| 千尋の眠れない夜 4 |
あああああ……ハクって、どうしてこうガードが固いのかしら!? これじゃ、いつまでたっても、ハクが男の子だって確かめられないじゃない? おかげで、わたし、ここのところ毎晩、ひっどい悪夢にうなされてるのよ!! え? どんな悪夢かって? ああ……口に出すのもオソロシクて、リンさんにも誰にも話していないのよ……ていうか、リンさんに話したら、大喜びされそうでそっちのが怖いんだけど。 えーと、つまり……ハクが、出てくるの。 や、ハクが出てくるだけなら、そりゃ、もう、嬉しいったらないんだけども、そのハクの様子というか、格好と言うかが……なんつーか、アレなわけで……うにゃむにゃ。 ……この間の夢に出てきたのは、桃色の水干姿。あのおかっぱ頭の両サイドに、そりゃもう可愛らしい、水干とおそろいのリボンを括り付けて、唇なんかほんのりピンク色してて、にっこり微笑まれた日にゃ……。 ……その前の夢に出てきたのは、湯婆婆とお揃いのあの青いドレスを着ていたわ。勿論、オプション装備もお忘れなく。どきついシャドウとマスカラは勿論、黄色のでっかいイヤリングだとか、指にぎらぎら光る宝石類だとか、あまつさえあのナイスな玉ねぎ頭に、白い首筋に垂れるおくれ髪ときちゃ……色っぽいでしょ!? 青いスカートの下から覗く、真っ白なペチコートとか、きちんとクビレのあるウェストとか考えたら、等の湯婆婆よりもお似合いだなんて思っちゃったりしたわ! ……でも、昨日の夢が一番ショッキングだったわね。私、いつも通り仕事してるのよ、釜湯のお掃除番だったわ。でね、そうこうしているうちに、何時の間にか油屋が開店してて、お客さんが湯場に入ってきたの。あ〜……おしら様あたりかな。もちろん、お背中流しの湯女のおねぇさんが何人か一緒だったんだけど、湯女のおねぇさんにしては珍しい、短めの髪型――いわゆる、おかっぱ頭の人がいて、「もしもし」って声をかけたのね。で、振り返った、その、顔は…………あうっ。しかも、湯女独特の、着物のあわせから覗く、せくすぃばでぃだったりもして…………はううっ。 冷や汗かいて飛び起きちゃったわ。 これなら、まだ、坊(人間姿)とお揃いの格好したハクを見るほうがマシだわっ!!!(いや、それはどうかな……) つーか、他にもアレやコレやな夢をみたりもしたんだけど……。 ――やっぱり基本はコレでしょう。煌く清純、幅の広い襟が風になびく、セーラー服! ――眩いばかりの白! 溢れる清潔感。優しい微笑みに癒されたい、白衣の天使! ――体にぴったりしたライン。その紺色は清く正しい心を引き締める。その手にした手上で逮捕されたい、ミニスカポリス! ――レースをたっぷり使ったお洋服は少女の夢! 頭に尖ったお耳、おしりからは可愛い尻尾、洗いこまれた純白のエプロンつけて、お盆片手に「いらっしゃいませ(ハァト)」。キャットガールのウェイトレス! ――片手にパラソル、体を覆うのは、体表40パーセントにも満たない布地! カメラ小僧も大喜び! 超ハイレグレースクィーン! ありとあらゆる、男の浪漫的夢を見たような気がするわ。 しかも、その全てにおいて、当然、ええ、そりゃもう、当然、ハクがそれを着ているのよ。 想像してみて!!
…………………十分、妄想いただけましたでしょうか? うう〜ん、なんだか、どれも似合いそうで怖いんだけども…………って、え? わたしの夢って、おやぢ臭すぎる? 気のせい、気のせい。だって、わたし、ローティーンの少女だもの……うふっ。 ――――えーと………………それはともかく。 …………あ〜もう……どうにか手っ取り早く、ハクが男の子だって証明できる方法はないものかしら? ええーと……ううーん……。 でも、考えても埒があかないかも。やるべき事は一通りした気も……そのどれもが成功しなかっただけで。 ああ〜〜、あと、私に何が出来るっていうの!? …………(考え中)………。 …………………………(考え中)……………………。 あ、ねぇ、そもそも、私が自分だけの力でハクが男の子かどうかを確かめようとしていたのが、間違い?? いっそ、知っていそうな誰かに聞いてみるべきじゃない!? そう、そうよねっ!! 私って、あったまいいっ!!! (「最初から、そうせいやっ」と、突っ込みください) 誰に聞けば良いかしら? ハクと付き合いの長そうな釜爺なんかいいんじゃない? そう、善は急げ、だわっ!!! ……と、喜び勇んでボイラー室に駆け込んだんだけど……だけど、だけどぉぉぉっ!!! 私、また、とんでもないものを見つけてしまって………ああああああああ〜〜〜!!! だって、だってぇぇ……。 「千尋?」 ハクが、いたの。 え? って、ハク……かな? ハク、だよね……多分。 え、うー……ううん、ハク…………な、わけ、ないよ……ね? これが、目の前のコレが、ハクなわけ、あるはずないよ、ね……? あははははっ。 そうよ、ハクなわけないじゃない! もう、私ってば、大カンチガイ野郎なんだから〜、まったくぅ! そうそう、コレが、この…………この、綺麗な女の子が、ハクだなんて……女の子……女の子…………そう、真っ直ぐな黒髪を頭の両サイドで少しだけ束ねて組紐で結んでて、桜と薄萌葱の重ねの単と袴をはいた、女童の格好で……。唇もほんのり赤くて、おしろいなんて塗っていて……。 「千尋?」 ……なんて、よく知った声で、よく知った緑の瞳で問われても、さ……うふ、うふふふふふふ。 ハクなわけ、ないじゃぁ〜ん♪ てへっ。 私ってば、ホントにもう、おっちょこちょいさんっ。 これもきっと、いつもの夢の続きなんだわ。 なぁんだ、夢、だったんだ。 そう、夢。 きっと、絶対に、夢………………………なん、だわ……。 「千尋? どうした、千尋!?」 どんどん目の前が真っ暗になって、どこか遠くでハクが呼ぶ声がしたけど、きっと、これから目がさめるのね、私。 そうしたら、いつものハクが、凛々しいハクが、目の前にいて、私を起しにきてくれてるんだわ。 きっと、そう。 つづく |