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夏旅行 そもそも、事の始めは、珠美さん。 鈴鹿に温泉旅行に誘われた、どうしたらいいか? という話をねえちゃんに持ち込んできた。 いや、どうも、その温泉旅行、鈴鹿に他意があるわけでなく、単にそこの温泉旅館に鈴鹿が大ファンだったNBAの選手が来日した際に宿泊した、というスポーツ雑誌の記事を読んで、突発的に提案したものらしいのだが。 他意はなくとも……まぁ、普通の女性なら、付き合っている男から温泉旅行に誘われたら、色々と穿った考えを持ってしまうものだろうな。 つか、さすが鈴鹿、女心を考えなさ過ぎっ。あの人の頭の中のバスケに占める割合は、現状確実に珠美さんより大きいと見た。 鈴鹿がイイ男なのは確かだけどさ……俺が目指すイイ男とは、ちょっと違うな。 それで、ねえちゃんは珠美さんに「行ってくればいいじゃない?」と提案したわけだけど、珠美さんはねえちゃんに「お願い一緒に行って!」と懇願してすがりついたらしい。 もちろん、ねえちゃんは、ふたりの邪魔できないからって散々断ったけど、珠美さんに泣きつかれて……仕方なく俺に相談してきた。 まぁ、俺も出歯亀は好きじゃないけど……ねえちゃんひとりじゃあんまり可愛そうだと思い、付き合う事にした。 ……が、どこからかこの話を聞きつけた奈津美さんと姫条が同行を申し出て、更に玉緒が自分も行きたいと言い出したなら、何故か日比谷(妹)もその情報を聞きつけてやってきた。 あ〜〜もう、収拾がつかないったら。 けど、珠美さんは、その団体行動にこそほっとしたらしく、みんなの同行にあっさり納得した。ちなみに、何にも他意のなかった鈴鹿も笑顔でOKだ。「にぎやかでいいじゃん」との事。 なんでかな。せっかくふたりっきり、水入らずの旅行だったのに。ふたりで行けばいいだろうにさ……。 つか、鈴鹿と珠美さんって、もう何年も付き合っているのに……健全だよなぁ……。 ……とか、健全とは言えないのを自覚している俺は溜息しきり。 さてさて、温泉旅行のメンバーが揃ってからの話はごく早く、学生メンバーが夏休みに入ってからすぐに出発となった。 ……けど、俺は、旅行直前、ちょっと躊躇してたんだ。 だって、ねえちゃんここの所体調が悪いらしくてさ。本人は早々来た夏バテだとか言っているけど……俺は心配でたまらなかった。 「大丈夫大丈夫! 温泉入ったら、きっと気分爽快になるよ!」 そう言う顔色もなんだか、あまり良いとは言えなくて。 旅行に行かない方がいい、と、止める俺を睨みつけて「今更私だけキャンセルできないもん。それに、とっても楽しみにしてたんだから!」と主張するねえちゃんを強く止め立てする事は、結局、俺には出来なくて、少しだけ、後悔もした。 「、大丈夫!?」 「ご、ごめ……酔い止め、飲んだんだけど………」 電車から降りても、まだねえちゃんの顔は青い。 体調悪い時に、のろのろ進む田舎の鈍行電車に揺られてたんだから……仕方ない。 「ちゃん、気分よくなるまで休んでく?」 「ここ空気いいから、ほら、ベンチ座っててよ、さん。深呼吸してれば、気分良くなるかも。私、何か飲み物買ってくるし!」 女性陣に取り囲まれて心配されるねえちゃんに、俺の近寄る隙はない。 だから、遠巻きに心配するしかできないのは、ちょっと悔しいかも。 俺たちは、ねえちゃんの気分がよくなるまで待ってから、タクシーに乗り込んで山奥の温泉旅館に向かった。 温泉旅館は思ったよりも大きくて、夏休みという事もあってか、客も多かった。 俺たちが案内されたのは、隣り合わせの和室二部屋。 当然、男と女、別々に分かれて、だ。 まだ気分の悪そうなねえちゃんを休ませるのだ、と、女性陣は部屋に引き篭もり、俺含めた男性陣は、荷物を部屋に放り投げ、部屋の簡単な探索の後、今度は旅館そのものの探索に向かった。 鈴鹿はひとりはりきっていて……フロントでも例のNBA選手のサインと写真を見つけてはしゃいで、選手の宿泊の時の事をフロントのおにぃさんに聞きまくっていた。 呑気で、いいよな。 俺は、そんな鈴鹿や、呆れながらも興味津々の姫条や玉緒と共に行動しながら……ねえちゃんの事が心配でたまらなかった。 ねえちゃんの体調が悪い理由が単なる夏バテならまだいいが……もしかして、の、理由としてとても危ぶんでいる事があったんだ。 怖くて、ねえちゃんに聞けないけれど。いや、聞いたって、ねえちゃんはちゃんと答えてくれないだろうけど……。 この温泉旅行で体調を回復して、俺の心配が杞憂であって欲しい、と、そう思ってた。 思ってたのに……。 さすがに売りの温泉は、すっげぇ豪華。 檜風呂アリ、岩風呂アリ、露天アリ。ちなみに、混浴はなしだ。ちぇっ。 女性陣は部屋でしばらく体調の悪いねえちゃんの相手をしていた後、ねえちゃんを除いた3人が揃って出てきた。 「ちゃん、まだダメっぽいよ。あの調子じゃ、お風呂も入らない方がいいかも……」 「うう〜……私たちだけ楽しむの悪いけど……お風呂上り、なんか、売店で買ってきてあげようか?」 「さん、きっと、私たちがお風呂から上がってくる頃には、気分良くなっていると思うんですけど……。夕食くらい、みんなで美味しく食べたいですよねぇ」 言いながらも、どこか足取りはうきうきしている。 まぁ、ね。女性は温泉が好きみたいだしな。 男どもは、風呂より探検。 鈴鹿と姫条はうきうきと宿から出て、どこかに行ってしまった。 街に遊びに行ったのか、山の中に分け入っていったのかは知らんが。 俺は、ねえちゃんが心配でそれどころじゃなくて、宿に残ったんだけど、姉ちゃんが眠っていると言う女性陣の言葉と、珠緒の催促によって、しぶしぶ風呂に入ることにした。 ねえちゃんを無理に起こしても仕方ないし……ねえちゃん以外の女性もいる部屋に勝手に入るわけにもいかないし。 風呂に入っている間もねえちゃんのことが心配でたまらなかった。 やっぱり、無理にでもこの旅行を止めて、病院に連れて行くべきだったか、と、思った。 というか、もし、無事にこの旅行から帰りつけたなら、真っ先に病院だな、とも思ったんだけど。 ひとりはしゃいで、風呂めぐりをしている珠緒は放っておいて、ねえちゃんの様子を聞くために、女性陣が風呂から出てくるのを待って、俺はラウンジにいたんだけれど、女性陣は中々出てこない。女の長風呂って奴ぁ……。 俺がイラつきだした頃、ちょうど鈴鹿と姫条が帰ってきて、土産って言って酒を手渡してきた……一応、俺、未成年なんだけど……いや、飲むけどさ。 ともかく、鈴鹿と姫条が、一通り温泉街を巡ってきた冒険談を語るのを聞き流しながら、俺は首がキリンになるくらいに待ち続け、やっと湯上りほかほか上機嫌で現れた女性陣をつかまえて女部屋に向かった。 いや、勿論、部屋の中には入れてもらえなかったけど、ねえちゃんの様子だけも聞きたい、って思ってさ。 鈴鹿と姫条は、夕飯までに入ってくるんだ、と、風呂の用意をしている。 待つ事、数分…………長い。なんで? 部屋の外で首をかしげている俺の耳に、突然飛び込んでくる悲鳴。慌しい物音。 ……って、なんだ!? 慌てて飛び出してきた日比谷の顔が青い。 「さんが……っ!」 途端、俺の血の気が引く。 ねえちゃんに、何があった!? 日比谷の言葉を最後まで聞く前に、部屋に飛び込んでいた。 広い和室2間続きの部屋には、一応、温泉を引き入れた風呂もついていて、そこから飛び出してきた奈津美さんとぶつかりそうになった。 「っ、尽! が、風呂で倒れてて! 私達の力じゃなんともできないから、仲居さん呼んで来て! 担架くらいあるでしょう! あと、それから、お医者さんもっ!」 慌てながらも、土壇場に強いらしい奈津美さんは俺に指示を出すんだけど……俺は、奈津美さんの言葉を最後まで聞く前に、風呂場に駆け込んでいた。 「!!!」 珠美さんにタオルで頬をや額を冷やされてる、意識を失ってぐったりしたねえちゃん……! 「馬鹿っ! 気分悪い時に、風呂なんか入るからっ……!!」 自分の体調を管理しきれない、鈍くさいねえちゃんにイラッとして、思わずふたりでいる時だけの呼び方をしてしまった。 目を丸くして、唖然として俺を見る珠美さんを押しやって、俺は……全裸のねえちゃんを抱き上げた。 ねえちゃんの重みくらい、慣れてる……つもりだ。 さすがに、意識を失ったねえちゃんは、普段よりもぐったりと重かったけれど……でも、このまま熱気のこもった風呂場に置いておくわけにはいかない。 ねえちゃんの白い肌は、今は真っ赤に火照ってて、すごい熱い。 これは、完全に湯あたりだな。 滑らかなねえちゃんの肌から、お湯がぽたぽた滴り落ちる。 湯あたりから冷める前に、これじゃ今度は湯冷めして風邪をひいてしまう。 「珠美さん、バスタオル用意して。それから、奈津美さん、布団!」 俺の言葉に、唖然としていた珠美さんと奈津美さんは、ばたばた動き出した。日比谷も戻ってきて、奈津美さんの手伝いをしている。 バスタオルでねえちゃんの体を包んで、簡単に体を拭った後、裸のまま布団に寝かせる。 この状態なんで、浴衣も着せられないからな。 濡れタオルで額を冷やしつつ……。 少し落ち着いた俺は、はっとする。 今更、だけど……。 ばれたかも……とか……。 いや、多分、一部、カンのいい人間は気付いていそうだな、とは思ってたけどさ……奈津美さんと日比谷あたり。 「………医者は、いらない?」 呆れを含んだような奈津美さんの言葉に、俺は息を詰まらせた。 ああ、やっぱり、奈津美さんは勘付いてる……というより、確信した、か? 「医者はいいけど……氷嚢はあった方がいいかも」 「あ、分かった。じゃあ、私、仲居さんに頼んでもらってくる……珠美さんも、一緒に行ってくれる?」 やっぱり、勘付いていそうな日比谷が、まだ困惑しつづけている珠美さんを連れ出してくれた。 「………そういうこと、かな?」 奈津美さんの言葉に、俺は、なんとも応えられない。 「まぁ、そりゃ、仲のいい姉弟なら、それくらいねえちゃんの事は心配するだろうけど、度が過ぎてるよねぇ。いくらなんでも、普通、姉の裸見たら怯むよねぇ……」 完全に、バレた、かも……。 「……まさか、ねぇ………………ふぅ……」 奈津美さんはそれだけ言うと、深く、深ぁく溜息をついて頭を振った。 「夕ご飯は和食レストランで食べる予定だったわよね? 事情話して、アンタの分くらい、折り詰めにしてもらってくるし、の雑炊くらい持ってきてあげるわよ。氷嚢だけ置いたら、私たちしばらく帰らないから……どうぞごゆっくり。看病してあげてて」 奈津美さんの言葉は大半が気遣いのものだろうけど、どこかにからかいと呆れも含まれていて……旅行から帰ってから、何か一悶着起こりそうな不安を俺の胸に募らせる。 や、まぁ、絶縁されるとか気味悪がられるとか怒られるとか……そういう感じではなさそうなんだけど……。 上目遣いに奈津美さんを見やると、奈津美さん……。 「口外はしないから。前から何となくオカシイとは思ってたし……。言いたい事はイロイロあるけど……今は、止めとく」 そう言い置いて、部屋から出て行った。 しばらくしてから氷嚢を置きに戻ってきた日比谷も、溜息混じりに「さん、安静にさせてあげてね」と、言い置いてすぐに出て行った。 気遣いはありがたいんだけど、ね。 やれやれ……気付いているやつらに、どういう風に勘ぐられているか、考えるとおそろしいな……。 ともかく、何をするでもなく、俺はしばらくねえちゃんの……の傍についていた。 ただ、寝顔を見ている。 それだけでも、幸せで。 いつも、こそこそ、誰にも気付かれないように心配しながら触れ合うしかできないから、のんびりとふたりきりでいるこの時間が、とても嬉しい。 額のタオルを替えてあげながら、俺はじっとを見詰める。 まさか、と思う。 彼女の体調が悪い理由……もしかして、そうなら……俺は、どうしたらいいだろう。 が目を覚ましたら、まずは体調を戻す事から考えないと。彼女への問いかけはその後だ。が否定しても、旅行から帰ったら、病院に連れて行って、それが確定したら、俺は……どうしたらいいだろう。 ぐるぐる頭の中を不安が巡る。 けれど……ともかく、今は……の体調回復が、第一。 「ふ……ん……っ」 寝返りを打とうとして体を動かしたの額からタオルが落ちる。その感触に、は目を覚ました。 「…………尽?」 潤んだ瞳で見上げてくる。 「ああ……」 「私………………確か……お風呂で……」 「そう、倒れてた」 「ここ……旅館の、お部屋?」 「うん」 「皆、は?」 「夕飯、食べに行ってる」 「あんた、は……どうして?」 「だって、を置いていけない」 続くの質問に応え続ける。 質問する事で、ははっきりした意識を取り戻していく。 「そ、か……」 布団から腕を出して……俺の腕を掴む。 それから、体を起こそうとして……自分が全裸なのに気付いて、慌てて布団をかき寄せた。 「まっ、まさかっ……」 「いくらなんでも、皆のいるトコでできるわけないだろ? 第一、体調の悪い相手に、できない」 俺の即答に、は顔を真っ赤にしたまま息をついて、それから、ふたたび俺をじっと見詰めてくる。 すごく、すごく、何か言いたそうな瞳。 けれど、それを戸惑う唇。 そんなの様子に、不安の影が俺の胸の中で揺れる。 はこくんと息を飲み込んだあと、眼差しを強くして俺を見詰める。 「私……あのね、もしかして……」 聞きたいけれど、聞きたくなくて……思わず、の唇を自分のそれで塞ぐ。 柔らかな裸体を抱きしめて、有無を言わせないほど性急なキスを求める。 応えを先延ばししたって、意味がない。 本当なら、できるだけ早く対応した方がいい。 それは分かっているけれど、まだ、気持ちの整理ができそうもなくて……。 長いキスを終えると、は荒い呼吸を整えながら、涙目で、少し恨めしそうに俺を睨みつけた。 「ばか……人の話、最後まで聞きなさい」 怒っているというより、拗ねている口調に、俺は苦笑い。 本当は、の体調を一番に気遣いたい。 それに、気持ちの整理はつかないままだけれど……俺は、先にに問い掛ける。 が告白する気分になっている……それを、きちんと聞くべきだから。 「先月からだろ、体調悪いの? ……遅れてる?」 俺の言葉に、少し驚いたように目を丸くしたは、コクンと頷いた。 「本当は、言いたく、なかったの……でも、こんな事になっちゃったし……。ね、あんた、気付いてたんだね?」 「言わないで、どうするつもりだった?」 長い付き合いだ、の考えていそうな事くらい分かる。 「………あんたに、余計な心配させたくなかったから……だって、もしそうなら……ありえないもの、絶対」 「自分ひとりで、何とかするつもりだった?」 声に少し苛立ちが混じったのが自覚できた。けれど、それを押さえきれない。 「私が話さなければ、あんたは気付かないと思ったの。気付かれたくなかった。まだまだ先の長いあんたに、変なストレスかけたくなかったんだもの」 「馬鹿っ!」 の言葉に、俺は怒鳴った。 イライラっとした。 こんな時にも、姉の顔をするに。 「もし、にできてたら、だけの問題じゃないだろ!? つか、の方が大変な思いするのに、俺だけのほほんとしてろって!? 知らぬが仏でいろって!? それって、ずるくないか!? 俺たちが付き合いだしたとき、覚悟したんじゃなかったか!? 許されない事をしている自覚があったから、だから、その罪の重みをふたりで別け合おう、って!! ひとりで、馬鹿な事考えんのも大概にしてくれ! 俺を、所詮は年下の弟だって、そう思わせないでくれ!」 気持ちの整理がつかないまま、怒鳴った。 けど、怒鳴った後、呼吸を整えながら……気持ちの整理はついた、気がする。 目を丸くして俺の怒鳴りを受け止めたは、苦笑いを浮かべていた。 「もし、できてたら……やっぱり……?」 「生めない。生むわけには、いかない……。私達の罪を背負う、不幸な子供、生めない」 の答。 それこそが正し答。 俺も………今は、まだ……その答しか、思いつかない。 言われるまでもなく、自分がまだてんでガキで、さえも十分に守ってやれないことは自覚しているから。 「それでも……そうする事になっても……俺も、と一緒に苦しませて……」 にだけ、苦しい想いは絶対にさせないから。俺も、と一緒に苦しむから……。 俺の言葉に、は頷いて……抱きついてくる。 「うん………」 「帰ったら、俺もついていくから、病院、行こう?」 俺の胸の中でこくこく頷くの、まだ湿った髪をそっと撫ぜる。 も、不安だったのだろう。 こればかりは……誰にも相談できる事じゃないし。 「えーっと……」 ふたりだけだった静かな空間に、不意と第三者の声が割り込んできた。 「っ!!」 驚いて、慌てて体を離して……声のした襖の方を伺うと。 「アタシ、奈津美だけど……入るよ?」 あ、奈津美さんか……それなら……。 と目配せしあって、俺が「いいよ、入って」と声をかけると、奈津美さんは、とても居心地が悪そうな苦笑いを浮かべながら部屋に入ってきた。 「やーーあのさ、なんか、隣の部屋にいたら怒鳴り声が聞こえたから来たんだけど……大丈夫、カナ?」 声、聞こえてたのか? まさか、内容は……。 「あ、大丈夫! 怒鳴り声だけで、内容までは聞こえてないし、ここに来たのもアタシだけなんだけど……」 言い辛そうに言って、奈津美さんは手を合わせた。 「ごめん。深刻な内容、ちょっと聞いちゃった……」 ………っ! 怒鳴り声以降だろうから……生む生まないのあたり………。 マズイかも……。 は、ひどく困惑して泣き出しそうな顔をしている。 俺も、どうやって奈津美さんに言葉をかけるべきか、考えてしまっていたんだけど。 「わざわざ病院行かなくても、検査薬……アタシ、持ってるんだけど?」 検査薬? 「100%確実じゃないみたいだけどさ、陽性が陰性って事はまずないだろうから、病院行くのは陽性だった時でいいんじゃないかな、とか。だって、行きにくいでしょう、産婦人科」 俺たちは顔を見合わせて……奈津美さんの厚意を、ありがたく受け取る事に、した。 そして、結果は………。 「夏バテ、大丈夫そう?」 「うん。もう平気。ありがと、ごめんね、皆。心配かけちゃった」 帰りの電車の中、エヘヘと笑う。 昨夜、は部屋でずっと寝て過ごした。 他のメンバーは男性陣の部屋で明け方まで飲んだり喋ったりしていた。 俺も、そこに混ざりながら、時々の様子を見に行ったりして。 翌日は、の体調もかなり好調になっていて、朝風呂に入った後、皆で温泉街の探索に出かけた。 の体調不良の原因は、心因性のものでもあったみたいだ。 そう、検査薬の結果は、陰性だった。 月のものの遅れも、やはり夏バテからくるものじゃないか、と、奈津美さんは言った。奈津美さん自身、経験済みなんだそうな。 俺もも胸を撫で下ろしつつ……けれど、一部のメンバーにばれてしまった事に、少しだけ重い気持ちもあった。 いや、誰も、何も、言わなかったけれど。 きっと……知ってしまったメンバーは、それを口外はしないと思うけれど……からかわれる種にはされるな、とは、思う。……主に、俺が、ね……。 別に、それでが困る事態にならなきゃ、俺は構わないけど。 まぁ、何はともあれ、が無事ならそれでいいわけで! 電車の窓から去り行く風景を、名残惜しそうに見詰めるの耳元で、俺はそっと囁いた。誰にも聞こえないように。 「今度は、ふたりきりで来たいな?」 は少し頬を染めて言う。 「ばか……。でも、そうだね……あんな不安な事態にならないように、ね?」 くすくすっと俺たちは笑い合って……それを目敏く見つけた奈津美さんと日比谷が変な笑い方をした。 「尽? ねぇねぇ、あんたさーもてるのに、特定の彼女いないのなんでぇ?」 奈津美さんっ!! で、奈津美さんの言葉に見事に乗ってくる他のメンバー。 「お、そうやそうや。それ、昨晩も聞いたのに、全然答えやんのはなんでや?」 「僕も、ずっと一緒にいるのに、一度も尽の本命の話聞いた事ないんだけど?」 「でも、言わないだけで、尽くんなら、ちゃんと彼女いそうだけど」 事情を知らない人間の言葉。 「もしかしてっ、公表できないような相手と付き合ってるのかもねぇ?」 日比谷の言葉に、また他のメンバーは食いついてくる。 ああ、もぉ……! ちなみに、そういう事に興味のない鈴鹿だけは、今だ、デジカメで撮ったNBA選手のサインやら写真やら、ゆかりの場所やらをうっとりと見返していた。 元はといえば、コイツのせいでこの旅行は決定したわけで。おかげで、イヤな奴らにばれて、からかわれるハメになるなんてっ! 俺は鈴鹿を睨みつけながら――勿論、鈴鹿はそれに気付く事はなかったが――、黙り続けた。 も、絶対、余計な事言うなよ!? 目視で合図すると、は乾いた笑いと溜息を洩らした。 ああ、まったくもう……! 楽しくなかったわけじゃないけど、もう、こんな旅行はこりごりだ。 そう、次は、やっぱり、とふたりっきりで旅行に決まりだなっ!! 「ん〜? 尽、何ひとりで笑ってるの? 気持ち悪いなぁ」 「変な事考えてるんじゃない? わーーやらしぃ〜!」 「尽、おまえ、そんな子やったんか? 見損なったぞ!」 「なになに? 尽が青少年の妄想してるって?」 「奈津美ちゃん、尽くんだって男の子なんだから……」 「うるさいなぁ。いいじゃん、尽が何考えてたってさー」 あああああっ! もぉ、大概にしてれっ!!! 旅行は一応無事終わり、の不安も晴れた。 さて、後は、の体調を完全に元通りに回復させて……。 俺、もう二度とを不安にさせる事態にならないよう、注意するしっ! え? 何? 旅行から帰ってきてすぐ……始まったの? あ、そぉ……うん、良かったね……。 しばらく、おあずけ……。うん……分かった………。仕方ないし。 うううっ……。いいんだ………別に……。 が元通り元気になりさえすれば、さ……。 ああ……俺の夏、まだまだこれからだよ、な……!? 夏が終わらないうちに、と夏のアバンチュールを楽しみたい! いや、楽しむぞっ! きっと、多分、おそらく……………。 END |
<言い訳とか>
夏旅行話。
もっと爽やかにしたかったですが、
結局いつも通りな感じに。
そしてまた、いつも通りにムダに長い……。
久しぶりで名前変換仕様の仕方忘れてた……。