春の訪れ
<5>



「……ちゃん……ねえちゃん……?」

 ゆさゆさと体を揺さぶれる感触に、私、目を開ける。

 ん〜〜??
 あれれぇ〜〜……?

 意識が徐々に現へと戻っていって、まず思ったのは……体中が、ヘン。痛かったり、痺れてたり……それに、なんか……。

 なんか、なんで? ……生暖かい?

「ねえちゃん?」

 ん〜〜??

 私を起こしてくれる尽の声、いつもとは違う風に響いてる。
 どうして、こんなに傍で聞こえるのぉ?

「ん〜〜〜?」

 すっごく重い瞼を、ゆっくりと開いて、まず見えたのは……?

 んん?
 ん〜〜??

 視界を覆う……人の、肌?
 自分の、肌?
 が、こんな風に見える訳なくて……??

 あれぇ?

「おはよ。……良かった。寝てるんじゃなくて、意識失ってたら、どうしようかと思って……。初めてなのに、結構無茶させちゃったみたいだから……」

 うぅ〜〜??
 ほぇ?

 ゆっくり顔を上げて、見る、尽の顔。

 うん? そこに尽の顔がある、って事は、さっき見えた肌は尽のもので。頭のこの使い慣れた枕の感触じゃない、生暖かくてちょっとごつごつした感触は…………。

 ……………尽の……腕………?

「……っ!!!」

 あ……あぁ………!!
 そっ、そうだ……。
 わっ、私……!

 一瞬にして、覚醒する。
 すべてでないにしても、昨日の夜の事が……浮かんできて……。

「あぅ……」

 私、遂に尽と……。

 理解した途端に、一気に顔にカーッと血が上る。

 夜は夜でその雰囲気とかに流されちゃってたけど、朝になって、こんな明るい部屋で、夜の事思い出すと……ダッ、ダメッ!
 恥かしすぎるっ!!
 どんな風に尽と接したらいいか、分かんないってばっ!

 だっ、だから……顔を手で覆って、布団の中で体を小さくしちゃった……。

 そしたら、尽は……。

「もぉ、かわいすぎるっ!!」

 言って、きゅぅぅ、って抱きしめて来た。

 あぁ、朝からっ!!

 尽の素肌と私の素肌が密着して……直に伝わってくる体の熱は、昨日の夜の記憶を簡単に呼び起こして……。
 調子に乗った尽は、私の耳たぶに噛み付いてきた。

「ひゃあっ!?」

「敏感な体……ホント、すげぇ……良かった……」

 心底の呟きに、私は反応を返す事もできない。

「想像以上に良すぎて……俺、あのまま腹上死してもいいかも、って思った。まぁ、生きてやりまくる方がイイけど、やっぱ」

 くくくっ、って笑う尽…………下品すぎるってばっ!!
 つか、こんな明るい時間に、そっ、そんな事しないでっ!

 尽の手は、私の体を這いまわり、ゆっくりと胸を揉みしだいてきて……。

「ばかっ!」

 手をきゅっと抓り上げた。

「タタ………。でも、今日、ふたりとも何にも用ないしぃ、このまま、一日、抱き合っていればいいじゃん?」

 ……もぉ!
 そんな、不健康な!

「えぇ? いい運動にもなるし、すげぇ健康的な気もするけど?」

……ばかっ!

「と、とにかくぅ……私、シャワー浴びたいし……」

「あ、俺も、俺も! 一緒に浴びよ!」

 ………………ばかぁっ!!

 なんて、しばらく、もめてる……つか、ほとんど、いちゃついてると……玄関のチャイムが鳴る。

「誰だ、こんな朝早く……」

 って、呟いた尽だけど……時計見たら、もうお昼だよ?

「……出る?」

 私が、聞くと、尽は当然のように頭を振った。

「誰が。居留守でいいよ、居留守でっ!」

 そ、そうよね……。
 この状態で、出られない、よね?

 って、ふたりで何となく息を潜めてたら……チャイムは立て続けに何度も鳴る。
 しつこくて、うるさいくらい。

 なっ、なんか、昨日もこんな事あったような……。
 もしかして……?

 尽と顔を見合わせちゃった。

「俺は、絶対、出ないからなっ!」

「わっ、私も、なんか、出られない気が……」

 ふたりして、居留守を誓い合ったんだけどぉ……。
 チャイムが途切れたと思ったら、今度は携帯が鳴り出した。

「尽……出る?」

「まさかっ!」

「でも……出ないほうが、不自然かも? 多分、最初に私の携帯にかけてきてるだろうし……」

 顔を見合わせた後、尽は、かなり不承不承に体を起こして、携帯を取った。
 かけてきたのは、案の定……。

『尽ぃ? どこにいるのよ?』 

 名前も名乗らない突然の問いかけだけれど、その声と口調は間違いようもなく。

「真奈美さん……あのさ……」

『どうせ、家にいるんでしょう? 携帯の着信音、聞こえてたし。ねえちゃんも、家にいる?』

 うっ……バレてる……。

 真奈美ちゃん、地獄耳っ!

「えーと……あのさ、ねえちゃん、昨日帰り遅くて、まだ寝てて……俺も、さっき起きた所で……」

 苦しい言い訳。

『あ、そぉ? ま、いいわ。ちょっと、渡したいものあるから、玄関開けてよ。待ってるから。それと、ねえちゃんも起こしといて。お別れくらい言いたいし』

「……あぁ、うん、分かった……」

 携帯を切った尽は、はふっ、って溜息ついた後、ぎりっと歯を噛み締めた。

「あの人は、どこまでもっ!!」

 ううっ……尽、気持ちは分からなくないけどぉ……真奈美ちゃんは、何も知らないわけだからさぁ……。

 結局、尽はシャワーも浴びる余裕なく簡単に着替えて、私は着替えてから後で、降りていく事にした。

「じゃあ、ねえちゃん」

 すっごく、すっごぉく名残惜しそうに私にキスをして、尽は階下に下りていき、私も……って、すごく体重い。でもって、痛い……。

 昨日、脱ぎ散らかしてある服を着て、自分の部屋に戻って、そこで着替えて……。
 シャワー浴びないと、結構とんでもない事になってるから……その、できるだけ、肌の出ない格好して、2階の洗面台で顔だけ洗って、不自然な部分がないか確認してから……階下に下りていく事にした。

 つか……つか……歩くたびに……痛い……。
 ズキズキ、ズクズク……ううっ……。
 ……どっ、どこがとか、言えないんだけどっ……!!

 階段下りるの、すごく、辛かった……。

 歩き方、ヘンじゃないかな!?
 真奈美ちゃんに勘付かれないかな!?

 かなり、どきどき冷や冷やしてたんだけど……勘付かれるもなにも、勘付く前に勘ぐってる真奈美ちゃん……。

「あーそぉ。ふーん、昨日、帰り遅かったのぉ?」

 って、そのニヤニヤ笑い……!!
 私は、無言を貫き通したんだけど……。
 じーーっと穴が開くほど見詰められて……ううっ、脂汗が体中に這い回るっ!

「あぁ、ねぇ……まぁ……事の成り行きは後で、と……」

 ニヤニヤ笑いを収める事なく、真奈美ちゃんは私の前に紙包みを取り出した。

「昨日すっかり忘れてたんだけど、これ、うちの両親から持たされてたの。この前、正月の時にさ、叔母さんがうちの漬物、随分気に入ってくれてたじゃない? それと、あと、地元名産のお土産と。私、あんたんとこに泊まる、って言って出てきたからねぇ。昨日、こっち来る前に、ホテルに置いたまま忘れてたんだな」

 そっ、それだけ……?

「それだけ。だって、こんなの持って帰れないし、荷物になるし、捨てるわけにも行かないからねー。あ、ちなみに、今日は、早い目においとまするね。ダーリンの仕事、お昼までなんだ。今から落ち合って、お昼食べてぇ、それからあと一泊して、明日の朝には帰るの」

 うふふ……。
 と、真奈美ちゃんは、幸せそうに笑うんだけど。

 幸せとは正反対の感情をもてあましている人がひとり……。
 キッチンのテーブルの方から、居間の私たちの様子を伺い見ている…尽。

 ……なっ、なんか、顔がどす黒い……。
 色々言いたい事を溜め込んでる感じ……ちょ、ちょっと、怖いなぁ……。

 や、実は、その、ちょっと私も、ね………邪魔されて、残念に思ってる。
 もっと、ずっと、尽とああしてたかった。いつか、起きなきゃならないって分かってても、もうしばらく、尽の体のぬくもりに包まれていたかった。

「で、あんた…」

 って、かすかに甘いドリームを広げかかっていた私の目の前に、真奈美ちゃんの顔が広がる。

 うぅ……すごく、ヤラシイ笑い……。

「遂に、オンナになったの?」

 ………………ハイ……なんて、言えないからぁ!

 私、目の前の真奈美ちゃんの頬をぷにっと抓った。

「そっ、そんなの、今は言いたくないしっ! まっ、また今度、言うから……」

 って、でも、私のその言葉って、思い切り真奈美ちゃんの問いかけを肯定していた気がするの。顔、真っ赤になってたと思うし。
 真奈美ちゃん、したり顔で、ニンマリ。

「ほほぅ……」

 あうっ……思い切り深い墓穴を掘っちゃった……。

 真奈美ちゃんの目、まるで舐めまわすみたいに私の上から下へと往復するの。

 ううっ……全身に嫌な汗がたーらたらと這い回るわっ。足元に、汗溜まりができかと思うくらいに。

「なるほど……ふぅん……へぇぇ……」

 あぁ、もぉ、嫌な感じ!
 というか、口に出さないで、色々妄想されてるみたいなのが、更に、ブキミでっ!
 いっ、一体、真奈美ちゃんの頭の中では何が起こってるの!? 私、真奈美ちゃんの頭の中で、どーなってるのぉ!?

 どきどき、冷や冷や。
 生きた心地がしない。
 ていうか、ていうか……こんな息が詰まるような想いを味わうくらいなら、いっそ何か、聞いてきてよっ!

 私、蛇に睨まれた蛙状態。

 と、ほとんど固まっている二人の間に、急に、ドンッとばかりにコーヒーカップが置かれた。

「ご所望のコーヒー!」

 完全に不機嫌なのを隠さない尽の声。

「あら、ありがと。粉末じゃなくて、ちゃんと豆から淹れてくれたのよ、ね?」

 真奈美ちゃんの問いかけに、尽は不機嫌な顔を更に歪めた。

「飲んでみて確かめればいいじゃん」

 言いながら、私の前とその横にもカップを置いて……私の横に腰掛ける尽。

 あぁ……なんか、ちょっと……ほっとした。
 尽が傍にいてくれるだけで、なんか、すごく……安心する。

 いや、別に、真奈美ちゃんに対して緊張しているわけじゃなくて、ただ、真奈美ちゃんんの頭の中で繰り広げられているだろう事に対して不安なだけで……。

「う、ん、まぁ……こんなもんかしら?」

 尽の淹れたコーヒーへの感想を洩らしてから、真奈美ちゃんは、尽の方を向いて唇を尖らせた。

「……で、なんであんたがそこに座るわけ? 私、あんたのねえちゃんと大事なお話があるんだけどなぁ」

 真奈美ちゃんの言葉に、尽は明らかな作り笑いをにっこり浮かべる。
 やっぱり、尽、すっごい機嫌悪いよね。いいわけないよね。

「偶然だなぁ。実は、俺も真奈美さんんに大事なお話があるんだ」

 にこにこ笑う尽に、真奈美ちゃんの方が怯んだ表情をする。

 つ、尽……何か企んでる?

 ほんの一瞬、予感のようなものが私の脳裏を掠め、それが全身を粟立てた。
 嫌ぁな……感じ。
 私、普段は鈍感なくせに、何故か妙に鋭く察知しちゃって……でも、手段を講じる前に……。


「………!!」


「こういう事だって、理解してくれないかな?」

 尽の腕に抱き寄せられ、その胸に抱きしめられてた。

 ………っ!!!!
 よりによって、真奈美ちゃんに……尽……っ!!
 どうしよう………どーしよう!?

 戸惑う私をお構いなく、尽は更に言葉を続けて。

「帰りが遅かったんじゃなくて、帰る必要もなかったんだけどね」

 私、怖くて真奈美ちゃんの方を見られない。

 だって……だって!
 真奈美ちゃんにバレちゃったら、きっと、私たち……。

 真奈美ちゃんがどんな表情をしてるのか、考えるのも怖い。

 尽の、ばかっ。
 ばかばかばかっ!

 心の中で罵るだけで、私、ただ、きゅっと目を塞いで、尽の体の熱を感じてる。
 すごく、緊張した雰囲気だけを、体中で実感する。

 真奈美ちゃんが、どんな反応を返すのか……考えるだけで怖い。
 でも……感じる尽の体の熱は、それでも……こんな時でも、尽の事が好きだ、って私の心を実感させる。

 尽とふたりなら、例え、どんな事になっても……って、最悪の考えまで浮かんじゃう思いで目を開けて……そっと顔を振り向かせたら……。

 真奈美ちゃんと、目が合った。
 真奈美ちゃん、じっと私のこと、見てた。そして、視線が合うと、溜息をついた。

「……あんたの尽を見る目、なんか違ってたもの」

 ……真奈美ちゃん?

「弟を見る目じゃなかった。さっき、尽が横に座った時も、すごい柔らかな表情しちゃってさ……」

 ……もしかして……気付いてた、の?

「生まれた時からの付き合いだけど、あんたがあんな表情できるようになるなんて……思いもしなかった。あんたが、尽を見てる目、どんなんだか自覚ある? お正月の時から、ちょっとオカシイとは思ってたけど……」

 もう一度溜息。
 それから、くしゃっと髪をかきあげて、ソファーに深く体を預ける。

「まさか……ね……」

 目を塞ぎ、呟いた声は深い何かを含んでいた。
 眉間の深い皺と、への字になった口許は……どう考えても、この状況を歓迎している表情じゃない。

「まさか………」

 何を言うべきか、考えてるのかもしれない。
 真奈美ちゃんが私たちの関係を、良しとするわけない。
 普通、誰だって、歓迎できないと思うもの。それが、小さい頃から付き合いのある身内なら、尚更……。

 でも、反対されたって、怒られたって……永久の絶交を言い渡されたって……もう、私、尽と離れるなんて、できない……。
 ううん、例え、両親に報告するって言われても……そんな事態になっても、私は、それでもきっと………尽といる事を、選んじゃう。尽といるためなら、なんでもできる……きっと。

「今だって……あんたたちの関係を目の当たりにしたって、信じられない。信じたくない。あんたたち、実の姉弟なのに……」

 細めた瞳で私たちを見詰めてきて、やっぱり、その眼差しは責めるようで。

「………でも……」

 やっぱり、少し考えて、言いにくそうに口を開いた。

「恋すると、何も見えなくなるって、すごく分かる……。あんたが、なんでよりによって、弟を……こんな弟を好きになったのかは分からないけど……でも、きっと、反対されるほどあんたたちはムキになって、無茶な事やらかしそうだから…………反対はしない」

 真奈美ちゃん?

「本当なら、あんたたち引っ剥がして、尽を海外送りするか……あんただけでもうちに連れて帰りたいくらいだけど……それで、あんたが壊れてくの見たくないもの。私も、きっと、彼の事、反対されたらムキになっちゃうだろうし、無理に引き離されでもしたら、自暴自棄になっちゃいそうだから……あんたの気持ち、分からなくもない」

 言ってから、低く唸って……頭をくしゃくしゃに掻き毟る。

 真奈美ちゃん、私たちのこと、色々考えてくれてるんだ。
 心配して……怒って……でも、多分……理解しようとしてくれてる。

「だから、私は……黙ってる。あんたたちの事、誰にも言わないし、何も言わない。これまで通りに接する努力をする。でも……賛成したわけじゃないから、手助けはしてやらない」

 真奈美ちゃんの精一杯の言葉だと思う。
 だって、有り得ないもの、私達の関係は、きっと、周りから見たら。そう、近しい血縁者から見たら、特に。
 それを、真奈美ちゃんは必死で許容してくれたんだ。

「私は、ね……気付いちゃったけど、まさか、あんたたちの両親は気付かないと思うけど……絶対に知られちゃダメだよ? 叔父さんたちに知れたら、全てが壊れるから。あんたたちの関係も、家族の関係も……あんたたち自身も。私、それだけは見たくないから」

 ……うん。
 うん、分かった。

 嬉しい。
 手助けしてくれなくても、真奈美ちゃんのその気持ち、嬉しい。

 私は、こくこく頷いた。
 尽は、苦笑いしてる。
 真奈美ちゃんは、なんとも言えないような、表情をしながら何度目かの溜息をついた後、少し笑った。


「セックスも、ほどほどに、ね?」


 ………っ!!

 だっ、だから……そっ、それは、その……!!

「オンナの顔してるもん、あんた……」

 じーーっ、と私の顔を見詰めながら言う真奈美ちゃん……。

 えっ、ええっ!? そ、そんなに顔つき、違う……っ!?

 顔を真っ赤にして、じたばたしだした私に、真奈美ちゃんは眉根を寄せた険しい顔で肩をすくめた。

「嘘、つけないね、あんた……。なるほど、したんだ……」

「………ねえちゃん……ばか……」

 ……うっ……カマかけられただけだったんだ……。

「まさか……とは思ったけど……」

 深い溜息をついて、再度頭を掻き毟り……でも、また深い溜息。

「……まぁ、いいわ。十分気をつけるのなら、黙っておいてあげる。だから………」

 真奈美ちゃんはソファーから立ち上がりながら、ソファーの背にかけてあったジャケットを着て、鞄を持ち上げる。

「連絡、ちょうだいね? 休みになったら、また遊びにいらっしゃい。そのクソガキ、連れてきてもいいから」

 クソガキって………え、と……尽のこと?

「幸せな恋に、しようね?」

 ……お正月に遊びに行った時に、言ってた言葉だ。

「……うん……」

 私が頷くと、真奈美ちゃん、にっと笑って、背伸びした。

「色々、心配だし……相手がそのガキってのは納得いかないけど……あんたの幸せは私も嬉しいから。後悔しないように、ね?」

 うん。
 うん……っ!!

 またひとり、分かってくれる人が、できた。
 やっぱり、それは、とてもとても嬉しくて、心強い。

 そして……改めて思う。

「真奈美ちゃん、大好き」

「うふふ……私もあんたの事、大好きだから。私が男なら、尽より前にあんたの事かっ攫ってたし」

 うっ……真奈美ちゃんの場合、冗談か本気か……。

「本気よぉ。だから、昔っから尽の事いじめてたんだけどねー。だって、尽が生まれてから、あんた尽の事ばかりでさ。あはは……これから尽をいじめるの、ますます楽しみになっちゃった」

 えーと……。

「尽、私からこの子を奪った事、覚悟しときなよ?」

 挑戦的に笑う真奈美ちゃんに、尽も笑い返した。

「ねえちゃんは、最初から俺だけのものだから、不当ないじめには対抗する覚悟、十分あるし」

 言い返す尽に、真奈美ちゃんは満足そう。

 尽は、きっと、ちゃんと、真奈美ちゃんの理想の強い男の子になってるから。ううん、私を守ってくれる、男の人に、なってるから。

「じゃ、私、ダーリンの所に行くわ。もう邪魔しないから、ふたりでごゆっくり。色々気をつけなきゃならない事だらけだろうけど……後悔は、しないようにね?」

 居間から退去しようとする真奈美ちゃんを送り出そうと腰を上げた私に、手をひらひら振って、見送り無用、と、真奈美ちゃんは帰っていった。

 帰っていって……静かになって……。

 なんか、尽にきゅってしがみついちゃった。
 真奈美ちゃんの心が、嬉しくて。
 それから、やっぱり、かすかに幸先が不安になって。

 でも、抱きしめ返してくれる尽の力強い腕に、ほっと安心して。

「良かった、な?」

 囁きかける尽の声に、コクンと頷いた。
 うん、真奈美ちゃんが理解してくれて、良かった。

 ………って、私は返そうとしたんだけど……。

「これで、やっと、続きできるなっ!」

 って、って……………ええええっ!?

「いやぁ、もう、さっさと退散してくれて良かったよ」

 言いながら、私の体をソファーに横たえていって。

 えええっ!?

「もぉ、誰が来ても、絶対出ないからな、俺。明日、親父達が帰ってくるまでの短い時間なんだ、ふたりっきりで楽しまなきゃ!!」

 ちょっと、ちょっと!?

 やっ……!

 なんで、さっそくスカートの下から手が……。

 ううっ……!

 だから、いきなりそーいう事しないでぇっ!!

「痛かっただろう? ごめんな……でも、これから、きっと、もっと気持ちよくなるからな……! いっぱい、感じさせてやるから……」

 ……っ!!!

 首筋にキスして、シャツをたくし上げて、胸を……。

 あ、あの、だから……!

「ひゃっ……んっ! っ………ぁぁ…」

 あぁ、反射的に声が漏れちゃう……。

 気持ち、いいの……尽に、そうされるの。
 尽も、私のその感覚が分かったのか、更にエスカレートしてきて………。

 でも……。

「やっ、やだ……! シャワーくらい浴びさせてよぉ!」

 大譲歩に、尽は動きを止め、にっと笑って。

「一緒に、浴びよ?」

 ………………。

 断り切れなかった。
 押しが弱いのよぉ、私。分かってるけど、けどぉ……。

 そして、尽は、やっぱりというかなんというか……素直にシャワーを浴びさせてくれるだけでは済まずに……。

 明るい所で、そんな事されるほど、なれてないのにっ!
 尽のばかばかばかばかばかっ!
 でも……私も、体は悲鳴上げてたし、痛かったりしたんだけど……それより、気持ちいい感覚のが勝ってて。
 つい、のせられちゃって……。

 お風呂を出ても、落ち着く間もなく、結局夜まで食事もとらずに……!

 私も……尽とそうしてるの、幸せ、だから。
 尽の存在を、体の熱を、ずっと感じてたい、って、思うから。

 私たちは、両親が帰ってくるまでの短い時間をふたりだけの時間で、埋めた。




「つく、し……」

 吐息とともに囁いたり、その背を強く抱きしめるたび、尽はちゃんと応えてくれる。
 私の全てで尽を求めると、尽もその全てで私を求め返してくれる。
 それはとても満ち足りていて。
 ふたりが、確かにひとつになってるんだ、って体中で、私という存在全てで実感できちゃう。

 最初からそうだってみたいに、ふたりの全ては重なり合って、響き合って、寸分の狂いもないみたいに、交わって、ひとつになって……。

 なんだろう、この充足感。

 普段の私が、まるで何か欠けている存在であったかのように、思う。その欠損が、こうして、初めて、埋まったような、そんな感じ。

 尽と、こうしてると、すごく、安心する。
 出来る事なら、このまま時間が止まって欲しいと思うくらいに。
 言葉だけじゃ言い表せないような、そんな深い感情が私を包み込む。

 尽もそうなのかな?
 そうだといいな……。

 また、きゅっとその背を抱きしめると……尽は動きを止めて、私を抱きしめてくれた。

「ねえちゃん……」

 うん、きっと、そうだ。
 同じ想いでいてくれてる。
 想いも、繋がってる。

「尽……」

 血の繋がった私たちが、更に繋がって、溶け合って……体を重ね、心を重ね……この時だけ、私たちは……たったひとつの塊になって、至福に包まれる……。






おわり





--BACK--



<言い訳とか>

事後の、お話でした。

真奈美ちゃんも、知ることとなりましたが、
問題が起こらなくてよし。
ラブラブの続きもできたしね!(笑)

さて、次回のお話の予定は……
入学式編です。

1話になるか、数話に渡るかは、今のところ未定です(^^;)。
というか……いつ仕上がるかも未定ですが……
目標は今月中!
ガンバリます。
つか、がんばらせます(笑)

裏話もそのうち……。