One day Morning





 朝って、なんでこうも爽やかに始まるもんかな。
 夜、どんなに思い悩むことがあっても、朝になると妙にすっきりした気分になってたりするんだ。
 穏やかな朝日の力かな?
 それとも、今、目の前で朝日より優しく笑う、ねえちゃんの力、かな?



 朝飯はねえちゃん特製。
 昨日からお袋は仕事で出かけていていないから、ねえちゃんが作ってくれたようだ。

「お味噌汁、ちょっと辛くないかな? お味噌入れすぎちゃったかも」


 エプロンを外して、先に箸をつけている俺の向かいに腰掛ける。


「ん〜……美味いよ。全然問題ないし」


[そお? じゃあ、良かった」


 にっこり。

 なんとも、無邪気にかわいらしく笑ってくれるもんだ。
 ああ、人の気も知らないで……。

 ふたりっきりで、緩い朝日の中、向かい合って食事。

 まるで、新婚夫婦みたいだ……なんて、勝手な空想しているのは、きっと俺だけなんだろうな。

 自分の気持ちに気付いて以来、時々眠れない夜を持て余している俺の事なんて、ねえちゃんは、きっと、知らない。知るはずがない。

 それでなくてもねえちゃん、人並み外れて鈍いから。

「ねえちゃん、今日大学は?」


「うん、今日はお休み。だから家で、卒論の資料をまとめようかと思ってるの。あ、夕食、何食べたい? おいしいもの作っておくよ」


「じゃあ………肉じゃが、とか」


「あはは。尽、高校生のくせに、随分渋いリクエストね。……うん、いいよ、じゃあ、今晩は肉じゃが、ね」


 くすくす笑って、ウィンクしてくるねえちゃん。

 なんか、すっげぇ幸せの一瞬。
 このまま、親父もお袋もしばらく家を留守にしててくれていいぞ、って、願っちゃったりする。

 ふたりでたわいないおしゃべりをしながら朝食を進める。

 ああ、ホント、このままずぅっと一緒に過ごしていたいけれど……時は残酷だよな。
 時計が時間を告げる。家を出る時間だって。
 本音は遅刻したって、いっそズル休みしたってちっとも構わないんだけどなぁ……。

「ほら、もう時間! そんなにのんびりカフェオレ飲んでないで、さっさと出ないと遅刻! あんた、今、氷室学級じゃなかったっけ? 遅刻したら、きっとヒドイよ!?」


 俺に学生鞄を押し付けながら、リビングの扉を開けるねえちゃん。

 ああ、離れ難い。
 けど、そーいうわけにもいかないんだな。
 分かってるって、うん。
 俺、一応健全な学生だもん。

 玄関まで送ってくれたねえちゃん、にっこり笑って俺を送り出そうとするけれど、ふと、俺の首筋に目をやって、顔をしかめた。


「ネクタイ、ちゃんと結ばってないよ。氷室先生、そういうところ目ざといんだから……!」


 有無を言わさず、俺のネクタイを結び直すねえちゃん。

 けど……イマイチ上手い事結べずに格闘している……不器用、だもんな。

 いや、でもさ……すぐ間近、俺の鼻の下にねえちゃんの頭があって……すげぇいい匂いがしたりして……。

 ああ、やっぱり、これって、新婚夫婦の朝の風景だよ、絶対。
 新婚夫婦なら、きっと、この後「いってらっしゃい」ちゅ、なんてしたりして……。

 ああ、このまま、抱きしめたい。

 きっと、柔らかいだろうねえちゃんの身体を抱きしめて、そんで柔らかいだろうその唇に……なんて、勝手に、想像は膨らむんだけどな……。
 理性が歯止めをきかせる。
 憎し、理性。

「う〜……これで、大丈夫、かな?」


 あんまり上出来とは言えない結び目だけれど、折角ねえちゃんが結んでくれたんだし……これでも、いいかな。

 顔を上げてにっこり笑いかけるねえちゃんが、やっぱり、愛しくて、可愛くて。
 俺は、ついつい、さっきの想像を実行に移してしまった。

 突然にねえちゃんの身体を抱き寄せて、驚く暇も与えず、ねえちゃんの……額に、キスをした。


 ちっ、やっぱり、理性が歯止めをきかせる――いや、理性がなかったら、ただのケダモノ化しちゃう自信があるから、なかったらきっと今ごろ困った事になってたかもしれないんだけどな。

 ……そう、本当は、もっとも〜っと、イロイロ想像は働いたんだけど、これくらいにしといてやるから、許してくれよ、ねえちゃん! つか、俺の理性に感謝しろよっ。

「そんじゃ、行って来ます!」


 呆然とするねえちゃんを残して、俺は玄関の扉を開けた。

 扉を閉める寸前、やっと響いたねえちゃんの怒声に、俺は、笑うしかなかった。

 新婚夫婦の朝。

 それに近い体験はした。
 次は……。

「新婚夫婦の夜、かな?」


 呟いて、唇に薄い笑いを乗せる俺。

 このままだと、きっと、いつか、行動に移っちゃうかもしれないな。
 理性の楔が外れちゃう時は、近そうだ。



 爽やかな朝を、ねえちゃんと一緒に迎えたい。
 寝起きに俺の腕の中で、微笑むねえちゃんの笑顔は、きっと、朝日の何倍もの威力で俺を心地よく包む。
 そんな気がするんだ。




END




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<言い訳とか>

山鳥庵」の山鳥陽様にイラストのお礼として差し上げたお話。
実は、こちらのお話、山鳥さんのイラスト(もえがき?)より
イメージ拝借しておりますv
こちらの、尽くんは、激カッコイイっすよ!
かなり、メロ萌えです。
なんとういか、こんな(寸止めにいぢける)情けない尽でなく、
もっと、こう、ねえちゃんをぐいぐい引っ張っていっちゃいそうな、
格好よさがあります。
そして……溢れる男の色気、フェロモンに骨抜きに(笑)。