男心と秋の空?<3>



「ん〜……これでいいのかな?」

 ねえちゃんが俺の部屋に来るまでに準備しといた、ノーラベルのビデオを迷うフリして手に取る。

 ねえちゃん、俺が貸した格闘技系の雑誌(別に格闘技愛好者じゃないけど、男として一応の教養だな)を首をかしげながら見ている。

 まぁ……ねえちゃん、マッチョ好きじゃないそうだし、この程度の男の裸、見せてもいいか。
 でも……ん〜そいうや、ねえちゃんの好みって、どんなだろうな?

「なぁ、ねえちゃん」

「ん?」

「ねえちゃんの好みって、どんな奴?」

「えぇ?」

 雑誌から顔をあげて、きょとんとする。
 眉根を寄せて、うう〜ん、と考え込む顔。

「好みって……」

「好きなタイプのイメージくらい、あるだろ?」

 重ねて問うと、更にねえちゃん難しい顔をする。

「うう〜……私は……」

 すこし顔をしかめた後、何かを思いついたような顔になり、それから、ほうぅと息をつく。

「なっちんに、私って規格外の基準してるって言われた」

 規格外の基準? なんだ、それ??

「周りにいる男友達がみんなカッコイイから、規格外なんだって。うう〜ん、私、そんなつもりないんだけど……」

 ああ……なるほど。そうだな、確かに。
 自覚ナシの面食いか……。そりゃ、タチ悪いや。
 まぁ、でも、そのおかげで今まで悪いムシがつかなかったって事だろうから、その規格外の基準って奴に、俺的には感謝したけど。

 俺? 俺は、その基準に照らしても……大丈夫でしょう。
 自分だけの自惚れじゃなく、他人も十分認めてる程度には、ね。
 ねえちゃん好みのイイ男……に、なってると思うんだけどなぁ……なんで、このねえちゃんは気付かないかな。
 はぁ、ヤレヤレ。

 いや、これから気付かせていけば良いんだけど……って、最近、俺、イロイロアピールしてると思うんだけど……それでもまだ、ダメ、なのなかなぁ?
 うう〜ん……イイ線行ってたと思うんだけど……きっと、俺のこと、男として意識してる部分は確実にあるハズなんだけど……ねえちゃん、鈍すぎるからなぁ。つか、俺たちが姉弟、っていう鱗がはりついちゃってて、自分の気持ちが見えていない、っていうのが大きい気がする。
 だって、いつか酔って帰ってきた時……確かに酔ってはいたけど、意識は結構はっきりしてて……その状態で俺にちゃんと応えてくれたのは、きっと、少なからず俺に対する想いがあったからだと思うし。
 自惚れじゃなくて、俺はそう思ってる。うん、確信してる。

「尽?」

 ああ、ヤバイ。考え込んじゃってたよ。

「あぁ……じゃあ、再生、と……」

 確信犯の俺。
 ビデオの再生ボタンが押されて、いきなり映る映像は……。

『や、あっ……ああ……っ! いいよぉ! もっと、もっとぉ……!!』

 ラブホテルの一室らしき場所で、制服を着たままの女の子が体躯のいい男に……。
 ベッドがキシキシ軋む音と、もっと別な、人間同士が立てる音が……。

 自身の経験がなかったり、こんなものをマトモに見たこともないであろうねえちゃんの反応は……。

 あはは。
 やっぱり、固まっちゃってる。
 口をあんぐりあけて、画面から目をそらすこともできずに、ただ、呆けている。
 俺、テレビの映像を見るより、ねえちゃんをじっと見詰めた。
 だって、あんまり、カワイイ。

「っ、あ、あ……ひゃっ!」

 数秒固まったねえちゃん、今度は、一気に顔を赤くして、じたばたしだした。
 両手で目を塞ごうか、耳を塞ごうかと困惑してみたり……そのうち、耳を塞いでうずくまったり。
 なんで、そこでテレビを消す、という行動に移れないかね。
 あ、なんか、腕や脚まで真っ赤だ。

 今時、ここまで初心い女、いるもんなんだなぁ。中高生だって、興味津々に見るくらいだろうに。
 我が姉は、ホント、鈍い……つか、ズレてる。
 まぁ……それが、最高に可愛くて……そういうところ全部含めて、大好きなんだけれど。
 俺って、なんて姉馬鹿……うん、自覚してるよ、昔からさ。

「あぁ……格闘技は格闘技でも、ベットの上の格闘技だったみたいだなぁ」

 俺、しれっとして言ってやる。

「っ……尽、ちょっと、コレぇ……」

 うずくまった状態で、顔を俺の方に向けてくる。

 うわ、顔が見事にトマトで、涙こぼしてる。
 そんなに、恥かしいもんか?

 俺は、わざとビデオを止める事なく、流したままにしておく。
 映像は、相変わらず、男女の交わりを赤裸々に映し出している。
 女のなまめく声と、淫らな音。
 耳を塞いだって、完全に聞こえなくなるワケないだろうに。

「後学の為に、見とく気とか、ない?」

 俺、くすくす笑って言うと、ねえちゃん、目を険しくした。

「そっ、そんなの、こんなの見なくたって……!」

「ふぅん、見なくても、できる?」

「……! そーいう事じゃないのぉ! も、もう、消してよ!」

 ビデオのコントローラーは俺の手の中。

「……尽! あっ、あんたは……もしかして、こんなの……」

 余裕綽々の俺の態度に、そういう問いかけをしてくる。
 そりゃ、もう、日常茶飯事で……と、素直に答えると、また、ねえちゃんに激しくブーイングされそうだな。

「俺もお年頃だし、ね」

 とりあえず、遠まわしに肯定する。こんなので嘘ついたって仕方ないし。

「じゃ、まさか……」

 まさか、なに?
 俺が、ねえちゃんの質問の意味をはかりかねていると……ねえちゃん、結構な事言い出してくれる。

「した事、あったり、して?」

 した事……って、自慰のほうじゃなくて、経験の方指してる?
 今度は、俺が唖然とした。
 なんで、急にそこまで行くかな、思考がさ。

 ねえちゃん、ビデオの事忘れて、俺の方じーぃっと見てる。
 瞳に浮かぶのは好奇心? ううん、それだけじゃなくて、どことなく不安そうで……寂しそう。

「あ〜……」

 どう答えたものか。
 素直に言っても良いけど……。

「した事……ある、と、したら?」

 ねえちゃんの反応が知りたくて、そう言った。
 途端に、ねえちゃんは目を丸くして……うにゅ、と、泣きそうに表情を崩した。

「尽……もう、大人なの? ……私だって………なのに……。尽……」

 私を大人にしてっ!
 とでも、言ってくれれば俺、この場で即行でだって……。

「裏切り者ぉ!」

 ……って、なんだ、そりゃ。 

「弟がもう大人になってて、私はまだ彼氏さえいなくて……ううっ……それって、もしかして、すっごい屈辱? あうぅ……」

 カーペットの上できゅっと拳を握り締め、俺をじっと睨み上げてくる。
 まぁ、そういう経験って、別に競争じゃないと思うし……好きな人とできれば、それに越した事はないと思うんだけど……。
 俺、だから、ねえちゃんと、さ……。

「…………俺も、まだ、だよ……」

「え?」

「俺も、まだだよ。した事ある、って断言してないじゃん」

 ため息混じりに告白した。

「そ……か……」

「うん、だから……俺……」

 ほっとしたように力を抜くねえちゃんに視線を合わせたまま、ねえちゃんの傍まで近寄る。
 俺の行動に困惑するねえちゃんを真正面から見る。

「ねえちゃんと、さ……」

 戸惑い続けるねえちゃんに構わず、続ける。

「ねえちゃんと……したい、な……」

「……ッ? ………………!!?」

 ねえちゃんの真ん丸く見開かれた瞳に、俺は微笑みかけた。
 俺の本当の気持ち。かつて、祈りや願いであったもの。
 でも……祈りや願いみたく、他人任せになんかにせず、俺は、自分の手でそれを成し遂げるだけの行動を起こしてしまった。
 ……ねえちゃんのたったひとつの想いを俺に、俺だけに向けてもらって、姉弟とかそういうこと一切関係なしに……抱き合いたいんだ。

 ふたりは、無言のまま見詰めあう。
 真摯な俺、困惑というより混乱している様子のねえちゃん。

 けれど、テレビ画面は、相変わらずエッチなシーンを流し続け、声と音が嫌が応でも耳に入り込む。

『ああーっ、あっ、あっ……ああん! もう、イッちゃうぅ! はっ、あぁーーッ!』

 どうやら、クライマックスらしい。
 女のエロティックな喘ぎ声がひときわ甲高く上がる。

 ねえちゃん、その声に気を取られて、顔を真っ赤にして、俺から目をそらした。
 俺、ヘンな気分になってる。
 ひとりきりなら、自分を慰める事になってたろうけど、今は、目の前にねえちゃんがいるから……。
 俺からのあんなセリフ耳にして、ねえちゃんが何も反論してこないのは……きっと、ねえちゃんもそんな気分になっているからだろう。
 男でも、女でも……発情した他の存在の声を耳にしたら、自分自身も発情してきちゃうもんなんだろうと思う。
 視覚と聴覚からくる媚薬みたいなもんだな。

 俺、ねえちゃんの頬に触れる。
 ねえちゃん……びくん、ってあからさまに身体を震わせて、俺を振り仰いだ。

 瞳が、怯えてる。
 でも、それは熱く潤んでいて……かすかに開いた唇から吐き出される吐息は、なんだか、少し、普段より乱れている。
 姉ちゃんの頬、上気していて、熱い。
 指先で、頬の産毛をなぞる。涙が微かに溢れている目尻に沿わせる。
 ねえちゃん……従順に目を塞いだ。

 俺に、応えてくれる、のか?

 何も、言わない。
 ……俺も、ねえちゃんも。
 でも……だから……。

 唇を、重ねた。

 ちゃんと、今度こそ、互いに了解しあって……俺からの強制じゃなく、ねえちゃんは酔っているんじゃなく……ちゃんと、ふたりの想いで、唇を重ねたんだ。


 ……愛してる……


 俺の想いは、ねえちゃんに届いたんだろうか?
 ねえちゃんの想いは、まだ……俺には掴みきれないけれど。

 ねえちゃんは鈍いから、もしかすると、自分自身の想いにさえ気付いていないのかもしれない。
ねえちゃんも、俺の事、単なる弟としてじゃなく感じてくれているのが分かるんだ。
 だって……重ねた唇……最初は俺からだけの行動が、そのうち、ねえちゃんも自然と俺に応えてくれるようになってきたから。
 酔ってるねえちゃんとキスしたあの日と同じように、素直に、俺を、求めてくれるから……。

 俺に応えてくれるようなったねえちゃんを、もっとちゃんと感じたくて……けど、俺、どうやれば上手く感じあえるのかが分からず、ただ、無我夢中でねえちゃんを求めた。
 身体が動くように任せて、ねえちゃんを求めて……抱きしめた。
 ねえちゃんは……俺の腕に強くしがみついてくる。

 俺が方法が分からなくて困惑する以上に、ねえちゃんはきっと全てに混乱してる。
 俺は自分の気持ちをもうずっと前から自覚しているけれど、ねえちゃんは、まだ、はっきりと自覚していないだろうから。

 ねえちゃんを、抱きたい。
 この場で、今すぐ。

 気持ちが先走る。
 まだ早い、と、告げる理性と先走る欲望がせめぎあう。

「………っ……ねえちゃん……俺、ねえちゃんのこと、好きだから……」

 唇を離し、焦点が定まらないでいる潤んだ瞳を見詰めて囁きかきる。
 ねえちゃんは、反応せず、ただ、呆然としている。
 やっぱり、混乱しつづけているんだろうな。

 もう一度、夢中で口付ける。
 そうするしか、できない。

 理性と欲望……いや、もう、渇望といった方がいいかもしれない……それらが、俺をねえちゃんを抱きしめる行為に駆り立てる。
 それ以上は進めない。
 けど、もう、後戻りできそうもないから。
 だから、ただ、ねえちゃんの全てを貪るように口付けを続ける。

 抱きしめたねえちゃんの細い身体を、もっと強く抱いて、その身体の感触を、俺の身体で感じる。
 深く、強く、激しく……ねえちゃんの唇を、口内を……舐めとって喰らい尽くす。
 抱きたいという欲望に動かされて、手が勝手にねえちゃんの身体を這い回る。

「っ! っ……んっ!」

 びくびくと身体は反応するけれど……でも、逃げようとはしない。
 さっきから理性が必死でブレーキをかけてるけど……俺、抵抗しないねえちゃんについつい行動がエスカレートする。
 俺の身体に密着していたねえちゃんの身体を少し離して、その胸に触れた。

「っ!!! んっ、ふっ……!」

 最初はやわやわとその形をなぞるように動かし、その形を堪能する。
 ねえちゃんの、身体は、俺のその愛撫に律儀な反応を返してくる。
 びくびく身体が震え、微かに逃げようとしているのか、脚をもじもじと蠢かせる。俺のシャツの胸元を強く掴んでいる手に、力が入る。

「っ……んっ……」

 唇を離そうと顔を捩じらせるのを、俺は許さず、胸を愛撫するのとは反対の手でねえちゃんの頭を強く掴んだ。

「んっ……っ!!」

 その弾みに、というか……俺はねえちゃんの胸を強めに掴んだ。
 柔らかく、弾力のある胸。
 ブラの上からだけれど、ねえちゃんの胸の心地よい感触が雷みたいに一気に俺の脳髄を直撃する。

「っぁ……んんんんっ!!」 

 びくんびくん、と、ひときわ激しく震えるねちゃんの身体。 
 なんか、反応がさっきまでと違う。

 抵抗していた舌の動きが止まり、激しく震えた後の身体も緊張するみたいに硬直して……脚だけがもがくように引き攣るように動いた後、微かにぴくぴく蠢めき続ける……まるで痙攣するみたいに……。

 異様な状態に驚いて、唇を離せば……ねえちゃんは……俺の腕に自分の身体を全てを投げ出してきた。
 ねえちゃんの身体の重みの全てががダイレクトに俺の腕に転がり込む。

「ねえちゃん!?」

 まさか、気絶した?
 半眼に開いた目から流れた涙がこめかみを伝い、唇は開き、肩を上下させるほどの荒い息遣いをしている。顔は真っ赤にゆで上がっていて……体の熱が、すごく上がってる気がする。

「っ……んんっ……はっ」

 喉の奥からもれる声に、ねえちゃんが無事だと分かってほっとするけど………。

「ぁ……はぁ……んっ……ぁぁ……」

 どこか切なげな声が漏れるたび、呼吸が整えられていって、今まで俺に委ねきっていた身体を自らの意思で動かし始めた。
 そして、ねえちゃんはゆっくり動き出して……突然。

 ぱしん
 と、軽快な音が響いた。

 あれ?
 思い切り、ビンタくらった。

「っ……ばかぁ!!!!」

 ぼろぼろ泣きながら、ねえちゃん、もう一回、別な方の俺の頬を打った。

 うっ……やっぱり……ねえちゃんはねえちゃんだったか……。
 つか、ひたすら泣くねえちゃん……に、俺、胸がズキンズキンする。
 すっげぇ、罪悪感が……いや、なんか、ここで罪悪感も間違っている気もするんだけど……だって、さっきまで、ねえちゃんも合意してくれてて、ラブラブだったはずなのに……。

「も……私……ホントに………」

 しゃくりあげて、言う。

「こんなんじゃきっと……誰とも付き合えない…………なんで、尽に……尽相手に……」

 ぽろぽろ止まる事のない涙をくしっと手の甲で拭って、ふらつきながら立ち上がる。

「ひゃっ……ん……!」

 ねえちゃん、立ち上がった途端、妙な悲鳴をあげる
 え? 俺、何もしてないのに……。

「も……ヤダぁ……」

「ねえちゃん?」

 俺が心配げに声を掛けると、ねえちゃん、うにゅ、と、また泣き顔に表情を崩して……俺の部屋から飛び出していった。

 ねえちゃん???
 もぉ、わけ分からんっ!!

 でも、さ……。
 んん?
 なんか、あの、反応……俺だって、経験ないけどさ……。 
 ん〜〜??

 もしかして……もしかして、だけど…………その……………………………イッたの、か?
 キスと、胸への愛撫だけで……………。


 ……………………。


 ……………………。


 …………………マジ?

 でも、なんか……そんな気が、する……。

 だとしたら、俺………すっげぇ……嬉しい……かも。
 俺が、ねえちゃんを…………。

 顔がにやけてきて……それから、さっきのねえちゃんの反応を改めて思いだして……俺、またも身体が元気になってきた。
 いや、さっきキスしている間だけでも随分、育って来てたんだけど。
 これで……ビデオなんてなくても、しばらくおかずには事欠かないね!
 さっきのねえちゃんの色っぽい表情思い出せば、何度でも……。

 ねえちゃん……だから、お願い、早く俺への気持ち、自覚して。
 俺、ねえちゃんを抱きたいたいけど……それって、単なる肉欲じゃないから……好きだから、抱きたい。好きだから……好きになって欲しい。いや、好きだと自覚して欲しい。
 俺が何度「好きだ」って言ったって、キスしたって、ねえちゃんが自分自身の気持ちに気付いてないままじゃ、何も進展しないから。
 鈍すぎるねえちゃんに、俺が今できるの、きっと、ここまでだろうと思うから。

 咲きかけた花の蕾を無理にこじ開けても、きっと、綺麗な花は咲かないだろう。傷つけちゃうだけだろう。
 だから……自分で、咲いてよ。気付いてよ。
 それは、祈り、だな……他力本願……鈍すぎるねえちゃん頼りの。
 



「やだ、私……私、さっき……どうして……抵抗できなかったの? ワカンナイよぉ……。それに……あれって……よくわからないけど、きっと、あれって、あの変な気分って…………あうぅ。私、弟相手に、どうして……。っ、や……まだ、体、ヘン……んっ、あ、んっ……。もぉ、やだぁ……私、どうしちゃったの? どうすれば、いいの!? ううっ……」






つづく




--BACK--





<言い訳とか>

ギリギリ? でもない??
びみょ〜。(苦笑)

ねえちゃん、キスと胸を揉まれて…・・・いっちゃったかも。
尽って、やっぱり天性のテクニシャン?(笑)
つか、日々のお勉強の賜物?

これこれこれ、表なのに……(^^;)。

ふたりが組んづほぐれつの
(ベットの上の)格闘技にまでなだれ込むのは、
きっともう近い将来……でも、まだ少し先でしょうか。
ねえちゃん、ここまできても自覚してないしな。