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《ぬくもり》


 この冬の初めからどうにも調子がおかしかった……エアコンが壊れた。よりによって、雪が降り、積もったその日の夜に!
 サイアク。
 けれど、まだ石油ヒーターがあるから大丈夫………と、思ったけれど………丁度、灯油が切れてしまっていて……。
 超サイアク。
 今時、深夜でもやってるスタンドとかあるはずで………いくら、日付を越えてても、24時間営業とかもあるはずで……!!
 と、言い訳を始めた私を、尽は疑わしい目で見詰めてくる。
 や、そりゃ、昨日灯油の買い足し頼まれて「まだ余裕であるよ!」と、答えた私も悪かったけどさ。だって、もう一缶残ってると思ったんだもん。まさか、それまで空だなんて、思わなかったんだもん!
 うちの家、引っ越してきてからコタツは使ってない。エアコンとヒーターだけで十分暖かかったから。
 各部屋の暖房設備も、主に石油ヒーターがメインなわけで……。
「今から、買いに行く?」
 えへへ、と、笑いながら言う私に、尽は、溜息をついちゃった。
「一番近いところ、多分、繁華街の中のスタンド。この雪降り積もった中、車を運転していく自信あったんだ、ねえちゃん?」
 えーと……や、多分、なんとななるよ! とろとろ走らせればさ!
「俺……こんな日のねえちゃんの運転する車、乗りたくない。まだ、遣り残したことが沢山あるからな」
 そっ、それ、どーいう意味!?
「そーいう意味」
 むっかぁ!
「あーあ。親父がいれば、親父に頼んだんだけどなー。今ごろ、夫婦でカリブ海。羨ましいったらないや〜」
 ううっ。
 なんか、父さん達が旅立ってからこっち、ずっと尽にいじめられてる気がするわ、私。
 そりゃ、鍋焦がしたのは私が悪かったけど……焼き魚墨にしちゃったのも反省してるけど……お砂糖とお塩間違えたのは、入れ物間違って入れてあった母さんのせいなんだからっ!
 ……って、どうせ、とうに二十歳過ぎてるのに、マトモに家事もできない不器用ものだし。
「拗ねてないで……どうするよ、暖房? うち、電気使うような暖房機、ないぞ? 湯たんぽアンカさえないし。つか、そもそも、明日、ちゃんと雪融けしてるといいけどな……。もしかして、数日これか?」
 肩をすくめて、非難がましく私を見る尽。
 なんか、憎らしい。言い返せないから、余計にムカツク。
 じゃーどうするのよぉ!
 強く言えないものだから、ついつい拗ねた口調で睨みつけちゃう。
 そしたら、尽ってばにっと笑うの。
「責任、とってくれるだろ?」
 はぁ? 責任?
 どうやってとれっていうのさ!
 …………。
 なんか、嫌な予感。嫌な尽の笑い方。
 私は慌ててて視線を背けた。
 暖房器具ないから、素直に布団を倍にして寝ときましょ。そーしましょ。
 冷えてきたリビングをさっさと抜け出そうとした私は、しっかり尽に捕まっていたりした。
「知ってる、ねえちゃん?」
 背後から、そっと囁かれる低い声。
 ぞくん、と、背筋に何かが走り抜ける。
「人間が寒冷地で効果的に暖を取る方法……」
 くすっと笑い……私の体を引き寄せた。
 尽の温もりが……心地いい。……なんて、なんてっ!
 ダメダメダメダメ!
 流されちゃ、だめっ!
 どうにか逃げようと、身をよじらせる私の非力な抵抗を、くすくす笑いながら、尽は言った。
「裸で、抱き締めあえばいいんだよ」
 その艶っぽい声の響きは、私にどうしようもない眩暈を引き起こした。
 でっ、でも……だめ、そんなの、だめだからねっ!
「……だって、俺、冷え性じゃん? 暖房なきゃ寝られないし。責任、とってよ?」
 冷え性? 尽がぁ!?
 そんなの、聞いた事ないよ!
「冷え性なんだってば。ほら、寒くて寒くて……」
 きゅっと私の手を握り締めてくる尽の手は、確かにひんやりしていたけれど……でも……でもさぁ!
 振り返った私は、にっと笑った尽の顔に出会い……そうして、口付けを受けた。
 ……っ!
 卑怯者っ!
「卑怯者はねえちゃんの方。さぁさ、責任とって、今日は俺と暖めあおう、な?」
 うっ……ううっ……。
 はっ、裸じゃ、なきゃ………。
 大譲歩。
「ダメ。それじゃ意味なし」
 即行却下ですか……。
 ううっ……ううううっ…………それじゃあ、その……そういう事、しない、なら………。
「そういう事? って、どーいう事?」
 えっ、笑顔が意地悪っ!
 暖め合うだけなら、別にそういう事しなくてもいいデショ!?
「そーれーは、事と次第によるかも」
 はぁ?
 事と次第って……って………。
「うだうだ言わない。ほらほら、すっかり冷えてきちゃった、俺!」
 後から、ぐいと押されて………ああ、リビングの電気、もう消しちゃった!?
 ぐいぐいと背中を押されて、階段まで上がっちゃって………部屋に押し込まれて………ああ、ダメ、ちょっと、やぁ!?
 ……………。
 ……………。
 ……………。
 服剥かれて、布団の中に引っ張り込まれて……抱き締められて………。
「ねえちゃん、すげぇ暖かい……俺、このままエアコン壊れたまま、灯油なくても構わないや……」
 そっ、そーいうわけにもいかないでしょう?
 でも、けど………人肌、思ってたより、気持ちいいの。
 尽の肌の温もりが、直接私の肌に伝わってきて……とても、暖かい。
 ……ってか、それだけじゃなくて………。
「暖かい……ってより、俺、熱くなってきちゃった」
 は?
「すげぇ、もぉ、ヤバイくらい熱い……ねえちゃん、もっと俺を暖めて……!」
 はぁはぁ、って、熱い息が私の耳に吹きかけられて………。
 え?
 あ?
 きゃあ!?
 あ……ああっ……やぁ、んっ!
 ……………。
 ……………。
 ……………。
 ………けっ、結局……暖めあうというか……必要以上に熱く、なっちゃいました。汗までかいちゃいましたっ!
 尽のばかあぁっ!
「明日も、灯油なしでいいかな〜」
 やっ! 明日は、絶対買ってきますからぁ! 道路凍結してたって、ぜーったいに買ってくるもんっ!
「……えぇ? だって、ねえちゃんだって、温まっただろ?」
 温まったっていうかぁ!
 うう〜〜……。
 私、もう絶対、絶ぇっ対、灯油切らしませんから! エアコンだって、朝イチで修理屋さん呼ぶもんっ。
「暖ったかかったけどなぁ……う〜ん、俺、今度から、寒くて仕方ない夜は、ねえちゃんに暖めてもらおう」
 何勝手な事言ってるのぉ!?
 私は絶対に嫌だからねっ!
「ねえちゃんの中、すげぇ熱くて、潤んでて、まるで、熱帯のジャングルの中に迷い込んだみたいで………って、ててっ!?」
 尽の頬を抓りあげ、思いっきり横に広げちゃったわ。
 でも、それに懲りずに、尽はにっこり笑って、強く私を抱き締めて、すごく無邪気に喜びを声にするの。
「裸で抱き締めあうの、やっぱサイコー!」
 …………。
 うっ……でも、私も……心地よかったのは、確かで……。
 こんな寒い夜は、誰かと……好きな人と暖めあうのは、とても幸せな事で……。
「あ……あのね……」
 その腕の中から尽を見上げて、私は口を開く。
 本当は、こんな事、尽をつけ上がらせるだけだって分かってるけど……。
「私も、暖かくて、心地よかったのは……確かだよ」
 遠慮がちにそう言った私の体を、尽はさらに強く抱きしめて来て、私もその背を抱き締め返した。
 やっぱり、とっても、幸せ、だ。
 でもね………。
 第二段は、もぉダメぇっ!!
「ちぇっ……ケチ〜〜」
 ケチじゃなくてぇ……。
 って、って……や、ダメだってば!
 ソコ、嫌っ!
 ああ……もぉ、そんなの……ダメ……ダメなの、に………っ、んっ。
 ああああ……もぉっ、尽のばかぁっ!
 

※※おわり※※




 冬向けのお話。
 ばかばかしいほどのラブラブで……。冬だし、暖かなお話が良いですよね。