= はばたき市にて =
〜出会いとはじまり〜





「・・・あっ。やっと起きてきたのかな」

 窓の外に目をやると、オレの部屋の正面に位置する隣の家の部屋、その窓のカーテンが開かれていた。

 今日は、とてもいい天気。
 まだ春は始まったばかりだけれど、こんな時間になるととっても暖かいんだ。
 お出かけするにはちょうどいいよね!

 オレは、うきうきした気分で窓に近づいて、窓ガラスを開け放って、隣の部屋に声をかける。

「おねえちゃん、起きてる〜?」

 少し前に引っ越してきたばかりの隣のおねえちゃんは、随分朝寝坊。いつもお昼前まで寝てるんだ。
 今年から高校生だっていうのに、大丈夫かな。

「あ、遊くん? おはよう」

 おはよう、って時間じゃないよ。
 まぁ、いいけど。

「おねえちゃん、今日、暇って言ってたよね?」

 まだはばたき市に来て間もないおねえちゃん。全然ここら辺りの事分かってないみたい。友達もいるわけない。
 だから、引っ越してきて以来、オレが色々教えてあげてる。何しろ、オレ、はばたき市の情報通だからね!

「うん。暇々〜。なに、今日はまた何か教えてくれるの?」

 パジャマ姿のまま、暢気に笑ってる。
 ……随分年上のおねえちゃんだけど・・・まるで、頼りない。
 オレが、面倒見てあげなきゃ、って気分にもなるの、分かってくれる?

「今日はさ、街を案内してあげるよ! そうだな、繁華街の方なんて、どう?」

 オレの提案に、しばらくの間を置いて、おねえちゃんはにっこり。

「いいよ。行こう行こう! こっちに来てから、まだ駅の辺りしか行ってないんだ。遊くん、色々教えてね」

 うん。もちろん!

「じゃ、着替えて用意するから、待っててね」

 って、言いながら・・・あ、あのっ!

「おねえちゃんっ・・・っ!」

 カーテン開けたまま、着替えるのは良くないっ!

 窓からいくらも離れていない位置で、パジャマのボタンを外しかけたおねえちゃんは、オレの方を見て、あはは、と、笑って肩をすくめてみせた。

 しゅ、羞恥心って、ないのかな!
 いくらオレが子供でもさっ!

 おねえちゃんの部屋のカーテンが閉められてから、オレはうきうきした気分で出かける用意を始めた。
 おねえちゃんのいないオレに、おねえちゃんができた気分、なのかな・・・?
 ううん、隣のおねえちゃんは・・・あんまり頼りなさ過ぎて、逆にオレがしっかりしなきゃ、って感じになっちゃうんだけどね。

 まぁ、でも、何にしろ・・・楽しいお出かけになりそうだ!




 おねえちゃんは、淡いピンクの膝丈のフレアスカートと襟のふんわりした白いブラウス、といった格好をしてきた。

 結構、似合うかも。かわいい。
 ほんのちょっとだけ、見とれてしまった。

「遊くん、行こうか?」

 おねえちゃんが手を差し出すのに、オレはちょっと躊躇ってから・・・その手を取った。
 子供扱いされているみたいで、ちょっとむっとしたけれど・・・むしろ、その逆なんだと、繁華街についてオレは思い知る。

 だって・・・!

「ゆっ、遊くん、待ってよぉ」

 おねえちゃんは、とんでもなくトロかった。
 多少の人ごみでもまごついて、オレにさえ遅れを取って・・・オレが繋いだ手を引いてやらなきゃならなかった。
 おいおい……おねえちゃん、ちゃんとこの街で生活していけるの・・・?
 ほんと、オレ、幸先不安になっちゃうよ・・・。


 繁華街は、人が多い。
 店も多い。
 商店街、ゲームセンター、カラオケBOX、映画館 等々。

 オレがよく行くのは、せいぜい商店街かゲームセンターくらいのもんだけどさ、もう少し大人になったら、ライブハウスにだって行きたいから、ちゃんと情報はチェック済みだ!
 おねえちゃんはオレが案内するひとつひとつに、すごい興味津々。

「へぇー」とか「すごい」とか連発してた。
 どんな田舎から出てきたんだろうね、まったく。


 オレたちは、それからお昼を食べるのに、ひときわ人通りの多い駅近辺までやってきた。
 おねえちゃんが、以前駅前で見かけたお店に行きたいと言ったからだ。勿論・・・おねえちゃんのおごり。やったね!

 けどね・・・。

「あっ・・・!」

 オレに手を引かれて歩いていたおねえちゃんが、不意に呟いて立ち止まった。

「どうしたの?」

 驚いて振り返ると、おねえちゃんはどこか前方をぼうっと見てて・・・その視線を追えば。
 なんだろう? ・・・人? 人を見ているの?

 オレから見えるのは、学生服らしき背中。
 あれは・・・あれは、そう、はば学・・・はばたき学園中等部の制服。
 山の手のお金持ち学校だよ。

「知り合い?」

 おねえちゃんの表情はちょっとぼうっとしていて、その頬は桜色に染まってる。
 オレの問いかけに、慌てて首を振ったけれど・・・。

「ちょ、ちょっと・・・見とれちゃっただけ。その・・・すごく、格好良かったから」

 えへへ、と照れ笑う。

 さっそく、イイ男発見か?
 おねえちゃんも、実は結構やるもんだね!
 そりゃ、イイ男がいたら紹介してやってもいいかな、とは思っていたけどさ。おねえちゃん、そっち方面もニブそうだったし。
 けど、自分から見つけたんだな。エライエライ。

 よし、ここはひとつ・・・おねえちゃんの、恋のキューピットにでもなってやろう!
 オレは、おねえちゃんの手を離すと、今ではかなり遠のいたはば学中等部の制服の背中を追いかけた。

「あっ! 遊くん!?」

 こういう時、子供っていいよね。
 ちょろちょろと人ごみを縫って、小回りがきくからね!
 オレは、駅前広場手前で、その男に追いついた。
 男・・・っつても、中学生だから、オレとそう変わらないかもしれないけど。

「ねえっ!」

 制服の上着の裾をがっちり握って、声をかけると、背の高いその人は立ち止まって、オレを見つけた。

「ん? おまえ、何?」

 ……うわ……。
 おねえちゃん、面食い・・・?
 ……すごい、カッコイイよ。
 女の子に確実にモテるよ、これなら。しかも、あのはば学だしね・・・。
 これは、ちょっと・・・難しいかもしんないけど・・・まだ分からないし!

「あ、あのさ・・・」

 オレは意を決して、おねえちゃんの売込みだ!

「あんた、付き合ってる人とかいるの?」

 オレの言葉に、その人は、目を丸くして・・・それから、ぷっと吹き出した。
 なんか、失礼な反応だな。
 オレはむっとしないでもなかったけど、言葉を続けた。

「あんたの事、いいなって言ってる人がいるんだ。もし、興味あるのなら、ケー番かメアド教えてよ。すごい可愛い人だし・・・!」

 うん、おねえちゃんは、かなり可愛い部類に入ると思うよ。
 だから、売り込みもできるんだけど・・・。

 可笑しそうな笑いをかみ殺して、目の前のその人はオレの頭にぽん、と、手を置いた。

「付き合っている・・・ような人ならいる」

 にっと笑う、悪戯っぽい笑い。
 そういう表情しても、様になってる。むしろ、そういう表情こそ似合うな、この人。
 きっと、ガキの頃はワンパクだったんだろうな。
 に、しても・・・付き合っていると断定しているわけじゃないし。

「じゃ、じゃあさ、一度、会ってみない? そしたら・・・」

 オレが言い募っている所に・・・。

「遊くんっ!」

 息せき切って、おねえちゃんが登場だ。
 顔が真っ赤になってるのは、走ってきたせいか・・・目の前のこの男のせいか。

「ごっ、ごめんなさいっ。この子が何を言ったか知らないけど・・・」

 おねえちゃんはぺこんと頭を下げて謝罪するけど、それをさえぎって。

「あ、いいって、いいって。なんか・・・」

 男は、くすくす大層可笑しそうに笑っている。

「なんか、こいつ、俺のガキの頃にすげぇ似てるし・・・」

 オレを見て、にやにやする。
 当たり前だけど、ガキ扱いは、ちょっとむかつくなぁ。

「んで、君たち・・・姉弟?」

「ううん! お隣同士で、それで・・・」

 おねえちゃんの男を見つめる目・・・!
 ぼうっとしてる。・・・なんというか、恋する乙女の瞳! 星がきらきらしてる気がするよ。
 まぁ、これだけカッコイイ人が相手じゃね・・・。
 つか、でも・・・この人、中等部って事は、おねえちゃんより確実に年下だろうにね。

「そうか。姉弟じゃないんだ・・・」

 男はそう言った後に・・・少し寂しそうに小声で「いいな」と呟いた・・・気がした。
 何なんだろう?

「でも、仲いいんだな!」

 オレの頭の上に手を置いて、くしゃっと撫ぜる。
 わっ・・・もう! セットが乱れるって。

「おまえ、このねえちゃんの事、好きか?」

 オレを上から見下ろして、真っ直ぐに問いかけてくる。
 好きか、なんて・・・。そりゃあ、好きだろうけど・・・けどさ・・・。
 オレは自分の顔が真っ赤になっているのを実感して、戸惑いながら男を見上げた。
 言葉の答えがなくても、男はそれで満足したらしい。

「大事にしてやれよ? おまえ、男なだからな」

 整った顔を、優しく緩ませて笑う男に、オレでさえ見惚れた。
 本当に、カッコイイ。
 悔しいけど・・・オレ、将来こんな風になりたい・・・っ!
 そう思って、オレは強くうなずいた。
 まるで、男同士の約束を交わすようだと思った。

 男は、満足そうに笑って・・・でも、次の瞬間はじかれるように顔を上げた。
 なんだ?

「・・・尽?」

 少し遠くからこちらに向けて、女性の声が聞こえる。
 それは、きっと、この男の名前だ。

 声のした方向に顔を向けた男の表情を下から見上げて・・・オレは、息を呑んだ。
 だって・・・すげぇ、嬉しそうで幸せそうな表情をしていたんだ。
 もしかして・・・恋人、なのかな?

 声の主は、女性だった。とても綺麗な大人の女性だ。
 不思議そうな表情でこっちを見てる。

「ごめんな。連れ、待たせてるから」

 男はオレに・・・それから、まだぼうっとしているおねえちゃんに笑顔を向けて、手を振って立ち去っていった。
 とても嬉しそうに、小走りで。

 そうして、男がその女性に向けて発する言葉とは。

「ねえちゃん! ごめんな!」

 ねえちゃん?
 おねえちゃん・・・?
 でも・・・おねえちゃん、って・・・?
 あの人のあの表情は、普通、弟がおねえちゃんに向けるものじゃない気がした。

「あの人のおねえさん、なのかな・・・? 綺麗な人」

 うちのおねえちゃんはぼーっと呟いている。
 まだ見惚れ続けている・・・けど、オレも、立ち去っていったその人と、その人がねえちゃんと呼んだ存在をまだ見続けていた。
 会話が聞こえてくる。

「知り合い?」

「いいや。軟派されてただけ、あっちの男の子の方に」

「えぇ?・・・。・・・つか・・・似てるかも、あの男の子」

「あ、やっぱりそう思う?」

「もしかして・・・思考回路も似てたりしてね」

「ねえちゃん、鋭いな」

「で、あの女の子は、やっぱりおねえさん?」

「いや、姉弟ではないってさ・・・」

「ふぅん・・・そう」

「うん。・・・いいよな」

「・・・だね」

 ふたりは見詰め合って微笑みあって・・・手を、繋いだ。

 姉弟・・・なんだよね?
 でも・・・そうは見えないよ、とても。
 すごい仲のいい、恋人同士みたいだ。

「学校の用は、もう良かったの?」

「ん。ほとんどヤボ用・・・それよりも、ねえちゃんとの待ち合わせのが、大事」

「・・・ばか」

 頬を染める女性の顔は、うちのおねえちゃんの顔とよく似てて・・・でも、もっと、ずっと、綺麗に見えるのは・・・きっと、手を繋ぐその人に心から恋しているから、なんだろうか。

「遊くん・・・?」

 一目惚れがあっさり終わったことを大してなんとも思っていないおねえちゃんより、オレの方がずっと、何かを感じてた、あのふたりに。

「姉弟っていうより、年の離れた恋人、だったのかな。いいねぇ・・・ラブラブで・・・」

 恋に恋するおねえちゃん。
 そか、だから、一目惚れが終わったことにも、ショックはないんだな。

「・・・行こうか?」

 おねえちゃんは、オレに向けて手を差し出す。
 オレは・・・その手をそっと取る。
 ずっと年上のおねえちゃんだけど、オレが世話してやんなきゃ全然頼りなくて。
 だから・・・。

「おねえちゃん?」

「ん?」

「困ったことがあったら、まずオレに相談してよね!」

 今はまだ・・・オレの方がおねえちゃんを見上げなきゃならない。
 でも、もう少し。あとほんの数年。
 オレの背も、手も、もっと大きくなって・・・おねえちゃんを見下ろして、おねえちゃんの手をしっかり引いてあげられるくらいになって。
 そしたら、きっと・・・。

「遊くん、生意気! だけど・・・お願いね」

 おねえちゃんの悪戯っぽい笑顔と、繋いだ手の熱に・・・オレは顔が赤くなったのを誤魔化すように、真っ直ぐ前を向いた。
 いつか、さっきの人みたいに、格好良くなって・・・いつか、もっと、しっかり、おねえちゃんを守ってやれれば、いい。
 オレは、心に誓った。
 今は、まだ・・・言葉にできないけれど、ね。




おわり





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<言い訳とか>

GS2発売に先駆けて・・・
GS2の尽役、「音成遊」くんを登場させてみました。
遊くんの一人称は「オレ」で
GS2の主人公の呼び名な「おねえちゃん」
としましたが・・・某ゲーム雑誌を参照しただけであり、
実際にどう呼ばれるかは分かってません。
信用しないでください(^^;)。

あと・・・尽とねえちゃんがこうあれればいいなぁ、
というような想いをこめて書いてみました。

GS2に話題くらいは出てくれる事を期待しつつ♪

GS2発売、楽しみです♪