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春よ来い お正月も終わり、少しのんびりできるかなぁ、と、思っていたらいつの間にか新学期が始まって……慌しいうちに一月は去っていった。 お正月……そぉ、あれやこれやとあったお正月以来、私達は何事もなかった。 だって、私、新学期すぐに試験期間に入っちゃうものだから、その準備が忙しくて。 慌しかったクリスマス前後以来、ちゃんと準備できてなかったのよ! だから、おじいちゃん家から帰ってきて以来、講義ノートまとめたり、大学の友達と打ち合わせしたり……で、結構大変だったの。 勿論、尽に構う間もなく、ね。 多分、尽、拗ねてたろうなぁ……いや、その……時々、両親がいない時とかにキスはしてくるんだけど……なんというか、その……こっ、恋人らしい事を何もしていないというか。――あぁ……今だに、尽を恋人と呼ぶのに抵抗を感じちゃう……。 というか……身内から恋人になった私達の"恋人らしい事"なんて、その……キッ、キスと(なんか、恥かしくて言いにくいっ)……あとデートくらいなんだろうけど……近場にデートは行けない、でしょう? 誰に会うとも知れないんだし。 で、結果、私達の間は、何も変わらず。 恋人、かぁ……恋人、ねぇ……。 実際、尽の事は、その……本当に、好き。それは、弟に対してへのものじゃなくて、って、今では自信持って言えるくらい自覚してる。 でも……だから、私達の関係、何か変わるのかなぁ? お互いが誰よりも傍にいる事はこれまでと変わらないし、一緒にテレビ見たり、お喋りしたりもこれまでと変わらない。だって、同じ屋根の下に暮らしているんですもの。 ただ、違うのは……そうだなぁ、恋人としては当たり前だけど、互いに他の異性と付き合わない、って所くらいかな。 うう〜ん……思いを通じ合って、何か変わったのは、それくらいなんて……なんか、ちょっと、不思議かも。 普通の恋人達って、付き合いだすことで、きっと、もっと色々変わってくるのだろうに。 新鮮味がないのかなぁ……? あ、でもでもっ……その……キス……は、確かに新鮮味というか……なんか、すっごく恥かしい刺激というか……。 私はね、きっと、それで満足。 一緒にいるだけで、とっても幸せだから。 両親のいる時は、ただの姉弟。両親のいない時には……ちょっぴり甘い恋人同士。 でも……でも、尽は、なんだか、時々とても不満そう。 理由は……なんとなく、分からなくも、ないかも。 でも、私、そういう事、とてもじゃないけど、意識的に考えられない。 だから、考えない。 考えないようにする。 考えないように……したいん、だけど……。 「で、尽との関係はどこまで行ったの?」 ぶっ……!!! いきなり、そうやってダイレクトに切り込んでくるのは、言うまでも無くなっちん。 あのクリスマス以来、久しぶりに会ったのは、私の試験ラッシュが落ち着いた2月の始め。 繁華街の馴染みの喫茶店で落ち合って、発した第一声がそれって……どうよ? にやにやっとイヤラシク笑って、ランチセットを注文したなっちんは、そのままのにやにや笑いを続けながら私をじっと見詰めてくる。 あああぁぁぁ、もぉ! 「どっ、どこまでも行ってないもんっ」 「あ〜? だって、付き合い出してからもう1ヶ月以上経つでしょう? 同じ屋根の下に暮らしているのに……」 「あっ、当たり前でしょ! だって、私達姉弟なんだしっ」 「いや、姉弟っつても……恋人、でしょう?」 なっちんのにやにや笑い。 私、どう対処したらいいのぉ? 「だっ、だって、ね、その……」 どもって、言い淀んで……私が勝手に赤くなったり青くなったりしている様子を、なっちんは可笑しそうに見つめてる。 もしかして、弄ばれてる!? 「なっちん!?」 ちょっとむっとして、なっちんを睨みつければ、なっちん、今度は肩をすくめて見せる。 「あぁ、いや、ほら、ねぇ……確かに、面白がってるわよ、うん」 ……………だぁからさぁ、そこではっきり肯定されても……ううっ。 でも、なっちんは、急に真剣な表情になって真っ直ぐに私を見詰めてきて……まるで、私の心に切り込むみたいに。 「他人事、としちゃ面白いけどね……他人事でも、ないでしょう? あんたの事、他人事にできるほど、冷血じゃないつもり」 声音を落として言うなっちん。 なんで? 「尽は大人びててもまだまだ15歳だし、あんたも他人よりちょっと……いや、少し……いやいや、かなり? ……相当? まぁ、鈍いし……」 なんか、真面目に馬鹿にされてる……? ちょっと、悲しくなっちゃう、私……。 「だから、あんまし深刻に考えてないかもだけど……私、結構気にしてたのよ、あんた達の事」 馬鹿にされたのはともかく、声は本当に珍しいくらい真剣で、私を見詰めてくる眼差しも、疑いようないくらいに真摯で。 「好きな人を抱きしめたい、って思うのは、きっと、誰しも思う事でしょう? 私はね、まどかとそーいう事するのスキ。だって、それって、ふたりが確実に繋がっている証拠みたいなものだし。そうしてる時、なによりまどかを近くに感じられるし。恋人達がそうする事って、すごく自然で当たり前だと思うの」 えーと……その……まぁ……なっちんの言いたい事は分かるけど……。 「今は、ね、きっとアタシたちの親がアタシ達くらいの年齢の頃ほども、そういう事に関するタブー性ってなくなってる気がするの。ずいぶんオープンになってるし、学生の頃にしてるのが当たり前みたいになってる。うん、恋人達のコミュニケーションとして、アタシはその行為をむしろ推奨したいくらい。けど、その先にあるもの考えた場合は……ちょっと、違ってくる」 いつもにはなく低かったなっちんの声のトーンが更に落ちる。 「そもそも、その行為って、"その先にあるもの"が目的だったはずだけど……でも、それは、コミュニケーションの段階ではあっちゃいけない事、だよね。それは、ただの恋人同士にしてもだけれど、あんた達は、特に……!」 ……っ!! 恋人達のコミュニケーションの先にあるもの……。 言われている事は、分かる。 でも、なんか、そういう事に関して全然考えてなかったというか、考えないようにしていたというか……だから、ただ、言われても頭の中が白くなっちゃっただけで……言葉なんて出てこなかったし、反応を返す事もできなかった。 「アタシ、見た事もないカミサマなんて信じてないから、カミサマが許さないとかそーいう胡散くさい事は言いたくない。けど、見た事なくても信じられるものがあるよね。遺伝子、それをカミサマと言うなら……あんた達は、カミサマに許されてない。絶対に。コミュニケーションの段階はいいけど、その先は、絶対ダメ。許されない事になって、悲むのはアンタ達。だから……くれぐれも気をつけて………と、それが言いたかったの」 ランチが目の前に届いたとたんに、なっちんは真剣な言葉を切った。 「ま、あんた達の事はあんた達の事で、アタシがそれ以上の口出しはできないと思うけど……何か分からない事あったら、相談しなさいね! ふっふっふ……色々、教えてあ・げ・る」 ………………………いや、まぁ、気持ちは嬉しいけどね……。 真剣に心配してくれながら、結局は、やっぱり……楽しんでるのかなぁ? でも……確かに、なっちんの言葉は、ずしんときちゃった。 そういう事、考えても見なかった鈍い私。 でも、多分………ううん、絶対、尽は……その、したがってる、よね? お正月の時も、我慢してたみたいだし……。 私は、ただ、尽といるだけで幸せなの。 恋人の甘いキスだけで、ちょっと恥かしくなって、胸がどきどきして……全身がぽかぽかな気分になれる。 それ以上の事は……とてもじゃないけど、考えられないよ。 尽と、その……そういう事するなんて………。 いっ、一応、この前もそういう事を色々お勉強して、ちょっと知識はあると思うの。 でも、やっぱり、どうしても、実際のものとは結びつかないよ。 ちょっと想像しようとしても…………う〜〜〜…………絶対、無理っ!! だっ、だって、そういう事だよ!? はっ、裸で抱き合ったり、あれやこれやしたり……この私が、そういう事するの!? しかも、相手が、よりによって、尽で……! 想像力の限界を超えまくっちゃってる! 私と、尽が……………………………。 「ひゃぁっ!!」 軽く想像しちゃった事に思わず悲鳴をあげると、なっちんが手を休めてきょとんとした目で見上げてきた後、くくっと笑った。 「あんた、顔真っ赤。どうせ、アレコレ想像してたんでしょ?」 「………うぅ……」 尽の半裸くらい見るのは日常茶飯事で……夏場のお風呂上りとか、パンツ一枚で上がってきたりもするし……ほら、去年の夏だって、一緒に海に行ったし! でも……それとアレとは別で……きっと……。 お正月に、一緒の布団で寝た時の事を思い出した。 あの時のキスは、本当に、もう、今思い出してもすっごく恥ずかしくて……でも、気持ち良かった事だけははっきりしてて。それに、至近距離から聞こえる囁くような尽の声は、普段では絶対聞けないくらいに……甘い、って表現がぴったりのもので。 身体に感じる尽の存在感、ぬくもり……あの時、尽をすごく意識してた。尽の体温が、必要以上に私の身体を、心を暖めて……どうしよもなくのぼせ上がっていた。尽が元気になってるの感じたときも、恥かしいのと同じくらいに、体が火照ってきていて、きっと、あのまま、抱きしめられても素直に流されちゃいそうなくらいに……。 ………………って、私、昼真っ赤ら何考えてんだろ!? やだ、もぉ!! 顔に手を添えたら、すっごく火照ってる。 ひゃぁあ、もぉ……!!! 「……ごちそうさま」 なっちんの声に我に返れば、なっちんのランチセットは既に空っぽ。 でもって、私の目の前にもいつの間にか届いていたランチセット。しかもデザートとか、食べた覚えもないのになくなってるし……。 「あんた、見てるだけでも面白すぎ」 にやにや笑いながら、アフターコーヒーを頼んでるなっちん……デザート、私の分までしっかり食べたわね? ううっ……楽しみにしてたのにぃ! 私のマンゴープリン、返せぇっ! むくれながらランチをつつき始めた私の目の前で、なっちんはただ可笑しそうに笑っている。 「ふぅん、クリスマスからこっち、色々あったの?」 「………」 何も言っていないのに、読まれてる……否定はできない……。 「あ、そぉ……ふーん……どれくらい進展したのかなぁ? ほーぉ、ま、キスくらいはしてるよねぇ。尽、結構手が早そうだしなぁ……なるほどねぇ……」 よっ、読まれてるぅ!? ああぁぁ……読心術、使えるの、なっちんってば!? 「ああ、うん、図星か」 確信されてるし……。 「まぁ……ね……ふたりが姉弟でさえなかったら、あんたたち本当にいいカップルかもね。尽、年齢のわりに随分しっかりしてるし、あんた年齢以上にお子様だし」 馬鹿にされてるし……。 なっちんは、くすくす笑って、私の顔を覗き込んできた。 「あんた、考えてる事がすぐに表情に出るから、分かりやすすぎ。尽、きっと、あんたにメロメロでしょうねぇ。とてもじゃないけど、お姉ちゃんってイメージないし、あんた」 どーせ尽にもすぐに考えてる事ばれちゃうものっ。 「本当に、姉弟じゃなきゃ、ね……」 しみじみと言うなっちんの言葉が、私の思考に染み広がる。 そう……姉弟じゃなければ……。 ……なんて、今更思っても、変えられいないから仕方ないものっ。 私が尽の事好き、尽が私の事好き。きっと、それが、大事だから。 「まぁ、さっきアタシが言った事、一応覚えときなさいな。別に、姉弟でする事事態について、アタシは否定しないし。その先さえなければ、問題ないわよ」 …………えーと……一応、ありがと、と、お礼言わなきゃダメ、かな? 「バレンタインも近いし、それ、警告しときたかったのよね〜」 「え? なんで、バレンタインが関係あるの?」 きょとんとして私が言うと、なっちんは、またもにやにやっと笑った。 「だって、チョコレートって元々精力剤じゃないの?」 「は?」 「精力つけて、今晩もヨロシクネ、みたいな………」 「……………………………はぁ!?」 なっちんってば、なっちんってばぁぁあっ! どーして、そんな事しか考えられないのよぉ! 私、頭に血がカーッと上って……のぼせ気味になっちゃう。 「なっ、なっ、なっちん、なっちんっ!」 あうあうと口をぱくぱくさせちゃう私の頭をぽんぽんと、軽く叩いて、なっちんはにっこり。 「ま、どのみち、今日はアタシがチョコレート買うのにあんたを付き合わせるつもりで声かけたんだし……あげるんでしょ、チョコ、尽に?」 えーと、私も、どーしようかとは思っていたんだけど……あげたいなぁ、とは……。 だって、今までチョコはあげてたけど、意味の篭ったのは勿論あげたことないし。 「手作り? 既製品? 何にしても買いに行かなきゃでしょう? さ、ランチも食べた事だし、行きましょうか!」 ……うん。 なっちん、やっぱり、大好きっ! 時々……つか、しょっちゅう、余計な事にまで茶々入れてくれるけど……。 「やっぱり、基本は手作りよねぇ」 うん、それはそうよね。 「かわいいリボン用意してぇ、溶けたチョコレート塗ってから"私を食・べ・て"みたいな。うふふふふ……」 ……………………はい? 「さすがに、去年それしたらひかれちゃったけどねぇ」 ……って、したのか、なっちん……ある意味尊敬しちゃうっ。 「経験を元に警告するけど」 私は、そんな事、ぜぇったいしないからいいのっ! 「あ、でも、唇にチョコ塗って、食・べ・て、はかなり効き目ありだよ?」 …………そっ、それにしたって、そんな恥かしい事、できないもんんっ!! 「尽、すっごく喜びそうだけどなぁ」 ………………そうね、喜びそうよね………すっごく。 なんか……ちょっと、想像できちゃうカモ……。 でも、でもっ、私、そこまで恥じらい捨てられないもんっ。 「じゃ、偶然装って、唇の端にチョコをつけとくとか。"ねえちゃん、チョコついてるぜ""え、どこどこ?""仕方ないな、俺が取ってやるよ"ちゅ、みたいな」 ………だから……そういう想像つか、妄想を勝手に進行させないでぇ!! というか、なんか、どれもこれも手作りチョコの話題から逸れまくってるんですけど? 私は、ふつーの手作りチョコでいいんだから。 「でっかいハートの形してて、そこにホワイトチョコで、尽LOVEとか書いたりして?」 ……いや、それも、なんか違う気が……。 「乗り悪いなぁ。もっと、面白い演出考えなさいよ」 いや、別に、うけを狙ってチョコあげるわけじゃないんですけど……。 なっちんは別に置いといて、普通の女の子は、面白い演出なんてしないのっ。 「ちぇー。つまんないなぁ。あーあ、アタシは今年、何しよーかなぁ」 何をあげるか、でなく何をするか、デスか……? ま、姫条くん相手だしね……頑張って、うけ狙ってください。 で、願わくば、そこに私を巻き込まないでっ! 結局……そんな調子でなっちんと買い物を済ませた私は、ごく普通にトリュフあたりを作る事にした。 なっちんが、このバレンタインに何を企んでるのかは分からなかったけれど、買い物の内容見たら、とてもじゃないけど普通の手作りチョコの買い物じゃなかったから……姫条くん、ご愁傷様、って事で……。 バレンタイン……高校の頃は男女問わず皆に配ってたし、卒業以来も女友達にはちゃんとあげてたの。男の子たちには、あげると変な意味に取られるかも、って忠告受けて以来、あげることはなくなったんだけど。 尽には……勿論、毎年あげてる。父さんと一緒のものを……。 今年は、さすがに、父さんと格差をつけないと、尽拗ねちゃうだろうなぁ……。 ごめんね、父さんには市販のウィスキーボンボンにさせてもらって、尽へのチョコ作り、がんばるっっ! つか、さすがに、尽に気付かれちゃうとマズイから、尽のいない間に、頑張らないとねっ。高校の頃みたいに、手伝ってもらうわけにも行かないし。 尽、喜ぶかな? どんな顔するかな……? それを想像すると、胸がどきどきして、体がほわほわして……とっても、幸せな気分。 こんなイベントって、やっぱりいいな♪ つづく |
<言い訳とか>
で、バレンタイン話です。
なっちんとねえちゃんのちょっ真剣で、
結果お馬鹿な会話。
やはり、「私を食べて」は基本ですな(笑)。
次回は尽とねえちゃんのいちゃつきシーンです。