How to...make a baby




 のどかな昼下がり、学校から帰ってきた尽は、自分の「ただいま」の声に微かに帰ってきた声をたよりにリビングに向かって、珍しく物思いにふける姉のを発見して、肩をすくめた。

「なにやってんだ、ねえちゃん? 明日雨か?」

 は夢見るような眼差しで、尽を振り返り、肩が沈むほどに大きなため息をひとつついた。

「残念、明日も快晴だって」

 皮肉が通じているかどうか、定かでない。

 尽は、ソファーに鞄をぽんと放り投げ、制服のボタンの上数個を外しながら、テーブルの上にあったクッキーを口に放り込み、の横顔を伺い見る。

「……ホント、不思議よね……」

 尽の視線が自分にあるのを感じているのだろう、はぼそりと呟く。

「成人式をね、欠席したのは向こうにいる友達から聞いて知っていたの。ただ、理由までは分からなくて……」

 何の事だろう。
 尽は2個めのクッキーを頬張りながら、をじっと見る。

「結婚、してたんだって。でもって、子供……もう2歳って……」

 ここまで聞けば、ある程度想像がつく。
 小中学校の同級生が結婚して子供ができていた事にカルチャーショックを受けていると見える。

「だれ? 俺の知っている人?」

「多分。中学校の同級生で、ミヤちゃんっていたでしょう?」

「………ああ、あの姉御肌の?」

「うん。私こっちに転校しちゃってから、何度か連絡とってて、でもそのうち音信不通になって……。なんだかね、高校で知り合った今のダンナさんと、その実家に行っていたらしいの」

「会ったの?」

「うん、今日ね、ショッピングしてたら、ミヤちゃんとそのお母さんと会って。久しぶりの里帰りだって。……でも、びっくりしたぁ。2歳の子供、ちっちゃくて、ちょこちょこしてて……可愛かったの〜〜!!」

 の目がきらきらっと輝く。

「髪なんか細くてさらさらで、目もぱっちりで、くりっくりで……可愛かった〜〜!」

 よほど、感動したんだろう。
 瞳が夢見るように明後日の方向を向いている。

 元々、特別子供好きではないだけれど、やっぱり、実物の子供を目にして、触れ合って、あるかなしかの母性が叩き起こされたのかもしれない。

「いいな、いいなぁ、ちっちゃい子。かわいいなぁ」

 尽は、一人で感動しまくるに無言で台所に向かい、お茶をコップにふたつ。ひとつをの前に置いて、ひとつに口をつける。

「マミちゃん、って言うんだって。女の子だもん、色々お洋服とか着せ甲斐あるよね〜? 今日着てた、猫ちゃん耳フードのお洋服も可愛かったっ!」

 ひたすら言い募る。

 この分では、子供が欲しいとか言いかねない……。

 尽は、無邪気にはしゃぐにあきれて、ふぅとため息をつき、先制攻撃を仕掛ける。

「20歳過ぎて、彼氏もいない女じゃ、子供を授かるのなんていつになるかわかんないけどねぇ」

 尽の言葉に、の感動の言葉がぴたり、と、止まる。
 結構な逆鱗に触れた自覚はある。

 が高校の頃ならまだ、冗談本気半々で「嫁き遅れるなよ」とか言えたけれど、今のの現状でそれを挨拶代わりに口にできるほど、尽も子供じゃない。

 はどちらかといえば美人の部類に入る方で……いや、むしろ愛らしいと言える整った顔立ちで、モテないわけはない。男友達も普通にいるし、彼氏にはならない彼氏未満なら過去何人もいた。

 がっ、肝心の恋人といえる存在は、今まで、いた事がない。

 理由は……おそらく、その天性のニブさと、お堅い性格と、いいムードになると必ず逃げ腰になる(奈津美情報)恋愛オンチさ加減のおかげかもしれない。

「………」

「………」

 ふたりの間に流れる、無言。

 尽は、その雰囲気を気にすることなく、クッキーの口直しにカリ梅を齧っている。

「………尽……」

 ぼそり、と呟くに、尽は片眉を上げて、しかめっ面のと視線を合わせる。

「あんたね、私にそういう事言う前に、自分の身辺整理しなさい。この間も、女の子泣かせてたって? タマちゃん家に遊びに行ったとき、玉緒くんがぼやいていたわよ」

 見事にやりかえされる。

「俺、モテモテだからなぁ。困っちゃうね」

 けれど、尽は意に介さず、ケタケタ笑う。

 この姉に恋愛問題で凹まされるわけがない。
 事、恋愛問題に関しては、尽の方が場数を踏み、経験を積んでいる。

 が敗北を示すように、唇を尖らせた。
 年齢ばかり尽より上で、口の上手さにかけては年々尽に追い負かされて行く。

「私より、あんたの方が子供作るの早そう」

 皮肉か、拗ねか……の不貞腐れた呟きに、尽はぷっと吹き出した。

「ねえちゃん、どういう意味に取ればいいのかな、それ?」

 にやにや笑って、見詰めてやると、の方が自分の言った言葉にばつが悪そうにする。

「べっ、別にっ。ただ、ヘマすんじゃないわよ、って……」

「俺、未成年なんですけど、ねえちゃん? そういう話題、振ってもいいワケ?」

 尽のにやにや笑いの突っ込みに、は更に追い詰められて行く。
 今時の中学生、これくらいの知識や話題、十分に通用する。
 けれど、わざとらしく、尽はに突っ込み続ける。

「何をヘマしたら、子供ができるわけ? 俺、分かんないなぁ」

「わっ、分かんなかったら、それはそれでいいのっ! そのうち、分かるようになるしっ」

 顔が見る見る赤くなる。

 面白い。
 これが、5つも6つも年上の姉なんて思えない。

 いや、もう、何年も前から、彼女を姉だと思った事は………。

「なぁ、ねえちゃん……」

 にやにや笑いを打ち消して、自分から顔を背ける姉の赤くなった耳を見つめる。

「俺に、教えてくれない?」

 囁くように、呟くように、だけに向けて言葉を発する。

「子供の作り方、俺に教えてよ」

 言葉に笑いは含まれている。
 けれど、それはからかいの笑いじゃない。鈍いがそれに気付くはずはない。

 は、真っ赤になった顔を更に真っ赤にして振り返り、尽をにらみつける。

「ばっ、ばかっ。中学生が、なに言ってるのっ!」

「あ〜そうかそうか、ねえちゃんが子供欲しいなら、俺が協力してやればいいのか。どう、ねえちゃん? 俺に作り方教えてくれたら、俺が授けてやるけど?」

「っ〜〜〜!!!!!」

 口元に笑みを乗せ、じっとの瞳を見詰める。

 これが、何も知らない子供の言葉なら、無邪気。
 けれど、同世代の中学生より随分早熟の尽が言えば……確信犯。

 顔を完熟させて、どういう言葉を弟に返すべきか分からず、は口を開いたまま硬直している。

「彼氏もいないんじゃ、結婚もできない、子供もできない。かわいそうなねえちゃんに、献身的な弟が提案してるんだけど?」

 言葉はやっぱり軽いけれど、その眼差しは……ひどく真剣。
  尽の眼差しに、は刺し貫かれて、昆虫標本の昆虫のようにそこから動けない。
 そう、の身動きを封じてから、尽はみに歩み寄る。

「このまま一生彼氏なんて、いらないじゃん。俺がいれば……」

 に手を伸ばす。

 その髪に触れる。

「あ、あのっ……尽っ、あんた……その……」

「ん?」

 至近距離から覗き込まれて……いたたまれなくなったは、きゅっとまぶたを閉ざした。

「ッ……あ、あんた……もしかして……経験、あるの……?」

 何の? なんて聞き返さなくても分かってる。

 でも、尽は中学生の子供だ。そう、姉にアピールする。笑いながら。

「経験? 何の事?」

「だから……その……」

 声なくくすくす笑う尽に、は押し黙る。

「俺、ガキだから大人の話は分からないなぁ」

 目を塞いだままのの頬に触れる。
 が、ぴくんと身体を震わせて……恐る恐るといった呈で薄目を開いて……そこに、真剣な尽の顔を見る。

「つ、尽……?」

「うん?」

「あっ、あんた……えと……」

 弟に気圧されてまごつく姉に、尽は余裕の笑みを唇に乗せている。

「……経験、あるって言ったら?」

「……!!?」

 の表情が固まる。
 どういう反応をしていいか、完全に分からなくなっている。

「ねえちゃんは……」

 の顎を指で捉え、尽は半眼を閉ざした、大人びた表情で低く呟く。

 もう少し、顔を近づければ……口付けの、寸前。

 は、鼓動が鼓膜を激しく震わせているのを感じ、泣き顔に近い表情をした。

 拒めない。
 拒まなきゃと思うのに……体が、心が、動いてくれない。

 尽の端正な顔が更に近づいて……は、ぎゅっと瞳を閉ざさずにはいられなかった。
 恐れ……それから……微かな想い……。

 身体を緊張させるを見て、尽は吐き出す息に笑いを含み、その耳元で低く囁いた。

「経験、ないんだ?」

「!?」

 その一言で、一瞬にしては我に返り……尽の頬に激しいビンタをおくった。
 自分のその行動こそが肯定を示しているのには気づいているのかいないのか……。

「……っ、てぇ……」

「ッ! ばっ、ばかぁっ!」

 目にかすかに涙を浮かべ、は激しく尽をにらみつけていた。

「あっ、あんたは……ッ、なんで……」

 言葉を詰まらせて激昂するに……けれど、尽は、唇に浮かんでくる笑みを消せずにいた。
 そして、心なしか弾んだ口調で言うのだ。

「ヴァージンじゃ、ますます子供産むのは不可能、か。マリア様じゃあるまいし」

 の平手第二段が飛んでくるのを避け、尽は頭の上で腕を組んで伸びをした。

「ま、ねえちゃん、気が向いたらいつでも言ってよね。俺が、ねえちゃんに、手取り足取り子供の作り方を教えてやるから、さ」

「つっ、尽ぃぃぃ!!!」

 顔どころか、身体まで真っ赤にして叫ぶの声に大きな笑いを残して、尽はリビングを飛び出した。





「くくく……ねえちゃん、分かりやすい」

 リビングのドアを背にして、尽は、本当に、嬉しそうに笑った。それから、すこし苦笑して呟いた。


「でも、そうか、まだ……だったら……」





「尽のばか……ホントに、なんで……」

 大声を上げてすっきりしたのか、まだすっきりしていないのか、は……真っ赤な顔のまま、再びソファに腰掛け、大きなため息をついた。

「なんで……弟、なのかな……」



END



--BACK--




<言い訳とか>

とりあえず……読みきりです。続ける自信がないので(^^;)。

またも、このお話を無性に書きたくなって、数時間で書き上げ。

なんだかな〜。ホントに、ワシって極端なヤツで……。


今回も中学生尽ですが……別に、高校生でも小学生でもこだわりないです、私。

シュチュエーションによって年齢変えるかもしれないけれど、

中学生(3年生)が一番書きやすいかも。

今時の高校生はかなり「大人」に近いですが、

中学生だとまだまだ子供と大人の中間の微妙な年齢なんで、

「弟」という存在としては書きやすいかも。

主人公ちゃんが、学生であれる年齢内だし。