| 《すき》 尽の、眼差しが好き。いつも真っ直ぐに前を向いて、時々私の方を振り向いた時に目で微笑むように細められるの。 尽の、声が好き。よく通る声は、いつの間にか低く深く響くようになって……でも、その快活な調子は相変わらずで。 尽の、髪の毛が好き。さらさらした柔らかな髪は、指先で掬うと、するりと滑り落ちるの。 尽の、指先が好き。長くて細い指先は、やっぱり、まだ、年の若い少年のもので、苦労する事を知らないように、素直に真っ直ぐに伸びてるの。 尽の、背中が好き。最近、広くなった肩から続く肉の薄い背中は、いつもぴんとしてて、彼がこれからもっと成長してく様を示してるみたい。 尽の、笑顔が好き。悪戯っぽく笑ったり、無邪気に笑ったり……時々、大人びた苦笑を浮かべたり。彼の感情全てがそこに表れてるの。 尽が好き。 尽の、何もかもが、好き。 時々喧嘩するし、時々くだらない事で苛立ったりするし……。 でも、それでも、やっぱり、尽の全てが好きで。 この想いを、止めることはできなくて。 弟なのに。 血の繋がった、弟なのに。 気が付くと、いつも、彼を見詰めてる。 彼の一挙手一投足に見惚れて、どきどきして。 それが、とても幸せで……不安で。 彼に想いを気付かれたくない。 けれど同時に、いつか、彼にこの想いを打ち明けて、受け止めて欲しいと思う自分もいて。 不毛な想いにジレンマしながらも……でも、尽を好きな心は抑え切れない。尽を、見詰める事を、止められない。 「なに? 俺、ねえちゃんを見惚れさせるほど、イイ男になってる?」 にっと笑って、私の正面に立つ尽。 気付かれた、見詰めていた事。 「ばっ、ばか。そんなんじゃなくてっ……」 つい、言い訳をするのは、やっぱり、私たちが姉弟なんだ、って認識が一番に頭を掠めたから。 けれど……誤魔化しきれなくて、自分の頬が紅潮しているのが分かる。 「そんなんじゃ、ないの?」 ふーん、と、鼻を鳴らす尽は、どこか意地悪そうな態度だ。 「私は、ただ……ただ、あんたも大きくなったな、って……」 私の言葉に、尽は、ふふ、と笑う。 余裕ある態度は、子供の頃のような虚勢ばかりのものでなくて、彼自身の本当の余裕を示している。 そんな尽にも……見惚れてしまうの。 尽は更に唇を緩めて笑って……それは、やっぱりとても胸を躍らせるような綺麗な微笑で……。 けれど、そんな尽の微笑が近づいてきた、と、思った次の瞬間。 「……!!!!」 唇を、奪われた。 一瞬、まったく、状況が飲み込めずに固まっ手しまった私に、尽はまた悪戯っぽく笑った。 「好きだよ、ねえちゃん。だから、さ、俺をいつも見詰めてて。すぐに、ねえちゃんに素直に告らせるくらいのイイ男になるから」 尽!? 尽ぃっ!!!? 「ねえちゃんの、驚いた顔も好きだし、そういう風に怒った顔もカワイイ。けど、やっぱ、笑ってる顔が一番好きだな」 怒って、驚いて……どうしたらいいか、結局は混乱している私に、尽は、最後に唇を動かして、声を出さずに言葉を伝える。 『ねえちゃんの全てが、好きだから』 にっこり、全開に笑う尽の表情は、これまで……尽が生まれてからこの一瞬までの中で、一番、愛しい笑顔だった。 きっと、この笑顔が、一番好きになりそう……これから先の長い人生の中で。 だから、私も、全開で笑った。 尽が、そんな私を好きだと思ってくれる事が信じられたから。 ※※おわり※※
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