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冬物語〜小雪舞い落ちる頃 驚いた。 本気で、驚いたの。 まさか、私が、葉月くんから告白されるなんて……。 尽とあんな事があって……私……どうしたらいいか分かんなくなって……すごく、混乱してた時期だったの。何もかもが上の空で、お家に帰っても尽とマトモに顔を合わせる事もできずに。 そんな時に、葉月くんに食事に誘われて……うん、私も、別に葉月くんの事友達として好きで……だから、最初は言われた事が良く分からなかった。 良く分かんなかったけど……微笑みながら真っ直ぐ私を見詰めてくる葉月くんは真剣で……そんな葉月くんの傍はとても暖かそうに見えて……だから、私、頷いてしまった。 それに、考えてたの。 尽に、弟にキスされて……あんな風になってしまった自分って、もしかしたらすごくオカシイんじゃないか、って。弟をそんな風に感じる私って、すっごくヘンだけど……でも、もしもそれが恋人相手なら……普通の事、でしょう? 恋人がいない自分がいけないんじゃないか、って思ったの。 この年まで、恋人もいずにすごしてきたから、きっと、なんていうか、そのぉ………弟に対しても……ヨクジョウしちゃうんじゃないか、って……。 ……あっ、あのね、これは、その、色々な雑誌とか読んで研究した私の結果なの! えっとね、私、そんな事、今まで考えた事もなかったし、意識した事もなかったんだけど、尽との事があって、そんなんじゃいけない! って思ったの。 でも……すごいよね……なんていうか、そういう事って、結構普通にファッション誌とかにも載ってるんだ……友達が読んでるの時々見せてもらう事はあったけど、自分ではそんなの見ることなんてほとんどなかったから知らなかったんだけど……うう……なんか、見ててすごく恥かしくなってきた……。だって、だって! ああいう事、とか、そういう事とか……うううっ……。私には、まったく未知の領域でした……。でも、頑張って、私、未知の領域開拓したもん! じっ、実践は伴わないんだけどぉ……。 ―――で、その結論に達したわけで……。 あ、あのね、だからといって、葉月くんと付き合って、いきなりそんな事しようとも思わないんだけど……っ! ただ、皆が……誰もが普通に言う『恋』っていうのを意識した事さえない私が、葉月くんと付き合うことでそれが何か分かる気がして。 ううん……別に葉月くんを実験台にしよう、とかじゃないの。 だって、私、葉月くんの事好きだもの。……友達として……。 でもね、友達としての好きと恋人としての好きの違いも、葉月くんと付き合う事でわかるんじゃないかなぁ、って、思ったの。 この友達として好き、って感覚が、恋人として付き合うことで、『恋』にかわっていくんじゃないか、って、そう思ったの。 葉月くんみたいな人が恋人になったら、私、絶対、彼に『恋』するだろう、って、そう思ったの……。 思ったんだけど……。 付き合い出して、多分、半月くらいかな。 ハロウィンに私が作ってきたパンプキンパイを葉月くんのお家で一緒に食べてたの。 葉月くん、気に入ってくれたみたいで、すごく嬉しかった。 うん、誰かに自分の作ったものを食べてもらって、美味しい、って言われるのって、こんなに嬉しいものなんだ、って改めて実感しちゃった。 うう……なのに、母さんごめんね、いつも、当たり前のように3食食べさせてもらって。私も、これから手伝うようにするからねっ! 明後日な事もちょっと考えつつ、葉月くんとののんびりした穏やかな時間を楽しんでた。 葉月くんは、私のペースを乱さない。というか、ペースがとても似ている気がする。 一緒にいる時間が、全然嫌にならないの。 ぼーっと映画見たり、すっごくたわいない事をのんびり語り合ったり。時々、プラネタリウムとか動物園とか水族館とか行って、ほのぼの優しい光景にひたったり。 こんなのが、恋人の時間なのかなぁ、なんて、私、ちょっと幸せだった。 これなら、尽との事なんて、忘れられるかな、って思ってた。 その……この間、そのパイを作っている時に、指を怪我して、尽が私の指を消毒してくれた件があって……あ、あの事は、思い出すたびに恥かしいの……。いや、なんというか、その……尽って、すっごく大人びている時があって、私、そのたびに気後れしちゃうから……あの時も、そんな感じで……おねえちゃんのくせに、弟に世話を焼かれる私が、なんか、いたたまれなくて……。葉月くんの事も、なんとなく、まだ言い出せなくて……でも、尽は鋭いから気付いたに違いなくて……。 尽とあったあの事とか、尽に対して時々感じる胸の中がもやもやするような変な気持ちとか……きっと、それって、忘れなきゃいけない事だから……。 なんて、その時も、葉月くんといても、ついつい尽の事、考えたりしてた。 で、私、また自分の内側に意識を向けちゃっていたんだけど……。 「……どうした?」 突然、葉月くんに声を掛けられて、慌てて顔を上げた。 「あ、う、うん。ごめん、ちょっと、考え事……あはは……なんだか、ぼーっとしちゃってるね」 「いつもの事」 くすっと笑って言う葉月くんに、私もつられて笑う。 穏やかな葉月くんの声や口調が……好き。 黙っていると冷たそうにも見える美貌が、微笑むととても優しく緩むのが……好き。 それは、きっと、私の心が『恋』に近づいてるんだろうと、思うの。 でも……ね、でも……。 葉月くんは微笑んだまま、私に近寄ってくる。 そっと伸ばされた腕に、頭を囚われる。 髪をそっと撫ぜられて、葉月くんの整った顔が、近づいて、きたの。 本当に、葉月くんは綺麗。 綺麗過ぎて、見ているだけで、どきどきしちゃう。 どきどきして、真っ直ぐに見詰められないから……そっと、目を閉じた。 そうして、重なる唇に、私は……胸が痛くなった。 どうして? その胸の痛みは……どこからくるの? 恐る恐る重なった葉月くんの唇は暖かくて……ゆっくり離れたその温もりに、瞼を開けたら、微笑む葉月くんが真正面にいて。 もう一度、唇が重なってきた。 今度は、頬と顎を大きな手に捕らえられて、前より、しっかりと押し付けられた唇の熱は、火傷しそうなほどに熱く感じられて。 ゆっくりこじ開けられた唇に、葉月くんが……。 「………っ!!」 ぞくっと、した。 わからないけど……なんだか、背中をヘンなものが駆け抜けていったみたいに。 だから、咄嗟に……葉月くんの胸を突き飛ばしていた。 「やっ……!!」 「……………」 本気で嫌かというと、そういうわけでもなかったと、思うの。 けど、なんだか、頭の中に浮かんできたのは……尽に、初めてこんなキスされた時の、感覚。 あの時は、驚いて、為すがままになってしまって……そう、姉弟でそんな事するなんていけないと咄嗟に思って、尽の胸を突き飛ばした。でも、次にキスされたとき、私、拒めなかった。ううん……むしろ、キスが、とっても気持ちよかった……。 でも……でも、なんか、葉月くんにキスされて……恋人にキスされるのなんて、当たり前なのに……反射的に、心が、体が、それを、拒んでしまった……なんで? 葉月くんの手が私から離れて、はっとして、葉月くん見上げて……切なげな表情をする葉月くんを、見つけた……。 ズキン、と、胸が痛くなった。 「…………ごめん……」 消え入りそうな声で言って、視線を私から逸らせた葉月くん。 謝るのは、きっと、私の方なのに! 「ち、違うの……びっくりして、ただ、驚いちゃって……あの、私こそ、ごめんなさい……」 互いに謝りあって、気まずくなった。 私も、俯いちゃった。 でも、しばらくして、葉月くんの大きな手が私の頭をぽんと軽く叩いた。 「もう少し……してから。早まったかも、俺。……大丈夫、待ってるから」 やっぱり、葉月くんは、優しいなぁ……。 優しく言い聞かせるように言う葉月くんが、私、ただ嬉しかった。 彼に甘えてるなぁ、って、思った。 それが、心地いいのかどうかは……まだ、わからなかった。 葉月くんに甘える自分を感じるたび、最近、わけもわからない不安? 罪悪感? そんな、心をかき乱す感情が湧きあがってきたから。 葉月くんの、キス……。 嫌ではないの……きっと、それも気持ちいいと感じられるとは思うの……。 でも……なんで、かな。 やっぱり、躊躇っちゃう……まだ、キス、できそうもない……。 私と葉月くんのお付き合いは、多分、人より相当のんびりながらも、順調、だったと思う。 ただ、勿論というかなんと言うか、なっちんにはすぐさまバレて、根掘り葉掘り聞かれまくったけれど。 けど、そのなっちんも、ある時を境に、態度に変化が見られた??? 何? 何なの?? 最初は、押せ押せムードで、私が葉月くんと付き合うのを推奨しまくって、大人なデートスポットとか、あんまり嬉しくない情報を勝手に押し付けていったのに。 なっちんの考えている事は、わっかんないってば! ……まぁ、いつも何か企みつづける事が趣味のなっちんの事は置いといて。 始終顔を合わせなきゃらない尽……すっごく、気まずくて……ちょっと、心苦しい。 本当は、今までどおりの仲良し姉弟でいたいのに、上手く接せられないの。 尽も、なんか、態度がそれまでと違って余所余所しい気がするし……。 私、ね、たったひとりの弟の尽が好き。それは、きっと、どこの兄弟も同じだと思うの。 だって、ふたりきりの姉弟なのよ? 嫌い合ってたら、寂しいじゃない。辛いじゃない。 なのに……どうして、なんだろう。 仲良しな姉弟を貫こうとするほど、辛い……。すっごく、辛くて……胸が痛い。 葉月くんとデートしてても、尽のことをふっと思い出すたびに、辛くて、どうしようもなくて……。 どうして、だろうね……。 クリスマスは、葉月くんと過ごす約束をした。 高校卒業以来は毎年、だいたいフリーの友人達と過ごした後、家族でお祝いしていたの。 けれど、今年は、葉月くんのお家で、ふたりでお祝いする事にした。 それ、友達に言ったら、変に勘ぐられたけどぉ……あっ、あのね、私たち、まだ、そういう事してないんだからっ! 変な風に言うのはやめてっ! っつても、なんで皆そんなに色々聞きたがるのよぉ……本当に、まだまだなんだからっ。 え? クリスマスの勢いで? 勝負下着用意してるかって……? …………………………。 …………………………。 だから……そういう事言うのやめてよぉ。 色々考えちゃうじゃない。 え? そういう色々じゃなくって! まったく、もぉ!! どうして、皆そんな話が好きかな……。 ともかく、私たちはそうして過ごす約束をしたの。 あのね、それで、前ににキスされて以来、葉月くんは、私に無理にはキスをしようとしない。時々、その……軽く口付ける事は、あるの。でも、それ以上を望まないでいてくれる。 そんな葉月くんの優しい心遣いは、すごく嬉しい。 嬉しいけど、けど……ねえ、私、どうしても、まだ、踏ん切りがつかないの。 葉月くんの優しいキスは心地いいし、抱きしめられるのも、好き。 でも……それ以上前に、進めない。 怖いの、かな? 怖い……でも、何か、違う気がする。怖いって気持ちだけじゃない。 でも、その理由が分からなくて……戸惑っちゃう。 戸惑いながらも……葉月くんの包み込んでくれる優しさに甘えて、擦り寄っちゃっている私は……葉月くんに、ちゃんと『恋』できてるんだろうか。 で、クリスマスまでカウントダウン、って矢先に、なんだか、賑やかなお客様がやってきた。 なっちんから、姫条くんの従妹を預かった〜、ってメールはもらったのよ。主に愚痴メールでね。 小生意気だとか、こまっしゃくれてるだとか、顔は綺麗なくせに可愛げがないとか、やかましくてしかたない、とか。 うう〜ん……世話焼きで、子供も好きななっちんなのに、その反応は珍しい。 よほど手のかかる子かなぁ? なんて、思ってた。 携帯メールについてた写真見る限りでは、すっごくカワイイ子なんだけどね。さすが、姫条くんの従妹、って感じで。 その子がいなくなった、ってメールもらったのは、葉月くんがうちに遊びに来ている時。 私、なっちんに携帯かけて、今葉月くんといるから、ふたりで一緒に探しに行こうか、って言ったんだけど、なっちんは、大丈夫だろうから、と、ちょっと含みある口調で言ってた。 また、何か企んでる……? って、突っ込みする前に、携帯は切れちゃって、私からかける携帯に、なっちんは出なくなっちゃった。 ただ、メールで。 『あのガキは携帯持ってるから大丈夫よ。葉月くんとの時間邪魔して悪かったわね』 と、入ってきた。 うう〜ん……どうせ、私と葉月くんの時間、お茶飲んだりしてまったり過ごすだけだから、それくらいのお手伝いしてもよかったんだけどねぇ……。 ま、ともかく、それでまた、私と葉月くんは、借りてきたビデオ見たり、のんびりお話したりして過ごしたの。 で、おやつの時間にお茶の用意をしていた頃。 「ねえちゃん、ただいま……」 って、尽が帰ってきた。 なんか、ちょっと様子の変な尽は、来客がある事を告げる。 尽のお友達かな、と、思ったら、それは……なんでかなっちんと……すごく、カワイイ子。瞬時に分かっちゃった。 「……エリカちゃん、だっけ? 遊びに来てくれたんだ。いらっしゃい」 ホントに目の保養になるくらいの美少女! あと数年したら、もっと、すっごく綺麗になりそう。 思わず、うっとり見ちゃったんだけど……あれれ? なんで?? なんで、その美少女のエリカちゃんが、尽にべったりなワケ? 尽の腰にしがみついて、もじもじしながらこっちの様子をうかがっているようで……。 そういえば、葉月くんのファンだとか言ってたっけ? 緊張してるのかな? それにしても……どうして、尽に懐いてるの? え、と……えぇと……なんで、かな……ちょっと、胸がツクンとした。 で、それやこれやの間に、なっちんはさっさと私たちにエリカちゃんを押し付け……じゃなくて、預けて、出かけちゃった。 なっちんのマイペースさには慣れてるけどねぇ……。その分、情に篤くて、色々世話を――時にはいらぬ世話を――焼いてくれるから、感謝もしてるし、ホント。 あ、エリカちゃんがどうして尽に懐いているかの事情もわかったし。 そっか、不思議な運命ってあるもんだねぇ。 それにしても……エリカちゃん、すっごく可愛くてイイ子だよね! なっちん……小生意気だとか、こまっしゃくれてるだとか、顔は綺麗なくせに可愛げがないとか、やかましくてしかたない……どこが? 絶対、偏見入ってるな。姫条くんの従妹で、きっと、姫条くんにもべったりだから、焼きもちかも。 私だって、エリカちゃんが尽にべったりで、ちょっと、寂しいもん。 え? やっ、焼きもち……? って……そりゃ、仲のいい弟をとられちゃったら、寂しいでしょ、誰でも。 うっ、でも子供相手にそんな事感じちゃうなんて、ちょっと大人気ないなぁ、と、思うんだけど。 しかも、会話が一旦途切れた頃、「ねぇ、尽のお部屋、行きたい」とかエリカちゃんが言い出して、ふたりでお部屋に行っちゃった。 エリカちゃんって、私の勘違いじゃなきゃ、葉月くんよりも、ずっと尽を見ていた気がするの。多分……鈍い私だけれど、なんとなくわかる。きっと、尽に懐いているっていうか、尽の事が好き、なんじゃないかなぁ、って……。 11歳でも、十分女の子だもん。それくらいの恋愛感情、あっていいと思うの……多分。 尽って、女の子に優しいし、今日見てても思ったんだけど、女の子の扱いが上手いよね。 あんな風に優しくされたら、きっと、大概の女の子は好きになっちゃうわ。 なんか、ちょっと……サビシイ。 「おい……?」 え? あ……!? 自分の考えに没頭しちゃってた……! 葉月くん、少し眉根を寄せて私を見てた。 あっ、ああ、もしかして、怒っちゃった、とか……? 「怒って、ない。じゃなくて、おまえ…………あぁ……まぁ、いい」 え? あれ? 何を言いかけたの、葉月くん?? 不自然に言葉を止めちゃった葉月くんを、私、じっと見上げた。 そしたら、葉月くん、ふぅっ、って溜息ついちゃった。 んん? 「気になるなら……行って来れば……」 ぼそっと、小さな声で言う言葉。 え? 何の事? 小首をかしげて、更に私、葉月くんを見詰めちゃった。 そしたら、葉月くん、髪の毛をかきあげながら私を見て、苦笑したの。 「いや……あいつら育ち盛りだし、菓子でも持っていってやれば喜ぶかも、な」 あいつら……って、尽とエリカちゃん? あ、そうね。 うん、そうかもね。 お菓子とお茶、持っていってあげようかな。 さっき、エリカちゃん、ほとんどお菓子に手付かずだったみたいだし。 じゃぁ、うん、そうする。 ありがとー。葉月くん。 じゃ、ちょっと席外すね〜。 さすがに、気の付く葉月くんの言葉。 エリカちゃんは、紅茶とかよりジュースかな。で、尽は、カフェオレ好きだし、淹れていってあげよう。 いそいそ用意して、見送ってくれた葉月くんに笑いかけて……私、尽の部屋に行ったんだけど……けど……。 ちょっと、ドアが開いてたの。 私、どうにか片手でお盆を支えて、ドアを開けて……その、ノックする事考えてなかったの。 でも、ノック、した方がよかったかもしれない。 だって、目の前に現れた光景って……。 尽とエリカちゃんが……………………………キス、してたの。 つづく |
<言い訳とか>
あ〜……コメディじゃなくなってます……。
ダメだなぁ(^^;)。
やっぱり、冬って切ない季節ですねぇ。
しばらく、ちょっと切ない系が続くかも。
紹介文変更しなきゃ、かな。
これからしばらく、自分の想いに葛藤するねえちゃんの
語りが続く予定です。
つか、今回と次回は、前作の尽視点と同じシーンの
姉視点版となってます。