続・ひと夏の経験



「ねえちゃん、どれくらい泳げたっけ?」

「う〜ん……海ではあんまり泳いだ事ないけど……プールだったら25メートルは大丈夫」

「海なら、もうちょっと行けるよ。あそこのブイまで行ってみる?」

「……無理……だって、脚、つかないし……」

「だーいじょうぶだって。あ、ほら、浮き輪持ってきてたでしょ?」

 魂胆?
 ないわけないじゃん。

 この人がざわめく海岸で、ふたりっきりになれるのって、人気のない海中くらいだよ。
 想いを打ち明けるにしろ、とにかくふたりきりになりたいよな、うん。
 つか、ねえちゃんの水着姿、他の男に見せない手段はこれ以外ないし。

 思った以上に注目を集めているねえちゃん……ねえちゃん自身はまったく気付いていないけれど、これ以上、ねえちゃんを野獣の視線で舐めまわされちゃたまらない。

 で、俺は無理矢理ねえちゃんを海に引っ張り込んだ。

 浮き輪使って、ねえちゃんはゆるゆる進み、俺はそれに合わせて平泳ぎでブイの所までたどり着いた。

 周囲には人はいない。
 少し離れた所にボートが浮かんでいるくらいだ。

「久しぶりだね。あんたと海水浴に来るの」

 浮き輪に捕まりながら心地よい波の揺れに身体を任せるねえちゃんが、瞳を細めて俺を見詰めてくる。

 うう〜ん……かわいいな。

「もっとずっと昔は、家族でよく来たよね? でも私が高校生になって以来、全然来る事なくて……今回、あんたに誘われた時、ちょっとだけ嬉しかった」

 にこっと笑う。

「尽がまだ私の事忘れてなくて、嬉しかったの」

 中学生にもなれば、思春期なんていう難しい時期に突入し、大概の男の場合、家族と……特に母や女兄弟と行動を共にするのを嫌がるものなのに……俺と来たら、ねえちゃんと外出する事をちっとも嫌がっていない。

 そういう意味で言ったんだと思う。

 けど、なんだか、その言葉と一瞬だけ見たねえちゃんの寂しそうな表情が、俺を衝動的に動かしていた。

 浮き輪に捕まってぷかぷか浮かぶねえちゃんの前に回り込み、目を丸くするねえちゃんの唇に、唇を押し当てた。

 かるい、感触。

 海水で濡れたねえちゃんの唇は、しょっぱかった。

「俺が、ねえちゃんの事忘れるわけないから……絶対に……」

 微笑んで呟くと……何をされたか分からずに、呆然としていたねえちゃんの顔に、一瞬にして血液が上った。

「っ……つくしぃ!?」

 口元を押さえて、ワナワナ震えている。

 カワイイったら、ない。
 いや、もしかすると……。

「……ねえちゃんの、ファーストキス?」

 答えは、簡単だった。
 思い切り顔に向けて海水を引っ掛けられたから。

「何考えてるよ! ばかぁっ!!」

 半泣きになっている。

 あ〜……やっぱり、そうだったんだな。
 ねえちゃん、かわいいなぁ……。

 改めてねえちゃんの可愛さを実感して、くくく、と、肩を震わせて笑う俺に、ねえちゃんは再度海水を激しく引っ掛けて、くるりと身体の向きを変えた。

「もっ、帰るっ!!」

 あ、ちょっと待てって……!

 ねえちゃんの捕まる浮き輪を、ぐっと掴んで引き寄せる。
 水深がかなりある位置で、浮き輪なしで泳ぐ自信がないねえちゃんは、抵抗できずに浮き輪についてくる。

「尽……あんたねぇ……」

「俺も、ファーストキスだよ」

 にっこり笑って言ってやると、ねえちゃんは頬を染めて唇を尖らせた。

「あのね、姉弟でこういう事しちゃダメっ。今度したら、もう、尽なんて知らないからっ」

 なんだか、筋が通っているようで、子供っぽい怒り方だ。

 そりゃ、今更姉弟なんてねえちゃんの口から言われなくてもわかってるんだけどなぁ。分かってて、キスしたんだけど……ねえちゃん、鈍いなぁ……。
 もっとも、ねえちゃんのこのくらいの反応予想済みだけど。一体何年、この鈍いねえちゃんの弟してるんだか。

 再び、向きを変えて浜へと帰ろうとするねえちゃんの……今度は、首の後ろの結び目を引っ張った。
 もちろん、わざと、だ。

 浜へ、浜へと戻ろうとするねえちゃんは、しばらく、自分の水着の結び目が解かれている事に気付いていない様子。

 気付いたのは、結構経ってから……つか、ありゃ、完全にめくれてたんじゃないかな?
 見えなくて残念だけど。

「っ!? いやぁぁぁぁ!」

 気付いたねえちゃんは、じたばたし始める。
 浮き輪に捉まっている状態だから、上手く後ろを結べない。かといって、浮き輪から離れて結ぶ事もできない。

 う〜ん……見ていて飽きないかも。
 慌てぶりがかわいすぎ。

 素直に俺に助け求めりゃいいのに……さっきのキスの件でまだ怒っている事を主張したいのかもしれないな。

 ここは、俺が大人になるか……って、結び目外した子供は俺なんだけど。

「ねえちゃん、どうした?」

 ねえちゃんの隣に、ゆっくり近づいていくと、真っ赤な顔と涙目になったねえちゃんが、俺に助けの眼差しを向けてくる。
 表情も無防備なんだな、これが。

「結び目が、外れちゃったみたいで……上手く結べないの」

「俺が、結んでやるよ。ほら、かしてみ」

「ん……」

 素直に俺に背中を向けてくる。

 ああ……もう。

 無防備も無防備、隙だらけっ。俺みたいなガキに簡単にいいようにされてるよな、ねえちゃん……。
 いや、俺が弟だから、油断してるのか?
 それなら、それで……俺は上手く利用してやるけど……って、俺ってもしかして悪人かもしれないな〜……なんて。

 ねえちゃんの背中は、白くて、細くて……簡単に俺の胸の中に包み込めそうだ。少し前まで、身長だってねえちゃんの方が高かったのに。なんか、自分の成長ぶりがひどく嬉しい。

俺は、水着の布地を首の後ろで結ぶのに、わざわざねえちゃんの首筋にに指を沿わせてみた。

「っ……」

 ぴくん、と、ねえちゃんは面白いくらいに反応を返してきた。
 けれど、偶然指が触れただけだと思ったのだろう、そのまま俺に背中を向けつづける。

 俺は、海水に濡れて重くなったねえちゃんの髪の毛をかきあげ、首筋をあらわにする。
 あ、生え際綺麗。ねえちゃん、髪型ずっとボブばっかで、髪の毛結んだり結い上げたりしてるの滅多と見ないから、新鮮。それにしても、うなじって、なんか、色っぽいよな。

「つ……尽……」

 今度は何か言いたそうに俺の名前を呼んできた。

「髪の毛、首にくっついてて邪魔」

 そう言う俺の言葉に、簡単に納得してしまうねえちゃんの単純さ。
 前を向くねえちゃんに気取られないように、喉の奥で笑ってしまう。

「なんか、結びにくいな……ねえちゃん、前の方でよじれてない?」

「ん? う〜……」

 水に濡れた水着は、肌にはりついてしまっているし、透明度が高いとは言いにくい海水の中だから、ねえちゃんも自分の状態が良く分かっていないらしい。手探りで自分の胸元を確認している。


 ……自分が確信犯だって、自覚ある。思いっきり。


「どれ?」

「え?…………………………………!?!?」

「あ、柔らかい……」

「!!!!!」

 ねえちゃんの胸は、俺の手の中にすっぽり収まるいい大きさで、少し力を入れれば指の間から柔肌が零れ落ちそうなほどしっとりしていた。でもって……。

「やっ、ばかっ! ひゃぁ!?」

 柔らかな胸のその中心にある、肌の感触とはまた別の柔らな突起が指と指の間にあって、それを挟み込むように指を動かせば、びくん、びくん、と、ねえちゃんの身体が震える。
 それは、海水の振動からも伝わってくる。

「尽っ、ちょっと! っ……ん、ぁあん!」

 カワイイ声上げてくれるなぁ。
 つか……ほんと、気持ちよすぎて……俺、理性無くす寸前。

 海の中にいるから、身体が思うように動かなく、抵抗するにできない様子のねえちゃん。

「やっ、やぁ……! ホント、だめぇ、尽ぃ!」

 自分の胸をしっかり覆う俺の手を引き剥がそうとするけれど、もう、力では俺に叶わないよな?

 じたばた、じたばた、俺の腕の中で暴れるねえちゃん。

 くすっ、俺は笑い……でも、逃がしてやる事にした。
 今は、まだ……だけど、ね。

「ねえちゃんの胸、すっげぇ柔らけぇ……」

「尽!あんた、あんたっ……!!」

 真っ赤になった顔。涙目。
 本気で怒っている様子がありあり。

「ごめん、って。水着がどうなっているのか確かめようと思ってたんだって。そしたら、なんか、手が吸い付くようにねえちゃんの胸に……不慮の事故ってやつ?」

 俺の茶化した言葉に、ねえちゃんは胸元を両手で必死で覆い隠しながら、ふるふる震えている。

「っ……ばかぁ!! 姉弟でそんな事しちゃダメって、言ったのに……!」

「じゃ、誰とすればいいの?」

 聞き返すと、言葉を詰まらせて、そっぽを向くねえちゃん。

「ねえちゃん?」

 少し泳いで、ねえちゃんの身体に触れそうで触れない位置まで身体を寄せる。

 直に触れ合っていないけれど、身体から発する熱が、海水を少しだけ暖めて伝わってくる。
 それが、なんだか、すっげぇヤラシク感じるのは、俺だけか?

「ごめんな」

 謝って、結びかけの水着に手を伸ばすと、少しぴくんと身体が反応するけれど、素直に結ばせてくれた。

 ああ、このまま抱きすくめて……思い切りキスしたい。その先は……今は、まだ、望まないから。

「今度は、ちゃんと結べたから」

 結び終え、肩をぽんとたたくと、ねえちゃんは、小さな悲鳴をひとつあげた。
 緊張してたんだろうな、また何かされるかと思って……う〜ん、やっぱりカワイイ。

 で、なんだか自分の過剰な反応が恥かしかったようで、ねえちゃんは上ずった声を上げた。

「今度こそ、帰るからっ!!」

 あ〜もう、大好きだ。ホントに。

 敗北宣言してもいいくらい。
 けど、ねえちゃんが、まだ、誰のものでもないから……まだ、俺だけのねえちゃんでいてくれるから、だから、敗北を宣言するのは、まだ少し先の話かもしれないけれど。

「ねえちゃん、大好きだからな」

 くくっと笑って言う俺の言葉を、ねえちゃんがどう取ったかは、知らない。
 けど、こうやって少しずつでも、吹き込んでいけば……もしかすると、ねえちゃんの方から俺に敗北を宣言してくれるかもしれない。
 それは、この超鈍いねえちゃん相手では、とてもとても気の長い話になりそうだけれど。

 それでも……俺だけのねえちゃんが、俺だけの女になってくれるのは……きっと、有り得ない未来の話じゃない。


 ――こんなに、俺が愛しているんだから。


 ねえちゃんを追い越して、浜までクロールしだした俺を追いかけて、ねえちゃんの声が響いた。

「やぁ! 尽ぃ! ちょっと、待ってよ〜!」

 慌てぶりが、やっぱりたまらなく愛しくて……俺は、振り返ってねえちゃんに手をふった。

 必死に俺を追いかけてくるねえちゃん……ねえちゃんの気持ちもそうだったらいいな、と、思って、俺は微笑んだ。



 まだまだ道のりは遠そうだけれど、ねえちゃんが俺に追いつくまで、俺は何度でもねえちゃんを煽りつづけるだろう。
 でも、ま、とりあえず……ねえちゃんが俺に追いつく前に、トンビにかっ攫われるのも癪だから……男に対する警戒心くらいはしっかり教育しとかないと、な。






END




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<言い訳とか>

つづきでした。ちょっと、エロ入りでした。

あんましコメディじゃなくなっとりますです。

尽の姉ばかっぷりが分かりますな。

どこまでも天然なねえちゃんと、ねえちゃん一途の尽の今後は……〜

気が向いたら……(^^;)。

つづくぞ〜と、お約束できない小心者故、お見逃しください……(><;)。