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ふたりきりの永遠


『永遠の愛を誓いますか?』

 冗談のように彼が言った。
 私は、笑って、彼に誓う。
 彼も笑って、私に誓った。
 ふたりだけの永遠を、ふたりきりで誓う。
 誰も何も入り込めない、ふたりきりの永遠を。




 目を覚ます。
 薄暗い部屋。
 まだ、夜明けまでは遠いのだろうか。

 私はゆっくり体を起こした。隣に眠る彼を、起こさないように。

「喉、渇いたな……」

 だから、目を覚ましたのだろうか。

 昨夜も、彼と愛し合った。私が、疲れきる、限界まで。意識を失うまで。声が枯れてしまうまで。
 彼は何度も私を求め、私も彼には抗えなかった。
 こうしてゆっくりと愛し合える時間は、滅多にないのだから。

 彼の寝顔を見つめて、ふふ、と声を出して笑ってしまった。

 昨夜は……愛し合っている時は、彼は実際の年齢よりもずっと大人に見えて……そう、男そのものの表情をしていて、私を翻弄した。
 私の名前を呼ぶ声も、甘い囁きも、しっとりと落ち着いた響きで私の耳をくすぐって。私に触れるその体の熱は、私をしっかりと包み込んで。彼の彼らしい匂いが、私の思考を痺れさせた。
 彼が男なんだと、私の全てに刻み込むように。

 私は年下の彼に、体を、思考を、私の全てをいいようにされて……それでも、それを、とても心地よく感じていた。

 なのに……今見る彼の無防備な寝顔は、年齢相応にあどけなくて……それもまた、愛おしかった。

「尽……」

 彼の名前をつぶやくと、彼は、微かに呻きを漏らせて、身じろいだ。

 私を抱いている時の男の姿をした彼。普段の年相応の……弟の彼。
 どちらも、とても……愛している。

 私は、胸に満ち溢れる彼への愛しさを幸福な気持ちに変えて、心地よい褥をそっと離れた。

 両親の留守。彼と私、ふたりきりの家。
 トントントンと、軽い足取りで住み慣れた家の階段を降り、薄暗いキッチンに向かった。

 電気をつけなくても、どこに何があるのか分かる。目をふさいでいたって、分かる。
 私は、薄暗いキッチンで、冷蔵庫のミネラルウォーターをコップに注いで、口をつける。

 冷たい水が、乾いた喉を通り過ぎる、心地よさ。
 まだ熱を失わない体に、水の冷たさがじんわり浸透する。

「ふぅ……」

 一口だけ喉に流し込み、溜息をつく。

 そうして、不意に何かの気配を感じたと思ったら……背後から抱きしめられて、いた。

「……!」

 それが誰かなんて、考えるまでもない。
 
 けれど、はずみで、コップを落としてしまう。
 床に落ちたガラスのコップは、割れはしなかったけれど、残った水を床に撒き散らし、カラカラと無機質な音を立てて、どこかに転がっていった。

「探した……」

 くぐもった声が、耳元でする。

「すぐに戻るのに……」

「勝手に、いなくならないで。びっくりするだろ?」

「ばか。どこかに行くわけじゃないのに」

「そんなの、分からないじゃないか。……ひと時も、離れたくないのに……」

 子供のようだ。
 母親と一時でも離れられない、稚い子供の我侭のよう。
 私の髪に顔を埋め、強く、私を抱きしめる。その力は、稚い子供なんて、とても言えないけれど。

「床、片付けなきゃ。それから、また一緒に寝よう?」

 足元が、冷たい水に浸されている。

 子供を宥めるように優しく言うけれど、彼は、尽は、私を離さない。

「ね、尽」

 その名を呼びかけ、私の体に絡みつく尽の腕を、優しく撫でさする。

「少し、離してくれれば……」

 ほんの少しだけ。そうしたら、また、暖かなふたりの褥に戻れる。
 ……なのに、尽は、私を離す事なく、私の首筋にキスを、落とした。

「……っ!!」

 私の体に回った腕は、相変わらず私を離さないけれど……そろそろと動いて、私の体を、這い回りだした。

「尽……!?」

 驚いて声を上げる私になど、お構いなしだ。

 尽の唇の、手の、動きは、徐々に本格的になる。愛し合っていた、数時間前のように……。

「ゃ、ばかっ……っ、んっ」

 こんな所で嫌だ、という気持ちは確かにあったけれど……でも、私の体は、尽の欲望に忠実になってしまっている。
 私の体は私自身の意志よりも、尽の求めに簡単に応じるようになってしまった。
 尽の私を求める気持ちを感じると、じん、と熱を持ち、尽がその気持ちのままに私に触れると、尽を受け入れる準備を始めてしまうのだ。
 いや、それこそ、私の意志……なのかもしれないが。

 そうして、私の意志は、体の熱に火照らされ、すぐに、のぼせあがってしまう。

 体が、熱い。

 思考が、熱い。

 もう、何も考えられなく、なる……。

 ただ、尽が……欲しくて、たまらない。

 全てが熱く火照って、足が体を支える力を失ってがくがく震えて、立っていられなくて……腕を伸ばして、シンクにしがみつくようにして、体を支える。

「……その格好、いいね」

 背後で、くすっ、と、尽が悪戯っぽく笑う。
 それが始まりの合図のように……尽の攻めは本格的になり、私は……もう、尽しか感じられなくなってしまった。
 
 



「あ……あぁん……も、あ……ひゃぁぁ……!」

 意味不明の、動物そのものの声を上げ、私は、完全に力を失う。
 立っている事は勿論、己の体を支える力さえ、なくなってしまった。
 崩れ落ちようとする私の体は、背後の尽に抱きとめられ、抱きしめられ……ふたり、キッチンの床に崩れ落ちた……まだ、繋がりながら。

 乱れた呼吸を吐き出しながらも、尽は嬉しそうに私の耳元で囁く。

「ねえちゃん、まだ、ヒクヒクしてる……。すげぇ、気持ちイイ……」

 卑猥な言葉に、私は、応える気力もなく、彼の腕にかすかに爪を立てるだけ。

「……ずっと、このまま繋がっていたい、のにな……」

 尽は、寂しさの混ざった口調で呟いて、私を強く抱きかかえなおした。
 私も、尽を抱きしめる。

 こうして互いの熱を感じていられる時が、一番、幸せ……。
 でも、勿論、ずっとそうしていられるわけはないから。

「尽……好きだよ……」

 まだ少年らしさを失わない、尽の頬に手を添える。
 濁りのない、けれど、陰りを宿した瞳を覗き込む。

 私も、尽も……互いの存在だけを、求めている。

 姉弟で、愛し合う。
 罪の意識が、ふたりをより強く結び付けている。

 ふたりの関係は誰も、何も、認めてはくれないから。だから、ふたりだけしか、互いだけしか、いない。

 私をじっと見つめる、真摯な眼差しを受けて、私は微笑み、尽の唇に己のそれを重ねた。
 ゆっくり、絡まりあう。互いを、奪い合い、分かち合う。
 繋がった部分が、熱く、なる。
 絡まりあった唇が、舌が、熱さと激しさを増す。
 尽が私の体を抱えなおし、私は尽にしがみつく。

「ん……ふっ……っ」

「ねぇ、ちゃん……っ!」

 ふたり、繋がって、互いの存在を認め合って、互いの想いを確かめる。
 どうしてこんなにも、愛しいのだろう。

 ただ、ひたすらに、愛しくて、彼が、欲しくて。

 この想いが、成就される時が永遠に来ないのが、とても、悲しい。
 成就される時が永遠に来ないのなら……終わりなき永遠の中を、ふたりで愛し合い続けるしか、ない。

 ふたりきりの永遠を、ふたりだけで。

「えい、えん、に……」

 尽を抱きしめながら私が呟くと……まるで、私と同じことを考えていたように、尽が囁いた。

「ふたり、一緒に……」

 見詰め合う、瞳の中。
 同じ想いが、ある。

 狂おしく求め合って……ふたりは、永遠を、約束する。




 朝日が昇る。
 至福の褥で寄り添いあう。
 ふたりの永遠は、そこに、ある。

 

END




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