【四季シリーズ番外】

Never leave me
<後編>



 「あらやだ。マジ、カッコイイ。ていうか、年下みたいだけど、いいよね、格好良ければ」

 私も彼女の影からこっそり覗き込んだんだけど………けどっ!!!

 なかなかの美人の部類に属するだろう同僚をナンパしてたのは………尽……?
 背を壁に持たせかけた彼女の横に肘を付き、横向きに壁にもたれて、談笑してた。

「ふーん、あなた、20歳、くらい、なんだ」

「あはは。そこの所、深くは追求しない。それより……さっきメールしてたおねぇさんの連れって、どんな人? やっぱり、類友で美人そうだけど? 楽しみ」

「うふふー。そうね、なかなかよ、楽しみにしててね……って、あら、もうひとり来てわ。あの子は美人っていうより、可愛いって感じだけど……一緒にいいでしょ?」

 彼女が私たちに視線を移すと……尽もこっちを見て……その視界に私は入ったはずなのに、少しだけ意味ありげに笑った後、またナンパにかかる。

「いいよ。でも、俺、今何ぁんも持ってないから……」

「奢る奢る。その代わり、連絡先、教えてよ?」

「奢ってくれれば、教えるよー」

 くすくす、ってふたりだけで笑い合ってる。

 尽……。
 私、いるのに……なんで?

「でも、おねぇさんみたいな美人ナンパに成功して、ラッキー」

 言いながら、彼女の髪に手を伸ばして、緩くウェーブした髪の毛を指先に絡めて……その瞳をじっと覗き込んでる。

「あら、私もあなたみたいなカッコイイ子と知り合えてついてるし。今日、楽しかったら、また遊びに行きましょ?」

「はは……それも、いいねぇ」

 馴れ馴れしく、彼女の腰に手を回す。
 彼女もそれを拒まず、悪戯っぽく笑って、身を任せてる。

 さっき会ったばかりなのに、ふたりは恋人同士みたい。

 ヅキン、胸に鈍い痛み。

 彼女が尽に手を伸ばして、その髪に触れる……頬に触れる。

 ヅキンヅキン、って、胸が疼く。

 ――ヤダ。他の女性に触れないで。私の尽に触れないで……!
 心の中で私が叫ぶけれど……実際、どう反応して言いか、何をどう言っていいかわからず、私は………ただ、呆然と、それを、見てるしかできなかった。

「ともかく、さっさと抜けちゃおうか? 先輩達に気付かれないうちに」

「そうねぇ。連絡は、抜けてからすればいいでしょ」

 私……同僚二人の相談に、相槌打てない。
 アルコールでぼーっとする頭に、熱が篭ってくる感じがした。

 尽は……私の方を見ない。
 それは、すごく、辛くて、切なくて……。

 尽……。
 尽、私、いるのに……どうしてよぉ……。

 頬が温かくなった。
 と、思ったら……。

「あ、れ? あれ!? なんで、あんた泣いてるの!?」

 泣いてる……。
 うう……止まらない……。

「気分悪い? なに? 今から遊びに行こうと思ってたのに……あんたは、帰る? タクシー呼ぶよ!?」

 気持ち、悪い……。
 でも、帰りたくないよ……ひとりのお家に帰るの、イヤ……。

 うぇぇぇぇ………。
 俯いて、本格的に泣き出した。

 酔って、感情がおかしくなってた。
 溢れ出す涙と、嗚咽が止まらなかった。
 詮を切ったように、切なさが溢れ出して、それに付随するものが全て湧き出してきて。

 そしたら。

「ばか……」

 聞き慣れた声がして、感じ慣れた温もりと匂いがすぐ身近にあった。

「合コンなんて、出るから……」

 溜息混じりの囁きに顔を上げると、私は尽の腕の中で、尽の顔が真上にあった。

「……っ、だっ、て、知らなかったん、だもん……」

「他の男に抱きついてた」

 酔っていたから、その時の私自身はその事をよく覚えてなくて、頭をぶんぶん振っちゃった。

 尽の匂い。尽の感触。
 ………すごく、安心する……。

 きゅっ、って尽に抱きついた。
 やっぱり尽の感触が、一番、好き。
 この匂い、この温もり、この……鼓動。

 尽の胸に頭を預けて、ぐずってると……大きな溜息がふたつ、遠くから聞こえた。
 あ……そうだ……忘れてた……。

「なんだ……そーいう事……」

「馬鹿にしてる」

 同僚二人が不貞腐れた顔で、肩をすくめてた。

「痴話喧嘩に巻き込まないで欲しいもんだわ」

「む〜〜折角久々にイイ男ゲットできたと思ったのにぃ」

 うっ……もしかして、職場の人間関係まずくした!?
 って、思ったけど……ふたりは、苦笑して踵を返しただけ。

「気分悪くなって先に帰ったって言っとくから」

「まぁ、詳しい事は週明けに色々聞きたいし」

 えーと……大丈夫、かな……?
 去っていくふたりにかろうじて「ありがとう」とだけ伝えたけど……。

 不安そうにする私の頭を、尽はぽんぽんと叩いて笑っていた。

「ねえちゃんは庇護欲そそるタイプだから大丈夫でしょ。野郎相手はもちろん、女性相手でもな」

 庇護欲そそるって……そんなに頼りない、かな?
 ううっ……。

「頼りないっていうより、なんか、こう、守ってやらなきゃ、って感じがすんだよな」

 それって、頼りないって事じゃない!?

「う〜ん……ちょっと、違う気も………」

 頼りない……20過ぎた女が頼りないって年下に言われて……ううっ……。

「年下も年上も……ねえちゃんの場合さぁ……」

 あううっ……。

「……まぁ、いいケド……」

 多分、お酒を飲んで情緒不安定になってるっぽくて、ぐずり続ける私の腰を抱いて、尽は歩き出した。

 どこ、行くの?

「どこ行きたい?」

 意味ありげににっこり笑う尽に、私は首をかしげて……そのまま導かれたのは、帰るべき家じゃなくて……。



「お仕置き」

 くすっと笑う尽に、私は体を震わせる。

「二度と、合コンなんてしない?」

「やっ……」

 尽は、いつも以上に意地悪で。
 アルコールで霞のかかったようになってる思考では、まともに逆らえるわけなんてない。普段からでさえ、まともに尽に抵抗できないのに……。

「だって、知らなかった……んっ……」

「だから、何度も言ってたのに……。ねえちゃん、自分の魅力に無自覚だから……どれだけ、自分が男を惹き付けるのか、理解してないから……。しかも、簡単に人に流されちゃうし……。マジでお持ち帰りされてたら、どうするつもりだったんだよ、まったく……!」

 説教しながらも私を翻弄する尽の動きは、意地悪で……でも、尽の声に、口調に、その体の熱に、安堵する私もいて。
 コクコク頷いた。

「尽も、他の人に触れちゃ、やだ……」

 嫉妬……あの、どうしようもない切ない感情。
 そんなの、もう、感じたくない。

 私の言葉に、尽はくすくす笑って、頬にキスをする。

「触れない……俺、ねえちゃんしか、感じたくない……」

 熱の篭った言葉に、胸が震える。

「できるなら、ねえちゃんを閉じ込めて、俺だけにしか触れられないようにしたいくらい……」

 うん……。

 私も、できるなら、尽の全てを、何もかもを、自分だけのものにしておきたい……。
 こんな、独占欲……自分が感じるようになるなんて信じられないけれど……でも、尽が、私だけのものであって欲しい、って、すごく、思う。
 尽の気持ちが、やっと理解できた気がする。

 でもね、でも……互いを互いだけのものにして、誰にも触れさせないで……そんなの無理、だよね?

「うん。無理。だから……な、毎日、ちゃんと……愛し合おう?」

 ……うっ……毎日、って……。
 そっ、それは……!

「互いを繋ぎとめておこう」

 ………っ!!

「……っ、あ……んっ!」

 尽は、私の体を抱き寄せて、私を愛する。

 やだ……も……あ、んっ!

 そして、また、私は尽に流される。
 でも……尽に流されるのは、とても心地よくて。
 力を抜いて、その流れに身を任せちゃう。

 尽が私を繋ぎとめ、私も尽を繋ぎとめる。
 心と肉体で、繋がり合って……。

「ねえちゃん、いつもより熱くて……潤んでる。やっぱり、アルコール飲んでると違うよな。……うん、これから、毎晩、晩酌しよーか?」

 っつ……尽ってば……!!
 そーいう事を、直接言わないでっ!
 てゆーか、表でそこまでは禁句っ! 年齢制限つけなきゃならないでしょ!?

「せっかく、初ラブホなんだから、ご休憩時間無駄にしないようにしないとな!」

 やっ、だからっ………っ、っ、つ……!!

 ああああぁぁぁっ!!



 ――結局……流されちゃって、延長までして……。

 つか、アルコール摂取後の激しい運動はダメでしょう!?
 だって、私、どうやって帰ったか、まったく記憶がなくってさ……後で、尽がこぼしてた。

「……さすがの俺も、家までねえちゃんをお姫様抱っこは無理。あーあ、早く車の免許取りたいや……」

 タクシーで帰ってきて、結構痛い出費だったらしい。
 えーと……それくらいなら、ご宿泊でも良かったんじゃ……?

「だーめ。宿泊だと、朝、ゆっくりできない。朝も……昼も、ねえちゃんと抱き合っていたいから」

 うっ……そういう科白をさらりと言わないでよぉ。
 というか、本当に記憶がないから……今、こうしてるのだって、いつの間に……。

 時計は、正午少し前。
 見慣れた部屋の見慣れた布団。
 そして、休日の朝の、いつものふたり。

「こうしてるのが、一番落ち着いて……幸せ」

 ………。

 言いながら、きゅっと抱きしめてくる尽の温もりに、やっぱり、私……幸せを感じる。

 うん……一番、幸せ……。

 すりっと尽の裸の胸元に顔を摺り寄せて、尽を感じる。
 尽を、誰にも触れさせたくない。
 信じられないくらいの、独占欲を自覚して……私は、尽を抱きしめる。

「ね、尽……私以外の女性に、触れないで、ね?」

 昨日の夜の確認のような私の言葉に、尽は吐息で笑う。まるで、私が妙な愚問をしているように。
 そして、答の代わりに、また、抱きしめてくる。

 心はいつも傍にあるのに、二人の間には、やっぱり互いの生活があるの。
 その間、誰とどんな風に話したり触れ合ったりしているのか、分からない。
 その時間が、時々とても不安でもどかしくて。
 だから……こうして、抱き合う。愛し合う。
 二人だけの時間の密度を濃くして、傍にいる。
 子供の頃より、どんどん二人でいる時間は短くなっていく。
 でも、きっと、だからこそ、こうしている時に、互いを強く感じあえる。求めあえる。

「……四六時中傍にいることはできないから、だから……一生、一緒に……ずっと、傍に、いたい」

 尽の言葉。
 まるでプロポーズみたい。
 でも、それこそ、愚問だよ?
 私はくすくす笑ってしまう。

「生まれてから、死ぬまで……一緒だね、私たち。きっと、他のどんな愛し合う恋人達も、夫婦も、こんな贅沢、知ることはないでしょうね?」

 姉弟だからこその、特権、だね。
 尽は、私の言葉に少しだけ声を立てて笑った。
 それから、息を吐いて、悪戯っぽく囁いてくる。

「……起きる前にもう1回、しようか? 人生なんて限られている。できれば、俺は、来世もねえちゃんとこうしてたい。だから……できるときに、やっとこう?」

 ………っ!!
 なっ、なんでそーいう話に転ぶかなっ!?

「それにしても、ねえちゃんって、酔ってる時のがすごいのな。昨日、帰ってきてから2回したんだけど、声、隣近所に聞かれてやしないか冷や冷やしっぱなしだったよ」

 えっ!? ええっ!?
 おっ、覚えてないし……!?

「ん〜〜意識がないからこそ、素直だったんだな、うん。いや、普段も相当素直だとは思うけどね。あんな事や、そんな事しても、全然嫌がらなかったもんなぁ」

 あっ、あんな事!? そんな事ってぇ!!?
 わっ、私、何したの!? 何、させられたのっ!?

「知りたい?」

 ……ううっ……何かな、そのニンマリ笑いは……。

「教えてやろうか、これから?」

 今は昼間だし、全然素面だしっ! えっ、遠慮しますっ!
 というか、私、シャワー浴びてくるっ!

「だぁめ。逃がさない。昨日の迷惑料払ってもらってから。それから……シャワー浴びるの、手伝ってやるし?」

 迷惑料!?
 というか、手伝ってもらわなくてケッコウですぅ!!

 じたばた、尽の腕から逃れようとしたんだけどぉ……結局……はい、いつも通りです……。
 流されました。

 簡単に捉まって、優しく肌を吸われたら、もう抵抗する気力なんてなくなっていって……気が付いたら、甘い声を出して、尽にしがみついてる始末……ううっ。
 しかも、昨日、私の意識がない間に行った色々な事を吹き込まれて……。

 やっ、もぉ、いいってばっ!
 尽のいじわるぅぅっ!!

 でも、それでも……それでも、尽にこうして独占されてたい、って願っちゃう私って、もしかして……変態!? 
 やあああっ! ちっ、違うもん。絶対、変態なんかじゃないもんっ。
 へっ、変態じゃないけど……でも、ヘン、かも……。

 尽に翻弄されている間、ぐるぐる頭の中を回る自虐的考えが結論を結ぶ。

 で……

 ……私がヘンになったのも、ヘンになっていくのも、絶対、全部尽のせいだわっ!
 ………って、尽に直接言ったら、我が意を得たり、とばかりににやりと笑われた。なんで?
 そうして、いつも通り、私は自分の言葉を後悔する。

「俺が、ヘンにさせてるの? ふぅん。それじゃ……もっと、もっと、ヘンにしてあげる。とことんまでヘンになってよ、ねえちゃん。大丈夫、俺、ヘンになったねえちゃん、ダイスキだから」

 ちゅっ、と、私の頬にキスをして……あぁぁ……嫌、ダメっ! 動かないで……もぅ、ダメだから……っ!

 あ、あぁ……。

 私の体の上に覆い被さっていた尽が、動きを再開して、私を優しく揺り動かす。
 心地よいそのリズムに、やっぱり私は、どんどんヘンになっていって……それでも、それが、幸せだって、そう感じちゃう。

 汗ばんだ尽の背を抱きしめて……体温とか匂いとか、低く絶え間なく続く乱れた呼吸とか……それが全部尽なんだ、尽を今私は腕の中に独占してるんだ、って実感は、すごくすごく幸せだった。

 どうしようもなく好きで、たまらなくて。
 その想いは、どうしても独占欲に直結しちゃうんだ、って、思った。

 独占欲は、嫌な感情じゃないよ。
 お互いが独占しあえるなら、きっと、それは、幸せの感情。
 


 ちなみに……週明け、出社してから、同僚達だけならず、先輩方にも、色々聞かれました。
 そりゃもう、色々。

 だっ、だからさっ、なんで、女性ってこんな話が好き!?
 つか、私、何一つ答えられないんですけどぉ!?

 ――彼何歳? どうやって出会ったの? 付き合ってどれくらい? 

 の、お定まりの疑問から。

 ――あんたでもえっちするんだ? 彼、上手いの? 彼がはじめての相手?

 だの、下世話なものまでっ!

 まるで喋れなくなったみたいに、私、口をつぐみました。
 ええ、そりゃ、ちょっとやそっとの拷問じゃ、口、割らないから……多分。

 で、でも、くすぐるのは卑怯だよ〜〜! あぁ、もぉ、私、そこ、だめぇっ! やぁぁぁ……!

「……あら、意外と感度ばっちり? 彼氏に鍛えられたか?」

 って、しかも何の話よぉ!?
 むくれる私の頭をぐりぐり撫ぜまわした先輩は、ふぅとため息をついた後、舌打ちした。

「ちっ……合コンのいい餌が出来たと思ったのに、年下のカッコイイ彼氏とラブラブじゃ、難しいな。ね、で、その彼氏と別れる予定は?」

 ……………先輩……ッ!

「別れる予定なんてありませんからっ!」

 尽と別れるなんて、考えられないから。

 ……ちょっと考えてみる。――尽のいない、これからの私――

 そんな私は、有り得ないもの。
 これまで、ずっと傍に尽がいたように、これからだって、私の傍にはずっと尽がいるの。

 私たちは、ずっと、ずっと……一緒、だから。



「彼氏との平均えっちは、週何回?」

 ………。

 だぁから、そういう質問はねぇっ…………絶対、黙秘、だもんっ!
 ていうか……そんなの、言えるわけないもの……言ったら、絶対、皆また私をいいように玩具にするんだわ。

 そう…………『毎日きっちりしてます』。

 なんて……誰が告白できるというの!?
 もぉぉっ……尽のばかぁぁっ!!






おわり





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<言い訳とか>

ばかばかしいほどラブラブにて。
うちのねえちゃんは、姐御系に好かれるタイプみたいです。
会社でも素でかわいがられていそう。
得な性分だなぁ(笑)。

そして、尽はナンパ師の本領発揮?
……なんか、結構浮気してそうだけど、大丈夫でしょうか?(笑)

四季シリーズ…また、何か書ければ書きたいものです。
(いや、書きたいものはあるんですけど……裏話……
どうなる事やら……はは……)