【四季シリーズ番外】

Never leave me
<前編>



 なんでだろ、尽は時々そういう事を言うの。
 冗談交じりであれ、真剣であれ。
 私が社会人になってからは、特に、それは頻繁になって……。

「頼むから、他の男には気をつけてくれよ、ねえちゃん」


 自分が鈍いって自覚してるけどぉ、そんな事言われないでもっ!

 いくら私でも、他の人にふらふら着いて行ったりしないし、それに……。

 ……それに……私、ちゃんと、尽が一番好き、だよ?


 私の言葉に、尽はいつも苦笑い。

 嬉しそうに唇をほころばせて、それでもまだ心配そうに肩をすくめる。

「自分が鈍いの自覚してくれたのはありがたいけど……他の事に関して、自覚がないから怖いんだよ、ねえちゃんの場合」


 他の事、って?


 聞き返す私の頭をぽんぽん叩いて、溜息。


「俺が言葉で言ったって、伝わらないから、きっと。とにかく……他所の男には極力近づかない事。いいね?」


 一体、どーいう意味なのかな!?

 それが分からない私って、やっぱり、鈍い!?
 というか……尽、そんなに独占欲強い子だったわけ!?

 む〜〜……なんか、信用されていないみたいで、ちょっとムカツク……。
 私、尽の所有物じゃないんだけどなっ!

 私の怒り気味の主張に対して、尽はさも当たり前のように言うの。

「ねえちゃんは、俺だけのもの、だよ?」

 ううっ!
 だからぁ……!!

 ……でも、反論する間もなく、流されちゃう。

 あっ、あの……! 尽ぃ!?
 やっ、ばか……あぁぁぁ……んっ!!

 そして……尽の言葉どおり、私は、尽だけの物、にされちゃう……。
 私も、実は、そんな自分を嫌がってなんてなくて…………って、そう思う事自体、流されちゃってるんだって分かってるけどぉ!

 でも、尽に独占されるのも、なんでかとても嬉しくて、心地良くて……。
 うん、絶対大丈夫だよ。私、他の男の人にこんな気持ちになるなんて、絶対ないから。


 ……だから、私を、独占してて、ね?





「ごめんね。今日夕ご飯いらないから。会社の先輩達と食べてくる」

「あ? じゃあ、帰りも遅いんだ?」

「うん、多分。余程遅くなるようなら、連絡入れるね」

 今朝、尽に向かってそう言った私も、何の疑いもなくそう信じてたの。
 だって、先輩達、ただの食事会、って言ってたのに!

 それは、どー考えても……合コンで……。



 私、大学を卒業し、無事就職した。それが、もう、2ヶ月前。

 私が就職活動してる間中、散々尽に心配されたわよ。
「ねえちゃんは鈍いから心配だ」だの「ねえちゃん天然だから絶対最終面接で何かやらかす」だの。
 うう〜……じっ、自覚あるからっ、だから頑張ったの。

 で、めでたく、希望していたところに就職!
 希望、って……なんというか、第一条件が家から通える会社、って事なんだけど……実は。勿論、そりゃ、職種にも希望があったわけなんだけど……あ、ちょっと、言い訳みたい……。

 だって、私、一人暮らしなんてできないもん。
 就職して一人暮らしするくらいなら、フリーターにでもなるわよぉ。

 尽とふたりきりの生活……それを、手放したくないの。

 それに、料理も苦手だから……ううっ……今だに尽に作ってもらってます。
 だって、だって! 私が作ると、焦がしたり、味が濃かったり……どう考えても、尽のお料理美味しいんだもんっ。自炊となったら、私、毎日コンビニご飯か……飢え死にしちゃうからっ!

 ま、ま……それはともかく、その日私は、女性社員の先輩方と新人皆とでお食事に出かける気満々だったのに、連れて行かれたのはどう考えても飲み屋さんで。そこにセッティングされてたのはどう考えても、女性社員×2の席数で。

「まぁまぁ。こういうのも、付き合いよ?」

 ぽんぽんと肩を叩かれて、耳元で囁かれた。

 あっ、あのっ!
 わっ、私……っ、その、彼に怒られますしっ。

「あれ? 彼氏いるの? まぁ、浮気するわけじゃなし、飲むくらいなら、ね? それに、黙ってれば何事もないわけだし」

 やっ、だからっ……!

「あんた、出汁にするのにちょうど良かったのよねぇ」

 はい?

「この間、ランチ食べた時写真とったでしょ? あれ、うちの彼氏に送ったら、あっちで大好評でねー。紹介しろ、って何人かが言ってきてるんだって。あんた含め、新入社員のぴちぴちちゃん達に」

 ええーと……。

「私の顔立てて、ね?」

 先輩に拝み込まれたら……断れないよぉ。

 あ、あの……それじゃあ……分かり、ました…。

「ん〜。あんたに彼氏がいるのは、だからヒミツにしといて。適当に食べて飲んで……楽しみましょ。何なら、たまには他の男と浮気するのも楽しいかも」

 せっ、先輩!?
 私、やっぱり……帰りますぅ!

「ダメ。逃がさない。前言撤回しない。あんたが一番人気なんだから、せめて、しばらくは愛嬌振りまいといて。アルコールが適度に入ってきたら、帰してあげるから。もち、お代は頂戴しませんし」

 あうぅ〜〜。

 ……で、結局、断れるわけもなく……。
 尽にもそうだけど、いっつも状況に流されちゃいうの……反省。

 で、思ったより盛り上がってきて、逃げるに逃げられなくて……あぁ、両サイドからがっちりガードされてるしっ!
 お、お気遣いは嬉しいんですが、私、お酒飲めませんっ!

 ……飲めなくはないけど……飲むとタイヘンな事になっちゃう……尽にも、もう何度となく注意されて、できるだけ人前では飲まないようにしてるの……。だって、酔うと、誰にでも抱きついちゃうからっ……!

 そろそろ尽に連絡入れないとまずいなぁ、って切実に思ってそわそわしている頃、案の定、尽からメールが入った。
 これ幸いと、家に連絡入れるから、って席を立って、廊下で携帯かけようとしてると……。

「ごめん。ハズレだったねー」

 トイレ帰りの先輩にばったり。

 ハズレ? 
 何が??

「ロクなのいないでしょ? まぁ、彼氏いるあんたにゃ、関係ないだろうけど……他の子達、結構楽しみにしてたのになー。あーあ。また彼に言って、穴埋めしないとなー。今度は、もっとイイの集めさせるし」

 あはは……。
 ま、次は私は誘わないでクダサイ。

「何、彼氏、うるさいの?」

 ええ、そりゃ、もう。

「あ、もしかして、今、彼氏と連絡取ろうとしてた?」

 えーと、はい。

「どんな人? 年上? 年下? ま、あんたなら、年上、かな?」

 ……………。

 思い切り年下、なんて……言えないっ。勿論、それが、弟なんて……言えるわけないっ!!

 ここは笑って誤魔化そう。

 あはははは……。

 先輩は、ふ〜ん、と、興味深そうに私を見た後、店内に戻っていった。
 ほっと溜息をついた私は……尽に連絡を。勿論、合コンで遅くなるなんてとても言えなくて……。

「ごめんね、もうちょっと遅くなる。ん……なんか、断れなくて…………うっ……どうせ、私、流されやすいもの……迎え? んっ……多分、大丈夫、かな。あ、うん……終わったら、連絡するから、駅まで、来てくれる? ふふ……うん……」

 尽は、私のことをよく分かってる。
 やっぱり合コンの事は言えないままだけど……ごめんねっ。
 心の中で謝って、携帯を切ろうとした途端に……っ!?

「今、繁華街の『メモリアル』で合コンしてまーすっ! 早く来ないと、お持ち帰りされちゃうよー」

 携帯が取り上げられて、驚く間もなく……っ!

 先輩っ!?

 っつて、あぁ、切っちゃったし!?

 にやり、って笑う顔!!

 なっ、何するんですかぁ!?

「だってぇ、あんたの彼氏、見てみたいもん。今日まで彼氏の事なんて、全然暴露しなかったくらいだしさー、あんた、聞いても教えてくれなさそうじゃん?」

 ああああああぁぁぁぁっ!!
 尽、怒ってる。怒ってるよぅ!

「焼もち妬きさんなら、とんでくるんじゃない、ここまで?」

 うううっ。

 慌てて、携帯を取り返して、尽にダイヤルしたけれど……尽は出なかった。
 自宅にもかけたけど、出なかった。

 あぁ、やっぱり、ここに向かってるのぉ!?
 わっ、私……帰りますぅ!!
 って、言い出したら、腕をがっちりとられて、店内まで引き戻された。

「あはは、彼氏がくるまで、食べてなさい。誤解は、私がちゃんと解いてあげるからね〜。うふふふ〜〜」

 先輩……先輩!? よっ、酔ってますぅ!?
 そういや、合コン開始直後から、食べるより飲み続けてた気が……。

「だって、私にゃ彼氏いるからさー。タダ酒飲みに来ただけよ〜。だから、餌に逃げられちゃ、困るわけっ」

 もっ、もしかして……わっ、私が餌デスカ!?
 私だって、彼氏いるんですけどぉ!?

 ……なんて、主張しても無駄で……私は、まんまと元いた席に押し付けられた。

 席についた途端、またもがっちり両サイドかガードされちゃって……おっ、お酒のめないんですってばぁ!

「うふふ。なんて食いつきのいい生餌かしらねぇ」

 いっ、生餌!?

 先輩は呟きと共に、さらりと立ち去っていって……あぁ、文句も言えやしないっ!

 とっ、とりあえず、えーと……尽が来るまで、食べて落ち着こう。
 う、うん、誤解だって、説明すればわかってくれると思うし……ここ、飲み屋さんだから、未成年の尽は入り込めないし、店に着いたら携帯に連絡入るでしょう……多分。
 って、携帯をがっちり握り締めて、尽からの連絡を待ちながら、私はおつまみ料理に箸をつけた。

 あ、飲み物? アルコールでないのなら、いただきます。
 オレンジジュース? お茶の方がいいけど……折角だし。

 隣に座ったおにぃさんに勧められるままに、ジュースに口をつけた私……だけれど、それを、また、後悔する事になったりする。

 あ? 変わった味? でも、美味しいかも……。

 って、思わずごくごく一気にいっちゃったんだけど……だって、それ、ジュースじゃなくて……お酒……。
 一杯目をすっかり空にしたあと、どんどん勧めまくられ、どんどん勢いに流されて飲み続けて……私の意識はとぉ〜〜くに行ってしまったのでした……。


 ――で、これは、私のあやふやな記憶と先輩他の面々の後の言葉を繋ぎ合わせたその後の出来事。


 いい具合に酔っ払ってきた私は、結構なご乱行を行っていたとか……。
 や、そんな乱行なんて、ひどくはないのよ…………そっ、そのはずなのよ!

 でも……同僚の子にぴったり抱きついて、離れなくて……面白がった男性に「俺には抱きついてくれないのぉ?」「やっ。女の子の方が気持ちイイ」とかとかやりとりしつつ、「俺も抱き心地いいよ?」「……ホント?」……なんて……なんて言って、抱きついちゃったみたい……何となく、覚えてる……。

 尽とは違う、完全な大人の男性の体。尽とはまったく違う匂い。コロンとアルコールとタバコの匂いが混ざった……イヤな匂い。
 それが、心地いいなんてちっとも思えなくて、逆に不安になって……すぐに離れて、同僚に抱きつきなおした。「ちぇっ。なんだよぉ」って、不貞腐れた男性の声が聞こえた。

 やっぱり、女の子のふかふか感と優しい匂いが、好き。

 でも、それより好きなのは……無駄な肉が着いていない、細身で筋肉質で、まだまだこれから成長しそうな気配を感じるしなやかな尽の体、その感触。寝る時にいつも感じてる、彼の匂い。シャンプーの匂いとか、体臭とか……そんなのが一緒になった、尽だけの匂い。
 ううん……理屈はどうあれ、それら全てが「尽」の感触だから、好きなんだけれど。

 尽に……触れたかった。
 尽に抱きついて、抱きしめ返されて……アルコールに酔った頭でそんな幸福な夢想を、していた。

 コアラに抱きつかれるユーカリの木のごとく、私に抱きつかれたままの同僚は、嘆息しながらも適当に私をあしらって、自分は自分で飲んだり食べたりおしゃべりしたり楽しんでいた。
 けれど、彼女の携帯が鳴って、彼女はそれを見た途端。

「あ、私お手洗い」

 なんて言って、そそくさと席を立つ。
 ユーカリの木に離れられた私は戸惑っちゃったんだけど、ユーカリの木はコアラをも連れ去ってくれた。

「あんたも一緒に来てもいいわよ」

 ふえ? お手洗い?
 別にしたくないけど……ここ、タバコ臭いから、新鮮な空気吸いたいかも。
 コアラもあっさり、ユーカリの木に従った。
 けれど、ユーカリの木が目指したものは、お手洗いなんかじゃなくて……。

 彼女、席を立つ時に何故か自分の鞄ともうひとりの同僚の鞄を持って、私にまで鞄を持たせて……。
 何かおかしいとは思ったの。でも、アルコールでふらふらする意識ではそこまで深く考えられなくて。
 席を離れた彼女は、私に携帯メールを見せてくれた。

 う? ナニ?
 えーと……。

『今、ちょーカッコイイ子にナンパされ中。今日ハズレだし、あんたも来ない? つか、抜けちゃわない? トイレ近辺にいるから』

 ナンパぁ?
 って、そんなのに行くの?
 わっ、私、戻ろうかなぁ……。
 って、踵を返しかけたけど、共犯者が欲しいらしい彼女は、がっちり私を捕まえてしまった。
 さっきまでと逆になってる……。

 いいわよぉ。付き合うわよ。
 でも、尽が来たら、私はそのまま帰っちゃうからっ。

 けれど……彼女に引っ張られるように行った先で、もう一人の同僚をナンパしていたのって……。





つづく





--BACK--



<言い訳とか>

書き始めた当初は、普通に読みきりにしようかと思いましたが、
ねえちゃんが四季のねえちゃんっぽくなったんで、
四季シリーズの番外に。
しかし、このお話は、シーズンに絡ませた内容ではナイのです。

その後のふたりの生活編、って事で。
特に何がどーってお話でもないかもですが、
ふたりのラブラブっぷりをご覧いただきたく…後編に続く。