Dragon in mating season
前編

(和訳して、意味の分かる方だけお読みください(爆)<や、別に怪しくないですけど)


 春……陽射が暖かなまろみをもって、全てのものに降り注ぐ季節。

 木々の芽はふくらみ、冬眠していた動物たちは目を覚ます。そして、咲き乱れる花々の上に、虫が飛び交う。

 なんと、心踊る季節。

 

「春、だねぇ……」

 学校が半日の今日、帰って来てから家でのんびりと過ごしている千尋。

 ぼーっと窓の外の景色を見て、のほほんと呟く。

 とにかく、うらうらとして気持ちがいい。

 つい先ほど、おいしいケーキとおいしい紅茶で小腹を満たしているせいもあって……カクン、カクン、と舟をこぎ始める。

「あ〜……」

 どんどん意識が遠のく。

 読んでいたはずの本が、パサリと乾いた音を立てて床に落ちる。

「も……ダメ……」

 ベットの上、という事が幸いして、千尋はそのまま意識不明………。



 なぁあう。
 あああぅぅう。
 ……ギャ、フニャゥ!!
 アアアアゥ!



「??」

 奇妙な声で目が覚める。

 瞼を開ければ……真っ赤な夕日。
「あ……もう、夕方?」

 フギャアアアァァア!
 どたどたどた……。


 すぐ傍で激しい物音。

 そして……。

「あ!?」

 屋根の上から、猫が降ってきた。

 なあああぉう。

 どうやら……恋の争奪戦だったらしい。

「……あ……そっか、ハル、か……」

 そう、春……動物たちにとっては恋の季節である。

 春と秋、年に二度だけの恋の季節。
 一年中発情期の人間とは違い、この年に二度だけの季節を、動物たちは種族を残すためにと賢明に過ごす。

 ぁああぁうん、なぅぅ。

 勝者の猫が、雌に激しいラブアタックを繰り返している甘い声が聞こえる。

 聞いているこっちも赤面してしまいそうだ。

 と、いうか、思春期真っ盛り16歳の千尋は、顔を真っ赤にした。
 たかだか猫の恋だけれど……恋する乙女は、自分の恋を思い出してしまっていたのだ。

 ……恋する人。

 週末にしか会えない、恋人。

 アルバイト先の、上司なんだけれども……。

「えっ!? あっ、ああ〜〜! そうだ、バイト! わっすれてた!!」

 時計を見ると、午後5時過ぎ。バイトは5時半から。

 ぎりぎり……間に合わない!?

 慌てて身繕いして……寝癖を直して……一応、恋する人に会うのだから、身支度はきちんとしたい……けれど、時間が、ないっ!

 アレコレしているうちに……すぐに、5時半に。
 慌てて家を飛び出すけれど、もう、間に合わないのは確実。

「ううっ……怒られる、かなぁ? 怒られる、よね……?」

 バイト先への道……奥深い森を自転車で走りながら、千尋ははあああっ、と、溜息。

 怒られる事を考えたら、行きたくない。けれど、恋しい人には会いたいし……って、遅刻して怒るのは、その恋する人なんだけれど……。

 自転車で、数分……余裕で5時半は超えている。

 バイト先に続く入り口のトンネル……そこにたどり付き、自転車を降り……気が重いながらも、トンネルの中に歩を進めようとしたら……。

「遅い!」

 すぐ背後から、声。

「え?」

 振り向くと。

「ええっ!?」

 上司が……そう、千尋の恋する相手が、いた。

 肩にかからない程度の黒い直毛、色の白い整った面立ち……緑の瞳、切れ長の涼しげな目つきをした……千尋よりいくつか年上の少年。

「どうせ、春になって暖かいからって、居眠りでもしてたんだね?」

 顰め面で千尋の図星を指す。

 しばらく、言葉に詰まってなにも言えず、俯く千尋。

 でも、沈黙が重くて……いい訳を……。

「だっ、だって……あんまり暖かいし……」

 いい訳になっていない。

 そして、また沈黙。

 千尋は、相手にじぃぃと見られているのを感じて……脂汗が顔中にた〜らたらと滴り落ちるような気分を味わう。
 で、いたたまれなくなって、思い付いた事を口走った。

「なっ、なんで、ハクはここにいるの? もしかして、私が遅刻しちゃったから……その、怒りに、来たの……?」

 まったく、思い付いた事、である。
 自分でも、言った直後、間抜けかも……と、思った。

 なんとなく、周囲の空気が震えた気がして、千尋はそっと顔を上げてみる。

「え……?」

 目の前に、肩を震わせて笑う上司が……ハクが、いた。

「ち、千尋……いくらなんでも、わざわざ遅刻した部下を怒りに出向くほど、暇じゃないよ」

 さもおかしそうに、目尻に涙なぞためている。

「え? じゃぁ……」

 きょとんとする千尋を真っ直ぐにじっと見る。

 千尋が顔中をくまなく真っ赤に染め上げるほど、しつこく。

 そして、言う。

「……逢引の誘い、って言ったら、千尋は断るかい?」

 あいびき……逢引って……。

「あ……」

 言葉の意味を理解して、千尋は、今度は全身を真っ赤に染めた。

「だっ、だって、だって……え、と、お仕事は……」

「今日は、お休みだ。私共々、ね」

 にこっと笑う。

 そして、まだまごまごしている千尋を下から覗き込むのだ。

「千尋は、嫌なのか?」

 じっと……その美しい瞳で見つめられて……上がりまくった千尋は、言葉なく、ただ激しく首を振った。

「そう……良かった」

 満面の笑みをして……何をするのかと思えば……突然、千尋を抱きしめた。

 勿論、千尋は……血液が脳に急上昇! 脳溢血寸前!!

 バイト先「油屋」に普段焚かれているお香の香りが、かすかにハクの服や髪からして……千尋は、更なる眩暈を覚えたりする。

 今日のハクは、何やらおかしい。

 その事実に気付いた時には、もう、遅かったんだけれども。



つづく

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