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夜の桜
恋愛と肉欲について。 恋愛は心でする。肉欲は体で感じる。 恋愛は、幼い日のときめき。肉欲は、成熟した悦び。 恋愛⊆肉欲。 そう、肉欲は、恋愛しなくても発生する。別に、体が気持ちよければ、それでいい。けど、恋愛は、誰かを愛しく想い、それが肉欲へと繋がっていく。 恋愛に肉欲は必須となるけれど、肉欲には恋愛が必ずしも必要なわけではない。 それじゃあ、俺のこの気持ちは、何なんだろう? 彼女を……ねえちゃんを、愛しく思うこの思いは、恋愛、なのだろうか? 幼くて、淡い恋愛は……未だ、肉欲には、繋がらない。 彼女が姉だから。血肉を別けた姉だから? 俺は、まだ、それを理解できる領域には達していないのだろうか。 バイト帰り、慌てて乗り込んだバスに、ねえちゃんの姿を見つけた。 もう、随分遅い時間。 人気の少ない車内、端の方の席にぽつんと座り、膝の上に置いた鞄を抱き締めて……窓の外をじっと眺めている。 まだ繁華街を抜けきっていないこの場所でこんな時間見えるものは、けばけばしいネオンくらいだろうに。 「ねえちゃん」 偶然かかすかに嬉しくて、近寄って声をかけると、はっとしたように俺を見て、唇を緩める。 「え……ああ、尽。バイト帰り?」 「ねえちゃんこそ、残業だったのか?」 俺は、よっこいしょ、と、少々親父臭い声を出して、ねえちゃんの隣に座った。 市営バスの二人掛けの座席は極めて狭く、ねえちゃんの身長を追い越して久しい俺がその横に座ったら、すごい密着度となる。 「ばか。狭いっ。席はいっぱい空いてるんだから、他の所に座んなさい」 言うねえちゃんの表情は、言葉の内容ほどしかめ面をしておらず、むしろ少し嬉しそうでもあった。 俺は、ねえちゃんの頭越しに窓の外を見る。外には小さな公園。そして……。 「あ、桜か……」 若い小さな桜の木が数本、盛りを終えて、満開という表現にはおこがましいくらいにまばらについているだけの花から花びらを落とし、風に舞わせていた。 俺が呟いた声を掻き消すように、お年寄りの乗車を待って停車していたバスは動き出す。 小さな公園の小さな桜の木は、すぐに視界から消えていった。 「今年、桜見もしていないのに、もう終わっちゃいそうだな、って」 ねえちゃんは、名残惜しそうに窓の外を見ながら、呟いた。 「学校のも散ってきてるよ、もう」 窓ガラスに映るねえちゃんの顔は、疲れているのだろうか、それとも何か心に引っかかりでもあるのだろうか。とても憂鬱そうに見えた。 しばらく、押し黙ったねえちゃん。 俺も、別段話すことはないし……バイブで着信したダチからのくだらないメールに視線を落とした。 「尽」 「ん?」 カチャカチャと、くだらないメールへのくだらない返信を打っている俺は、顔を上げないままに返事をする。 「夜桜、見に行かない?」 「……は?」 少し顔を上げると、ねえちゃんの微笑が目に映った。 「バス亭通り過ぎて、その次で降りて、少し歩くとね、住宅街の奥にすごい綺麗な桜があるんだよ」 思い出しているのだろうか、少し、眼差しが遠い。 「立派な桜でね、樹齢とかはよく分からないけど、多分、すっごい昔からある桜だと思うの。枝の先まで隙間ないくらいに花弁がついてて、しだれ桜でもないのに、満開の時期は花の重みで枝先がすごくしなってるんだよ。それでね、上から下まで見事に桜の薄紅に覆われていて、まるで薄紅の小山があるみたいなの」 にっこり、俺に笑いかける。 ねえちゃんの言葉に、想像力が逞しいとは言いがたい俺の頭の中にも、なんとなくその立派な桜が思い浮かぶ。 花とかに興味があるわけではないけれど……ねえちゃんの、己の記憶の中の桜の姿を愛おしむようなその表情に……引きずられる。 「……あんまり、遅くまではいないからな?」 「うん。去年はタマちゃんたちと昼間に行ったんだけど……夜桜は、また、きっとすごい見事でしょうね。さすがに、女の子だけで夜は出歩けないから……尽がいてくれると、心強いよ」 お世辞半分だろうか。 でも、半分だけでも、ねえちゃんに頼られているのがくすぐったく嬉しい。 自宅傍のバス停を通り過ぎ、次のバス停で降りる。 降りたのは、俺たちだけだった。 人気の薄い夜の住宅街。 「場所、分かるか?」 俺の問いかけに、しばらく自信なさそうに周囲をきょろきょろしていたねえちゃんが、やっと道を思い出したらしく「多分、こっち」と、頼りない口調で先導しだした。 まだ新しいだろう住宅街の中央を貫く道路に、小規模な桜並木が存在した。 多分、ご近所の人間達だろう。家族、夫婦、または恋人同士で、夜桜を眺めながら散策する姿がちらほらあった。 「あ、そうそう! この桜並木を抜けていくんだった」 幹の細い若木の桜は、花のつき方もまだどこか頼りなく見える。 けれど、道沿いに数メートル間隔で植えられたそれら複数の桜の木から、はらはらと花びらが散り落る。一本一本は頼りない桜の木でも、それらの花びらがまとまって春の夜風に煽られ、薄紅の雪のように舞う光景は、また、見事でもあった。 くるくると、回転しながら舞う花片。 強く、弱く、波打つような風のリズムに弄ばれて、地に落ちる前に再び舞い上がり、舞落ちる。 街路に落ちたそれらが寄り集まって濃い桜色を構成するそこに、風が駆け抜けると、ふたたび花びらは舞い上がって夜の闇の中に散る。 ねえちゃんの後について歩きながら、俺は、柄にもなく、その光景に見惚れた。 「尽?」 声を掛けられて、はっとする。 桜花の幻想的な光景に見とれていて、随分、ねえちゃんとの距離が出来ていた。 俺は慌ててねえちゃんに追いついて、その横について歩き出すと。 「迷子になっちゃうよ」 ねえちゃんは、くすっと笑って、俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。 子供扱いされた、とは、不思議に思わなかった。 現実、迷子に……なりそうだったから。 直に感じるねえちゃんのぬくもり。俺より背の低いねえちゃんの顔を斜め上から見下ろして、俺は唇をほころばせる。 風が吹き。 桜の花びらが、俺たちの背を押した。 背後から流れてきた大量の花びらが、新たな風に煽られて、ぶわっと上空へと舞い上がる。 俺たちの目の前を、薄紅の風が吹き抜ける。 「わっ。すごい。突風!?」 ねえちゃんが、目を塞いでスカートの裾を押さえて呟いた。 薄紅色。 目の前が、全て、桜の色で染まる。 薄墨の闇に、薄紅の桜花。 闇に融ける事は決してない薄紅色が、残像のように網膜に焼きつく。 「……?」 ふわり、ふわりと……。 目の前に、舞うのは……蝶? 薄紅の蝶? 目の錯覚かもしれない。 風に舞う桜の花びらが、生のある動きに、蝶に見えただけかもしれない。 けれど、俺は……その桜の花びらに今にも同化しそうな薄紅の蝶に目を奪われた。いや、心をも奪われたように……その姿を、見失ってはいけない気がした。 ふわり、ふわり。 闇に舞う薄紅は、俺の目の前を通り過ぎ、薄闇の向こうに飛び去ろうとしている。 俺は、その蝶を追わなければならない、と、思った。 何故だかは、分からないけれど。 だから、俺は、組んだねえちゃんの暖かく柔らかな腕をすり抜けて、蝶の後を追う。 「尽!? ちょっと、どうして……!?」 ねえちゃんの声。 俺を追いかけてくる気配。 でも、俺の足は速まる。蝶を見失わないように。 止まれない。振り返れない。 そうしたら、蝶が逃げてしまう。 強い春風に乗って、蝶は、どんどん先へと進んでいく。 ひらひらと、大した羽ばたきもしていないはずなのに、俺は、決して蝶に追いつけない。 薄紅の蝶。桜花の凝り。 闇の中にくっきり浮かぶ、一対の薄紅の羽が、俺を誘うようにはたはたと優雅に羽ばたいている。 俺を誘う。 俺を、どこに、誘う? 走って、走って……手を伸ばして、届かない。 捕まえたいわけではない。 でも、逃がしてはいけないから。 俺は、視界の中にだけでも、蝶を捕らえ続ける。 俺の視界は闇に舞う蝶だけに覆われて、ただ、その姿を追って走り続ける。 いつの間にか周囲に人気がなくなっているのにも、気付かなかった。 それまでの桜並木の道には、途切れる事なく、物見高い桜見人たちがいたはずなのに。 不自然なまでに、人気が途絶えた。 まるで、何かの境界線を越えてしまったように。 蝶を捕らえようとして、俺こそが蝶と桜の幻想の中に足を踏み入れてしまったのか。 ただ、無心に、蝶を追う俺。 目前に迫った蝶に手を伸ばして……やっと届きそうになったのに! 瞬間、ぶわっ、と、風が巻き起こる。 俺は、立ち止まって、反射的に目をふさぐ。 ゆっくり目を開ければ、小さな竜巻のように渦を巻いた風が、薄紅に見えた。 大量の桜花を巻き込んで、風は俺の周りに渦を巻く。 「……っ!」 ……そうして、目の前に、俺は……圧倒されるほど見事な桜の木を、見つけた。 「桜……」 蝶の姿は、もうなかった。 ただ、俺の目の前には、紅色の小山のような立派な桜の大樹があって、雪が積もるように、薄紅の花びらをその幹下に落としていた。 不思議な事に、住宅街のすぐ傍のはずなのに、周りに家はなく、生活の気配もなく……また、これだけ立派な桜にも関わらず、桜見人が一人もいなかった。 まるで、この桜の木とその周囲の空間だけが、ぽっかり異空間に引きずり込まれたような、錯覚。 いや、錯覚……だろうか? 落ち着いてきた呼吸。 瞳を閉ざすと、自分の鼓動と呼吸の他には、何も物音は聞こえない。 桜の花びらが、次々と舞い落ちるそれが音となって聞こえてくるかのような、静寂。 「なん、で……」 立ち尽くす。その場に。 桜の木を見詰めて、自身も一本の桜の木になったかのように、立ち尽くす。 現実世界を通り過ぎる、異空間。 俺と桜木だけを取り込んで、異空間は静止した。 誰も、何も、入ってこられない……幻惑的な空間に、俺は、ひとり……。 「尽?」 違う。 背後から、ねえちゃんの声。 「すごい、この桜の場所、よく分かったね。でも、先に行っちゃ、ヤダ。びっくりしたんだから、もうっ」 振り返り……舞い落ちる桜の花びらに包まれた、桜の精を見た。 ねえちゃん……そう、彼女は……。 「さくら……」 「なぁに?」 瞳を細めて、微笑む。 彼女の名前を、改めて思い出す。 普段、彼女の名前を呼ぶことは滅多になく……俺にとって、彼女は『ねえちゃん』という存在という以外になく。 「さくら……」 彼女は、桜。 春のほんの一時、圧倒されるほどあでやかに花開き、これから訪れる本格的な春には未練もないと言うように、あっさりと散っていってしまう。 「だから、どうしたの?」 俺に近寄ってきて、俺の正面から呆然としているだろう俺の顔を覗き込む。 「人の名前、連呼しないで」 くすくす。 リンリンと音が鳴りそうなくらいに軽やかに笑って、彼女は俺の前を歩き出す。桜の大木に向って。 「やっぱり、綺麗だね。夜見ると、また一段と」 そういえば……。 彼女の背中を見詰めて、俺は思い出していた。 桜の木には、魔性が潜んでいる、と、いつか聞いた話を。 ……そう、これこそが、魔性の仕業なのか、と。 振り返る彼女の顔は、十数年、俺が見知ってきた彼女のようで……そうではない。 桜花より華やで、清純な魔性。 「さくら」 「尽……」 誘うよな微笑に、俺は、逆らえない。 彼女に近寄る、彼女を見詰める……彼女に、口付ける。 「尽……」 甘い吐息が、彼女の唇から零れ落ちる。 桜花を吐き出すような吐息。 匂いたつ、桜の薫り。 俺の背中に腕を回して、彼女は俺を抱き締める。 眩暈がする。 五感が、全て狂わされる。 桜の存在に。さくらの存在に。 桜。 さくら。 きっと、どちらも、俺を、狂わせている。 狂っていく……でも、それで、いい。 狂いたい。 一時、桜に。さくらに。狂って、しまいたい。 抱き締める、さくらを。桜を。 薄紅が、目の前に広がる。 桜の芳香。 柔らかな花びら。 俺は、さくらを抱き締めているのか? 桜を抱き締めているのか? 彼女の感触を抱き締めて……彼女を、求める。 甘く悶える声は、桜花が舞散る音。 震える吐息は、桜花の薫り。 潤む眼差しに移るのは、桜の花。 真っ白なはずの肌は、薄紅の桜の化生。 「尽……尽……好き……」 時々、もれるその囁きだけが……彼女の存在を彼女だと知らしめる。俺を俺だと思い出させる。 「さくら……」 囁く俺の声は、彼女を呼んでいるのか? 別のものを誘っているのか? 桜花に埋もれて、ひとつになる。 桜と……さくらと、溶け合うように、ひとつになる。 さくらを、愛しいと思う。 桜を、美しいと思う。 さくらを、欲しいと思う。 桜を、ずっと見ていたいと思う。 さくらを、桜を。 薄紅色の彼女を。 艶やかな彼女を。 抱き締めて、揺さぶって、包み込んで、突き上げて。 はらはら舞う桜。 はらはら舞うさくら。 風が桜の花びらを攫い。 俺がさくらの欠片を散らす。 俺の腕の中で、俺が突き動かすたびに、さくらはどんどん散っていって、どんどんさくらじゃなくなっていく。 華やかに、妖艶に、咲き誇った桜花は、散り落ちる傍から新たな芽をのぞかせる。 それじゃあ、散り行くさくらは、何になるのだろう? 俺の体に絡みつく彼女の四肢は、まるで植物の根だ。 俺を締め上げる彼女は、絶え間なく蜜を溢れさせた花。 俺がその幹を揺り動かすたびに、さくらは変わっていく。花びらを散らせて……さくらじゃなくなる。 「尽……っ」 彼女がうめく。 俺の名前をもらす。 改めて、彼女の顔を覗き込めば、そこには知っているようで知らない存在がいる。 はらはら散り落ちる桜花に囲まれて、俺の手で己の花を散らされて……。 「……ねえちゃん……」 呟き、俺は首を振る。 彼女は、姉ではない。 そう、呼べる存在ではない。 「さくら」 俺が呟くと、彼女は儚げに笑う。 じっと俺たちは見詰め合い、互いの瞳の中に、桜花と己を見つける。 はらりはらり、と、彼女の白い肌に、紅色の桜花が落ちる。 俺が彼女に残した、桜の花びらのような痣が桜花に変化したのかもしれない。 彼女の全身が桜色に染まり、彼女が桜そのものであるのを、俺は疑えない。 彼女は、桜。 熱く火照っているはずのその桜色の肉体は、冷たいわけではないけれど、植物の幹のように微かに冷えている。 桜色の風が舞い起こり、桜の大木から一度に桜色が振り落ちて、流されて……俺たちに迫り来る。 「桜の風……」 薄紅をした風が。 呟く彼女を覆う。 俺を、覆う。 「さくら……」 俺は、風に攫われないように、彼女を抱き寄せて、抱きしめる。 他の桜花のように、彼女を風に攫わせたりはしない。 さくらは、俺の抱擁に、俺を抱きしめ返し……俺の胸に頬を摺り寄せてくる。 俺は……彼女を、ねえちゃんを……愛している。 肉欲なんていう生々しいものじゃなく、俺は、彼女を欲する。 恋愛という甘い感情よりも曖昧に、彼女を求めるだけ。 唇に唇を寄せる。 桜の香の密度が濃くなって、鼻につく。 全身が桜に浸され、満たされ……俺自身も桜花へと変化する。 植物のように体温のない肉体が、また、絡み合うように繋がる。 桜木になった俺たちは、繋がった部分から互いの樹液を分け合う。 低く、高く……俺たちの嬌声は他に人気のない闇の中に、木の葉のざわめきのように響く。 桜は、降る。 桜は、舞う。 俺とさくらを夢幻の空間に閉じ込めて。 桜の古木が作り出した夢幻の異空間の中、降りしきる桜の花の下。 桜木になった俺たちは、絡まりながら、そこに根を下ろす。 妖艶に咲き誇る桜の古木に誘われて、ふたりは、桜木に、変化する。 ふたりでひとつの桜木になって……巡る春、ただ一時だけ、妖しいまでに美しい桜花を咲き誇らせる。 「さくら」 「尽」 繋がったまま、互いを呼び合ったのが、俺の最後の記憶。 俺かさくらか……溶け合ったふたりの感覚がなくなって、俺は、桜花になった。 眩い日差しを浴びて目覚める。 そこは、いつもの俺の部屋だ。 俺は、桜木になったんじゃないのか? あれは、夢にすぎなかったのか。 けれど、どこまでが夢なのだろうか。 どこまでが? 俺とねえちゃんが一本の桜木になった事も。 俺とねえちゃんが抱きしめあった事も。 俺がねえちゃんを愛しいと実感した事さえも。 ……全部、夢なのか? 部屋を出て、居間に向い……朝日を浴びたさくらに逢う。 さくら、と、呼びかけそうになって、俺は、口ごもった。 「……ねえ、ちゃん……」 呼びかけに振り返って微笑むねえちゃんは……ねえちゃんだった。 桜木でもなく、桜の精でもなく、俺のさくらでもなく……ねえちゃんだった。 こんなに、愛しい気持ちはまだ胸にあるのに。 抱きしめあった体の感触も、まだ、残っているのに。 俺は、何も問いかけられなかった。 昨夜の出来事がすべて夢だと思うのが、怖かった。 俺は、ぎこちなく微笑んで、息を押し殺して、居間の椅子に腰かけた。 「桜、綺麗だったね?」 思いがけずかけられた言葉に、俺は、顔を上げてねえちゃんを見て、そこに桜木の化身を見つけた。 「さ、さくら?」 慌てる俺に艶やかな笑顔を見せたさくらは、そのまま俺の横を通り過ぎる。 薫る濃厚な桜花の香が俺の鼻に入り込んだ。 夢、だったのか? それとも……? さくらは、何も言わない。 ただ……。 彼女から薫る桜の香が、俺に絡みつく彼女の肉体が……俺にあの夜の記憶を蘇らせる。 すべてを薄紅の桜に侵食されて、ふたりで一本の桜木になった、恍惚の夜を。 彼女を愛しいと思う。 姉としても、姉以外のものとしても。 恋愛と肉欲。 どちらもあり、また、どちらもない。 それだけの言葉で言い表せるものじゃない。 彼女を求める留まる事のない欲求は、きっと、どんな言葉にも置き換えられない。 季節の中、わずかひと時だけ、限界まで艶やかに咲き誇って散る、桜の夢。 俺たちは、きっと、次の春もあの桜の夢を求めて、魔性を秘めた桜の古木に逢いに行く。 そうして、あの何もかもを狂わせる光景と芳香の中、再び一本の桜木に変化するだろう。
終 |
<言い訳とか>
幻想的なお話・・・目指してみました。
実際、桜花は魔属性だと思われますよ。
陽気に桜見してればいいですが、
静かに眺めていると、どこか別世界に引き込まれそうな・・・
そんな気がします。
特に、夜の桜は。
桜をそういうふうに感じるのは、日本人の性かもしれませんね。
このお話の尽は、ねえちゃんに対する気持ちが曖昧。
描写してませんが、ねえちゃんは
多分ずっと尽の事が好きだったのではないかと。
姉視点の同じお話も書くつもりだったんですけどね。
ちなみに、最初の尽の恋愛と肉欲について考えているくだり、
書いているうちに本ストーリーとはあまり関係ない気がしてきて、
削ろうとしたのですが・・・
ここから思いついた話なので、そのままに。
不自然ですが、気にしないでください。
まぁ、全体的にあまり意味のないお話なのですけどね(汗)。