春の訪れ
<3>



「真奈美さん、帰った?」

 尽は、恐る恐る居間に顔を覗かせた。
 そんなに警戒しなくてもさ……。

 真奈美さんが帰ったことを知ると、尽は、盛大な溜息をついた。
 尽にとっては、台風……というか、ハリケーン一過、って感じかな。

 天敵がいなくなった尽は、お菓子を食べながらテレビを見てるエリカちゃんの横に座って、エリカちゃんを見据えて話し出した。

「エリカ、おまえ、本当になんで出てきたんだよ? また、奈津美さんと喧嘩したのか? ……と、したら、うちに連絡あるハズだけど、ないよな……?」

 うん。私の携帯にも何もないよ。
 エリカちゃんは、尽の言葉に知らんふりを決め込んでる。

「まさか、家出?」

 ええっ!?

「それとも、誘拐でもされてきた?」

 えええええっ!!?

 尽の言葉の数々にもエリカちゃんは反応せず。

「姫条の従妹、って事は、結構いいトコのお嬢だろ、おまえさ? ひとりでふらついてて、大丈夫なのか、本当に? うちが誘拐したとでも思われたら、かなわないんだけどな」

「うちには、うちなりの事情があるんや……とりあえず、今は何も聞かんといて!」

 顔を不自然なまでに真っ赤にしたまま、エリカちゃんは押し黙ってしまった。
 一体、エリカちゃんがここに宿泊したい理由って、一体……?

 私も、それとなく追及しようとしたんだけど、エリカちゃん、その話題になると、ぴたりと会話を止めて、頑として口を開こうとしない。
 なんか、でも……余程の理由なのかなぁ?

「ねぇ、でも、せめて、連絡しとこう? 別に帰らなくてもいいけど、宿泊先さえはっきり分かってて、時々連絡入れたら、誰も心配しないで済むよ?」

 って、私が言ったら、エリカちゃん……ふぅって大人びた溜息ついた。

「あのさぁ、あんた、出かけなくていいの?」

 え?

「だって、彼氏と会う約束あるんやろ?」
 
 はい?
 何の事?

 エリカちゃん、にんまり笑ってる。

 ええーと……?

「ホワイトデーのお返しに、ええもんくれる約束しとるんちゃったの?」

 はぁ!?

 エリカちゃんの言葉に、ちょっと離れた所で雑誌を読んでた尽が、変な咳をした。
 エリカちゃん、意味深ににやにや笑いながら、肩をすくめた。

「あー大丈夫大丈夫。うちの事は気にせんといて。立派に留守番果たしてみせるから」

 留守番の部分を妙に強調してる。

 ううっ……なっ、なにかなぁ。
 それって、それって……。

「うちも、野暮な事したないからさ。とにかく、宿泊先さえ提供してもらえれば文句言わへんから。うちの事は気にせんといて」

 って……だって……!?

「あ、部屋貸してくれるんやったら、うち、そこに篭ってもええし。一応、暇つぶしに携帯ゲームくらい持ってきとるからさ。好きなようにしとって、おふたりさん」

 あ、あのぉ……エリカちゃん?
 あなた、一体、何歳よぉ……。

「エリカ……」

 咳が収まったらしい尽が、苦虫を噛み潰しまくった顔でふらふら近づいてきた。

「おまえ、そこまで気が遣えるなら、出て行ってやろうとか思わないわけ?」

「それはそれ、これはこれ、や。うちの事邪魔なら、最初からおらんもんやと見なしといてくれればええし」

 澄まして言うエリカちゃんをしばらくじとっと睨みつけた尽は、今度は私のほうを向いて……にこっと笑った。
 私も、ついつられて笑ってしまったけど……。

「じゃ、ねえちゃん。そんなわけで、エリカは存在しないから……続き、しようか?」

 ……はい?
 はいぃぃ!?
 ちょ、だって……尽ぃ!?
 ダメデショ、それはっ! やっぱり、エリカちゃんはいるんだしっ!!
 だから、だからぁ……!!

 人前でキスはやめてぇぇぇ!!!!

 近づいてきた尽の顔に、私、思わずビンタを見舞ってしまった……あぁ、いい音が響きました。

「尽の、ばかっ!」

 真奈美ちゃんに散々な目にあったから、優しくしてあげよう、とか思ったけど……これは、だめでしょう!?
 優しくするのと、甘やかすのは違うもんっ!……多分。

 エ、エリカちゃん、そんなに気を使わないでいいからね!?
 私たち、別に、そんな事しないし……。

 って、言い訳しようとエリカちゃんの方を見たら、なにかなー……すごく呆れた目で私たちを見て、溜息。

「あんたら、ホント……見事にバカップルになったんやな。つか、姉弟で恋人って、もっと深刻な問題ちゃったん?」

 あう……なんか、とことん呆れられてるぅ!

 尽のばかっ!
 あんたのせいだからぁ!

「愛し合うふたりだから、バカップルと言われ様が、どんな障害があろうが……」

 くくくっ、と、わざと悪人風に笑いながら、私の体を抱きしめようと腕を伸ばす尽から、私は身を翻して逃げた。
 あんたはいいかもしれないけど、私はバカップルなんて言われるの、イヤっ!!

 むくれて睨みつけると、尽は、頭を抱えて溜息ついちゃった。

「今更照れなくても……」

 照れたんじゃなくてぇ!!

「ほんと、あんたら……」

 エリカちゃん、滅茶苦茶苦笑いしながら、頭を振った。
 ああ……なんか、悔しいよぅ。一回りも年下の子に、馬鹿にされてるよ……。

「大概、仲ええんやな。うち、諦めて正解やったわ、ほんま」

 溜息混じりの言葉には、実感がありありと篭ってる。

 仲がいいっていうか……!

 私がエリカちゃんに反論しようと口を開きかけたら……玄関のチャイムが鳴った。

 あ、お客様?
 立ち上がった私を制して、尽が立ち上がった。

「あ、俺出るから」

 え? そう?
 まぁ、いいけど……。

「じゃあ、エリカちゃん、夕食は食べるよね? 私、作るから」

「ほんまに出かやんでええの? お邪魔虫抜きで尽とゆっくりしたいやろ?」

「ん〜……私は、ねぇ、エリカちゃんとお喋りしたりするの楽しいし……それに、尽とは、どうせずっと一緒にいるから、数日くらい構わないわよ」

「せやけど、尽が不機嫌なんは、やっぱ、うちのせいやろ?」

「あははは……ま、それはあるかも」

「大人げないな、尽もまったく」

「っても、まだ、エリカちゃんより4つ上なだけだけどね?」

「今年から、もう高校生やろ? 十分大人やん!」

 って、私たちがほのぼの会話している間に、来客はどうなったのかな?
 結構長い間、尽は対応していたみたいだけど……あれ?

 あれれれれれ……?
 廊下のドアからそっと顔を出したのは……もしかして……!?

 エリカちゃんからは見えない位置だけれど……私は、そっと手招きされて……。

「あ、私、お手洗い行って来るね」

 そそくさと、エリカちゃんの傍から離れた。
 でもって……。




「尽ぃ! うち、あんたの事、恨むからな!?」

 ほんの数分後。
 姫条くんの腕にがっちり捕獲されたエリカちゃんが、じたばたと無駄な抵抗を続けながら泣き叫んだ。
 尽……あんた、いつの間に連絡を……って、多分、部屋に引き篭もっている時?

「私たちもさ、尽から連絡もらうまで、こいつの失踪の事、知らなかったのよ」

 姫条くんについてきたなっちんが苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。

「まさかと思って、まどかが叔父さんちと連絡とってくれたら、コッチにある親戚の家に叔母さんと一緒に来る予定だったエリカが駅で姿を消した、って大騒ぎでさぁ」

 あ、親戚のおうちに遊びに来てたの、エリカちゃん?
 なのに、なんで、逃げてきて……かくまってくれ、って?

 私が疑問を投げかけると、なっちんは……一瞬押し黙った後、ぷぷっと笑った。

 何? 何!?

「エリカって、ねぇ……」

「言っ、言うなっ! そんな事、どうでもええやんっ! いらん事、言わんといてっ!!」

 って、わめくエリカちゃん、はぁやれやれ、と、溜息をついた姫条くんに、玄関の外へと連れ出された。

「エリカ、犬嫌いなの」

 え?
 それで……どうして?

「その親戚のお家、犬をいっぱい飼っててねぇ……そもそも犬嫌いになったのも、その家、あ、母親の生家らしいんだけど、そこで、もっとチビの頃に大型犬の下敷きになったから、だっていうのよ。おかしいったら! あははは!!」

 笑う所なの? なっちん?
 エリカちゃんも、別に犬が嫌いなくらいで逃げ隠れしなくても……。

 って、私の声はエリカちゃんに届いていたらしい。
 エリカちゃんは、玄関外から大声でわめいた。

「犬も嫌いやけどな、別に、それだけで逃げてきたんとちゃう! じぃちゃんトコ行くと、絶対、そのエピソードをしつこいくらいに長々とされるからや! うちのガキの頃の思い出がそれしかないみたいに、何度もその話されて、しかもその場におる全員から毎回大笑いされるのが、イヤなんやー!! 不名誉やっ! 好きで、犬の下敷きなったんとちゃうのにっ!! 年寄りは同じ話ばっか繰り返すから、イヤなんやっ!!」

 あぁ……なんか、私たちからしたら、大した事ないお話に聞こえても……本人は真剣なのねぇ。
 お年頃ですものね。
 なんか、もう、苦笑しちゃう。

「とにかく、あの家には行きたない! 頼むわ、にぃやん、後生や! ここは、見逃してぇな!」

 じたばた、じたばた、もがいてるエリカちゃん。
 筋金入りの犬嫌いなのね……あはは……。

 けど、姫条くんはエリカちゃんの頭を軽く小突いて、叔母さんや叔父さんがどれだけ心配していたか……それを説教し始める。
 それから、姫条くんはひとつの妥協案をエリカちゃんに提案した。

「え? ホンマに? せやかて、この女がおるんやろ? せやのに、うち、泊まっててもええの?」

 この女扱いされたなっちんが、あはは、と、乾いた声で笑って、姫条くんの言葉を続けた。

「別に、あんたの寝るスペースくらいあるわよ! あんたのママさんにも了解もらったみたいで、明日までいてもいいって。あ、でも、おじいさんたちあんたに会いたがってるみたいだから、ちゃんと会いに行ってあげなさいね?」

「イヤや!」

「馬鹿っ。別に、家に来いって言ってないって。食事と買い物しに行こうってサ」

 なっちんの言葉に、エリカちゃん、しばらく押し黙って……頷いた。

「さ、んじゃ、帰ろ。あんたのママ、はばたき駅まで来てるから、とりあえず、顔だけ見せに来くわよ」

 で、エリカちゃんは、了解したみたい。
 ふぅ〜〜。

「じゃあ、エリカちゃん、また、ね?」

 玄関ポーチまで出て、まだ姫条くんに抱きかかえられたままのエリカちゃんに手を振ると、エリカちゃんは困ったように笑った。

「えらい迷惑かけて、邪魔して、ごめん。でも、また、遊びに来ても、ええかな?」

 私と、その横に並ぶ尽に確認するエリカちゃん。頷かないわけないよね。
 だって、私、エリカちゃんの事、大好きだもんっ!
 尽も、ちょっと苦笑しながらも頷いてた。

 で、エリカちゃんは、中古ながらの手入れの行き届いた姫条くんの車に乗せられて、後に残ったなっちんは……。

 にやっ、と、笑った。

 うっ、なんか、とんでもなく意味ありげな笑いのような……。

「ほんと、邪魔して悪かったわね」

「邪魔もいいトコ。でも、連絡からえらく早く来てくれたんだな、奈津美さん」

「そりゃあ! ホワイトデーの楽しみを奪う気はございませんしぃ……ほほっ」

 なっ、なに!?
 そのわざとらしい口調と、笑い方!?

「そうなんだよなぁ。折角の楽しみがまた流れちゃうんじゃないかと、冷や冷やしっぱなし。ねえちゃん、この通りの人間で、簡単にエリカを甘やかしちゃうしなぁ……」

 尽……なんか、なっちんに同調してる?

「バレンタインと卒業式がダメだったからねぇ……さすがに、今回くらいは、ねぇ?」


 えっ?


 なっちん、なんで………? なんでぇぇっ!?

 なんで、知ってるのぉ!?

「そそ。だから、今日だけじゃなく、しばらく邪魔しないでくれよな、奈津美さん!」

「了解了解。アタシはそんなに野暮じゃないから! また、色々、いーろいろ、相談に乗ってあげるしぃ……うふふふふ……」

 尽……?
 ちょっと、尽!?
 あんた、なっちんに、一体なんの相談を!?
 つか、なんで、ふたり、そんなにツーカーなのぉ!?

「俺と奈津美さん、最近メル友化してるんだよ」

「そうそう。なかなか、会話のキャッチボールが楽しくてねぇ」

 意気投合しちゃってるし……。
 なんか、それって、いいの!?

「いいのいいの。楽しいから、ねっ!」

「色々、相談のってもらえるしな!」

 あぁぁぁ……なんか、このふたりがタッグ組んだら、私、相当嬲られそうな気がするんですけど……。
 ちょ、ちょっと、怖い……。

 話しこんでたら、車のクラクッションが鳴って、車の中から姫条くんが苦笑してこっちを見てた。
 ああ、そうね、エリカちゃんのお母さんが駅で待ってるんですものね。

「ごめーん、今行く!」

 なっちんは、大声で姫条くんにそう言ってから、最後に、私にウィンクしてみせた。

「エリカの事は本当にありがとう。また、なんかまどかと穴埋めさせてもらうし。つか……ガンバレよっ!」

 何を頑張るっていうの!?

 なっちんの言葉に、尽、なんでガッツポーズ取るの!?

 ちょっと、ちょっとぉぉぉ!!
 わっ、私……すっごく、不安なんですけど!?




 車の中から、3人が手を振って去って行った後、私は…………なんか、ちょっと……とっても、ヤな予感がしてて……。
 いや、改めて、尽とふたりきりになっちゃったって思うと……。

「あっ、あの……! 私、ちょっとお買い物行って来ようかな〜」

 玄関に入る前にそう言うと、尽は溜息。

「こんな時間に、何買いに行くんだよ? つか、夕飯の材料なら、買ってあるって言っただろ?」

「で、でもさ、なんか、ちょっと欲しいものが……」

 私のすぐ至近から今にも私を抱き寄せるような素振りをする尽から身を翻して玄関の中に入った。

「すぐに、帰ってくるから」

 言い訳。

 自分でも分かってるよぅ。
 おどおどして、尽の事、真っ直ぐに見られない。
 まだ、今朝の方が心の準備はあったかもしれなくて……途中、今日は取りやめになった、って一旦思ったから気が抜けちゃったみたいで。
 また、心の準備の猶予が欲しいの。

 でも、ね……。

 言葉なく、尽は動いて、私は……。
 あっという間に、尽にキスされてた。

 玄関の壁に体を押し付けられて、両腕を強く捉まれて……逃げる余裕なんてまったくなかった。

 強く、押し付けられた唇は……すごく熱くて。
 それは、私を、黙らせるためのキス。

 それから……一旦唇を離した後、驚いて戸惑う私の瞳を真剣に真っ直ぐ見詰めてきた尽は、今度は、ゆっくりと斜めに顔を近づけてきて……。
 唇が触れるか触れないかの位置から、尽の舌が私の唇の輪郭をなぞって……かすかに開いた唇の間に滑り込んできて……唇が、重なった。
 怖いくらいに、情熱的な口付け。
 今まで抑えつけられていた箍が一気に外れたキス。

 ――私を、強く求めて……私を、私の思考も体も……すべてをオカシクする……そんな、キス。

 私の腕を戒めていた尽の手は、私の腰に回って、体を強く抱き寄せる。
 だから、私も、尽の背中に腕を回して、尽を強く抱きしめた。

 体の熱が上がるごとに、玄関の壁の冷たさが実感されてきて。でも、その壁の冷たささえ、そのうち私の体の熱に温められる。

「……もぉ、俺、我慢の限界……」

 離れた唇。でも、離れた唇の熱さえ伝わるくらいの距離で、尽は呟いた。かすかな苦笑いを含んだ、熱の篭った声で。

「あいつらがいたって構わないと思うくらい、ねえちゃんが……欲しかった」

 ……っ!
 そっ、それは、さすがに、マズイけど……でも……。

「んっ……」

 すごく、すごく、嬉しくて。
 尽の熱い想いが、私の想いを熱くして。
 私は、頷いた。

 目の前で、尽が破顔して、再び私にキスをしてきて。
 その手が、私のスカートをたくし上げて、太股に直に触れてきて……さすがに、はっとした私。

「まっ、まさか、ここでするのぉ!?」

 尽から慌てて唇を離して、引き攣った声を出すと、尽は目をぱちくりさせた。

「どこでしたって……」

「同じじゃないっ!」

 ふるふると必死に頭を振ると、尽は溜息をついた。

「じゃ、部屋に行く? リビングがいい? いっそ、俺的にはキッチンとか風呂ででもオーケィだけど?」

 そっ……!
 そんな事、私に確認しないでよっ!
 つか、そりゃ、部屋での方が……………って、言えないしっ!!
 大体、キッチンとか、お風呂ってどうなのよぉ!!
 尽ってば、尽ってばぁ!!
 思わず、尽の額をペシンと叩いちゃった。

「ばかっ! もぉ……っ!」

 ぷいとそっぽを向くと、尽はふぅぅ、と、思い切り息を吐き出して肩を落とした。

 そ、そりゃ、尽がどれだけ今日という日を待ちわびていたか分かるけどぉ……いきなり、欲望の塊にならないでよぉ!
 せめて、もうちょっと、雰囲気出して……ね?

 私の大譲歩に、尽は上目遣いに私を見詰めながら、ちょっと考え込んだ後、にっと笑った。

 ……何?
 何!?
 なんか、スゴイ事閃いた顔してない!?

「じゃあ、夕飯、用意しようか?」

 ……え?
 なんで、急に?

「だってさー、終わった後、飯作る元気残ってなさそうだから、先に腹ごしらえ」

 ……あ、あの……そんな事の心配、今からしても……つか、夕食作る元気も残らないくらい……する、の?

「朝まで一緒にいたいし……」

 うっ……そっ、それは……多分、私も……。
 顔、赤くなっちゃった。

 うん……できれば、朝まで、尽といたい……好きな人と肌を重ねるだけで、そのまま別れるのは、きっと、寂しいと思うの……。
 できれば、朝まで、ずっと、そのぬくもりを感じていたいな……………なんてっ、何考えてるかな、私っ!!
 尽と同じレベルになってるかも……ううっ。
 要するに、私も、多分……尽とする事、期待してるわけで……………。

 あぁっ! もうっ! ……自分で自分が恥かしいってばっ。

「じゃ、じゃあ、何か作るから……」

 恥かしさを振り払おうと言うと、尽もその言葉に続く。

「あ、俺も手伝う……つか、ねえちゃん、あんまり料理得意じゃないし、ここは俺が作ってねえちゃんが手伝いって事で」

 ……まぁ……いいケドね……。

 で、何故か尽は、私がエプロンつけた姿を、しばらくじろじろ観察した後、にっこり笑った。
 えーと?

「よしよし。いい新妻具合だな」

 へ?

「で、ねえちゃん、物は相談だけど、ちょっと新妻になりきってみない?」

 また……変な事を……。
 一体、何をしろと?

「その姿のまま、言って欲しい言葉がある」

 はぁ?
 私がきょとんとしてると、尽はニヤニヤ笑って、妙に女声を意識した声音で言い始めた。

「"ねぇ、夕食にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?"」


 ……………………。


 ……まずは、夕食でしょう?
 私が冷たく口を開くと、尽は唇を尖らせた。

「や、まぁ、それはそれでいいけど、1回、エプロンつけたねえちゃんから、そのセリフが聞きたいだけで……な、1回でいいから!」

 手を合わせる尽に呆れながら、それでも、ついついのせられちゃう私って、甘いかな?
 というか、今日の尽の受難を考えた場合、やっぱり、ちょっとくらい優しく我侭も聞いてあげたいなぁ、とか、思ったりもして。
 棒読みながら、尽ご要望のセリフを口にしてみた。

「夕食にする? お風呂にする? それとも………」

 なんか、とっても言いにくいから、一度そこで息を飲み込んで、もう一度口を開いた。

「それとも、私……?」


 …………!!!


「勿論、ねえちゃんっ!」

 ひゃあ!!?

 言った途端、尽に押し倒された。

「尽ぃ! だって、夕食作るって……!!」

 カーペットの上でじたじた暴れる私の首筋に顔を埋める尽に、必死になって言うけれど、尽は聞いてくれない。

「やっ、ダメだってばぁ! こんな所で、イヤよっ!」

 首筋に唇と舌が這う。

 もぉ!
 もぉぉっ!!
 尽の……尽のばかぁっ!!
 尽の背中をぽこぽこ叩いちゃう。

「ダメだってばっ! こんなトコで、したら、私……」

 焦りのあまり、とんでもない事を口走っちゃった。


「ちゃんと、できないもんっ!!」


 っ……あ、あの……その……本当に、なんか、とんでもないなーと、言葉を発してから思ったんだけど……。
 尽はその言葉に顔を上げ、驚いた顔をすぐに愉しそうな表情にして。

「そっか……じゃあ、部屋でなら、ちゃんと、できる?」

 にっと笑われて……私……こくん、と、頷いた。
 恥かしかったんだけど、そう言わないとなんか、尽が解放してくれない気がして……!

「ふぅん……じゃ、俺、我慢しよ……」

 くくっ、って笑って、私の体の上からどいた尽は、にこにこ上機嫌な笑顔を隠そうともしないで、背伸びをした。

「よしっ! そんじゃ、ねえちゃんは、ちゃんとできるように、心と体の準備をしておいてよ。メシは俺がひとりで作る!」

 え?

「風呂、入っておいで」

 優しく、とっても優しく笑いかけられて……自然と躍る鼓動に、私って、やっぱり尽の事が好きなんだぁ、って改めで実感しちゃった……。
 ま、まぁ……そのぉ……下心はしっかりあるんだろうけどね、その優しさの裏には。

 私、素直に尽に甘える事にした。
 たっ、確かに、私、料理が決して得意な方じゃないからさ……。時々、尽が気紛れで作る料理の方が美味しいかも……。







つづく





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<言い訳とか>

更新、遅くなりました〜。
「春の訪れ」はあと2話で終わりです。
ちゃんと、結ばれますよ!(笑)

四季シリーズは、このお話の後、本ストーリーとして1話で完結。
番外として1話(梅雨編になるかな?)を予定しとりますが…
さて、いつになるかな〜(笑)。

この四季のねえちゃんの体格設定をふと考えてて……
身長は小柄め。体型は少しふっくら系。
155cm、50kgくらいかなー。
クリスマス頃に少し痩せた設定なんで、このお話時点で46kgくらいな感じで。
尽くんは……15歳で身長168-171cmくらい。
このストーリの間に、結構伸びてます。
成長期だから、まだしばらくぐんぐん伸びるでしょう。
最終的に180はいかなくても、178くらいにはいって欲しいなー。
つかGS男性キャラ、設定身長高すぎな気が。