冬物語〜クリスマス・キャロルが響いて
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 ジングルベ〜ル、ジングルべ〜ル♪

 諸人こぞりて〜♪


 清し〜この夜〜♪




 って、諸々の賑やかなクリスマスソングが街中に溢れてる。歌だけじゃなくて、繁華街のあちこちにツリーや電飾、サンタさんにトナイさん、メリクリの文字が躍ってる。


 すっごく賑やかなこの時期! なんだけど……なんだか、日々、私は憂鬱度が募っていく。なんで?



 結局、葉月くんのお家でのパーティは実現する事となった。勿論、(強制)全員参加!


 それは、楽しみなの。そのはずなの。

 例え、なぜかパーティ会場準備係が強制的に私に抜擢されようとも。
 葉月くんとほとんど毎日顔つき合わせて、時々来るなっちんからの指令(!)を受けつつ、準備を進める日々よ。

 あのね……葉月くんといる時間は、やっぱり、楽しいの。葉月くんの作るペースや雰囲気、それが優しいものに感じられ、とっても心地よくて。


 だから……葉月くんのキス、どんどん抵抗なく受け入れられるようになった。

 抱きしめられて、彼の体温を感じて、どきどきしたり、安らいだり……そんな事も、感じたりする。
 でも……まだ、躊躇っちゃうのは、なんでかなぁ?

 葉月くんへの想いが、恋心かどうか、まだ、分かってない。


 つか、恋って、こんな風に曖昧なものなの? ……とも、思っちゃう。

 私って、やっぱり、鈍いお子様なのかな?
 なんだか、エリカちゃんの方が余程大人かもしれないなぁ……。
 



 あれやこれやで、クリスマスまでどんどん日数が迫ってきていた。

 私自身、葉月くんとクリスマスの準備するのに忙しくて、お家に帰るのも遅くなったりして、かなりの間気付かなかったんだけど……ここの所、尽の様子がヘン、みたい。


 時々、すごく帰りが遅かったり、かと思えば、信じられないくらい早い時間に寝付いちゃったり。日曜日、友達と出かけもせずに、昼まで寝てたり。


 そう、最近、いつもにも増して、朝が遅い気がする……寝坊しかけて、ひどく慌てて家を出て行くこともしょっちゅう。

 これまでの日曜日、いつも友達とどこかに出かけてたくせに。私より、全然朝が強かったくせに。

 なんで、だろう?

 アルバイトでも、してるのかな?
 でも……そんな気配、ない気もするんだけど……。

 うう〜……気になりだしたら、どんどん気になってきちゃったけど……問い掛けても、答えてくれなかった。

 といういか、一度問い掛けて以来、その話題になるとするりと逃げちゃうの。

 思春期の男の子、だものね……何考えてるのか、わかんないっ。

 ちょっとつれない、とも思える尽の態度……なんか、ますます尽との距離が出来ていくみたいで、寂しいな……。

 でも……多分、これが、普通の姉弟、なのかな?

 ある程度年齢がいったら、異性の姉弟なんて、こんな感じになっちゃうの、かもしれないな……。
 そう頭では理解できても……やっぱり……すごく……寂しい、かも。



 ――そして、クリスマスはやってきた。



 皆で集まるの久しぶりで、すっごく楽しい♪

 総勢13人のクリスマスパーティ。

 かなり広いはずの葉月くんのお家が、ちょっと狭くも感じられるけど……この距離感がいいのかもねっ。

 ちなみに、なぜか私だけ、なっちんに押し付けられた女サンタの衣装着てるんだけど……これは、姫条くんと日比谷くんに大層受けた……けど、他のメンバーには大体絶句されたというか、呆れられたというか……。なっちん、人に着せないで、自分で着てよぉ!

 ううぅ……でも、クリスマスケーキを買ってきてくれる出資者に逆らえなかったのよ……ちなみに、お料理は、基本的に仕出しもの。私、料理って得意じゃないからさ……。

 皆集まって、お酒も入って、とっても賑やかに盛り上がってきた。

 どうでもいいけど、尽にお酒をあんまり進めないでよ……あ、って、エリカちゃん、まだ小学生だよ!? 皆、ハメはずしすぎ〜! つか、未成年ふたりも、そんなに嬉しそうに飲まないっ!!

 ほどよい酔い加減になった頃、瑞希さんと三原くんが場所を取って躍りだしたら、それに負けじと姫条くんとなっちんが踊りだした。


 ここって、舞踏会場じゃないんだけど……あ、またテーブルに足をぶつけてる……つか、あぁ、ゴミ箱こかした! って、ほら、空瓶踏んじゃうよぉ!? 姫条くんもなっちんも、瑞希さんと三原くんのソシアルダンスに敵うわけないでしょぉ!?

 誰が、この後片付けると思ってるのよぉ!!
 ああ……まったく、もぉ……。

 守村くんと志穂さんは、すごく呆れてそれを見てる。

 タマちゃんは、こまめに後片付けしてくれたり、キッチンとリビングを私と一緒に往復してくれてるし、鈴鹿くんと日比谷くんはひたすら食べながら、色々なスポーツについて語り合ってるみたい。
 葉月くんは、こんな中でもマイペース。皆に所望されてバイオリンを弾いてくれた後、この騒がしさに関わらず、ソファで居睡ってる。

 で、尽は……主に、エリカちゃんに独占されてる。


 エリカちゃんって人懐こいから、すぐに他の皆とも打ち解けたんだけど……やっぱり、ずっと尽について回ってるの。

 尽がキッチンの手伝いをしてくれようとした時も、じゃんけんで負けて追加の買出しに行く時も、ずっと一緒。
 すっごく、一途に尽を見詰めてる気がする。

 一生懸命なんだね。

 そんなに、尽が好きなんだね。

 なんか……そんなふたりを目で追っちゃってる私って……なんだろう……。

 こんなに楽しいクリスマスなのに……ちょっと、寂しいなんて……やっぱり、ヘンだね、私。

 キッチンで洗い物をしながら、溜息をついてると、なっちんがそそっと私の傍にやってきた。


 あれ?ダンスはもういいの??


「疲れちゃった。お水ちょーだい」


 なっちんは、私が手渡したコップの水を一気に飲み干すと、私をじぃっと見つめてきた。


 ……なっ、何かな?


「あ〜……ううん。いや、なんか、エリカのヤツが、やたらと尽にくっついてるから……いいのかなぁ、って」


 なんか、いきなり核心を突かれた気になって、どきっとしちゃった。


「……いいのかな、って?」


 平静を装って問い掛ける。手だけは動かして、コップやお皿を洗いながら。


「だって、尽、好きな子、いるんだよ?」


「っ!?………え?」


 何?

 尽に好きな子が、いる?
 なんで、なっちんが知ってるの?

 本気で驚いて、手の動きが止まった私を、なっちんは細めた瞳で見詰めてる。

 うっ……なんか、その眼差し、何もかもを見透かしてるような猫の眼差しみたい。
 私、猫に見詰められた鼠のごとく、なんか、動けなくなっちゃった。

「……知りたい? 気になるでしょ?」


 なっちん……なんか、意地悪……。笑顔だって、ほら、チェシャネコみたい……。

 そ、そりゃ、ね……おねえちゃんだから、弟の恋愛事情、気になるもんっ!

 私が、どもりながら言い切ると、なっちんは、ふぅって溜息ついちゃった。

 何かな? 何かなぁ!?

「実はさ、前に相談されたんだよね、アタシ」


 背後の棚にもたれ掛かって、横目で私を見詰めながら口にする。

 まっ、また何か企んでるのかな!?
 なんか、私、警戒してなっちんを見ちゃう。

「尽の好きな相手、私も知ってる人だしね」


「っ!?」


 なっちんが知ってる、という事は、私も知ってる可能性大!

 それって……。
 なんか、胸がどきどきしてきた。
 私の知り合いに、尽は想いを寄せてる?
 その相手は……一体……。

 知りたいという思いと、知りたくないという思い。

 また、じっとなっちんを見詰めちゃう。
 なっちんは……うっ、やっぱり、いぢわるくにぃぃと笑った。
 笑って……それから、私に詰め寄ってきた。

「知りたいでしょ? 知りたくてたまらないでしょ? 隠さなくても、イイって。ほらほら、顔に書いてあるしぃ」


 ううっ……なんで、そんな風に私をいたぶるわけ……。


「でもぉ……教えないっ!」


 …………なんとなく、そう来る気はしてたけど……。

 気になる話題を振るだけ振って、それから知らん振り……なっちんて、ホントに意地悪なんだからさっ!

 むくれてしまった私の頬を、ぷにぷに突っついたなっちんは、ニコニコ笑って、またまた結構無責任な事を言ってくれる。


「ま、それはそれとして……その問題になりそうなエリカなんだけど、今日、ここに泊まらせてあげてくれない?」


 はい?


「いや、なんか、寝ちゃったみたいでさぁ。起こすのもかわいそうだし、どうせ、3,4日こっちで預かる事になってるから、どこに泊まっても同じでしょ?」


 えーと……それは、私でなく、葉月くんに確認をとるべき事だろうと……?


「あんたに確認とっても同じじゃん。どうせ、ここに泊まるつもりだったんでしょ?」


 にっ。

 って、笑顔がイヤラシイっ!!
 わっ、私は、そんなつもりなくて、後片付け終わったら帰るつもりでっ。また、明日にでも片付けにくればいいかって思ってて………。

「あらら? そうだったの? でも、まぁ……寝ている子供は、邪魔しやしないと思うから……預かって、ねっ!?」


 …………もしかして、単に、エリカちゃんを預かって欲しいわけ?


「だって、今日はクリスマスよ!? 聖なる夜よ!? 恋人達の夜よぉ!? 子連れで何ができるとゆーの!」


 ……………。


 いや、その……それを、私にどう突っ込めと……。

 まぁ、いいわよ……それじゃ、葉月くんにお願いして、エリカちゃんここで預かってもらう……というか、葉月くんに任せきりにはできないから、私も泊まらせて貰うし。

「あら、あららっ。やっぱり、イブの夜は、恋人としっぽり過ごしたいわよねぇ。ふふふ〜」


 ……………。


 なんで、こういう話題好きかな、女性って!?

 もぉ、勝手にして。

 なっちんがキッチンを出て行ってから、私、コーヒーを作ってると、帰り仕度をした日比谷くんがひょっこり顔を出した。

 なんでも、夜通し大学のクラブのクリスマスパーティがあるそうで……先輩の主催だから断りきれないそうな。体育会系って、上下関係キビシそうだしねぇ。
 何はともあれ、お疲れ様、日比谷くん!
 日比谷くんを労うつもりでにっこり笑って言った私に、日比谷くんは、なんだかまだ何か言いたそうだったけど……ちょっとしょんぼりした様子で帰っちゃった。
 お疲れ、かな?

 コーヒーとカップをもってリビングに戻ると、確かにエリカちゃんは眠っていた。


 尽の膝枕で、尽の服の裾にしがみついたままで。

 ……なんでか、ちょっと、胸が疼いた気がした。

 それから、三原くん、瑞希さんはコーヒー飲んだ後、自宅のパーティに出席するために帰ってしまい、後片付けを手伝ってくれていたタマちゃんも、鈴鹿くんが帰るぞ〜、って用意しちゃって、申し訳なさそうに一緒に帰っちゃった。で、一通り部屋が片付け終わった頃、門限のある志穂さんと守村くんも帰っちゃって……姫条くんは、エリカちゃんの事で申し訳なさそうにしながら、なっちんは、それを笑い飛ばしながら、帰っちゃった。


 残るは……。

 片付け後で、眠そうにコーヒーを飲んでる葉月くんと、寝付いちゃったエリカちゃん……それから、エリカちゃんに膝枕されて、身動き取れない尽。

 えーと……この4人で、どうするかなぁ……。


 葉月くんはね、このお家にゲストルームがあるし、両親の部屋使っていないから、使ってもいい、って言ってくれたんだけど……。

 とりあえず、エリカちゃんはゲストルームに移すとして……私も、そこで寝ようかな。

「でも、これ、起きそうも無いぞ?」


 尽が自分の膝枕で、自分の服を掴んで寝るエリカちゃんを見て、苦笑を浮かべる。


 そうね〜。無理に起こすのも可愛そうだし……ねぇ、それなら、尽がそのまま抱っこしていってあげればいいじゃない。


 私が言うと、尽は……ちょっと、目を見張った後、また今度は深く笑った。


「……お姫様抱っこで?」


 なんか……なんか、その言葉、口調……皮肉っぽくて、寂しそうだった。

 お姫様抱っこ……そう、そういや、いつか、尽と約束してた……。また今度、してくれる、って。
 そうだ……。でも……もう、それは、果たされる事はないかもしれない。
 私、それに気付いて、少し息を飲んだ。

 尽……どうして、そんな切なそうな目、するの?

 胸が、痛くてどうしようもない。
 私、言葉を続けられない。

 押し黙ってしまった私に、尽はかすかな溜息をついて、それから葉月くんに声をかけた。


「なぁ、葉月、毛布だけ、貸してくんない? 俺、このままここで寝るよ。ヒーター、つけといてもいいだろ?」


「……ああ、構わない。それじゃあ、持って来るから。……手伝って」


 葉月くん……私達のやり取りを見ていたみたい。

 尽にそう言ってから、私を手招きして向かったゲストルームで……。

「平気か?」


「え?」


「いや、おまえ……気分悪そうだったから」


「あぁ……うん、疲れちゃった、かな? 久しぶりに皆と騒いで」


 私の返答に、葉月くんはかすかに眉根を寄せた。

 なんで……?

 クローゼットの中から引っ張り出した毛布を私に手渡しながら、葉月くんは躊躇いがちに口を開いて、少し沈んだ口調で言う。


「おまえ……誰と一緒にいたい? こんな日に……おまえは、誰と一緒にいる事を、望む?」


 ……葉月、くん?


 きょとんとする私に、葉月くんは近づいて……毛布を持って両手のふさがっている私に、突然、キスを、した。

 最初は、軽く。

 驚いて、毛布を取り落としてしまった私から、一旦顔を離して……今度は強く、強く、抱きしめられた。ふたりが、ひとつになりそうなほどに、強く……。


 それから、その綺麗な顔が斜めになって近づいてきて、強く囚われた頬に絡まる指先に、力が入って……私の唇の間、歯列の間を縫って、葉月くんの舌が私に入り込む。


 ぞくっと、した。

 やっぱり、まだ、そんなキスは……ダメだ。嫌だ。

 私、手で葉月くんの胸を押しやろうとしたけれど……びくともしない。

 いつも、私が嫌がると、優しく身を引いてくれる葉月くんと違い、今日の強引な葉月くんは……怖かった。
 彼が、男の人なのだと、改めて、嫌でも感じずにはいられなかった。

 葉月くんの舌が、逃げ惑う私の舌を捕らえ、私、混乱する。

 当惑、恐れ……なぜか、罪悪感みたいなのが、胸の内からあふれ出て、感情をかき乱す。体の自由を奪う。涙を、誘う。

 そして、そのまま、ゲストルームのベットに押し倒されるように、倒れ込んだ。

 頭を強く抱きこまれ、葉月くんは、キスを続ける。
 葉月くんの大きさを、重みを体中に感じて……深い口付けに翻弄されて……怖くて、目を開けられなくて……溢れた涙が、嗚咽をもたらして……。
 葉月くんの手が私の胸をやわやわと揉み、丈の短いスカートを捲り上げる。

 嫌だ。


 嫌だ。


 こんなの……嫌だ……。


 私……。


 私、は……。


 どうして。


 尽の顔が浮かぶの。


 こんな時に、尽の顔が浮かぶの。


 長い、長い、口付けの後、葉月くんは口を開く、ゆっくりと。

 涙で顔がくちゃくちゃになってるだろう私に、囁くように言う。

「俺、おまえが好きだ。だから、おまえを……抱きたい。でも、おまえは……」


 息を吸い、吐き出す息と共に言葉を続ける。


「おまえは、誰が、好きなんだ?」


 私が、好きな人……。

 それは………。

 ………葉月くん……そう、葉月くんが、好き……………私が好きなのは……。

 唇を開きかける……でも、言葉は喉の奥にひっかかって出てこない。

 真上に見える葉月くんの緑の瞳が、悲しそうに私を見詰めている。


「私、は……」


 喉の奥から搾り出す。

 それだけ搾り出して……でも、言葉を続ける前に、また、葉月くんの唇が重なってきた。
 まるで、私の言葉を封じるように。

 激しい口付けは、私を翻弄する。

 葉月くんの想いが、私の中に奔流となって流れ込んでくる。

 愛されている。


 疑いようも無く、そう感じる。

 でも、その想いの流れに包まれた私は……ひどい胸の痛みを覚えていた。
 好きな人に愛されているのに、なんで?

 胸が痛い。

 痛くてたまらない。
 涙が溢れて………。

「ねえちゃんっ!」


「…………!!!?」


 突然、現れる第三者の声に、葉月くんも私も体を震わせた。

 いや、その声が瞬時に誰か分かったからこそ、余計に……。

 ふたりして、開きっぱなしになっていたドアの方を向き、そこで、険しい表情で立ちすくむ尽を見た。





つづく




--BACK--



<言い訳とか>

クリスマス3部作にて。
シリアス、です。
クリスマス編にて、尽とねえちゃんの関係は変わります。

次回、ねえちゃんは、やっと自覚してくれるようです。