冬物語〜新春より始まる
<3>



 真奈美さんは、俺達をじぃちゃん家まで送った後、また出かけていった。
 今度は、昼間だから大手を振って出かけられるんだそうな。

 俺より一回り年上のくせに、パワフルだな。……って言ったら、思い切り頬を抓られた。

 で、俺達は……ばぁちゃん特製のお雑煮食べた後、ほのぼのと炬燵で居睡り。
 色気はないけど、これはこれで幸せ。

 目を覚ましたお昼過ぎに、お邪魔虫(=真奈美さん)もいない事だし、ふたり、水入らずでお出かけしたしな!

 地元じゃないって、いいよなぁ。手、つなぎ放題。いちゃいちゃし放題。さすがに、人前でキスしようとしたら、思い切り嫌がられて、しばらく口聞いてくれなかったけど……。
 恋人気分を満喫しまくった。
 じぃちゃん家、来てよかったかも、って、4日目にして、しみじみ思ったね、俺。



 でもって、その夜……真奈美さんは、離れに来なかった。
 ねえちゃんの携帯にメールが入ってて……友人の家に泊まる、というアリバイ工作をして、恋人の家に泊まるとの事。
 姫はじめ第二弾か……?
 まぁ……まあまあ、真奈美さんの事はこの際どうでもよろしい。

 それより、俺にとっての一大事は……ねえちゃんと二人きりの夜、って所だ。

 姉ちゃん自身は、その事について特に何の感慨も覚えてないらしく――相変わらず鈍すぎだ――お風呂上りにばぁちゃんから昔懐かしいビン入りラムネをもらってきて、にこにこでそれを飲んでる。

 自分の気持ちを自覚して、恋人として俺の事を意識はしてくれてるみたいだけど、それ以上のものを考えても見ていないらしい。
 恋愛感情の上に張り付いた『姉』『弟』の関係が、未だねえちゃんの目を曇らせているのだろうか。
 つか……鈍すぎて、恋人の"いろは"ってものを知識では知っていても――いや、その知識もアヤシイものだけれど――実際のそれとは結びつかないのだろう。

 恋人関係になったふたりが、キスの次にする事といったら、もぉ、アレしかないでしょお!
 俺なんて、あのクリスマス以来、ねえちゃんの事を夜毎考えて妄想……あ〜いや、夢を抱いているのに。

 そう、恋人である男女がする事、それは……!!

「ねえ、ねえ、尽! 私ね、今日すごろく買っちゃったの! 懐かしいでしょう! ね、ね! 一緒にしよ!?」

 そう、すごろく……!

 …………。

 ………………じゃなくてさぁ……。

 ……はぁ、懐かしいねぇ、すごろく……でも、せめて、人生ゲームぐらいじゃないとつまんないだろ……。
 ちなみに、トランプでもオセロでも将棋でも、もうここ数年来ねえちゃんが俺に勝てた事はないんだけど。
 すごろくでも同じだろぉさ。

 ……って、あっさり、勝敗は決して、俺はさっさとあがっちゃったし。
 ねえちゃん……いや、もぉ、俺が勝ったんだから、ひとりであがるまでするなんてさ……。

「うう〜……やだっ、最後までするもんっ」

 ……あぁ、もぉ、可愛いんだけどね、そんな所も。

 必死になること十分程度、やっとあがったねえちゃんは、再度の勝負を俺に申し込んできた。
 いや、何回やっても同じだって。
 だから……俺、条件をつけた。

「なら、あと3回して、3回とも俺が勝ったら……」

 じっと姉ちゃんを見詰めながら、にっこり笑う。

「俺と一緒の布団で、寝よ?」

「…………!!」

 目を丸くするねえちゃん。
 それから、頬を膨らませた。

「別に、いいよぉ」

 それから、また、脱力するような事を言ってくれちゃったりして。

「なんか、子供の時以来だね、一緒に寝るのって。もしかして、ひとりで寝るの、寂しい?」

 それを素で言ってくれちゃってるから、大概なもの。
 はぁあ、って俺溜息ついて……でも、ねえちゃんの天然さに突っ込みは控えた。
 だって……ヘタに突っ込んで警戒されるのもなんだしな。
 ねえちゃん、自分の天然を後悔するといい……ふふふふふ。

 ――で、ねえちゃんはやっぱり、俺に勝てるわけなかった。
 つか、罰則が、"ねえちゃんにとって"大した事がなかったせいで力が出なかったのかもしれない。

「あぁ〜もぉ……」

 むくれて、すごろくのコマをぽんと放り出した。
 それから、畳んであった布団にぽすんと倒れこむ。
 無防備なんだから……いくら、ヒータついててもさぁ、腹丸出しは冷えるぞ。

「さぁ、約束、だな。一緒に寝よ!」

 うきうき気分で、いそいそとすごろくを片付けて、布団を引く。
 田舎のじいちゃんちの布団は、普通のベットサイズにしたらセミダブルくらいのサイズのある綿布団の掛敷で、来客用なもんだから、ふかふかだ。

 俺が布団を引いている間、ねえちゃんは、不貞寝を続けているけど……そのうち、のっそり起き上がって、自分の布団を引き出した。
 なんで? 俺と寝るんだろ?

「ん? だって、布団一枚でふたりじゃ狭いでしょ?」

 あ〜……だからさぁ、ぴったりくっついて寝ればいいじゃん。

「くっついて……寝る? もしかして……朝まで……?」

 そこで、やっとねえちゃんの表情が曇る。
 一体、何をどんな風に想像したんだか。

 曇った表情は、次第に赤くなっていって……自分の布団の方から毛布を引っ張り出して、それですっぽり身体を覆ってしまった。

「だっ、だって、だって、ここ、おじぃちゃんちで……!?」

 あぁ、もしかして、鈍いねえちゃんにしては珍しく、先の先まで想像したか?
 いや、まぁ……そこまでしたいけどさぁ……さすがに、俺だって、この状況でこの場ではちょっと、無理かもな。

「ヘンな事はしないよ」

 苦笑して言って、ねえちゃんを手招きする。

「大丈夫。いつ真奈美さんが乱入してくるか分からないのに、そこまでできない、って」

 この離れは、鍵も何もないからなぁ……田舎の家らしいや。

 ねえちゃんも俺の言葉に納得したらしく、顔を赤くしたまま、もそもそと近づいてきた。相変わらず、毛布にすっぽり身をくるんで。
 まるで、巨大な蓑虫が動いてるみたいだ……。
 なんか、ひどく初々しくて、ぶぶっ、と、笑っちゃう。

「ほら、その毛布はいらないよ。さすがに、毛布2枚重ねは暑苦しいだろ?」

 先に布団に入って自分の横をぽんぽん叩いてねえちゃんを招く所作をすると、ねえちゃんはしぶしぶながら毛布から脱皮して、そっと俺の隣にもぐりこんで来た。
 顔は、さっき以上に真っ赤になってる。
 つか、もぐりこみすぎっ!
 なんで、顔まで布団の中!?

「う〜……だって……」

 布団の中から顔の半分だけだし、ちょっと潤んだ目で見上げてくる。
 声は、もごもごとくぐもってる。

「ほら、そこじゃ布団の端じゃん。寝返りうったら、身体はみ出すぞ。こっち来て! 俺も、そんな端っこから布団引っ張られたら寒いし」

 ぐいっとねえちゃんの身体を引き寄せ……抱きしめた。

 暖かい。
 すげぇ……気持ちいい。
 男より、女の体温の方が高いもんかな?

 きゅぅ、と、姉ちゃんの腰に手を回して、抱き寄せて、抱きしめる。
 ねえちゃんは……ただ、無言で、ちょっと硬くした身体を、それでも俺のなすがままにさせてくれてる。
 ねえちゃんの髪の毛が、俺の鼻先でふわふわ揺れて……シャンプーの香りが鼻につく。
 柔らかいな、ねえちゃんの身体。
 俺の身体に触れるねえちゃんの全てが柔らかくて、暖かくて……ドキドキしながらも、安心する。

「……る……し……」

 その心地よさをもっと実感したくて、俺、ただ夢中で姉ちゃんを強く抱きしめていた。
 だから、俺の胸に顔を埋めたねえちゃんが、何か言ってるのに気付くのに、時間がかかった。

「ねえちゃん?」

「やっ、もぉ……くる、しぃから……」

 力を緩めると、姉ちゃんが俺の胸を押しやって、顔を上げ、ぷはぁ、と、大きく息をついた。

 あ……ごめん。
 力加減、考えてなかった。
 そうだよな、俺、もう、身体の大きさも力も、ねえちゃんに勝っちゃってるんだ。子供じゃない、男に、なってる。
 だから、もっと女のねえちゃんに優しく接するべきなんだよな。
 ごめんな。ねえちゃんが気持ちよすぎたからつい、力んじゃったよ。

「あんまり、無茶しないで……」

 睨み上げてくる涙目が……ヤバイくらい可愛すぎて、俺、おかしくなっちゃうデショ!?

 ほら、思わず……。


「…………!!!?」


 キス、しちゃってた。
 勿論……恋人同士がするキス、だ。

 実はクリスマス以来、そんなキスした事がなくて……ねえちゃん、驚きに身体を硬直させちゃった。
 でも……硬く凍えた身体は、俺の愛撫に次第に溶けていって……ちゃんと、俺に応えてくれる。……かなり、恐る恐るだけれど。

 上手く息継ぎが出来きないから、一度、唇を離して大きく息を吸い込んで……また、口付ける。今度は、ねえちゃんも要領が分かってきたらしく、甘えるように舌を絡ませてきた。
 キスをしながらの呼吸も、何となく理解できて来た気もする。

 いつの間にか、俺、無意識かな、布団の中でねえちゃんの手を探して……探り当てて、かすかに汗ばむそれを、きゅっと握り締める。俺の手も、汗ばんでる。

 互いに、もう必死で口付けを続けて……やっと唇を離した時は、はぁはぁと乱れた呼吸を吐き出していた。
 それに……寝ながらキスしていたせいもあるだろう、呑み込む隙がなかったせいもあるだろう、唾液が唇から流れ出て……すっごく、なんか、ヤラシイ気分だ。

 ねえちゃん、とろんとした表情で、唇を濡らす唾液を拭う事も出来ていない。

「……んっ……はぁ……」

 一度、呼吸を呑み込み、唾液を呑み込み、息を吐き出して……羞恥に瞳を細めた。

「やだ……もう……」

 頬のそれを拭おうとしても、俺が手を離さないから、拭えない。
 困惑して俺を見上げてくるねえちゃんの頬を……俺が、舐め上げた。

「……尽……ッ!」

 俺だって拭えてないから、舐めても同じなんだろぉけどな。
 くすくす笑って、ねえちゃんの手を解放してやると、ねえちゃんはすぐさま身体を反転させた。
 なんで?

「ばか、もぉ……!」

 くしくしと自分のパジャマの袖で拭ってる。

「も、キス、しない……っ」

 拗ねた口調。
 なんか、やっぱり……恥かしかったんだろうか。
 何度も言うけど……カワイイってば、ねえちゃんっ。
 俺、性懲りも無くねえちゃんの腰に腕を回して、背中から抱きしめた。

「……」

 ねえちゃん、無言だけど……嫌がりはしない。
 ねえちゃんの髪に顔を埋めて、俺、ほぅと溜息をつく。

「俺、すげぇ幸せって、思ってるんだけど………ねえちゃんは?」

 笑み含みの俺の声。
 ねえちゃんから、真の否定の言葉が出てこない確信はある。

「…………………。………多分、私も……」

 少しの沈黙の後の、消極的な同意に、俺は苦笑する。
 まぁ、それでも、いっか。
 ねえちゃん、確実に成長してくれてるし……恋愛も、キスも……俺への想いも。
 だから、今は、これで満足。

 あ、でも、満足しているのは心のほうで……………。

「ねぇ、尽……」

「ん〜〜?」

「あのね……」

「んん〜〜〜?」

 なんとなく、ねえちゃんの言わんとする事は予想できる。
 つか……ねえちゃん、居心地悪そうにもぞもぞ身体動かして……。

「今日は、その……一緒に、寝るだけ、だよね……?」

 困惑した口調。
 あ、やっぱり、さすがに……勘付いてますか……。

「あ〜……まぁ、ねぇ……ねえちゃんが許してくれれば、それ以上の願望もあるけど……」

「…………………。その…………あ、あのね、私の気のせいなら、ごめんね、あのね……」

 すっごく言いにくそう。
 そりゃ、そうだろ……。

「男の子の事、よく分からないんだけど……尽、あのね、あんた今……………るの?」

 言葉は小さすぎて、イマイチ聞き取れなかった。
 まぁ、何を言っているのかは予想つくけど。

「なに?」

 わざと聞き返してやると、コクンと息を飲み込んで、もう一度、おどおどした口調で言葉を喉から押し出す。

「…………その、なんか、さっきから私のお尻に……」いい淀み、続ける。「……元気になってる……の?」

 …………………。

 あはははははははは…………!!

 って、内心大笑いは、口には出さなかったけど、ぷっ、と、かすかに漏れてしまった。

「尽!?」

 ぴくん、と、ねえちゃんの身体が震えて、顔だけで俺を振り返る。

「……うん」

 笑いに震える声を抑えながら、どうにか口を開く。

「もぉ、かなりヤバくなってる」

 俺の言葉に、ねえちゃんの背筋が、ピンと延びる。
 うん、そお、俺もちょっと意識しちゃってたんだけど、ねえちゃんのお尻に、元気になってきた俺のが当たってて……。

 心は満足してても、体が満足するわけがなかった。
 だって、ずっと好きだった相手と同じ布団の中、だぞ? それで、あんな濃密なキスまでして、それ以上がないなんて……健全な少年として、それはお預け状態に他ならない。

「っ! なっ、そっ、それ、大丈夫、なの?」

 どういう意味での大丈夫?

「だって、今日は一緒に寝るだけで……」

「あ〜……まぁ、ねぇ……いつ、誰が入ってくるか分からないしね。だから………俺、ちょっと、トイレ行って来る」

「……尽?」

「うん、宥めてくる。このままだと、無意識でねえちゃんを襲っちゃいそうだから」

 まぁ、別に、ヘタに刺激を与えられなきゃそのうち治まってくるとは思うけどね……なんというか、ほら、ヘンな事になったらヤバイし。
 実際、寝ぼけながら、ねえちゃんに無茶な事しちゃう可能性も拭えない……自分に、自信がない。

 俺が布団から体を起こすと、ねえちゃんは困惑した真っ赤な顔で俺を見上げてきて……なんか、そこに、ちょっとした名残惜しさが宿っているのは、俺の気のせい、なんだろうな、多分。
 



 十数分後、どーにか己を宥めて戻ってきたんだけど……お約束とういうか、なんというか、ねえちゃんは、既に眠りについていた。

 ……って、多分、狸だろうけど。

 ま、いいか、と、ごそごそとねえちゃんの隣にもぐりこんで、さっきと同じように、背中からねえちゃんの腰に手を回して抱きしめると……その身体がぴくんと震えた。

 やっぱ、狸か。
 と、確信を強めた俺は、ねえちゃんの耳元で静かに話し出した。

「エリカから、メール来てたよ」

 今日の昼頃の事。
 なかなか言う機会がなくて……さっきもついつい煩悩が先立ってしまっていたけれど。
 除夜の鐘、叩いてくれば良かったかな。はは……。

 ねえちゃんからの返事はない。……あくまで寝たフリを続けてる。
 それでも、聞こえてるなら構わない。

「あけおめことよろメール。あいつさ、俺のこと、まだ諦めてないんだって。俺が、いつかねえちゃんと別れる時まで、俺を諦めない、ってさ。自分がねえちゃんの年齢になるのがあと十年後。そしたら、断然自分の方が有利に決まってる、って」

 くすくす笑いながら言う。

「結構、しつこいのな。でも、その後に来たメールでは、今の仮の彼氏、って、エリカと同世代の男の子の写真がついてたんだけどね」

 ねえちゃんが、かすかに溜息をついた。

「で、あと、ねえちゃんの事はやっぱり大嫌いだけど、一応よろしく言っておいてね、だって。かわいいよな」

「………うん……」

 小さく、ねえちゃんが返事を返してきた。
 表情は見えないけれど、多分笑っている。
 きっと、エリカのこと、ずっと気にしてたんだろうな。
 あと、ねえちゃんが気にしている事のひとつ。

「あと、な……あの日さ、葉月と俺、どういう事話してたのか、気になってるだろ?」

 ねえちゃんの身体が、かすかに強張る。
 表情見えなくても、分かりやすいなぁ、まったく。

「うん……あのさ、葉月、俺がねえちゃん好きな事、ねえちゃんが俺に惹かれてる事、ねちゃんと付き合う前に気付いてたって。でも、ふたりはやっぱり姉弟だからさ……だから、ふたりが付き合うなんて、あり得ないって思って……だから、ねえちゃんに告白して、ねちゃんを自分に振り向かせるつもりだった、って。そうする方が正しい事だし、何より……葉月、高校の頃から、ずっと、姉ちゃんが好きだった、って……ねえちゃんが迷惑するかもしれない、って言い出せなかったみたいなんだけど」

「んっ……」

 吐き出した、ねえちゃんの吐息は震えてた。
 やっぱり、罪悪感とか切なさとか……覚えてるんだろうな。

 葉月、真剣だったから……きっと、俺と同じくらい真剣だったろうから。
 でも、ねえちゃんが好きだったのは、俺だった。
 葉月と付き合ったねえちゃんだけど、そうする事で、かえって俺への気持ちを実感してくれたんだろう。
 葉月……それさえも、理解していた。
 全て理解して……だから、諦める、と、諦めるられるよう努力すると、そう言っていた。

 頭良すぎるのも、考え物だよな。
 何もかもが見えちゃうから、自分の引き際もきっと間違いなく把握できてしまう。そして、それに抗っても無駄だという事まで理解してしまったのだろう。

 俺なら……無駄だと分かっても、抗って、抗って、とことんまで抵抗するだろうけど、葉月はそれができるタイプではなかったんだろうな。自分が抗う事で、誰かを傷つけたり、誰かを困らせたり……何よりもそれができない。
 俺、人間としては絶対葉月に敵わない。
 切実にそう思った。

 けど、恋する男としては……やっぱり、負けられないとも、思ったんだけど。
 ねえちゃんを手にいれるためなら、ねえちゃんと一緒にいるためなら、運命にだって抗う覚悟は出来てる。抗って、あがいて、もがいて……誰を傷つけても……それが、ねえちゃんでさえなかったら、構わないと、思ってしまう。
 ……まぁ、俺って、ある意味人間失格かもな。……はは。

「尽……」

 俺が、しばらく考えに没頭してると、ねえちゃんの消え入りそうな声がした。

「なに?」

「……私達、間違ってる、よね?」

「……うん」

 姉弟で恋人なんて、間違ってる。

「でも……自分達の気持的には、正しいと、思うの」

「自分に正直なのが一番だろ」

「うん……」

 きっと、心のどこかで思っているんだろう。俺と恋人になるのが不自然極まりない事だと。葉月と恋人でいたほうが、自然の摂理だったと。
 俺と……弟と付き合う事が許される理由を探してるのかもしれないな。
 けど、許すも、許されるも……恋心なんて、自分達が許しあえばいい事だよ、な?

 俺、背後からねえちゃんの頭をぽんぽん叩いた。

「ねえちゃんらしくない。もっと前向きに考えよう。俺達が好き合ってる……それが、一番大事な事じゃないの?」

 俺が言うと、姉ちゃんは身体を反転させて、俺のほうに向き合った。
 それから、じっと俺を見上げてきて……ふにゃ、と崩れるように笑った。

「うんっ……」

 俺の胸元に擦り寄ってきて……そのまま、きゅっと抱きついてくる。
 あぁ……かわいすぎ……。

 ねえちゃんは、しばらく静かにそうしていて、はぁ、と俺の胸元に溜息を吐き掛け、呟く。

「あったかい……尽の体温、好き……すごく、気持ちいいの。尽の匂い、なんか、懐かしいような、昔とは違うような……でも……やっぱり、心地いいから……好き」

 少しロレツが怪しくなりつつある、夢現の言葉。
 ねえちゃん、ちょっと、夢の中に入ってるな……。
 でも……なんか、どきどきする。嬉しくて、くすぐったい。

「尽ぃ……」

 眠そうな夢現のうっとりとした表情のまま腕の中から俺を見上げてきたねえちゃん、半眼閉ざして、キスをせがむ。
 さっき、もうしないって言ったくせに……。
 でも、俺、微笑んで、それに応える。

 そっと、そっと、マシュマロみたいに甘くて柔らかな口付けをしているうちに、ねえちゃんの身体の力は抜けていって、唇が離れた。

「ふ、ぅ……んっ……」

 微かな吐息が、そのうち寝息に変わっていって……ねえちゃんは、そのまま、俺の腕の中で、少しずつ眠りに落ちていった。
 けど、俺は、それで、かえって寝付けなくなってしまった。

 ねえちゃんの温もり、身体の感触、胸元にかかる寝息、無防備すぎる寝顔。
 恋していた相手の全てが今、自分の中にあるんだ。
 嬉しさが、興奮となる。

 う〜……理性でどうにか抑えてるけど……ちょっと、危険信号が……その、下半身の方に……。
 けど、寝付いたねえちゃん引っ剥がしてトイレに駆け込めないし……男は辛いね!

 あぁ、これがさ、事後――何の後かは、健全なる思考にお任せするけど――なら、解放された後で、きっとこんなふうに悶々とする事はなかろうに……――多分。……いや、つか、ソレ以上を求めてしまいそうな気もするけどね。俺って若いから……はは。

 あぁ、俺、いつか、ちゃんとねえちゃんと……できるの、かな!?――何をかの突っ込みは、健全なる思考の元で。
 できるといいなぁ……。
 つか、絶対、俺はやってやるけどね。
 これぞ、今年の抱負!

 ――あぁ、なんか、そういう事を年明けそうそうの抱負にしている俺って、一体なんだろうな、って、冷静な俺が肩を落としてるけど……でもっ!
 この鈍い姉ちゃん相手に、今まで頑張ってきて、やっとラブラブになれたんだから、もう少し頑張るくらい、なんのその。
 恋の達成感。目標があったほうが、張り合いがあるってもんだっ……多分。




 ……と、その時は、勇ましく自分に誓っていたんだけど……俺、翌日まで満足に眠れず……自宅への帰路は、かなり厳しいものがあったりした。

 折角、真奈美さんと別れられてすっきりしたはずなのになぁ……。
 真奈美さんが近いうちに家に遊びに来る約束をねえちゃんとしてた気もするけど……それにストップをかけるどころじゃないくらい眠かった。

 あぁ……俺に比べて、ぴちぴち元気なねえちゃんが、ちょっと恨めしい。
 俺の腕枕で、すげぇ、よく寝ていたもんなぁ……。おかげで、俺、起きてしばらくの間、腕が痺れて、感覚なかったし。

 家に帰って、体力が回復したら、絶対隙を見てねえちゃんと……!
 って、両親のいる自宅では、相当厳しい気もするけど……隙だらけのねえちゃんだ、どこかに取り付く島はあるだろう。

 俺は、交通機関の中で眠りにつきながら、ねえちゃんとの更なる幸せな日々を夢に見た。
 ちなみに、それが俺の初夢だ。

 そう、俺の初夢はそれだったけど、ねえちゃんの初夢は……。
 目覚めてぼーっとしながらも、虚ろな表情で俺に微笑みかけてきたねえちゃんにキスすると、ねえちゃん、キスの後、また寝入ってしまいそうになって……寝言みたいに言ってくれたんだ。

『尽、大好き……。ずっと、ずっと一緒にいるって、約束……ねぇ、幸せ、だよ……』
 
 夢の延長だろうその言葉は、そのまま夢の内容を俺に伝えてきて、俺は嬉しさにねえちゃんを抱きしめた。

 うん、夢の真は逆、っていう説があるみたいだけど……やっぱ、真は真だよな! 俺は、あくまでポジティブシンキングを貫くぞっ。

 で、俺、交通機関の中で見た幸せな夢の歪が下半身にきてたみたいだけど……ま、膝にコートかけてたから、きっと変質者にはなってなかったと思うけどね!

 ねえちゃん、もっともっと成長してくれよ、な。
 そんで、来年は姫はじめで二人の関係をスタートしようぜ!


 ――と、そこはかとなく下品な事を考えつつ、俺の正月は終わっていったのだった。






おわり





--BACK--



<言い訳とか>

お正月編、終了。

ラブラブシーンです。
ラブラブになっても、尽はねえちゃんに振り回されっぱなし。
20過ぎたオンナが、ありえないよなぁ……ねえちゃん……。

ねえちゃんは、人の体温が好きです。
だからなのか、キス魔となってしまったようです。
尽のキスが上手なのでしょうかねぇ……。

さぁて、次回のイベントは……恐らく、バレンタイン。
どうなるか、またまだ未定ですが……(^^;)。
すこしずつ、ふたりが“結ばれる”方向に進んでおります(苦笑)。
あ〜……勿論、その時のお話の詳細は、裏に行っちゃいそうですが(爆)。
(実は、少しだけ書き出していたりします。目標があると書きやすいので!)