|
Delusion 身長170センチ超、まだしばらく伸びる気配。細身のくせに程よく筋肉質、さらさらの髪、長い指、整った顔立ち、かわいい笑顔、穏やかに響く声、少年らしい元気な口調。 あるいは、時として、甘い笑顔になったり、しっとりした口調になったり、する。 尽は、もてる。 それは、子供の頃からの事で、今更他人から言われなくても分かってる。 けれど、尽も高校生。 幼い少年と違い、もう青年にさしかかろうとしている。 ……と、いう事は、付き合っている彼女がいれば、それなりの経験はしているわけで。 本人からはともかく、周りからその手の噂はそれとなく流れてくる。 曰く「とても優しくしてくれる」「初めてなのに気持ち良かった」「自分がイクよりも女の子をちゃんとイカせてくれる」等々、等々。 どこまでが本当かは、分からないけれど……これまで付き合ってきた何人かの彼女とは、実際、えっちはしていたらしい。 そそりゃあ……私だって、経験は、ある……けど……。 けど、身内のそういう話って……どうにも実感が湧かないというか……妙に気恥ずかしい。 想像ができない、とうか、したくない世界だからかもしれない。 他人のアレコレなら、チラリ、と、考えちゃう事もあるのだけど。 その噂は、主に玉緒くんから珠美ちゃん経由で、以前から聞いてはいたの。でも、それはそういうものだと、あまり考えないようにしていた。 でも、先日、奈津美から結構生々しい目撃談を聞いちゃってから……私は、ヘンになっちゃったのかもしれない。 尽が、夜の公園で、彼女とえっちをしていた、なんて……。 その公園っていうのは……なんというか、カップルが夜集まる場所として密かに有名で、私も知っていたし、奈津美もそういう目的で行っていたらしい。 勿論、そういう場所であるからには、奈津美も尽に声をかけず、だから尽自身はそれを奈津美に見られていたことを知らないみたい。 けど、この、尽が……。 朝、いつも通りの尽を視界に入れ、ちらと奈津美の言葉を思い出す。 あの尽が。 幼かった尽が。 この間まで、まだ、ランドセルをしょっているイメージさえあるのに。 コーヒーカップを持つ指を見る。長い指。綺麗な指。あの指で……。 カップにつけられた唇を見る。整った薄い唇。あの唇で……。 朝からヘンな想像をしてしまいそうな自分を意識して、思わず激しく頭を振ってしまう。 私……いつから、こんな妄想狂になっちゃったんだろう。 彼氏のいない時期が長すぎて、欲求不満なのかもしれない。 「ねえちゃん?」 尽が、きょとんとした表情で自分を見詰めていた。 整った顔立ちは、少年から青年へと成長しているとはいえ……見慣れた弟のもの。 姉の自分に無防備に見せるこの表情からは想像もつかない、どんな甘い顔をして彼女を見詰めるのだろう。その声で囁くのは、どんな甘い言葉なんだろう。 また、考えてしまいそうになって、私は今度は、自分の頬を両手に挟み込んで、ぱんぱんと叩いた。 「ね……ねえちゃん? なんだよ?」 尽は、困惑した微妙な表情で、姉である私の錯乱ぶりを遠巻きにしている。 「なっ、なんでもないっ!」 こんな事考えているなんて、尽に知られてはならない。 そりゃ、そうよ。 知られたら、絶対に変態呼ばわりされるから。 というか、尽がそういうことしているのを、私が知っているって事自体、知られてたくない。 私だって、いくら身内の尽にだって自分のプライベートの事……特に、性生活の事なんて、知られたくないもの。 もそもそと朝食を再開した私と、不可思議な顔のまま、食事を終えた尽。 椅子から立ち上がる、伸びやかな体。 信じられないくらい、成長したその体。 細いけれどがっちりとした肩幅に、はば学のブレザーはよく似合う。第一ボタンを外した白いシャツに、申し訳程度に結ばれたネクタイ。長い足を覆うズボンは、折り目も消えるほど、かなり皺になっているけれど、全体的に着崩された制服だから、違和感はあまりない。 細身で小柄な女の子なら、簡単に、その腕と胸の中に、すっぽりと納まってしまうだろう。 「そんじゃ、行ってくるわ」 唇の端についたパンくずを払いながら、尽は学生鞄を手にとった。 「ねえちゃん、出るの遅いなら、後片付け頼むな」 軽く手を上げ、笑顔を見せると、そのまま小走りに家を出て行った。 その均整の取れた後姿にも、見とれてしまう。 どうしたんだろう、私。 何か、オカシイ。 どきどきする。 尽の姿に、胸が疼く。 これは……いけない。 この感情は、いけない。 危機感を覚えて、私は慌ててそれらの感情を振り払った。 忘れなきゃ。考えないように、しなきゃ。 尽は弟なんだから……。 けれど……意識しないように気をつけるほど、意識してしまう。 尽の顔がまともに見られない。ちゃんと会話できない。姉の態度が、崩れていく。 尽の全てを意識しちゃうの。 例えば……これまで付き合ってきた彼と、恋人同士になる前も、どきどき意識しちゃう事があった。 その感じに……似てる。 でも! 弟相手に、それは、ありえないからっ。 だから、できるだけ、尽に近づかないようにしていた。尽に目をやらないようにしていた。 なのに。 尽は、そんな私に気付いた。 気付いて……私を見る眼差しを、変えた。 尽の眼差しは……今まで、姉である私が見たことないそれで……背筋が、震えた。 私は、できる限り尽から逃げようと努力はしたのだけれど……同じ屋根の下で暮らす姉弟、簡単に、捕まった。 私の慄きとは対照的に、尽はいやに冷静だった。 驚くほど冷静に私を見詰めてきて……却って、それが怖い。 「俺、ねえちゃんに何かした?」 逃げられないように、私をその腕の中に囲って、廊下の壁に縫いとめて、尽は冷静に問い掛けてくる。 私は、ただ、やたらに緊張して……どう返答していいものやら、頭を振るばかりだった。きっと、顔は血が上って真っ赤になっていただろう。 「何もしてないのに……なんで、逃げるの?」 少し、意地悪な口調だったかもしれない。 あたかも、獲物を追い詰めた猫のように、愉悦に満ちていたかもしれない。 「俺の事………意識、しちゃってる、とか?」 くすっ、と嘲笑。 私は、カッとする。 カッとして、尽を睨み上げて……でも、初めて見る尽の眼差しに会って、結局何も言えなかった。 尽の眼差しは、からかうような口調とは違い……ひどく、穏やかに優しく……あるいは、甘く、私を見詰めていた。 どくん、と、鼓動が唸った。 どくどく、と、血流が速度を増して流れていく。 「俺の事を見る、自分の目に気付いてる?」 尽は、言いながら、私の耳近くで低く囁いた。 熱く篭った息が耳にかかり、私はぞくっと背筋を震わせて……泣き出した。 どうしたらいいか分からなかった。 尽の態度や言葉が、湧き上がっている自分の感情が怖くて、どうする事もできなかった。 尽が恋人に向けるであろう甘い声や囁きや眼差し……実際にそれを向けられて、どうしようもなくなってしまった。 今の尽を、弟としてなんて、見られない。 そう、尽の言う通り、男として、見てしまっている。 しかも……好意を寄せる、相手として……。 泣き出した私をしばらくじっと見詰めていたらしい尽は、ゆっくりと私を……抱きしめた。 そっと、優しく……。 「俺……すげぇ嬉しいんだけど……。……どうしよう……」 尽の低い声は、震えている。 そうして、私をすっぽり覆うように抱きしめた尽の体も、震えていた。 「俺……ねえちゃんが、欲しい……」 喉の奥から絞り出したような声に、私の全身が痺れて動かなくなった。 欲しい。 それは、つまり――。 呼吸さえ、止まった。 緊張する私に気付いた尽は、吐息で笑う。 「前から、そう思ってた。けど、思うだけでもイケナイ気がして……押し殺してた」 私の体を抱きしめた尽の手が、背中を這い、そっと首筋に触れる。 「ぁ……」 直接感じる尽の肌の熱さに、私は声を上げて身をよじらせた。 ぞくりとしてしまった。 体が熱くなった。 心が熱くなった。 「ねえちゃんが、どんな風に恋人に笑いかけて、どんな風に抱かれるのか……知りたくて、知りたくなかった事……これから、俺に、教えて?」 言いながら、私の唇に唇を近づけてくる尽に……私は、逆らえなかった。 私を呼ぶ尽の声は、とても甘くて……でも、時々意地悪なまでに私を翻弄して。 けれど、ふとした時に見る尽の眼差しは、いつも優しく私を見詰めていて……私の視線に気付いた時、彼の顔はても甘い笑顔に緩んだ。 尽の唇が、指が……私の体に触れ、私を深い快楽に誘う。 それは、想像していたよりもずっとエロティックで、今まで感じた事ないくらいに……感じた。 尽……弟との行為に溺れながら、私の心は、とても満たされていた。 男としての彼を知り、女としての自分を晒し……私たちは、ただの姉弟では、なくなった。 でも、それはきっと、恋人というカテゴリにも当てはまるものではなくて………いや、無理に型に当てはめる必要はないのかもしれない。 姉弟でいて、恋人でない……そんな不完全で奇妙な関係。それを当てはめるカテゴリなんて、なくたっていいのだろう、きっと。 ただ、ふたりが、男と女が、求め合う悦びを共有し続ける……そんな、関係。 END |
<言い訳とか>
不調です。すこぶる不調です。
一月ほど前に書き出して、止まっていたものを
再度書き出して、完結させましたが……
書きながら、ずぅっと首を傾げていました。
どうにも、文章がまとまらない気が。
いつもの事ですが、締めが締まっていない気が。
そうして、同じような台詞や描写を使いまわしている気が。
普通にUPするのも躊躇ったのですが、
日記掲載やウェブ拍手用にするには、長めな文章なので、
普通に更新しました……。
お目汚しで、すみません……。