★骸骨騎士様SS

骸骨騎士様、異世界のそれから
【6】

<愛し合うという事>

「・・っ、ぁ、だ、だめ、待って・・・っ!」

 深く長いキスを何度も交わして、互いの気持ちを感じ合って。
 それがごく自然な流れのように、アークの手と唇が少々乱暴にアリアンの体中を愛撫しだした。
 彼から触れられるたび、アリアンの体の奥底から熱が沸き上がって来る。
 未知の経験ながらも、アリアンはそれを気持良いものだと感じていた。愛する男に求められる、肉体を弄ばれる事はこんなにも幸せな事なのだと。

 けれど、堅くて熱いものが自分の足の間に押し付けられて、アリアンは体を強張らせた。
 この先に何をされようとしているのかは、分かる。経験はないけれど、知識はある。
 ・・・だから、怖くて。
 望んでいたはずの事で、嬉しいのに、嫌じゃないのに、初めての行為に怯えを感じてしまう。

 涙目で見上げると、小首を傾げて自分の様子を伺う紅い眼差しに遭う。

 理性を欠いたようにも見える今の様子は普段の彼ではないようにも思えるけれど、彼が『アーク』であるのは間違いない。
 直感が、心が・・・体が、彼を愛する男であると認識している。

「・・・っ、わ、私、その・・・初めて、で・・・」

 エルフ戦士の女先輩たちから、この行為の初めてが辛い事を聞かされていた。しかも、アークのそれは、多分、かなりの大きさで・・・それが自分の中に入るのかと思うと、さすがに怖くて。
 未知の行為への恐れと、普通ではない・・・発情したような状態に見える彼に無茶をされかねない事への警戒もあって、おずおずと口にせずにはいられなかった。
 彼が完全に理性を手放していない事は分かるから、きっと、聞き入れてくれると思って。

 彼女の言葉に、アークは少しだけ目を見開いて眉根を寄せた後、小さく「そうか」と呟いた。

 どういう反応なのだろう。
 アリアンが考えるより前に太腿に宛がわれた彼の手に力が入り、腰から下が浮き上がる形で固定されたかと思うと、そこに、触れてくるものがあった。

「ひゃ・・・っ!? やっ、だ、だめっ!」

 視界の中に入る光景に、再び静止をかけずにはいられなかった。
 けれど、今度は止まってくれなかった。

「あっ・・・あ、やっ、そこっ・・・やだぁ!」

 唇で、舌で、指先で、今まで誰にも触れさせたことのない部分を舐められ、吸われ、刺激され、初めての感触にアリアンは身もだえずにはいられなかった。
 彼から与えられる刺激は、決して嫌ではない。けれど、今まで感じたことのない体に走る感覚が怖い。
 それが怖いと思ってしまうのは、きっと、飲酒時に感じる酩酊感に似たものを思考にもたらすから。

 彼の荒々しい息遣いと、ぴちゃ、くちゅ、と、粘ついた水音が耳に届く。
 何も考えられない。
 与えられる刺激に集中してしまう。

「あっ、あっ、やっ・・・やぁ、も、だめ、ひぁ、っ」

 意味をなさない言葉が勝手に唇から出て来てしまう。
 自分が自分ではないように感じる。
 何もかもが、怖い。
 けれど・・・涙で霞む視界の中に見える、自分にこの刺激を与える相手を認識すると、怖さが次第に快感に置き換わってきた。

「っく、くぅ・・・アー、くぅ・・・ひぁ、っ・・・、んっ、やぁぁ、っ!」

 喘ぎに彼の名前を乗せると、一番感じる部分に彼が強く吸い付いて来て、アリアンは軽い絶頂感を初めて経験し、意識を飛ばしてしまう。

「・・・かわいい」

 笑いを含んだ彼の低い声に反応できずにいると、今度は中に、彼の太い指が入って来て。

「狭いな・・・少々痛いかもしれんが・・・」

 粗い息をつきながら、低く呟く声で彼は言う。
 最初は彼女の中の感触を確かめるように、ほぐすように動いていた彼の指は、次第に激しく動きだし、ぐちぐちと卑猥な水音が響き始める。

「はっ、やっ、あっ、あっ、あん、あぁ」

 彼の指の動きに合わせるように、自然と漏れてしまう声をアリアンは自分でもぼんやりと聞いていた。
 思考には薄い紗がかかり、肉体に与えられる刺激を感じるだけで精いっぱいになる。
 愛する男が、今、自分の肉体を翻弄している。
 それは、なんという幸せなのだろう。

「アー、ク、んっ、はっ、あっ、アークぅ・・・」

 愛しい男を感じたくて、呼びかけて彼に手を伸ばすと、動きを止めて、その手を掴んでくれる。
 重ね合わされた汗ばんだ掌から、互いの脈動が伝わってくる。

「・・・アリアン」

 彼の低い声に名前を呼ばれるだけで、思考に痺れが走る。

 繋いだ指先を指先で強くなぞられた後、手が離されると、アリアンの中に挿入された指が2本に増えて蠢き始める。
 キツくて痛くて苦しい、けれど、その指は彼女にこれまで以上の熱をもたらす。
 彼の導きで快感を得たアリアンの肉体が分泌する液体と軟肉が、その指の動きで激しくも淫猥な音を奏でる。
 指だけではなく、彼の舌と唇が彼女の感じる部分を舐めて吸い上げて、更に彼女を追いつめていく。

「やっ、あぁぁ、ん、やだ、怖いっ、ん、あっ、ひぁ、あぁぁぁぁっ」

 先ほどの比ではない感覚の波が、アークに嬲られている部分から全身に広がって、己を見失う感覚に恐怖を覚えながらも、アリアンは意識を飛ばした。

「っ、はぁ・・・すまん、アリアン殿、我も・・・」

 苦し気に呻くようなアークの声が耳に入り込んでも、体中の力が抜けてしまったアリアンは、反応を返せなかった。
 そして、再び、彼女の足の間に押し当てられる熱い何か。
 蜜で溢れたそこを熱いそれが何度かゆっくりと往復した後、固定されていた脚が抱え直され、脚の間に押し当てられていたそれが、動き始めた。
 彼女の濡れた軟肉の上を、熱く堅い剛直が往復する。

「ひゃっ、あっ!」

 本能的に挿入を感じて体を固くしたアリアンだったが、予想外のその刺激は先ほどまでのそれよりも強く彼を感じ・・・再び快感の強い波を得て、抑え切れない喘ぎ声を漏らしてしまう。
 彼の熱を持ったそれが自分の敏感な場所を激しくこすり続ける感触は、激しい情動を彼女にもたらす。
 喉の奥から溢れる声が止まらない。
 彼から与えられる刺激に、腹の奥が疼き続けて、彼の動きに同調するように腰を揺らしてしまう。

「っ、やっ、あん、あっ、あっ、っ、あーく、あーくぅ・・・んぁ、あっ、あっ」

 彼の乱れた呼吸と低い呻き、彼と自分が立てる卑猥な水音、自分のあられもない喘ぎ声。
 耳からも快感が押し寄せる。

「はっ、あぁ、アリアン・・・すまない、っ」

 何度も繰り返される彼の謝罪の言葉。
 普段、理性的すぎるほど理性的で、落ち着いた思考をする彼が、己の理性の飛んだ行動を自覚しているが故の謝罪なのだ、と、アリアンもぼんやりと理解している。
 だが、彼からの行為を自分も求めていた。むしろ、自分の方が彼を誘惑した。
 だから、その言葉を否定したいのに、言葉が出て来てくれない。

「アーク、っ、はっ、すきっ、大好き、だからっ・・・んっ、あんっ、ひゃぁん!」

 自分の想いを伝えるのが精一杯だった。
 彼から与え続けられた律動で彼女は三度意識を飛ばして、自分の腹に何か熱いものがかかり、彼の低い呻き声と荒々しい息遣いが近くにあるのをぼんやりと感じていた。

 ただ、何度も意識を飛ばすほどの快感を得たのに、未だ満たされる事がない腹の奥の疼きが、彼女を切なくさせていた。

「・・・あーくぅ」

 自分のすぐ上で粗い息をついている彼の首筋に力の籠らない腕を絡め、薄く微笑んだ。
 眇められた彼の紅い瞳が、自分を見つめている。
 彼の視界にいるのは、自分だけ。それが、嬉しくて。
 彼の武骨な手が頬に伸びて来て、やんわりとそこを撫ぜ、薄い唇が緩く弧を描いた。
 自分の求めのままに唇を重ねてくれる彼が、愛おしくて。
 体に入り込む彼の熱が、疼きをより強くしていく。

「・・・アーク、お願い・・・して、欲しいの・・・」

 脚をもじもじ動かして、そう懇願してしまう。
 今は羞恥心も希薄になっている。
 ただ彼が欲しくてたまらないから、湧き上がってくる本能のままに口にする。
 それが、エルフの女の性である事は、自覚していた。

「・・・我で、良いのか」

 問いかけとも自問ともつかないその言葉に、アリアンは微笑む。
 彼しか考えられない。
 彼だけを欲している。
 エルフの女の性が、彼を求めている。

「アーク、愛してる・・・」

 出会って間もない頃から、彼に好意を持っている自分を感じていた。
 でも、ここまで彼を愛するようになるとは、考えもしなかった。
 エルフの長い生涯を、彼と共にありたいとまで考えるようになるとは。

 エルフは生涯ただひとりの相手だけを愛し続ける。
 エルフの女は生涯ただひとりの相手の子だけを孕む。
 それはエルフの種としての性。
 エルフが長命であるにも関わらず、数を増やさない理由のひとつがそれだ。
 彼を愛し、彼に愛されていると感じた今は、ただ、彼が欲しいと・・・彼の子を孕みたいと思う。

 彼の頭を抱き寄せて、自分から唇を舌を絡ませる。
 それが彼の言葉への如実な応えとなる。

「あぁ・・・アリアン」

 深い呼吸と共に呼びかけられ、彼の萎える事のない剛直がアリアンの中心に押し当てられた。

 大きく熱いものが入り込む感触を、今は嬉しいと思う。
 自分の腕の太さほどもある彼のそれが自分の中に入る事に少しだけ怯えも感じたが、それでも、この行為が彼が自分のものになる証に思えて、たまらなく嬉しい。

「っ、くっ・・・あぁ」

「んっ、ひぅっ・・・っ、ぁ・・・」

 未だ誰も入り込んだことのないアリアンの中は、先ほどの愛撫でほぐされてはいても、狭く堅い。
 幾度か達して溢れかえっていた愛液を潤滑液にして、何度も往復を繰り返しながら、アークは腰を進めていく。
 理性が危うい状態だとしても、彼女を傷つけたくはないという思考は残っている。

「アリアン・・・愛している」

 熱い呼吸と共に吐き出される言葉に、アリアンは自分の体の熱が増すのを感じる。

 アークは半ばまで入り込んだ所で動きを止め、甘く苦し気な喘ぎを吐き出すアリアンの唇に唇を重ねて、その口腔の柔らかな感触を味わいながら、ゆっくりと最奥まで彼女を貫いた。
 びくんと、彼女の体が跳ね、絡まった舌の動きが固まって、喉の奥から声にならない悲鳴が漏れた。
 アークは唇を離すと、彼女の頬を掌で包み込んで、その額に頬に軽い口づけを落としていく。

「・・・続けて、良いか?」

「・・・うん、いっぱい、して?」

 苦し気にはあっ、と、息をついて、アリアンは微笑んだ。



 始めは彼女を気遣うようにゆっくりとした動きだったが、次第にそれは激しさを増して、彼女を突き上げるようになる。
 まるで、理性が情欲に塗り替えられていったかのように。

 アリアンは初めての経験への戸惑いと、痛みに思考能力を奪われ、彼の背にしがみついてその動きに翻弄されるがままに獣じみた喘ぎを喉の奥から漏らすばかりだった。
 けれど、彼の激しい・・・乱暴ともいえる律動さえ、嬉しくて。彼が自分を求めてくれている幸せに、心は満たされる。

 破瓜の痛みも治まらないうちに、腹の奥を激しく突き上げられ続け・・・それでも、彼女にとってそれは既に、不快な痛みから心を満たす快感にすり替わっていた。

「んっ! ぁん、あーく、アークぅ、っひっ! あぁ、んんん、っんっっ!」

 自分の中で激しく蠢く彼の熱、自分の体に感じる彼の体温、耳に届く彼の熱を帯びた呻き、汗ばんだ彼の匂い・・・自分の全てを犯す彼の熱さに、追いつめられ、せりあがって来た快感が、弾ける。

「っ・・・アリアン・・・」

 彼女が達した事を察したアークが動きを止め、深く息を吸って、吐いた。
 己を落ち着かせようとするように。
 
 アリアンが荒い息を吐きだして呼吸を落ち着かせながら瞼を開けると、目の前に切羽詰まったようなアークの紅い瞳が見える。
 しばらく、アークはじっとアリアンを見つめ、再び深く息を吸い込んで吐きだした。

「すまん・・・」

 何度も聞いた謝罪。
 そんな事、言われる覚えはないのに。そう示しているはずなのに、彼はなお言い募る。

「止まれそうにない。このままでは・・・其方を壊してしまう。だから、逃げてくれないか」

 アリアンは、何を言われているのか理解できなかった。
 彼女の怪訝な表情を見つめ、その頬を手で撫でながら、アークは続ける。

「ひどい欲情が治まらん。今はぎりぎりで理性を保っておるが、かなり厳しい。このままでは、其方の事を考えず、滅茶苦茶に犯して壊してしまいそうで、怖い。だから、頼む、其方から逃げてくれ」

 何を言っているのだろう。
 けれど。
 自分の中にある彼の熱の脈打ちを強く感じる。今にもはち切れそうなそれは、狂暴な欲を開放しようと待ち構える獣のようだ。

「其方が本気を出せば、我を薙ぎ払う事くらいできよう・・・致命傷でなければ、何とかなる。遠慮はいらんから・・・」

 苦しそうな表情で、声で、訴えかけてくる。
 逃げる? 逃げる必要なんて、ない。
 ぼんやりした思考が明確になってきて、アリアンはアークの頬に手を伸ばす。

「・・・大丈夫よ。滅茶苦茶にして、いいから。ダークエルフの肉体は強靭なんだから」

 微笑み、心からそう伝える。

「もう何度も言ってるじゃない。好きよ、アーク。大好き・・・・愛してる。アークが、私だから欲しいって言ってくれるのなら、何をされても大丈夫。嬉しいだけだから」

 アークの肉のついた頬を撫で、への字になっていた唇に指を這わせながら言う。
 アリアンの言葉に、アークは泣きそうに笑う。苦し気で・・・けれど、嬉し気で。
 再び重ねられる唇に、アリアンもたどたどしく応えて、彼の筋肉質の背中を抱きしめる。

「愛している」

 少しだけ離れた唇から、熱のこもった掠れた低い声で囁かれる、真摯な言葉。
 それだけで、いい。
 彼からの愛の言葉が嬉しすぎて、おかしくなりそうだ。

「・・・すまん、動くぞ」

 小さな謝罪と言葉の直後、激しい出入りが始まった。
 未だ慣れない行為に、体は快楽よりも痛みや苦しみなどの不快感を示すが、それ以上に、心は満たされている。
 苦し気な表情で自分を突く彼に、この幸せな気持ちを伝えなければ。

「っ、ぅ・・・アーク、アークぅ・・・」

 自分の腰を抱きかかえ、体を揺らす褐色の肌のエルフ。
 骸骨姿でも、今の姿でも、彼は彼で・・・好きになったのは、彼という存在。例え彼がエルフ族でなかったとしても、自分は彼を愛しただろう。

「好きっ・・・大好きぃ・・・」

 彼の心が自分にあると分かった上で、彼から肉体を求められるのは嬉しい。愛しているから、自分だから、彼が求めていてくれる事が本当に嬉しいのだ。

 手を伸ばすと、苦し気に微笑する彼に手首を掴まれて強く引き寄せられ、彼の首筋にしがみつく。
 膝立ちになった彼のその膝の上に乗る形で、下から突き上げられる。彼が深く、深く、自分の奥まで届く。
 彼が愛しくてたまらない・・・エルフである彼女の肉体に、精神に、新しい変化が齎される。

「ひぁ・・・んっ」

 肉体が、精神が、彼を完全に受け入れる。
 アリアンは自分の肉体が、受け入れた彼の剛直を自然と締め上げ始めるのを感じた。そして、痛みや不快感が消え去って激しい快感を得はじめる。
 エルフの性が強く顕れる。その性によって、彼女の全てが、彼を求めている。

「う・・・ぁっ・・・」

「っ、ひぅ、あっ、はっ、ぁぁ・・・」

 ただ、強く訪れる快楽に飲まれていく。
 意識が希薄になりかかりながらも、彼女の脳裏には過去に受けたエルフ族の、所謂、性教育の事が過ぎる。

 ――エルフ族、ダークエルフ族の女性は、愛し愛される男の精でしか孕まない。唯一無二の鍵と鍵穴のように、愛する男相手にしか肉体と精神は反応しなくなる。

 自分の生涯の伴侶は、彼なのだと確信する。
 だから、アリアンは彼の耳元でささやく。

「ふっ・・・んっ、アーク・・・中に、ちょうだい」

 先ほど腹に放たれたものを、中で受け止めたい。腹の奥が疼き続けている・・・彼が欲しいのだと。

「だ、だが・・・」

 理性を希薄にしてさえ、戸惑う声。
 この状況でも、アークはアークだ。強い理性を失う事はない。 
 想いを交わしあったとはいえ、まだ恋人とも呼べない相手に子を授ける可能性を考えて、戸惑っている。

 彼は、エルフ族でありながら、エルフ族の事をほとんど知らない。
 この愛する相手をどうしようもなく求めてしまう、性の事も。

「・・・アークは、嫌?」

 正面から彼の瞳を見つめて問いかける。
 彼の気持ちは疑うべくもない。けれど、少しだけ、試したい気持ちでそう言うと、彼は困ったような表情をした。

「・・・嫌?」

 彼だけを求める自分のエルフの性は発現してしまった・・・けれど、彼はこの世界のエルフ族ではない。彼にこの世界のエルフの性があるかは、分からない。
 そう思い、不安になって、再度問いかけると、彼は緩く頭を振った。

 大丈夫、彼はちゃんと自分を愛してくれている。彼が愛してくれているなら、この性が裏切られる事はない。
 だから・・・希う。

「あなたと、ずっと一緒にいたいから・・・中に、欲しいの・・・あなたの子供が、欲しいから」

 彼の驚きと戸惑いを宿した紅い瞳を至近距離から見つめ、微笑む。
 ほんの一時瞼を閉ざした後、アークは唇を緩ませた。

「・・・了解した」

 愛おし気にアリアンの頬を撫ぜ、軽く唇に吸い付いてから・・・動きを再開させた。
 アリアンは彼の首筋にしがみつきながら、自分の中を擦りあげ続ける彼の剛直がもたらす快感に、止まらない嬌声を上げる。

「っひっ、ん、アーく、んっ、あーくぅ、好き、好きぃ、あーく、好きぃ、っん、あんっ」

 彼が好きで好きで好きで。どうしようもなくて。
 今まで口にできなかった分、止めどない想いが言葉になってあふれ出て来る。
 熱に浮かされたように、口をついて出てきてしまう。

「アリアン、あぁ、愛している・・・好きだ・・・っ、はっ」

 耳元に届く、熱く湿った彼の呼吸が、彼女を追いつめる。

「っ、はっ、ぅ・・・アリアン・・・」

 名を囁かれ、ひときわ大きく何度か突き上げられ・・・体の最奥に広がった熱い迸りに、これまでにない絶頂感を得て、喉の奥からか細い悲鳴を上げた。

 そうして、胎の中から広がるその感覚に身を委ねた。

 内側から少しずつ何かが作り替えられていくような感覚。閉ざした瞼の裏に淡い光が灯って、胎の中から広がった暖かい何かが全身を浸していく。それは、心地よい振動で肉体と精神に入りこんで行く。

 これが、そうなんだ。

 かつて、メープルの戦士になって間もない頃、熟練の女戦士たちと数日に渡って森に哨戒任務に行くことがままあった。既婚者である彼女たちとの雑談で、性教育では深く教えないそんな話を聞いていた。

 愛し愛される男と交わった際に起こるエルフの性、自身の変化について。

 当時は、現実味のない話だった。
 けれど、彼女たちが言っていた、その時の多幸感・・・それを、今、強く感じる。

 嬉しい。嬉しい。嬉しい。
 歓喜が、胸に広がる。

「アークぅ・・・大好き・・・」

 彼の逞しい背にきゅっとしがみついて、彼の熱を、鼓動を、呼吸を感じる。
 彼を愛している。どうしようもなく。

 腹の中の彼の剛直は、彼女の中にその欲望を解き放ったにも関わらず、未だその形状を保ったまま彼女を貫いている。
 彼女の知る少ない性知識でも、今のアークの状態が尋常ではないのは分かる。
 それは、長い間封じられていた性欲に絡む記憶と感情が蘇った反動なのかもしれない。

「・・・すまん、まだ、落ち着かん・・・」

 申し訳なさそうな言葉の続きをアリアンは悟って、くすっと笑った。

「あの、ね・・・」

 エルフの大人なら暗黙の了解の内に知っている知識を、彼は知らない。
 だから、気恥ずかしさを感じながら、アリアンは口にする。

「・・・エルフの女はね、愛する人と初めて交わった後、しばらくは、その・・・」

 少し言い淀んでから、小さく呟く。

「相手への欲情が続く、から」

 だから、もっとして欲しい、と、そう言ったも同然だった。
 自分の言葉にアークの体がピクリと反応したのを感じた。体の中の彼自身も反応している。
 自分から彼を求めるのに羞恥は感じるけれど、もっと彼としたいと思っているから。

「良いのか・・・?」

「いっ、嫌だったら、そう言うからっ」

「我を煽ったのは、アリアン殿だからな?」

 からかう口調に、アリアンは抱き付いている彼の肩に噛みついた。

「無理なら無理って言うからっ」

「痛っ・・・いや、言われても、止まれそうもないが・・・善処する」

「・・・致命傷にならない程度にして、逃げる」

「うむ、そうしてくれ」

 互いにじゃれあう言葉を交わして、笑い合って・・・再びアークはアリアンの中で動きだした。

つづく