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「ねえちゃん? 何、ソレ……!?」 帰宅した私を見て、尽はひどく驚いた声を上げ、そのままの表情で固まってしまった。 さすがに、目敏い。まさか、こんなにあっさりと気付かれるとは思っても見なかった。 いや、気付かれた場合、尽は絶対に歓迎した態度を示さないだろう事は予想済みだったけれど……案の定。 驚いた顔を不機嫌なそれへと変えて、私を手招きする尽。 私は、言い訳の言葉をぐるぐると頭の中で考えながら、素直にそれに従って、尽の隣、ソファに腰掛けた。 尽は不機嫌な表情のまま、じっと私を見ている。いや、正確には、私の耳元を。じっと見詰め続け、居たたまれなくなった私に先に口を開かせる。 「あ、あのね……今時、皆してるし、私だってこんなのしてもいいかなぁ、って……」 「……ふぅん……」 全然納得していない口調で相槌。 なんで、私が弟にこんな言い訳しなきゃならないの……!? とか、内心思ったりもするけれど……逆らえないのよ、私……ううっ。 尽の手が私に伸びる。 そっと、私の耳たぶに触れる。 「ピアス、ね……」 耳の後ろから、はめ込まれたピアスの石突に触れる。 今日開けたばかりのピアスホールには、まだ鈍い痛みが残っていて……触れられるとかすかな刺激が走って、私はビクンとした。 「痛い?」 くすっと笑う尽。 もぉ……なんで、そんなに意地悪なのかな……。 私は、ちょっと涙目で尽を睨み上げた。 苦笑した口元。 でも、笑っていない目元。 ……あぁぁ、もしかして、怒ってるかなぁ? でっ、でも、別にピアスなんて、普通だよね、今時!? 尽だって、俺も開けようかなぁ、って言ってたのに、この間! まだ高校生のクセにっ。 反論が頭の中でぐるぐる回りながらも、言い出せない私って……おねえちゃん失格……自覚してる。 「……で」 不意に、切り出す。 え? 何? 尽の口調が……。 「誰に、開けて貰ったの?」 口元、笑ってる。 でも、声が凍えてるぅぅ!? なっ、なんで!? どーしてっ!? 笑ってる口元とは裏腹に、声が、瞳が、徐々に怒りを強くしている。 尽、なんで、怒ってるのぉ!? 私がピアスホール空けたくらいで!? まさか「女の子が体に穴をあけるなんて、そんなはしたないっ!」とか、旧態依然の考え持っていたなんて、ねえちゃん、今まで知らなかったわよ、尽!? 私、更に、どぎまぎしちゃう。 恐る恐る、尽の顔色をうかがいながら――弟の顔色うかがうなんて、やっぱりねえちゃん失格ね……――口を開いた。 「と、友達……だけど……」 「誰? 俺の知ってる人?」 「あ、あの……なっちん……」 「あぁ……そぉ」 ううっ、なんか、でも、納得してない口調。 私、尽の続く言葉がなぜか怖くて、自分から口を開いた。 「あのね、なっちんって、ホラ、高校卒業してすぐにピアス開けたでしょう!? で、今までも友達のピアスホール何度も開けたことがあって、慣れてる言うし、ちゃんとしたピアッサー持ってるし! このピアスも、ほら、ちゃんと、アレルギーでにくいチタン製選んでもらったし! だから、今も、開けたときも、殆ど痛くなかったんだよ!?」 「ふぅん……」 やっぱり、納得してるようなしてないような相槌……。 だーかーらっ、目が笑ってないのぉ! どうしたの、尽!? あたふたと言い訳する私を、観察でもするようにじーーっと見詰める尽。 なんなのよぉぉ!? 尽は、さっきから私の肩にのせかけていた腕をそっと動かした。 私、また、ピアスに触れられるのかとビクンとしちゃったんだけど、今度は、ピアスでなく、耳に直に触れてきた。 冷たい指の感触が、熱い耳の熱を奪う。 「尽……………っ!?」 耳に触れる尽の手に気をとられてた私、近づいてくる尽の顔に気付かなかった。 尽ってば……尽ってば……。 私の顔に顔を寄せて………耳元に……ピアスの所に唇を寄せていって、私が呆然としている間に、ピアスがついた耳たぶの部分を唇で……食んだの。 「っ……!? ひゃぁ!?」 痛くは、ないよ。 いや、痛くないんだけど……びっくり、するでしょう!? 「つ、つつ……つく、尽ぃぃ!?」 思い切り、声が裏返っちゃったわ……。しかも、まるで夏の終わりに鳴く蝉みたいな声上げちゃったし……。 尽は、片側の耳たぶをピアスごと舐め上げると、もう片側のそれも……抵抗する私をものともせずに。 「なっ、何!? 何するのぉ!?」 一気に沸騰。 顔、茹で上がっちゃいました。 キスされるより、恥かしいっ!! 「なんで、開ける前に、俺に言わない?」 え? 「ねえちゃんのピアスホールくらい、俺が開けてやったのに……」 ちょっと、悔しそうな口調。 もしかして……焼きもち?? ピアスホールくらいで……??? きょとんとする私に、尽は言葉を続ける。 「ねえちゃんの体に他人が傷をつけるのは……イヤだ」 「傷って……ピアスホール、だけど……」 私の反駁に、尽は、ふっ、と、笑う。 相変わらず、目は笑っていないけれど。 「ねえちゃんに穴を開けるのは、俺だけで十分だろ?」 はい? えーと……。 えーと…………………。 その言葉の意味が、すっごく不穏なものを含んでいる気がして、それが、どういう意味か、と考える事十数秒。 鈍いってば、私っ。 それを尽がどういう意味で言っているのか理解して……息を詰めて顔を赤くした。 呼吸困難寸前。 だって、そーいう事、考えもしないでショ、普通さっ! いつの間にか、私、尽の胸に抱きしめられてて、そこから見上げた尽が、私のそんな反応を楽しんでる表情に出会って……頬を膨らませた。 もぉ!! 何考えてるのよぉぉ!! 「ねえちゃんの初めては、全部俺の物にしたかったのに……ピアスホールだって俺が開けてやるって言ったのに。……ねえちゃんが初めて流す血は、全部、俺の為のものであって欲しかったのに」 …………っ!!!!! そ、それ、ソレを、真昼間から、真顔で言うなぁぁっ!! こンの、色情魔ッ!! って、言ってる傍から、なんで、スカートの裾から手が入り込んでるのっ!? あ、もぉ! 服の上から胸、揉むなぁ!! あっ……ちょ、ちょっと……!! ここ、リビングでしょぉぉ!? あれよあれよという間に、押し倒されて、ソファの上。 うっ……戦闘準備完了、って……? 「かっ、母さんが帰ってくるから、こんな所でこーいう事、止めよ、ねっ!?」 逃げ腰の私に、尽はにぃっと笑う。 「実は今日は、母さんの帰りは遅いんだな。大丈夫、夕飯はちゃんと俺が作ってやるし」 「でっ、でも、でもっ……!!」 「父さんがこんなに早い時間に帰ってくるわけない、しな?」 逃げ場が封じられ、私は、追い詰められた。 尽の唇が……重なってくる。 意地悪な態度とは正反対の、ひどく優しいそれに……私は、簡単に懐柔されてしまう。 しかも、唇を離した後に溜息と共にもらした尽の言葉に、私はもう、なすすべもなくなる……。 「前、言ってたろ? ピアスを開けたら運命が変わるかもしれない、って」 「え……?」 「だから、俺も、ピアスを開けようかと思ってた。でも、開けるなら、ねえちゃんと一緒がいいって、そう、思ってたんだ。だから……」 そう……そう、なの。 同じ事、考えてたんだね、尽。 ……だから、私は、ピアスを開けたの。 運命が逆転する事はあり得ないだろうけど、少しくらい変化があってもいいだろうって……尽といる事が、少しくらいいい方向になればいいだろう、って……だから、私、ピアスホールを開ける決心したの。 私、尽の言葉が嬉しくて……抜け駆けしちゃった事が、ちょっと申し訳なかった。 「それじゃあ……尽のピアスホールは、私が開けてあげる、ね?」 私の言葉に、尽はくすくす笑う。 そして、意地悪に口を開く。 「お願い、痛くしないでね」 うっ……なんで、おねぇ言葉!? しかも、一体、何を含んでるかな、まったく! やっぱりむくれた私の頬に口付けをして、尽は笑う。 そして、また、引き続きとんでもない事を口にした。 「なぁ、それでさ、ねえちゃん?」 少し真剣そうな口調に、私もむくれを取って、真正面の尽を見上げたのに、尽は、真剣そうに……不真剣な事を聞いてきたの……これがさ……。 「処女膜に穴開けた時と、ピアスホール開けた時と、どっちが痛かった?」 「………………………!!!!!!」 こっ、この男は!! 「やっぱり、ロストバージンした時だよなぁ? ねえちゃん、すげぇ痛そうだったもんなぁ……いや、ほら、それ以上痛いなら、俺、ピアス開けるの考えちゃおうかなぁ、なんて……」 「っ、尽……」 「ん?」 私、にっこり笑って尽の顔を引き寄せた。 で。 「この、お馬鹿ぁぁぁあ!!!」 耳元で大絶叫したのでした。 ちょっとだけ、すっきり。 で、その後、私達が睦み合うまでには、相当の尽の努力があったかもしれない。 ふーんだ。たまには、ご機嫌取りに苦労すればいいんだわ。 それにね、ピアスホール開ける時、絶対優しくなんかしてやらないんだから。 尽、泣くんじゃないわよっ!! つか、尽が泣くところ、見てみたいカモ。いっつも私が泣かされてばかりでさ。 うふふふ〜……手元、狂わせてみよーかな? ……なんて、ね。 でも、そうだね……本当に、ふたりの運命が、これで少しはいい方向に変わってくれるといいね。 だって、これからも、ずっとふたりでいたいから。勿論、ただの姉弟として、なんかじゃなくって……できれば、恋人と、して。 そう、色々な初めてを、二人で経験して行きたいから……。 END |
<言い訳とか>
ちょっと、日常生活の中のふとしたきっかけで、ピアスネタを思いついて
ふらふらと書いちゃいましたが……
ゲーム中で、アクセショップに普通にピアス売ってますよねぇ……。
奈津美あたりも、在学中にピアス開けていそうだけど……
まぁ、いいか(苦笑)。
一部科白が、ダイレクトに大人傾向ですが、
まぁ、実際に突入はしなかったので、
表UPにとどめました。
いやぁ、本当は、アレやコレやと、そういったシーンを
引き続き書きたかったのですが(笑)。