合にこの人のお師匠様(笑)要素が加わっている感じです。
(とむねこ好みの男に成長させました・・・・・・うふふ。
=▽=;)
それにしても・・・・・・このお話、終わりに行くにつれて、どんどん長くなってますね〜。
いえ、一応、次回で終わりなんですが・・・・・・けっこう、お尻でっかちです(^^;;)。
なんつーか・・・・・・推理する要素を小出しにしすぎて、
終幕でやっと謎を全て披露する、最低な推理物の様相ですね(T_T)。
ストーリ練らずに、勢いだけで書き出すので、こんなもの(自爆)。