春の訪れ
<1>



 父さんと母さんが出かけたのは早朝。

 私たちがまだ眠っている間に出かけたようで、朝起きてみたらテーブルの上にメモ書きがあった。こっちに帰る日程と、宿泊するホテルの名前と電話番号、旅行会社への連絡先。あと「火の元・戸締りには注意して、ちゃんと食事は作って食べなさいね!」といった母さんらしい置き書きだった。

 尽は、それを見て、改めて両親が3日間不在だと実感したらしく、にやにやと笑い続けた。しかも、鼻歌まで歌ってるし!

 私は……ううっ……ちょ、ちょっと、不安……。
 だって、尽ってば……!

「ねぇーちゃん」

 って、私、今食事中なんですケド?

 あぁ、もぉ!
 後ろからきゅぅって抱き付いてきて、すりすりしてくる。

 や、だって、まだ、朝だよ、朝!
 いくらホワイトデーって約束してて、今日がホワイトデー当日だって言っても、朝から、そんな事……できないもんっ!!

 ちょっと隙みせたら――つか、尽曰く私は隙だらけみたいなんだけど――事あるごとに密着して、ベタベタしてくるの。
 いくら私が人の体温好きでも、そんなにくっつかれたら、何もできないよぉ!

 つか、ヤダ! 着替え中くらいひとりにさせてよぉ!
 え? そんなの、どうせすぐに見る事になるから、今見ても同じだって?

 ……っ!!!

 ばかぁっ!!
 そっ、そんな事言うなら、もう、しないからぁっ!!

 ……じゃあ、いつさせてくれるか……って……そんなの……日が、落ちてからじゃないと……。

 うっ……あからさまに拗ねないでよ。
 だって、こんな陽射し高いうちに、そーいう事、普通しないでしょ!?

 しないったら、しないのぉ!! 

 私は、ぜぇったい、やだぁぁぁ!!!


 …………………………。


 ………………………………………。


 そっ、そうね……キスするくらいなら、別に、いいけど……。

 って、あ、あ、もぉ、いきなり……………っ、んっっ!!!


 ……………………。


 ……………………。


 はぁぁぁーーーー。

 出かけようかなぁ、って思ったりしたけど、尽に引き止められて……それを振り切れるほど、私は強くなかった……ううっ。

 尽、強引なのにも程があるわよぉ!
 つか、尽ってば用意周到で、ビデオとかお菓子とか、果てはお昼と夜の食材の用意まで昨日のうちにしてあって……あんた、そこまで……って、私が呆れると、にこにこ笑顔で有無を言わさずキスしてくるし……。

 尽と一緒に、お家でビデオ見たり、色々お話したり……むしろ、楽しいの、とても。
 でもね……でも…………事ある事に、キスしたり、抱きしめたり……果ては、その手で私の、胸や脚を……触る……というか、揉むとういうか……イヤラシイ動きは、やめてぇっ! 
 あんた、エロオヤジINキャバクラ状態よぉ!?

 ちっとも気を抜けず、私ばかり疲れていく……。
 こんな尽相手に、私、大丈夫……!? 貞操の危機よっ!!
 ……………というかね、その貞操を捧げる前提があってこその行動なんでしょうけど……。

 で、ね……。

 少し遅い目のお昼ご飯を一緒に作って、食べ終わって……今度は、一緒にゲームでもしようか? って言ってたら、来客があったの。

 それは、私にとってはとても嬉しいお客様!
 でも……尽にとっては……。
  ……あはは…………はぁ……。
 




「ちょ……ダメっ! インターフォン、鳴ってるからぁ!」

「今日、うちは留守」

「ダメだよ! 大事な用なら、どうするの!?」

「何も、今日急に大事な用なんてこないでしょ。つか、余程重大事なら、電話でもなんでも、連絡手段あるしぃ」

 尽の膝の上に座らされて――みっ、自ら座ったわけじゃないのよ……!!――数えるのも嫌になるくらいのキスを迫られてる途中だったの。

「もしかしたら、父さん達かもしれないし……」

「あのね……なんで、今朝海外に行ったものが、昼に帰ってくる?」

「ひっ、引き返してきたとか!」

「……。……鍵、持ってるでしょ?」

「回覧板かも!?」

「留守なら勝手に玄関先に置いとくさ」

「警察!」

「はぁ? んなもの、知らん」

 尽の顎を必死で押しやって、強く抱きしめてくる尽の腕から身をよじる努力をしてみる。
 力では、勝てないのはもう分かってるけどぉ!

「ばか、もぉ! 尽っ!!」

 ぽかぽかと尽の頭を殴っても、私を解放する気はないらしく……むしろ、抱きしめる腕には益々力が篭ってきて、苦しいのっ!

 インターフォンは、最初に一度、それからしばらく置いてもう一度。二度。
 その後、音は鳴り止んで……留守に諦めて帰ったのかな?

「尽の、ばかぁぁっ!!」

 って、私は怒鳴ったけれど、再度インターフォンは鳴った。
 尽が、舌打ちする。

「しつこい奴……泥棒か?」

「まさか……あっ、でも、それなら、出たほうが良くない!?」

「…………。入ってきて、俺達がいたら逃げてくだろ」

 あ〜〜もぉ!
 なんて事言うかな!

 つか、その後、インターフォンは何度も、何度も、鳴るの。
 ううぅ……尽じゃないけど、大概しつこい……一体、誰!?

「……うっ、うるせぇぇ! 一体、どこのどいつだよ! 落ち着いてイチャつけやしないぞっ!」

 尽も、大概切れたらしい。
 やっと私を解放した。

 で……一応、うちのインターフォンはマイクとカメラ装備で、居間の方から来客対応できるんだけど……尽は、それを使わずに、ものすごいお怒りモードで玄関に向かった。

 あ、あの……お願いだから、喧嘩とかしないで、ね……!?
 私も、びくびくしながらその後を追って。

「うるせぇ! 誰だっ!!」

 って、言いながら開け放った玄関ポーチにいた人間は…………。

「あっ!!」

 私が声を上げたんだけど……その瞬間だった、尽、見事に殴り飛ばされてた。

 あぁぁぁ……。
 なんか、もぉ……。

「あんたねー、居留守使ってんじゃないわよ! つか、いきなり、うるせーはないでしょ!? 人を散々待たせといて!! よっぽど、窓、蹴破ってやろうかと思ったんだからねっ!!」

 殴り飛ばしたのは…………あ〜〜〜……。

「真奈美ちゃん!!」

「久しぶり〜。約束どおり、遊びに着たわよ♪」

 従姉の、真奈美ちゃんだった。

 そう、お正月に会って以来。
 春頃に遊びに来る、って言ってたけど……今日、来たんだ!

「連絡なしに来て、ごめんね。びっくりさせようかと思って」

 にっと笑って、手をひらひら振る。

 びっくり、した。
 うん、本当にびっくりした。

 というか……尽が……その……。

 玄関のタイルの上に倒れ込んだ後、俯いたままふるふる体を震わせて……。
 あ、あのぉ……尽……。

「……こんの……」

 ひどく震えた声で、俯いたままの尽が呟く。
 えーと?


「連絡もなく、いきなり邪魔しに来る非常識人間、どこにいんだ! この、年増オンナっ!」


 顔をきっと上げて、怒鳴り散らした……けど、途端に、押し黙る事になる。
 真奈美ちゃんが手にしたボストンバックを顔面に食らって。

 ………あぁ、あの、尽……ちょっと……。
 真奈美ちゃんも……あぁぁ……。

「このクソガキが、出させなかったんでしょ、どうせ? 相変わらず、ねえちゃん子だわねー。つか、このシスコン、シスコンッ! あははは!」

 にこにこ笑顔で言いながら、ぼすん、ぼすん、と何度もボストンバックを尽の顔面に叩きつける。

 あ……もしかして、怒ってる、かな……真奈美ちゃん……。
 や、尽も、その……お怒り通り越してる気が……。

 ねぇ、真奈美ちゃん、その辺にしといてあげてくれない、かなぁ……?
 だって、尽、なんか……あぁ、潰れちゃってるし……結構、本人、自分の顔の事気に入ってるみたいだから、あんまし怪我させないでおいてくれた方がいいんだけどなぁ……真奈美ちゃん。

「そうねー。尽のお客様もいるみたいだし、この辺でカンベンしといてあげるか」

 え?
 尽のお客様?

 尽をいたぶる手を休めた真奈美ちゃんの後ろから……ひょこんと顔を出したのは……。

「え、エリカちゃん!」

 クリスマス以来!
 うわぁ、エリカちゃんだ!!

「あ、あの……ちょっとこっちに遊びに来たから……ついでに、寄ったんやけど、誰も出ぇへんし、帰ろと思たらこの人が来て……」

 玄関で潰れる尽を見て、私の顔を見ようとしながらも見にくそうにチラチラ視線を彷徨わせ……もじもじ言うエリカちゃん。

「まぁ、エリカちゃん、かわいそーに。尽、あんた、はるばるやってきたか弱いふたりの女の子を路頭に迷わせる所だったのよ! 責任とりなさいねっ!」

 か弱い女の子……ふたり?
 突っ込むのは怖いので、とりあえず黙っとこ……。
 あっ、尽、ダメよ、そこで突っ込んじゃ! あんたの場合、今度何か言ったら、天国まで連れてかれちゃうかもしれないからっ!!

「エリカちゃん……来てくれて、嬉しい。ね、上がって! 真奈美ちゃんも! とりあえず、お茶、淹れるからっ!」

 えーと……尽……多分、エリカちゃんは、あんたに会いたくて来たんだろうけど……先に、顔、洗ってくる?

 エリカちゃんの来訪に驚いて、顔を上げていた尽を洗面所に向かわせて、私たち女性3人は居間に入った。
 ふたりには聞きたい事いっぱいなんだけど……まずは、エリカちゃんの事、聞かせて欲しいな。

「あ、あのっ……」

 エリカちゃん、緊張してるの、もしかして?
 顔が赤くなってるし、私の事、前みたいに真っ直ぐに見詰める事もない。

「うち……勿論、尽に会いたかったんやけど……その……あんたにも、言いたい事あったし……」

 私とエリカちゃんがお話している間、真奈美ちゃんは勝手知ったる親戚の家、で、お茶を用意してくれてる。
 真奈美ちゃん、ごめんね。ありがとー。

「うん。私も、エリカちゃんとお話したかった」

「あ……あの……」

 俯いて、もじもじして……ぼそぼそっと言った言葉は、聞き取れなくて「え?」って聞き返すと、エリカちゃんは顔を上げて、真っ赤な顔のまま口を開いた。

「あんたの事、大嫌いって言うたけど……今でも、好きちゃうけど……でも、滅茶苦茶嫌いなわけちゃうし……その……尽の事はまだずっと好きやけど、そやけど……あんたらの間に割り込むの難しそうやし……うち、尽の恋人になるのは、諦める……。尽に憧れとる、この気持ちだけでええ、って思う」

 エリカちゃん……やっぱり、大人びてるな。
 もしかすると、私より、随分大人かもしれない。
 だって、ちょっとした事で焼きもちやいて、拗ねてたし……。

「せやから、あんたらが幸せでおってくれやんと、うちが諦めた意味ないし……。目の前でいちゃつかれるのも嫌やけど、ふたりが幸せになって欲しいって、そう思て……それが、言いたくて……」

 エリカちゃん……。
 すっごく、すっごく、嬉しい。
 胸が暖かくなって、私、エリカちゃんをきゅって抱きしめた。

「私、エリカちゃんの事、大好きだからね……」

 素直に言うと、エリカちゃんはじたばたもがきながら、上ずった声を上げた。

「うっ、うちにそんな趣味ないし、あんたの事、好きちゃうんやから、離しぃや!」

 あはは。

「あんたたち、何レズってるの?」

 真奈美ちゃんの声が上から降ってきて、私はエリカちゃんから離れたけれど、エリカちゃん、照れてるのか真っ赤な顔のまま頬を膨らませている。
 やっぱり、カワイイな〜。
 ほんと、目の保養になる美少女だわっ!!

 真奈美ちゃんは、お茶を用意してくれた上、持参のボストンバックからごそごそと取り出した包みを開けて、クッキーを取り出した。

 わぁ、用意周到!
 クッキー美味しそう!

「バレンタイン、チョコ送ってくれたお礼よ。それ渡すの兼ねてこっちまで来たんだー。……って、本当はダーリンが出張でこっちに来るのについてきたついでなんだけどね」

 なるほどね。真奈美ちゃんらしい。

「さ、あんたも……エリカだっけ? 食べて食べて!」

 大きなクッキー缶はとてもひとりで食べられるものじゃなくて……皆で食べた方が美味しいよね!
 なんか、エリカちゃん、私、真奈美ちゃん。年齢の離れた3人だけど、話は結構盛り上がって、ティータイムを楽しんだ。

 ……って……誰か、忘れてませんか?

「……」

 気が付けば、キッチンの椅子の方で、ひとり、お茶をすすりながら座っている尽が目に入った。
 あ、あれれ? そういや、真奈美ちゃん、尽のティーカップは用意してなかったの……?

「あー。悪い悪い。そういや、尽もいたんだっけなー。頭数に入れてなかったわ」

 真奈美ちゃん……本気ですか? それとも、意地悪?
 尽は、拗ねた眼差しで真奈美ちゃんを睨みつけた後、はふぅって溜息をついた。

 あぁ……なんか、尽の顔、どんよりしてる……すっごく、落ち込んでる。あの卒業式の日以上に打ちひしがれてる……。
 ……大丈夫、かなぁ?

「まぁ……真奈美さんはともかく……エリカ、バレンタインのチョコ、サンキューな。一応俺もそっちに送ったんだけど……届いてたか?」

「うん。かわいいキャンディ届いとった。ちょうどこっちに用あって来たから、そのお礼言いたくて、ここに寄ったんや」

 にっこり満面の笑みをみせる。
 あぁ、やっぱり、恋する女の子はかわいいなぁ。
 元々、美少女だからね。

「あと、それから……」

 エリカちゃんは微笑んだ後、表情を急に真剣なものに落として、ぼそぼそ喋りだしたのと同じタイミングで、真奈美ちゃんが口を開き、注目はそっちに移った。

「なぁ、る程、ねぇ!」

 エリカちゃんの言葉は、大きな真奈美ちゃんの声にかき消され、結局、聞き取れなかった。

「そっかぁ、エリカは、もしかして……尽にラブ、なんだ?」

 真奈美ちゃん、目を大きくして、悪戯っぽい口調をする。
 なっ、何かな……。

「こんな美少女が、尽にねぇ……へぇ……ふーん……勿体ないなぁ」

 にやにやっと尽に笑いかける。

「そか、尽って、そういう趣味があったのか……って、でも、そうだな、後5,6年もすればいいカップルかもなぁー。尽も、隅におけないわっ!」

 なっ、なんか、真奈美ちゃん、おばさんくさい……って、口に出して言っちゃいけないわねっ。

「さすがに、尽、私の従弟だけあって、顔だけはいいしね! 私の好みとはかけ離れてるけど」

「誰の従弟だと、顔がいいんだろ……」

 ぼそっ、と呟く尽は……真奈美ちゃんに呆れ返ってる。

「遠距離恋愛はタイヘンだけど、がんばんなさいよ、エリカっ!」

 って、エリカちゃんの頭をくちゃくちゃと撫ぜる。
 エリカちゃんは……ちょっと呆気に取られつつ、私の方をちらりと伺い見る。
 真奈美ちゃんが、私たち……尽と私の関係を知らない事を確認してるのだろう。
 年齢のわりに機転のきくエリカちゃんは、真奈美ちゃんの誤解に押し黙ったままだった。

 でも……なんか、私も、エリカちゃんも、尽も……内心、どきどきだったと思うの。
 だって、私と尽が付き合ってるっていう事、何にも知らない人……しかも、親戚が聞いたら、絶対大問題になるもの。

 エリカちゃん、本当に感謝だからっ。
 眼差しだけでメッセージを送ると、エリカちゃんは、口元にかすかな笑みを見せた。

 で、私たち4人は、主に真奈美ちゃんの饒舌のリードで、楽しくもちょっとドキドキな時間を過ごしたの。
 というか、少なくとも私は楽しかったし、エリカちゃんも真奈美ちゃんに気に入られて、楽しそうにしてたんだけど……真奈美ちゃんから鍛えられてる――真奈美ちゃんは、尽を強い子にしたいんだって!――尽は、結構蔑ろ……というか、いたぶられていたというかで……かなり、くすぶってた感じ。

 真奈美ちゃんって、本当に尽のこと、可愛がってる……のかな? えーと……でも、これも、きっと、愛情の形のひとつよね! ………多分……。
 ライオンは我が子を谷に突き落とすって言うしね! ………多分……。

「あ、そういや!」

 会話の途中、真奈美ちゃんがぽんと手を打った。
 何々?

「あんたんトコのお父さん、海外転勤決まったって?」

 あ、うん。そうなの。
 だから、今日もその準備に海外行っちゃってる。母さん連れて。

「そっかぁ。大変だねぇ、叔父さんも。今日、叔父さんにも挨拶したかったんだけど、いなかったら仕方ないね。また、機会があったら遊びに行きます、って伝えといてくれる?」

 うん。分かった。
 気遣いありがとうね、真奈美ちゃんっ。

 ……って、最初は思ったんだけど……その会話に続く内容っていったらさ……。

「叔父さんも叔母さんもいないしぃ、ね、そろそろその例の彼氏との仲、進んだ?」

 ………はい?

「つか、この機会に進ませるとか? お邪魔な弟はいるけど、小遣いでもあげて、どっかに放り出しておけばいいし」

 一応、小声で私に言ってるんだけど……4人しかいないこの場では、丸き聞こえだってばぁ!

 ていうか、ていうか……その"お邪魔な弟"こそが、私の……。
 ……なんて、言えるわけないじゃないっ!!

「あ、あのね、真奈美ちゃんっ! そーいうお話は、また今度、ね、ねっ!? だって、エリカちゃんだっているしっ!」

「エリカも聞きたいよねぇ? 女の子だもん、人の恋愛話、好きよね!?」

 って、エリカちゃんに脅しかけるように言わないでよぅ!
 ほら、エリカちゃん、居心地悪そうにしてる。
 ……だってエリカちゃんは事の真相知ってるわけだし……。

 エリカちゃん、そういう話は興味がありません、って断固として断らなきゃ、ダメっ。強引な真奈美ちゃんに押されちゃうからっ!

「あのさぁ……」

 って、私と真奈美ちゃんがエリカちゃんに詰め寄っている最中、少し遠くから遠慮がちな声。

「ねえちゃんの話より、真奈美さん、どうなのさ? 俺、ねえちゃんから少しだけ聞いたんだけど……相手、バツイチだって?」

 尽、上手いっ!
 尽に振られた話で、真奈美ちゃんの目がキラキラ輝きだした。
 なんか……実は、自分がノロケたかったのかしら?

「やーもう、尽も知ってたんだ。けど……尽、くれぐれも内緒だからね?」

 なんて、言いながら、にこにこ笑顔の真奈美ちゃんは、語りだした。

「でね、彼の事、まだ両親には内緒なんだけどさー、もう少ししたら、告白しちゃおっかなぁ、なんて思っててねぇ。彼も、挨拶がしたい、って言ってくれてるし」

 ……って、ノロケまくり……。

 あぁ……良かった……。
 真奈美ちゃんは、ひとりで語りまくっている。
 多分、普段、周りにそれを言える相手が少ないから、語りたかったのねぇ……はぁ……まぁ、私も、ちょっと、分からなくもないかもしれないけど……。

 チラッと尽を見ると、尽は目配せで笑って見せた。

 わっ、私の場合は、別に語りたいとかは思わないけど……誰かに、ふたりの関係を理解して欲しいな、とは、思うの。
 ただ、話したって、殆どの人間がそれを理解してはくれないだろうけど……。

 真奈美ちゃんが語りまくっている間に、服の裾をつんつんと引っ張られて振り返れば、エリカちゃんだった。
 ちょっと強引に私の頭を引き寄せて、耳元で囁く。

「で、実際、あんたら、どこまで行っとるん?」

 ……………………ッ!!!

 えっ、えっ、ええっ、エリカちゃああんっ!!
 子供が、そんな事聞いちゃいけませんっ!!

 って、声に出して言えなかったけど……というか、言わないでも、私、表情で訴えていたのかもしれない。
 エリカちゃん、わざとらしく溜息ついてからにやにやっと笑った。

「ずぅっと同じ屋根の下で暮らしとるんやろ? なんかない方がおかしいよな?」

 だっ、だからっ! 大人をからかうもんじゃありませんっ!!
 ……いや、その、私が大人かどうかと突っ込まれたら、ちょっと怪しいんだけれども……。

「……エ、エリカちゃん……あのね……」

 真っ赤になっているだろう顔のまま、エリカちゃんをたしなめようとしたら、エリカちゃんの方が先に口を開いた。

「今時、小学生かてそれぐらい分かっとるで?」

 うっ……天使の顔して、悪魔の微笑みね……。

 今日はやけに大人しいと思ったけど……やっぱり、エリカちゃんだわっ……!

「……って、そこ、何、こそこそ話してるの!?」

 あっ……真奈美ちゃんの事、忘れてた……。
 ひどく不満そうに私たちを睨みつけてる。

「人が折角、大人の恋愛を語ってるのに」

 えーと……大人の恋愛、ですか……。
 私が、真奈美ちゃんに誤魔化し笑いしていると、横からエリカちゃんがさ……。

「おねーちゃんの彼氏の事、聞いてたの」

 にっこり、天使の微笑み全開。

 あぅ!
 また、話を蒸し返すのっ!?
 折角、勢いよく逸れてくれてたのにっ!!

「あら? なに、エリカには話せて、私には話せないの!?」

 あぁ、真奈美ちゃん、思い切り食いついちゃった……ノリノリになってるし……。
 エリカちゃんも、何をたくらんでるんだか、にんまり笑って口を開こうとするし。

 こうなったら……。

「エッ、エリカちゃん……! その前に、トイレは!? 行きたいんでしょう!? うちのトイレの場所、知らないでしょう!? ほら、連れて行ってあげるからっ!!」

「え? うちは別に……」

「さぁ、行くわよっ!」

 私、有無を言わさず、エリカちゃんを居間の外へと引っ張り出した。





つづく





--BACK--



<言い訳とか>

ラブラブ……だけでは終わりません。
ふたりまとめてお邪魔虫を出しました。
そう簡単には、尽にイイ思いをさせてやりません……!(笑)
…と、いう、書き手の心情を表してます。

オリキャラ出張りすぎで失礼。

このお話は長くなります。
つまり、それだけ尽くんの欲求不満は増大するわけです。
次回は、まだまだお邪魔虫。