女心と秋の空? 「おまえさ……」 久しぶりに大学構内で葉月くんに会った。 学部が違うと滅多に会わないものだし、広い大学構内には売店や食堂がいくつか点在しているからお昼時にも会う事もないものなんだけど……。 これって、運命? なんて、ナイナイナイ。 葉月くん、あきらかに私目指して歩いてきたもの。 多分、私を探してくれてたのかな? 今いる食堂って、葉月くんの学部では滅多と使わない区域のハズだから。 で、多分、内容と言えば……。 そうなのよね〜。 数日前に志穂さんに捕まって大笑いされ、タマちゃんからめいっぱい心配されたメールが届き、守村くんさえ私にわざわざ会いに来てくれた。 遠方の瑞樹さんからも連絡あったのよねぇ。 ホント……なんていうか、もう……なっちんのクチコミパワーには脱帽するわ。 タマちゃんや瑞樹さんの言葉からすると、三原くんや鈴鹿くんあたりにも連絡行っていたみたいね……。 あ、ちなみに姫条くんは、さすがになっちんの事把握してて……「えらい迷惑かけたなぁ」って、謝ってくれた。いや、なっちんも私を心配してくれてやってた事だからね……。 でも……目の前の葉月くんを見ると、なんとなく気鬱になっちゃう。 葉月くんも、おそらくその件だろうけど……。 ただ、葉月くんと日比谷くんに宛てられていた連絡は……多分、他の面々への情報とは違う、ハズだから……。 一体、どんな内容だったんだか……。 葉月くんの、眉根を寄せて困惑した表情からするに……あんまし、想像したくない、カモ。 「藤井から連絡来たんだけど……」 「っ、やっぱり……」 私、飲んでいたジュースの缶をぐっと握り締めた。スチール缶だから潰れやしなかったけど、いや、私の場合アルミ缶でも潰れるかどうか怪しいけど。 ついさっきまで一緒にお昼を食べていた友人達は、葉月くんが来た事に、気を利かせて席を移っていった。 いや……どんな気の利かせ方なんだろ……。 葉月くんは、私の正面の席に座り……何か、とっても言いにくそうな表情をして、視線をさまよわせている。 一体、何? なっちん、葉月くんに何を言ったの? どきどきしている私の目の前で、葉月くんは私に向き直って、ゆっくり口を開いた。 「何ていうか……何ができるか分からないけど、もし、して欲しい事あったら言えよ? 力になるから、俺」 「はいぃ?」 何? 何なんでしょう? 「まさか、おまえがそんな事になっているなんて……。前会ったときも、全然そんな素振り見せないし……」 眼差しを伏せて、辛そうに言う。 いや……ホント、何のことやら、さっぱりなんですけど……。 「こんな事なら、俺……」 形のいい唇をくっと噛む。 えーと???? 葉月くんがどういう情報をなっちんから流されたか皆目見当がつかないから、どう突っ込んでいいかも分からない。 「後悔してるんだ、俺……だから……」 じっと、真剣に私を見詰めてくる。 あ、葉月くんの緑の瞳、綺麗。 やっぱり、カッコイイなぁ、葉月くん。 目の保養、目の保養。 私が葉月くんにほけっと見惚れているのを、葉月くんはどうとったんだろう? 言葉を途中でとぎって、大きく息を吐いた。 「………あのさ……」 はい? 「今日、講義何時に終わる?」 「えーと、午後から二枠だから……4時過ぎだと思うけど?」 「その後、予定は?」 「今日は、友達と夕食を食べに………………っ!?」 ぱこん、と、後ろから殴られた……気がした。 慌てて後ろを振りかえって……背後の席に、どこかで見たような女友達数人の姿。殴った事なんて知りませーんとでも言うように澄ました顔しているけど……絶対殴ったでしょう!? その手に持った、丸めた雑誌で!! ううっ……ヒドイ……。 つか、なんなのよ、皆そろって、その厳しい眼差し……。 ――私達との約束より、そっち優先。今日の約束は白紙。つか、経過報告に期待する。 はい? 耳元でヒソヒソと早口にまくし立てられて……私、ワケワカンナイっ! 「私達、先に行くね〜。どうぞ、ごゆっくり〜」 あ、ああっ。私だけ置いてくのぉ!? なんなのよぉ!! 友人達は、そそくさと行ってしまった……。 一体、なに!? わけわかんないけど……なんか、勝手に夕食の約束は白紙に戻されたようなので……。 「特に、予定なくなっちゃった……」 ううっ。 言うと、葉月くんは、苦笑いを浮かべながら言葉を続けた。 「それじゃあ、俺に付き合ってもらってもいいか?」 うん。 予定ないし、いいよぉ。 今度は、葉月くん、ふんわり優しく笑って、私の頭をくしゃっと撫ぜた。 「4時過ぎ、待ってる。校門前で」 なんか、もう、見惚れちゃうくらい綺麗ね〜、葉月くんってば。 優雅な仕草で立ち上がって、去っていく葉月くんの後姿もまた、カッコイイ。後姿だけで、こんなに絵になるって、さすが葉月くんだわ。 で、本気で葉月くんに見ほれてた私だったんだけど……その姿が視界から消えて、はっとする。うん、自覚してる。鈍いってば、どうせ……。 そう、一体、葉月くんってば何を言っていたのかしら? きっと……元はといえば、なっちんの情報……。 一体、どんな情報だったのぉ!? 気になる……気になる……。 ――で、その直後になっちんに問質しのメールを出したのはいいけれど、返事は一切こなかったのでした。 いつもなら、いつでもどこでも大体数分以内でレスがくるのに……。絶対に分かってて無視したなぁ……もぉぉう!! なっちんの、お馬鹿〜〜〜!! 「もしかして、迷惑なら、そう言ってくれていいから」 葉月くんと行ったのは、雰囲気のいい静かなレストラン。 レストランの壁際、他の人に会話の聞こえないような場所に席を取って、葉月くんはそう切り出した。 「迷惑なわけないけど……えっと……」 何の話かなぁ? ダイレクトに聞くのも、怖い気がするの、私。 「おまえのプライベートだし、俺に言わなかったのは、多分、俺がおまえに信用されていないからだと思うけど……どうしても、聞きたかったんだ、俺。おまえ自身から……」 信用してない? そんな事ないよ?? 葉月くん、大事な友達の一人だもん! でも……私のプライベートって……? 「身体、もういいのか?」 「え? えと?? うん、元気、だけど……?」 「相手の事は、聞かない。でも……家族には、話したのか? その事」 その事? どの事? そもそも、相手って?? 困惑して、返答もできない私を別な風に捉えたらしい葉月くんは、ひどく沈痛な表情をして、髪の毛をくしゃり、とかきあげた。 「ごめん。やっぱり、余計なお世話だったな、俺……」 とても、とても辛そう。 「葉月くん?」 声を掛けると、苦笑して顔を上げる。 「……俺、怖くて、ずっと言えなかった。けど……今なら、言える気がする……。おまえの弱みに付け込む事になるのかもしれない、けど……俺……」 言いかけ、言葉を止め、もう一度息を吐き出して、呼吸を整えている。 「ああ……ごめん。やっぱり……」 うう、いつになく煮え切らない葉月くん。 何、何なのさ。 気になるってばっ。 連載漫画や小説じゃあるまいし"待て、次号!"なんて事ないでしょーね!? 「やっぱり……嫉妬、してる。おまえをそこまでさせた相手に。おまえは本気だったんだろうな、きっと……」 なんか、葉月くんの中で勝手にお話進行してません? 葉月くん、目を覚ましてっ!! つか、いっくら鈍い私でも、そろそろ葉月くんへ流されたなっちんの情報が、相当に私の身の上を偽ったものであるのが分かってきた気がする……。 だから、ここはいっそ、と、思って口を開いたの。 だって、葉月くん、本気で心配して心を痛めてくれてるみたいだもん。 「……葉月くん、あのね……なっちん、一体どんな事を葉月くんに言ったの?」 「藤井のせいじゃない。俺が、気になって聞き出したんだから……」 「じゃなくて、多分、葉月くん……」 ホントの事を言ったら、それはそれで葉月くん傷つくかなぁ、なんて思いながら口を開いた。 「葉月くん、なっちんに騙されてる、かも……」 「え?」 目を丸くする。 あ……驚いた顔の葉月君、カワイイ。 じゃなくて……。 「だって、おまえ……おまえが、その……男に騙されて、子供おろして、自殺未遂したって……」 はい? ………………………。 ………………………。 ………………………。 ………………………!?!? ………………………!?!?!?!? 絶句、だった。 一瞬、何の事言われているかわかんなかった。 いや、もう……。 なんか、もう……。 ここまで来ると、いっそ、なっちんアッパレ? 私、今まで誰とも付き合った事がない、って知ってるくせに……!! いきなり、子供なんかできないもんっ!! ホント、なんて情報を流すのよぅ!!! 葉月くん、本気にとっちゃってたじゃないよ!!!!! ぷんぷんぷんぷん。 久しぶりに、頭にきちゃった。 鈍い私でも、怒るときは怒るのっ! 私、子供ができるどころか…… 「キスだって、尽としかした事ないのにっ!!!」 叫んじゃってました。 で、あんまり頭に血が上ってて、自分が叫んだ言葉を理解できてなかったけど……。 「えええええええーーっ!?」 「しぃ〜っ! 声、大きいっ!!」 少し離れたところから上がるどこかで聞いたようなふたり分の声に我に返り……目の前の葉月くんの唖然とした表情を目に止め、自分の叫んだ内容を理解したのでした。 「っ!!!」 いやさ、叫んだ内容も失敗だったなぁ、と、思ったんだけど……。 「…………………なっちん、志穂さぁん……」 あの声は、確実にこのふたり。 重い声で唸っちゃったわ。 「あ、あははは〜〜」 案の定、ふたりが鉢植えの向こうの席からひょっこり現れた。 「ごめんなさい。盗み聞きなんて反対したのだけれど……」 居直ってケタケタ笑うなっちんと、申し訳なさそうな顔をする志穂さん。 でもって、葉月くん、まだ、唖然とした表情のまま。 「あはは〜。いや、だからさ、きっかけをあげようと思ったわけよ、私。あんたのその事情聞いて、ひいちゃうようなヤツならこっちから願い下げなわけだしぃ……とと……。あっ! ああ! でもさぁ、あんたって、弟とキスするような趣味を持ち合わせていたわけか。まぁ、あの弟相手なら、こう、むらむらっときても仕方ないというかなんというか、うんうん。ほら、葉月くん、良かったね〜。この子が大事に至ってなくてさ〜あはははは……」 その場を何とかごまかそうとして色々言いつくろっているつもりなんだろうけど、各所で墓穴堀まくりだって、なっちん!! 葉月くん、唖然とした表情を徐々に崩していって、頭を抱えちゃった。 私だって、涙目でなっちんを睨みつけてる。 まったく、まったく、まったくぅう!! 「なっちん、言っていい事と悪い事、あるでしょう!!」 珍しく怒鳴る私……もっとも、私の声と口調じゃ、怒鳴り声に聞こえてなかったみたいだけれど……でも、私、本気で怒ってるんだからっ!! 「今回のは、あんまりヒドイよっ!」 私の激昂ぶりに、なっちんは、一応申し分けそうな表情をしている……けど……。 「いくら、私の事心配してくれてたって、葉月くんまで巻き込んで、こんな事……!!」 言い募ろうとした私を上目遣いで見て、口を開いて……。 「あのさぁ……今回の事はホント反省しているし、このとーり謝るっ」 手を合わせて頭を下げる。 珍しく、殊勝ね。 やっぱり、自分のした事、ちゃんと反省してくれてるだ……。 なんて、情にほだされかけた私だったんだけどぉ……。 「でも、ね……ちょっと、聞いてもいいかな?」 「なに?」 「あんた、尽とキスしたのって……子供の頃の話、だよね?」 「……!!」 思考がぶっ飛んじゃった……。 そこ、突っ込まれるとは思ってなかった……。 いや、さ……思わず口走った事、さっきはちょっと後悔したけど……私のその問題より、なっちんのデマ問題の方が断然大きいから……。 「いくらなんでも、弟相手のキスじゃ、キスのうちにも入らない、よねぇ?」 うっ……。 私……嘘、つけないの。 徹底的にヘタだ、って事もあるけど……つくと、すっごく気分が悪くなってきて、吐き気さえするの……。 だからといって、誤魔化して誤魔化されてくれるるなっちんじゃないし……。 「いや……あの……」 「まさか、つい最近の事?」 「………………うん……」 「マジ!? つか、なんで、どっちから!?」 あああ〜……そんなに目をキラキラさせて……しかも、いつの間にか、隣のテーブルから椅子持ってきて座り込んでるし。 「………あの子の、方から………」 「ええ〜! なんて、なんてっ!? ねえちゃん、好きだ、とか言ったりして!?」 ううっ……。 じっ、実はかなりその通りなんだけど……なっちんのジャーナリストの卵のカン、さすが……将来歴史に名を残すゴシップジャーナリストになれるわよぉ。女パパラッチもイケル。 でも、でもでも、そんなの言えないいし、言いたくないよぉ! だって、あの事は思い出だもの。私と尽だけの……。だから……。 私、うつむいて、首をぶんぶん横に振った。 もお、誤魔化すしかない。 無駄でも、誤魔化すのっ。 「ねえねえねえっ!!」 言いつづけるなっちんを振り切る。 振り切って、黙秘っ!! 「もしかして、舌、入れた、舌!?」 うわっ。げっ、下品……。 いや、実は、そう、なんだけど………そんな事、なんで言えるのよぉ! 「教えなさいよぅ! なに、禁断の姉弟愛!?」 『禁断の姉弟愛』 ……っ!? ひゃあああぁぁ!!! ……なんか、もう……嫌な響き……あぁぅ。 つか、なっちん含め、一部の人の耳にはとても甘美に響いていそうな言葉な気がするけど……。 なっちん、普段比150%の張り切りよう ホント、こーゆーネタ、好きなのね……。 でもでも、なっちんの言うようなそういうの、ないもん。 私と尽は、多分、ふつーの姉弟より、ほんのちょーっとだけ仲がいいラブラブ姉弟だもん。 でも、ここでこれ言っても、なんか、ますます深く突っ込まれて、嘘をつけない私は、きっと自ら墓穴を幾つも掘っちゃいそうだったから、やっぱりひたすら黙秘を続けたの。 で……困り切ってる私を見かねて、助け舟を出してくれたのは……葉月くんと、志穂さんも。 「時に、藤井……そろそろ、なんで俺にそんな嘘をついたのか、話してくれてもいんじゃないか?」 「藤井さん、今回の件はあんまりだったわね。葉月くんも事情を知る権利、あると思うのだけれど?」 ああああ〜やっと、なっちんの意識が私から離れた〜〜。 助かったよぉ……。 で、困ったのは、なっちん。 普段、あんまり口数が多くない分、葉月くんの睨みや、かすかに怒った声には相当な威力がある。 結局、なっちんはしかられた子犬のように尻尾を巻いて、事情説明するハメになったのでした。 もっとも、その事情説明には、私の事が大きく絡んできているものだから……私のほうが、なっちんより困ったかもしんないけれど。 「そうだったのか……」 なんて、言いながら私をチラリと伺い見る葉月くん。 いやあああぁぁ。そんな目で見ないでぇぇっ!葉月くんの眼差し、なんかとっても珍しいもの見るような雰囲気なんですけどぉ!? あうううっ……。 どうせ、私、この年までマトモに恋愛した事ない天然記念物よぉ!! なっちんも、素直にゲロしすぎっ。ダイレクトすぎっ。 私のプライベートな部分もあるんだから、もっと、こう、糖衣とかゼリーとか贅沢は言わないから、せめてオブラートくらいでくるんで伝えてよぉ! 私、ひとり、赤面しちゃってた。 尽との事をアレコレ突っ込まれるのもなんだけど、これはこれで恥かしいってば。 どっちにしろ、なんにしろ、なっちんのばかぁあっ!! うううっ。 結局……被害を受けた私と葉月くん、なっちんにばっちり夕食おごらせた。なぜか、志穂さんも上手い具合におごらせてた。志穂さんっ、さすがの手腕ねっ! で、それから4人で飲みに行ったりして……。 また、なっちんに恋愛についての説教されたり……。志穂さんに呆れられたり……。葉月くんは黙々と飲みながら、私の頭をくしゃっと撫ぜてくれた。 葉月くん、やっぱり優しいのぉ……ううっ……葉月くん、大好きぃ……えぇ? 違うのっ! 友達として、だってばっ。また、なっちんはヘンな誤解して……葉月くんが困ってるでしょう!? 何? え? 私、鈍い? なんで?? ここで、なんで、今更ソレを言われるわけ? 分かんないよぉ! 私、もしかして、いぢめられっ子!? うえええ〜〜。 ちなみに、その後、またも酔っ払った私、葉月くんに家まで送ってもらいました。 ごめんねぇ。迷惑かけてる……くすん。 で、なに? 尽?? 私、母さんにリビングまで引っ張っていかれたんだけど……尽が葉月くん引き止めて、外に出て行っちゃったような気がした。 尽、小さい時から葉月くんの事好きだったもんねぇ。 もしかして、久しぶりにお話してるのかな、とか思ったりして。 いいなぁ、男の友情。 もしかすると、男兄弟いないから、尽ってば葉月くんの事、おにぃちゃんみたいに思ってるのかなぁ? うふふ……葉月くんがおにぃちゃん、か……って、私と葉月くんが結婚したら、葉月くん、実質尽のおにぃちゃんに!? なんて………ちょっと、考えてみただけ〜。 そんな事、ぜぇったいないもん。うふふふ〜〜〜。 …………………おやすみ〜〜〜〜……ぐぅ。 END |
<言い訳とか>
続かない、と、言っておきながら、また、続かせました。
そして、題名は相当こじつけ。
単に、秋という字がついていればいいのか(^^;)
前回四文字熟語だったから、今回は諺に……(苦笑)。
内容と意味が合致していません!(居直り)
でもって、尽主話のくせに、今回はむしろ葉主。
つか、友情話?
尽の出番ございませんでした。
ヒキらしいもの、作ってしまいました……。
次回、続かせます……多分……。
でないと、尻切れだもんね……。
次回こそ、尽が活躍(苦笑)してくれますように……。