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《悪戯orお菓子》

 舞が仕事から帰ってくると、家には誰もいなかった。
 電気もつかず、鍵がかかり……。
 いつもの事だ。別に寂しいとも思わない。
 両親が忙しいのは昔からの事で、友人付き合いとアルバイトで忙しい弟がいないのも……。
「ま、予想はできてたけど。……とりあえず、ひとで食べるか」
 寂しくはないけれど、微かに期待もあった分、落胆はする。
 静かな闇に満たされた家の中、自室で着替える気分でもなく、玄関を入ってすぐのリビングに入り、荷物を足元に放り投げて、ソファに深く体を沈めた。
 ふぅ、と、息を吐き出した。
 薄暗いリビングの天井を見るともなく見つめ続けていると、目は闇に慣れてくる。
「あれ……?」
 見慣れた部屋の一角に、見慣れないものがあった。
 写真立てや小物で少々雑然としたキャビネットの上だから、普通は気づきにくいのだろうが、それは少々異彩を放っている。
「母さん、かな……?」
 ソファーから立ち上がって、それに近づく。
 子供の頭くらいの大きさはある……黄色いかぼちゃ。
 今日という日……ハロウィンのシンボルらしく、目・鼻・口が切り抜いてある。
 微笑ましい気分でそれに視線を合わせるように、腰を低くした………途端に。
「………っ!?」
 気配を、感じられなかった。
 室内には誰も、いなかったはずだ。
 なのに、今、舞は背後から誰かに抱きすくめられて、口元を強く押さえ込まれていた。
 舞を押さえつけるその力強さから、相手は男だと分かる。
「っ!! っ!」
 突然の驚きが、恐怖に塗り変わる。
 けれど、口がふさがれていて、悲鳴は出せない。
 恐怖で暴れる事もできず、体を硬直させるだけだ。
 パニックになる舞の耳元に、背後の男のやけにくぐもった呼吸の音が聞こえる。
 そうして、やはりくぐもった低い声が、した。
「……トリック・オア・トリート?」
 抑揚のないその声でそんな事を言われても、逆に恐怖が募るだけだ。
 お菓子なら、ある。
 けれど、それを言ったって、聞くような相手だろうか?
 口を塞がれたまま、背後の男が舞の体を操り、己の方を振り向かせる。
「……っ!!」
 薄闇に見えたのは……狼。狼のマスクを被った男だった。
 恐ろしさに、ぞくっとする。
 男の手が、舞の口元から離れた……けれど、舞は悲鳴さえ上げられない。男の問いに答える事もできない。
 ただ、がたがた震えている。
「トリック・オア・トリート?」
 押し殺した低い声で、ごくゆっくりと、再度口にする。
 答えなければ、と、思う。
「お、お菓子、なら、ある……ある、からっ」 
 震える声で必死で口にする。
 ハロウィンの決まりごと。お菓子をあげれば、モンスターは去っていく……そのはずだけれど……。
 狼男は、彼女を抱きすくめる手を緩める事はなかった。
「トリック……決定」
 低い声が言う。
「なっ、なんで、お菓子、あるのに……あっ、あげるから……」
 舞も恐怖で混乱している。
 半泣きになって言い募るばかりで、この状況のおかしさに気づいていない。
 狼男の手が、舞の体を這う。
「っ、や……っ!?」
 脇腹から這い上がってきた手が、そっと胸の膨らみに触れ……最初こそやわやわと触れていたけれど、突然。
「っ、ひゃあ!?」
 ぐっと鷲づかみにされ、もみあげられ……。
「やっ、やだぁ!」
 嫌悪に涙をぽろぽろこぼして、身をよじる。
 狼男の手は、舞の抵抗などものともせずに、舞の体を弄りながら這い回る。
 胸だけでなく、スカートをたくし上げて、その裾から手が入り込んで、脚に、触れる。
「っ、くっ!」
 ぞくん、と、悪寒が走る。
「やっ、やあぁ!」
 そんな所、大好きなあの人にしか、触らせたことがないのに。
 狼男の手は、無遠慮に舞の柔らかな体を弄り続ける。舞の抵抗などおかまいなしに。
「やだ、やだぁ!」
 泣きながら、みじろぐ舞は……完全にパニックになっている。
 そうして……助けを求めるように叫び出す。
 それは……大好きなあの人……。
「……くし……尽……尽、尽ぃ! や、やだ、尽!!」
 大好きな……たったひとりの人。
 弟だけれど、弟じゃない、大切な男性。
「尽ぃ!!」
 夢中で叫んでいる舞は気づかなかったけれど……狼男の彼女を戒める手が緩んだ。
 そうして、狼男の体が、舞からゆっくりと離れたのだ。
「……ごめん……」
 一歩、二歩……後ずさりして……ぼろぼろに泣きながら振り向く舞の前で、狼男の仮面がはずされた。
「……っ!?」
「悪戯、すぎたな……」
 聞きなれた声がした。
「っ!! つ、くし……?」
 舞は、目の前に見知った相手を見て……崩れるようにその場にしゃがみこんでしまった。
「ホント、悪戯のつもりだったんだけど……ねえちゃんの反応が楽しくて、調子に乗りすぎた……」
 狼男の正体、弟の尽は、呆然と座り込む舞に視線を合わせるようにしゃがみこんで、その顔を覗き込み…………しっかりと、お返しをもらった。
 バシン、と、軽快な音が響いた。
 舞が、尽の頬を張ったのだ。
「ばかっ! 尽の、おおばかっ!!」
 予想はしていたらしい、尽は、張られた頬を押さえて、苦笑いを浮かべていた。
「本当に、怖かったんだから。驚いたんだからっ!」
 目を険しくする舞に微笑み、「ごめん……」と、そっと囁いた後、唇を、寄せた。
 舞は拒まなかった。
 口付けは拒まなかったけれど……。
「っ!? ちょっ……!?」 
 尽の手が、先ほどの続きのように、舞の体を這い回り始めた。
 座り込む舞の背中に回りこみ、背筋のラインをなぞり、柔らかなお尻を揉み……。
「ばっ、ばかっ」
 思い切り、手を突っ張って、尽の体を拒もうとするけれど……。
「お菓子もらえなかったから、悪戯続き……」
 まだ涙で濡れる舞の瞳を覗き込んで、尽はくすっと笑った。
 その尽の悪戯っ子の笑顔に、舞は弱い。
 が……。
「お菓子上げるから、悪戯はおしまいっ! 折角、パンプキンパイ買って来たの、寂しくひとりで食べなくてよかった」
 舞が尽の両の頬を抓りあげて言うのに、尽は不満そう唇を尖らせて、諦めの悪いことを口にする。
「……お菓子は明日にしよう。今日は、お菓子なしの方向で……悪戯、させてよ」
「いっ、悪戯だけならいいけど、あんたの場合、それ以上行っちゃうでしょう!?」
「悪戯のそれ以上って……?」
「ばっ、ばか!」
 会話をしながら、尽は舞の柔らかな体に触れ続け、舞はそれから逃れようと尽の胸や顔を突っ張ってみる。
「悪戯なら、さっき、十分したじゃないよぉ! もうおしまい!」
「いや、もっと、悪戯させてよ! 折角のハロウィンなんだし、正面きって、悪戯を……」
「いつも、してるでしょう!?」
「まだまだ足りないね! 狼男尽の悪戯は、いつもの尽くんよりも全然……」
 逃げる舞と、迫る尽。
 結果、壁際ギリギリまで追い詰められた舞。
「ほぉら、ねえちゃん、狼男が襲ってあげるから」
 にやけながら、覆いかぶさってくる尽に、舞は、一応の抵抗を試みるけれど……それも虚しい労力となる。
 悪戯は……結局、いつもの“悪戯のそれ以上”になってしまったようだ……。

「トリック・オア・トリート?」
 くすくす笑って囁く尽に、舞は頬を膨らませた。
「もう、どっちでもいいわよ! どっちにしたって、結局、あんたはっ……」
「お菓子よりも、悪戯、だよなぁ?」
 尽は、狼男の仮面をいじりながら、舞の体を抱き寄せた。
 トリックであろうがトリートであろうが……結局、尽は舞に悪戯以上を仕掛け、舞もそれに逆らえないらしい。




※※おわり※※

<2005.11.1>の日記掲載




日記に掲載していたハロウィン話。
寝ぼけながら書いたので、
締めが締まっていない感じ。
訂正しようかとも思ったのですが、
とりあえずこのままで(苦笑)。