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Holy night


 赤・青・黄色に緑。色とりどりのイルミネーションが、暗闇の中、太陽の光に取って代われそうなほど、色鮮やかに広がり、周囲を賑やかに染め上げている。

 窓ガラス越しにその光の賑わいを見て、さっきまでそこの中にいた楽しさを思い巡らせて、ふふ、と笑う。

 部屋の灯りをつけていなくても、イルミネーションの灯りで、部屋は十分に明るい。
 クリスマス・イヴ。某テーマパークから程近い、ホテルの一室。
 少し前までいた賑やかな空気を体は忘れていないから、音のないホテルの静かな空気が、耳に痛いくらい。

 冷たい窓ガラスに手を当てて、外を見詰める私の後ろから彼がゆっくりと近いてきた。
 見詰める窓ガラスに彼の微笑が映り、私もガラス越しに微笑んだ。

「綺麗、だね」

 私が言うと、彼は言葉なく吐息を吐き出す。
 そうして、そっと私の体に体を寄せた。

「ありがとう。すごく素敵なクリスマスプレゼント」

 私の背中にぴったりと体を寄せて、窓ガラスについた私の手を握って……ふたりの影は完全に重なり合っている。
 彼も一緒に、窓の外、眩い光のまたたきを見詰めた。

 彼の手が私の手をやわやわと撫で、彼の顔が私の髪にうずまってる。
 ゆっくりと、鼓動が早まってくる。
 私の鼓動の高鳴りは、確実に彼に気付かれているだろう。

 私は、自分の想いが彼に素直に伝わっているだろう事が気恥ずかしくて、それを誤魔化すために口を開いた。

「あ、あのね、私からのプレゼント………本当に用意してこなかったけど……」

 クリスマの前に、彼が言った言葉。
『プレゼントはもう決まっているから、用意しなくていい』と。

 その意味は、今の今まで分からないけれど。
 けれど、彼から貰ったプレゼントが、こんなに素敵なものだったから……いくら彼の言葉があっても、何も用意してこなかった事が悔やまれた。
 だから、帰ってからでも何か贈るから、と、口を開きかけた私の言葉を聞く前に、彼が静かに、吐息をつくように言葉を吐き出した。

「指輪……つけて、くれたんだ?」

 指輪……? ……そうだ、指輪。
 彼の指先が、左手につけられた指輪をそっと撫ぜている。

 左手薬指のそれは………去年、彼からもらったもの。
 初めて互いの想いが通じた去年のクリスマスに、彼から贈られた大事な、もの。
 うっかりものの自分が、いつかなくしてしまうのが怖くて、普段は身につけないでしまっておいてあったけれど……今日、この日につけなきゃ、意味がないでしょう?

 彼は、私の髪に更に強く顔を埋めて、嬉しそうな笑い含みの吐息を吐き出す。

「すっげ、嬉しい……」

 片手では、相変わらず指輪をつけた手を指輪ごと握り締めて、片手で私の腰を抱き締めて……全身が、彼に、包まれてる。
 それは、嬉しくて、恥かしくて、幸せで。

 彼は、私の髪の中に埋めた顔をそっと動かし、口付ける。

 何度も髪に口付け、そのうちに耳に口付け、首筋に口付け。

 ゆっくりと、何度も、私を確かめるように口付けを落とす。
 彼の唇に触れられた部分から、彼の想いが私の中に染み渡ってくる。

「去年もらえなかった分、今年はたっぷり貰うから……」

 くすっと耳元で笑いながら言う、低い声での彼の言葉に、私の背筋に甘い痺れが走る。
 鈍い私には、言われている言葉の意味は図りかねたけれど……彼の熱い想いは伝わってきた。

 後から抱き締められていた腕の力が緩んだから、顔を振り向かせると……視線が合いざまに、唇に口付けを受けた。
 優しく、激しく。
 握っていた手が外されて、口付けを受けながら、体が彼の方に向かされ、対面に抱き締められる。
 私も、彼の背に腕を回す。
 どうしようもなく愛しくて、私からも彼を求める。

 長い口付けに、それぞれの想いが強く込められてて。
 私の心と体は、満たされる。互いの想いに。

「……愛してる……」

 唇を離して呟く彼の言葉。
 私が目を開けると、すぐに映る彼の微笑み。
 色を変えて瞬くイルミネーションの光が、彼の表情を様々に変えてみせる。
 いつも見てるはずの彼の顔なのに……いつもと違って見えて、どきどきしちゃう。

 私のそんな戸惑いみたいなものが伝わったのか、彼はくすくす笑って、私の手を取り、左手薬指……指輪にちゅっと口付ける。

「やっぱり……場所と雰囲気が違うと、違って見えるな。いつもより、ずっと……かわいい」

 なんだか、殺し文句ね。
 でも、私も同じこと、考えてたから。
 視線が合うと、私もくすくす笑っちゃう。

 それから、彼はふっと瞳を細めて……指輪をした薬指を、口に含んだ。

「……っ! なっ、何!?」

 どぎまぎする私にお構いなく、彼は私の指をしゃぶり……そうして、指輪に歯を立てる。
 彼が何を考えているか分からなかったけれど……その行為に、私の体は、あっけなく熱を持つ。
 熱く湿った彼の口の中に含まれた私の指が、ねっとりとした唾液に濡れ、しっとり柔らかな舌が指に吸い付いてくる。

「っ、っ……!」

 ぞくっとする。その、淫猥な感触に。
 たまらなくなって、私は身をすくませる。
 けれど、彼はその行為を止めることなく、逃げ腰な私の腰を掴まえる。そうして、私の様子を伺いながら……瞳が、笑う。

 なんて、意地悪なんだろ!

 感極まった涙目で、彼をねめつける。もっとも、彼はそんな私の態度を更に面白がるだけだけれど。

 私に十分な意地悪を働いた彼は、今度は指輪を口で外そうとしているみたいで……指輪に歯を立て唾液を潤滑油代わりに、器用に舌と歯を使って指輪を少しずつ動かして、そっと指輪を、私の指から自分の口の中に持ち込んだ。

「なっ、なんで?」

 彼に舐められた指が熱い。
 彼は、舌の上に指輪を置いて、べっと出してみせる。
 ウィンクして、その指輪を摘み上げると、自分のポケットにしまった。

「指輪、どうするの?」

 せっかく貰ったものなのに……回収しちゃうの?
 不安さが隠せない私に、彼は悪戯っぽく笑う。

「まさか。ちょっと、預かっとくだけ」

「なんで?」

「だって……」

 言いながら、にっと笑う。

「これから、プレゼント、貰わなきゃならないのにさ」

「プレゼント……? ……って、だから、何??」

「決まってるだろ?」

 私の瞳をじっと覗き込み、私の前髪をかきあげる。
 私の折り紙付きの鈍さを熟知している彼は、私の耳元で囁く……私から彼へのプレゼント、それは…………私、自身。

「いくら、しがみつかれるの嬉しくても、これつけたままは、ちと痛い……」

 くすくす笑って言う彼の言葉に、私は顔をかっと赤くした。
 でも……でもね。

「そんなので、いいの?」

 それじゃあ、プレゼントにもならない。
 だって、私も、彼とそうするの……好き、だもん。
 私ばかりプレゼント貰って……なんか、不公平。
 やっぱり、何か用意してくるべきだった。

「たっぷり、貰うから。いつもみたいに、途中で逃がさないし……好きなように、させてもらうし。嫌だとか、帰りたいとか言ったら……縛り付けちゃおうか? かわいい赤のリボンで」

 冗談か、本気か分からない彼の言葉。
 ううん、きっと、冗談めかした……本気。

 私、上目遣いに彼を見上げちゃうの。
 彼は、ただ、優しく甘く笑ってる。
 愛しいと語る眼差しで私を包み込んで……それだけで私の何もかもを火照らせる。

 だから……私は、口を開く。
 普段なら、きっとそんな事、口に出来なかっただろう。
 けれど、今日は……年に一度の聖なる夜。
 凍えるような寒い冬の夜を、鮮やかに賑やかに染め上げる祝祭の日だから。
 決して祝福され得ないふたりだけれど……こんな日くらい、祝福される夢に、ふたりでたゆたいたい。

「いいよ……私からのプレゼント。あなたの、好きに、して?」

 言った途端に抱き締められる。
 弾む彼の呼吸が分かる。脈打つ彼の鼓動が分かる。
 私も彼と同じ。
 体中が激しく揺れ動いて……彼を、求めてる。
 彼の広い背中に腕を回して、彼のシャツを強く握り締める。

「こんなプレゼントだけど、大事に、してね?」

 笑いを含んだ私の言葉に、彼はくすくすと笑った。

「そりゃ、これ以上はない程に、大事にするつもりだよ? でも……大事だから、好きだから、意地悪もしたくなるんだって、ね?」

 言いながら、私たちは、口付けを交わした。

 外には、まだイルミネーションが瞬いている。夜空の星々に負けじと煌いている。

 聖なる夜は……これから、始まる。
 



END


--BACK--




※クリスマス時期に期間限定公開していたお話です※


<言い訳とか>

ふたりとも名前を出していませんが、一応尽主です。
そして、一応四季シリーズの続編な感じで。
何となく、名前を出さないで書いてみました。
普通に読んでいたら、単なる甘々カップルのお話かもしれませんね。
頭の中で、尽主を想像しながら読んでやってください。
そして、四季シリーズを読んでくださった方は、
四季シリーズのイメージでどうぞ。

ところで、クリスマスって、なんでカップルアツアツデーなのでしょうね(苦笑)。
ううむ、イベントにかこつけて、イチャつきたいのですかな……
さっむい冬だしねぇ。
個人的には「恋人達のクリスマス」概念は苦手です。
つか、クリスマスそのものが実はあんまり……。
某テーマパークのイベントにも興味ないですしな。
(ここぞとばかり商売繁盛かき入れ時、それに踊らされてるぞ、
ってなイメージが強くて、夢が持てないのです……)
大晦日と正月は好きですけれどね。

しかし、何かイベントがれば、それにかこつけてお話が書けるので、
お話書きとしては、大歓迎(笑)。