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春の訪れ お風呂場の鏡の前。 映る裸の私。 首筋には、濃い朱色の痣。 普段、意識した事なんて勿論ないけど……私、これから、尽と……。 誰にも見せた事のない所を見せて、触らせた事のない所を触らせて………。 …………っ!!!! やだ、考えると、のぼせちゃう!! どきどき、すっごく胸が早鐘を打ち出して、恥かしくなって……鏡とは逆方向を向いて体を洗った。 あんまり、そういう事を意識しないようにしようと思っても、どうしても思考はそっちに傾いちゃって……やっぱり、のぼせそうになったんだけど……。 お風呂から上がると、ちゃんと食事の用意がされてた。 今晩は……ビーフシチュー、かな? すっごく、美味しそう……。なんか、こう、敗北感が……。 「野菜切って肉と炒めて、煮込んだ所に固形ルーを放り込んだだけだよ」 ……っつても、すごい……。 見た目どおり、尽の作ったシチューは美味しくて。 弾んだ会話も楽しくて。 あっという間に終わった夕食に、尽は、ひとつの仕事をやり遂げたように――いや、実際、ひとつの仕事をやり遂げたんだろうけど――伸びをした。 「さ、デザートいただく前に、風呂入ってこよう。ねえちゃんは、ここでお茶でもしてて」 デザート? 今からじゃなくて、お風呂上りに食べるの? 私の言葉に、尽はやっぱり笑うの。 なんでぇ!? 「鈍いってば、だから! デザートって、勿論……」 指を指す。その先にいるのは、私……。 あ……そっ、そういう事、ね……。 あははは……。 尽は、浮き足立ってお風呂に向かい、私は…………。 先に、お風呂に入らなきゃ良かったよぉ。 だって、お茶飲みながらテレビ見てても、全っ然、面白くないの。というか、頭にまったく入ってこない。 緊張、しちゃってる。 ううっ……。 尽がいつ戻ってくるか、すっごくどきどきしてる。 こんな風に待ってるの、辛いよぅ……。 で、そわそわ時計と睨めっこ。 でも、時間なんて全然進んでくれなくて……なんで、こういう時って、時間、長く感じるかなぁ? どきどき、そわそわ。 見るともなくテレビを見てると、居間の扉が開いて……。 どきん、って、しちゃう。 だって……。 尽、下にパジャマのズボンだけはいただけの半裸だし……その、いつもとは、違って見えて……。 濡れた髪を後ろに寝かしつけて、顔は上気してて。体には、まだ、水滴が流れてて。 「おまたせ……」 って、呟く声も、妙に艶っぽいの。 なっ、なんか……もう、このまま、ダッシュして逃げ出したいくらいに、鼓動が高まって、頭に血が上った。 どこに逃げるの、って、心の中で自分で突っ込み入れたりもして。 まっすぐ尽の顔見ることなんて、到底できなくて、俯きっぱなしの私に近づいてきた尽は、まずテレビを消し、それから、しっとりした声で問い掛けてくる。 「俺の部屋で、いいよね?」 うっ……うん……。 頷く私に手を伸ばし、驚く私をものともせず……抱き上げた。 お姫様、抱っこで。 「ひゃ!?」 「いつかの約束、叶えられた、な?」 体のバランスをとるのに、尽の首に手を回してしがみついて、間近で尽と言葉を交わす。 「あ……うん。でも、重く、ない?」 「前より、軽い。痩せた?」 「すっ、少し……クリスマス前後に……」 自分の想いに悩んでいた頃に。 私の言葉から、その意味を悟った尽は、小さく笑った。 尽の顔がすぐ近くにあって……改めて尽の顔をまじまじと見ちゃう。 やっぱり、整ってるな……。私と血の繋がった弟だなんて、思えないくらい。 長い睫も、ちょっとつり上がり気味の形いい眉も、意志の強そうな目元も……嫌味ない程度に高い鼻も。 弟なんて、思えない……ううん、弟なんて、思わない。 尽は、私の、たったひとりの、大好きな……男性。 見惚れてる私を横目で確認すると、尽は優しく微笑んだ。 「そんな目で見られると……たまんないんだけど?」 くすっ、と笑って、ちょっと細めた瞳で見詰めてくる。 私を斜めに見上げる、青みがかった黒い瞳に……ドキン、と鼓動が跳ね上がる。 なっ、なんで、そんな目ができるの、尽……。私こそ、そんな目で見られたら……たまんないよ……。ドキドキが止まらなくて……それが尽に伝わるのが恥かしくて……。 尽は、そんな私の心の動きを何もかも知り尽くしているように、微笑み、軽く頬にキスをした。 それから、尽は、私を抱き上げたまま、居間を出て、階段を上る。一段ずつ、ゆっくりと。 「だっ、大丈夫!?」 本気で心配になっちゃうけど……尽は、平気な顔してる。 「ねえちゃんの重みくらい、余裕。あれから半年くらい経ったし……成長期だもん、俺」 それなりに、鍛えたしな。 付け加えて言った尽の二の腕は、その言葉どおり逞しく見えた。筋肉の線がくっきり浮かんでて。さっき見た胸元とかお腹とかも、引き締まってて……服を着ていると細身に見えるけれど……なんか、結構、いい体してるんだ……。 これから、私、そんな尽と肌を合わせるわけで………………って、って……! だから、考えるとダメだってば! あううっ……緊張が、募るからっ。 押し黙っちゃった私を横目で見た尽は、くすっと笑いを洩らす。 「緊張、してる?」 ……………ばればれ……。 尽の体の熱が、しっとり私に染み込んでる。 お風呂上りの、熱の篭ったその体が……私の熱も少しずつ引き出して……。 階段を上りきり、自分の部屋に入ると、そっと私をベットの上に降ろした。 「電気、つけない方がいい、よな?」 そ、そりゃあ……!! 返事するまでもなく、尽が私に覆い被さってきた。 二人分の重みに、ベットが、キシッと悲鳴をあげて、それでも私たちを優しく受け止める。 「今更、絶対に止めないから、俺。一体、この時をどれくらい待ったか……」 体を重ね合わせ、私を真上から覗き込み、私の両頬を手で強く挟み込んで……尽は、想いを言葉にする。 迸りそうな熱い感情を、ギリギリの所で押さえ込んでいるような、そんな口調。 尽の体の重みを、全身に感じて。 尽の強い想いを、心いっぱいに感じて。 私は、尽の手に自分の手を添えた。 私の想いも、尽のそれと重なっているのだ、と、そう伝えたくて。 「ねえちゃんの事、好きで、好きで、好きで、たまらなくて……。何もかもがもどかしくて、おかしくなりそうなくらいに好きで……」 尽の熱く激しい言葉。 「……両思いになる前から……ずっと……こうしたかった」 そうして、キスを、する。 一旦、重なった唇は、再度離れ、重なり……回を追う毎に、激しさを増していく。 その激しいキスで、私の存在を確かめてるみたいに。 絡み合って、吸い上げて、離れて、また絡まって……くちゅくちゅ音を立てながら続けられる口付けは、簡単に私の緊張を取り去る。 そこには、ふたりしかない。 感じるのは、互いの体の熱と、鼓動と、呼吸と……その存在全てだけ。 世界が、私と尽、ふたりだけに、なる。 「は、ぁ……んっ……」 何度も、何度も、眩暈がするくらいに続く口付け。 「ねえちゃん……ねえちゃんっ!」 切ないまでに私を呼び続ける尽の首に腕を絡ませ、私の存在を彼に示す。 私も、尽を、呼ぶ。 ふたりが姉弟だとか、今からふたりで行うのが許されない事だとか……その認識は、意識のどこかにはあったけれど、互いを求める想いこそが、その認識を弾き飛ばして。 ふたりが男と女で、互いをより感じたいから肌を重ねるという事の方が余程重要な事で。 「ねえちゃん……愛してる……」 何度も囁かれる言葉に、私も何度も応えて。 「私も、愛してる……」 互いに互いの存在をそうして確かめて……私たちは、融け合った。 心も、体も、ひとつになって。 ふたりとも初めてなのに、本能のままに……互いへの愛しさに突き動かされて、何度も肌を、重ね続けた……。 何度目か……意識を失いかけた私を抱きしめながら、尽が囁くように呼びかけてきた。 「ん、っ……つく、し?」 かすれた声で返事をすると、尽はそっと私の頬にキスをする。 「バレンタインのお返し、まだしてなかった……」 「ん……? でも、そんなの……」 別に、そんなの、いらない。 尽と、こうしてるだけで、いい。 それだけで、何も、いらない……。 体が重くて、喉がかすれてて、言葉を発するの億劫だったから、尽にきゅっと抱きつく事で、想いを伝えようとした。 尽は私を抱きとめて……嬉しそうに呼吸を弾ませる。 想いは、伝わってる。 体を、心を重ねて、ふたり、今は誰より近しい存在になってる。 言葉なんてなくても、想いが伝わるくらい。 「色々考えたんだけど、予算もないし、いいのが思いつかなくて……普通のになっちゃったけど……」 そっと身を起こして、ベットのすぐ下に置いてあった自分の鞄から取り出した包み。 私も身を起こしてそれを受け取って、ラッピングを外せば、中から可愛い瓶に詰まったキャンディ。 「ごめん。ホント、ひねりなくて」 「ううん、いいよ。さっき、夕食も作ってもらったし……」 何より、気持ちが、嬉しいから。 私が、その小瓶を見て微笑んでると、尽はそれを取り上げて、そこからさっそくキャンディをつまみ出す。 「あーんして?」 えぇ? 食べさせてくれるのぉ? ちょ、ちょっとなんか、恥かしい気もするけど……私は雛鳥みたいに口を開けて、尽の手からキャンディを食べた。 当たり前だけど、甘い。美味しい。 「おいしい?」 私の体を包み込みながら問い掛ける尽に、コクンと頷く。 そしたら、不意に。 「んっ……むぅ!」 なっ、なんでぇ!? キャンディ食べてるのにぃっ! キス、された。 というか……。 「んっ……んんっ……!」 やっ、やだ、もぉっ!! 私の口の中のキャンディを尽の舌が絡め取る。 ふたりで、キャンディを……舐めてるみたいに。 ころころ、丸いキャンディが二人の舌に嬲られて、私の口の中を転がるたびに、甘い味が広がって。 ……尽と、同じ味を感じてるんだ。 キスで戯れるように、ふたりはしばらく、キャンディを舐めつづける。 「っ……ぁ……んっ」 時々唇を離して、甘味にとろりとした唾液を飲み込んで、息継ぎをして……でも、まだ、キスを続ける。 甘いキス。 キャンディの味そのものに、とっても、甘いの。 「はっ……ふっ、うん……」 尽は、一旦、私の口の中から器用にキャンディを運び去って、自分の口に含み……また、私の口の中に押し返す。 そんなふうに、戯れる。 丸いキャンディが形を変えて、小さくなって……飽きるまで、そんなキスを繰り返した。 「……バレンタインのチョコはすぐ溶けちゃって味気なかったから」 すっかり小さくなったキャンディを、私の口の中に残して、尽はくすっと笑う。 もぉ……なんで、ヘンな事思いつくかな、尽は……。 でも……でもね、キャンディのキス、甘くて、ドキドキして………どうしようもないほど、体の熱が、増した。 「このキャンディ食べる時は俺に声かけて、な? 二人用キャンディ、ってしとこう」 ……って、この瓶の中のキャンディ食べるたびに、尽とこんな風にキスするわけ? うっ……そんなの、無理っ! 絶対、無理無理無理だもんっ! キャンディのキスは、不思議で、ちょっともどかしくて……でも、すごく気持ち良くて、している間は夢中になってたけど……けど……。 キャンディ食べるごとにこんなキスしたら……私……きっと、いつか、オカシクなっちゃうよ。 今だって、こんなに、体が熱いから……。 顔を赤くして、尽をじっとり睨み上げると、尽は微笑みながら、斜めに私を見詰めてた。 ……っ。 なんで、尽って……こんなに、艶っぽい表情するの……。 薄闇の中、じっと私を見詰める尽の眼差しは……素直に尽の感情を語ってる。 私のこと、好きだ、って……。愛しい、って言ってる。 真っ直ぐに、私を求めてくれてる。 嬉しくて、恥かしい……。 なのに、私は、真っ直ぐに尽を見詰められず俯いちゃう。 でも、そんな私に呆れることなく、尽は……。 キャンディの小瓶を、ベットの下に放り投げる。 あっ、と思ったら、私、抱きしめられていた。 キャンディの瓶は、コツンコツン、カラカラと音を立てて床の上を転がり……机にぶつかって、止まる。 私は瓶が転がる音を遠くに聞きながら……抱きしめられた尽の体の熱を感じ……耳元で吐きだされた熱い吐息に、意識を攫われる。 「また、してもいい? ねえちゃん見てるだけで、たまんない……」 っ!! や、だから……だから、その……。 「俺、今日、発情期のオスになってるから……。もう歯止め、利かない」 くくっ、って……笑わないでよぅ! 冗談に聞こえないしっ! つか……その言葉が冗談じゃない、って思い知らされるんだけどね、結局……あぁっ! それに……私も、尽に……そうされる事を、願った。 私に触れてくる尽の全てに体が心が簡単に反応して、熱を持つ。 再び、唇を重ね、体を重ね……私たちは、ふたりだけの快楽の波に呑まれる。 がむしゃらに求められ……でも、それに応えるように求め返して。 理性なんて、簡単になくなって。 獣のように求めあう。 でも、ふたりは獣じゃないから……。 互いの存在感……それを、確かめる、刻み付ける。互いの体に、心に。そのために、求め合う。 きっと、それが、獣と私たちの、違い。 つづく |
<言い訳とか>
……やっと! のシーンでした。
制限ある表ゆえ、細かい描写はナシと。
(描写なしの寸止めは、ちょっとむず痒い…)
ふたりとも初めてなんですが、
上手くいったようですな!(笑)
細かい描写の裏話は、多分、そのうち……(^^;)。
お忘れかもしれませんが、ホワイトデー話ですよ、これ。
あ〜そうね、そういや、もう4月かもねー……あはは……。
チョコキスの次は、キャンディキスで。
つか、こんなキス不可能だろ、って感じですが、
細かい事は気になさらずに。
次回は……この続きというより…。