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春よ来い どうにか、上手く作れたトリュフを選別して、ラッピング完了。 さすがに、前日の夜中とか明け方とかに作ってないよ、今回は! ちゃんと、2,3日前に用意し始めたんだからねっ。 尽は……多分、気付いてそうかな……。 なんか、ここ数日、日々、きらきらと期待した目で見られてる気がする……。 期待通りにできたかどうかは分かんないけど……不味くはないから、安心してね! でも、いつ渡そうかと、ちょっと身構えちゃって……13日から、今度は私の方が浮き足立っちゃってた。 14日は平日だから、尽が学校から帰ってきてからかな? それとも、朝かな? でも、母さんに見られるのもどうかと思うし。 ぐるぐる考えてるうちに、深夜0時を回り、私は……決心した。 いっそ、尽が寝ているうちに枕もとに、って。 手渡しするも、なんか恥ずかしかったから、ちょうどいいかも。 いや、本当は、尽が出かけてしまってから机の上に、とも思ったんだけど、そうしたら、母さんに見付かっちゃいそうだし……。 こっそり部屋を抜け出して、尽の部屋に。 平日だから、さすがに寝てる、よね? ドアをそっと開けると、寝息を立てる尽がいて、私はほっとする。 尽の幼げに見える寝顔に微笑みながら、枕もとにラッピングしたチョコレートを置いた。 メッセージとかつけてないけど……私からだってわかるよね。 かわいい尽の寝顔をずっと見ていたい気もしたけど……私は、そっとベットを離れようとして。 「ねえちゃん」 ……尽? 起きてたんだ? 腕を捉まれて、振り返ったら、眠っていたはずの尽が目を開けて笑っていた。 薄闇の中、深い影に覆われた尽の顔は、昼間見るそれとは別人のようで……私は、どきりとした。 「チョコ、か?」 「う、うん……その、明日渡そうかとも思ったんだけど……」 「すげぇ、嬉しい……」 ゆっくり身を起こしながら呟いた尽の言葉は、嬉しい、それ以上の感情を含んで震えている気がした。 私こそ……喜んで貰えて、嬉しい。 私、ぽすん、と、尽のベットに腰掛ける。 今、少しだけでいいから、尽の傍にいたかった。 いつも、傍にいるのにね……。 「今、食べてもいいか?」 「え? だって、夜中だし……」 「今食べたい」 尽は、ひどく嬉しそうにくすくす笑いながら、ラッピングを丁寧に解いて、箱を開け、尽は私を見上げた。 「トリュフ? 勿論、手作りだ?」 「うん。頑張ってみたよ。不味くはない、って保障する!」 ひとつ、指先で摘み上げて、ぽんと、口に放り込み……にっこり笑う顔が、とてもかわいかった。 「美味いよ」 もうひとつ、摘み上げて、今度は二口かけて、堪能するように食べる。 あ……。 ココアパウダーが口の周りについちゃったのはしかたないとして、チョコも、ほんの少し唇の端についてる。 「尽……」 言いかけて……私、はっとしちゃった。 だって……その、この間なっちんが言ってた妄想を思い出したから。いや、その逆バージョンなんだけどね……。 しかも、"チョコレートが精力剤"云々の言葉も思い出したりして。 それで、思わず、顔が赤くなっちゃった。 い、一応注意しといてあげないと……とは、思いはしたけど、なんか、上手く言い出せなくて……。 尽が、不思議そうに見つめてきた。 「どうした?」 「あ……えーと……」 私がまごついている間に、尽は微笑み、私の顔に顔を近づけてきて……。 「ひゃあ!?」 目の前に尽の顔があって、思わず悲鳴をあげちゃった。 「ねえちゃん??」 目をぱちくりさせる尽に、言い訳も出来ず、自分の顔を手で覆っちゃった。 だって……その……。 今は真夜中で、こんな暗い部屋で、ふたりきりで……キスされたりしたら、私……。 心臓、ばくばくいってる。 尽の顔、まともに見られない。 尽も、私の変な態度を不審に思ったのかなぁ……しばらく、無言だった。 うっ……ここは私の方が何か言うべき? だって、一応年上のおねえちゃんなんだし……。 と、まごついてるうちに………。 突然顎を捉まれて、無理に顔を動かされて……真剣な尽の顔を見たと思った次の瞬間、キスされてた。 つ、尽……! なんの前触れもなく、卑怯よっ! って、言う余裕なんて勿論ないまま、私は尽のキスに流された。 いつものキスとは何もかもが違って感じられた。 チョコ味のするキスは、それだけでとっても甘いのに、尽はいつもよりもずっとゆっくりと、優しく、私を絡め取る。それは、私を焦らしているようでさえあって……。 尽の舌は、チョコの味がして……とっても甘い。 だから、私、必死で尽の舌を自分のそれで絡め取ろうとするけれど……するりと逃げられちゃう。 もどかしくて、尽の背中に腕を回して、強く抱きしめちゃう。 ね、もしかして、なっちんの言ってた事、本当かもしれない。 チョコレートが精力剤、って。 だって、私……とっても熱くなってる。火照ってる。 頭の芯からぼうっとして、思考能力なくなってる。 ただ、甘い尽のキスを、もっと感じたくて……。 尽はキスを続けながら、私の体をベットの上に横たえていった。ベットのスプリングが、ギシッって音をたてる。 「ん……!」 やだ、キス、止めないで……。 尽がそっと唇を離すのに、私、思わず尽の背中にまわした腕に力を入れちゃった。 そっと目を開けると、尽の優しく緩んだ顔があった。 細められた目と、微笑みの形に崩れた唇……。 「ねえちゃん……」 呟くその声は、チョコレート味のキスと同じくらい甘くて……。 あ、まだ、唇の端にチョコがついてる。 私、そっと尽の頭を捕らえて、少し驚いた様子の尽の顔を引き寄せて……。 「んっ……」 尽の唇の端についたチョコをぺろっと舐め上げた。 「チョコレート、甘いね……」 言う私に、尽は喉の奥から笑いをもらして、更に瞳を細めた。 「ねえちゃんの唇が甘いから」 再び唇を重ねてきて、尽の体が、私の上に覆い被さってきた。 尽の身体のぬくもり、その重み……心地いいな。 すごく、心地よくて、私、尽のする事を全部許しちゃう。 尽の手が、私のパジャマの裾から入り込んで、素肌に触れてくるのも……なんだか、気持ち良いの。尽の手、大きくて暖かいの。 私の唇から離れた尽の唇は、今度は、私の顎から首筋にゆっくり這って行く。時々、各所を優しく吸い上げながら。 「尽……」 はぁっ、って溜息が漏れちゃう。 体中が、熱くなってる。 チョコレートのせいかな? うん……きっと、そうだよ。 尽の熱い唇が触れた部分から痺れが全身に駆け巡って、私の思考さえ痺れ始める。 「つく、し……尽……」 その感覚が少し怖くて、何度も尽の名前を呼んでしまう。 『尽』その言葉が、まるで呪文みたいに私の体の熱を誘い、そのくせ私の心に安心感をもたらす。 「ねえちゃん……」 熱い吐息と共に囁かれる言葉に、私の全てがおかしくなる。 尽が、好き。 どうしようもなく、好き。 きゅっと胸が苦しくなって、涙が溢れた。 どうしてだろう。 悲しくなんて、ないのにね。 不安なんて、ないよ。 幸せなのに、涙って出てくるんだね。 「ねえちゃん?」 私が泣いてるのに気付いた尽が、慌てて顔上げて、私の顔を真近から覗き込んできた。 「怖い? まだ……だめかな?」 不安そうな声に、私は頭を振る。 尽が、何を言わんとしているのか、鈍い上に熱にやられた思考回路の私は分からなかったけれど、でも、尽の不安そうな声を掻き消したくて、ただ、頭を振ったの。 安堵の溜息が漏れ、尽の唇が私の目尻に押し当てられ、涙を掬い取る。 それから、静かに口を開いた。 「今から、いい? 俺……ねえちゃんを抱きたいから……」 何の、確認? 潤んだ瞳で尽を見上げて、少しまだ不安そうに揺れる尽の瞳に出会う。 「だく……?」 言葉の意味を理解する前に、オウム返しに問い掛けて……私は、そこでやっとはっとした。 そう、我を取り戻した。 「だっ、抱くって、抱くって……あ、あの、抱きしめるとかじゃなくて……!?」 突然、現実に帰った私を見て、尽は……あ、あからさまに目の色が変わった。 なんか……こう、がっかりしたっていうか、もう絶望したっていうか? つか、自分の言葉に後悔してるふうで、口元を押さえちゃった。 「大人の意味、なんだけど?」 溜息混じりの声に、私、ぶんぶん頭を振った。 「やっ、だって、だって、その……!」 そうして、なっちんの言葉を思い出して、結構とんでもない事を口走っちゃったり。 「だって、そういうの、持っていないし!」 私の慌てぶりと、"そういうの"って指示語からだけで尽は理解したらしい。 さすが、付き合い長いだけあるなぁ……。って、感心してる場合じゃなくて……。 尽は、ふううっ、って、思い切り深い溜息付いて、でも、ちょっぴり唇をゆがめて笑う。 「……持ってる、俺」 「え? だって………………………なんで?」 あれ? そう、なんで、持ってるの? 尽、そんなのいつどこで買ったの? あれれれれ? 一応20歳越えてる私でさえ持っていないのに?(この場合、年齢は関係ないかもしれないけれど…) 「自販機で買った。こういう時の為に」 こういう時? つか、いつ買ったの? なんで? 誰の為に? そう思い出したら、むかっ、とした。 むかむかっとして、胸の中に黒いざわざわしたものが広がって行った。 そもそも、尽、あんたって……こういうの慣れてるみたいだし……経験、あるの!? 私の疑問に、尽は唇をゆがめただけだった。 経験、あるのぉ!? カーーッと頭に血が上った。 そうよね! 尽ってもてるものねっ! エリカちゃんにだってモテモテだったし、あのなっちんだって尽の事カッコイイって言い切ったし! そうよねっ!! 私じゃなくても、尽の事好きな人、いっぱいいるものっ! ぷぅぅうっと、思い切り頬を膨らませちゃった。 だって、だって……!! 悔しいもん。 ムカツクもんっ。 尽が、私じゃない人相手にキスしてるの考えただけで。 ……キス以上の事してるのは考えたくもないんだけどねっ! 尽の、ばかっ!! 「ねえちゃん……あのさ……!」 頬を膨らませた私を見た尽は、少し慌てた素振りで言い訳しようと始めたけれど……も、いいもんっ! 尽の事好きだし、そういう事だって……その、してもいい、ケド……でも、なんか……私以外の女の人に、尽がそういう事したんだ、って思っただけで……すっごく、ヤになったの! もぉ、いいもんっ!!! 「尽の、ばかああぁぁっ!!」 私のお怒りの様子に目を丸くした尽を押しのけて、私、尽の部屋を飛び出した。 「ねえちゃん!」 名残惜しそうに私を呼ぶ声がしたけど……無視よ、無視っ。 タタタタ、と自分の部屋に駆け込んで、鍵、かけちゃった。 尽の、おおばかぁっ! 口の中には、まだチョコの味が残ってる。 尽の熱い舌の感触も、残ってる気がする。 顎、首筋……尽が触れたすべての感触が、まだ、生々しく私に残っていて……私、ふえぇっ、と、泣き出した。 うぅ……子供みたいな泣き方だって、自覚してる。 でも、止まらなかったの。 なんか、悔しくて。 なんか、すごく、嫌な気分で。 さっきは、幸せだから涙が出たけれど……今度は、自分の不幸さに涙が出てきた。 尽の、ばかばかばかばかばかっ! 尽への罵り言葉を何度も繰り返して、私、なかなか寝付けなかった。 やっぱり、チョコって精力剤? つか、興奮剤? もぉ、しばらく見たくないよぉ!! って、あのね、泣くだけ泣いて、すっきりしてきて、ちょっとぼーっと考えてたら……ずっと以前、私がまだ尽のこと好きだって欠片も自覚していなかった頃、尽とした会話を思い出したの。 まだ秋、尽に抱きしめられて、キスされて……そんな気なしにえっちな気分になっちゃった、あの日の事。 尽……あの時、まだしてない、って言ってたのを、思い出したの。 あれから、半年。 その半年の間に、尽……経験したの? 私の事好きだって言って、抱きしめて、キスして……なのに、私じゃない人と? 疑惑が心の底からじわじわと湧き出してきて……私、とっても、とっても悲しくて、嫌な気分になっていった。 だから、私……それから、尽の事……避けるようになった。 だって……嫌だったんだもん。 尽があんなキスを他の人としてるの考えるのも、尽が優しく「好きだ」ってほかの人相手に囁いてるの思い浮かべるのも……尽が、私に見せた事無い表情で、態度で、他の女の人抱きしめている事、想像するのも。 尽の顔見ると、そういう色々を思い出して、想像しちゃったり考えたりしちゃうから、だから……尽を、避けるようになったの。 しかも、バレンタイン当日に、こそこそ大量のチョコを持って返って来た尽を目撃しちゃって……更に、むかついちゃったの! 尽がバレンタインにチョコもらうのはもう恒例行事みたいなもので、去年までは平気で茶化す事もできたのに……なんで、こんな不愉快な気持ちになっちゃうんだろう。 尽は……いつも、必死で私を捕まえようとしてたみたいだけど、私はそれをどうにか逃げ延びた。 私はおねえちゃんだから……本当なら、そういう事しちゃいけない相手だから……尽が、他の女の人とそんな事しても、仕方ないのに、そのハズなのに……。 と、頭の中で正当な理屈が乱れた私の心を落ち着かせようとするけれど……。 やっぱり、どうしても、納得できずに……私、大学の長い春休み、アルバイトを目一杯して、尽を避け続けた。 時々、尽とおしゃべりしたくなったり……尽に抱きしめられたくなったり……寂しくなったりもしたけど、意地っ張りで頑固な私が、その意地を貫き通した。 尽の、ばか。 私の、ばかっ! おわり |
<言い訳とか>
らぶらぶ……かと、思いきや、で……。
ねえちゃんの焼きもちが勃発。
尽もいいトコで、余計な事言わなきゃ良かったのに……(苦笑)。
ねえちゃん、体の反応は素直なようですが、
そういう事への気持ちの整理がついていないようです。
だから、体が反応してても頭が働き出すと、拒否しちゃう(笑)。
尽の経験云々の問題は、勿論(笑)濡れ衣ですが、
その誤解が解ける日は来るのでしょうか?
次回は……雛祭りかホワイトデーで!
(すっごく未定……)