一日千秋<後編>



 あれやこれやで……なっちんに色々いぢられて、家に帰ってきた時は、くたくた。お酒を飲んでいたせいもあると思うんだけど……。

 玄関まで尽が迎えに来てくれたんだけど……はあぁぁ……。

「疲れたぁ……」

 くてぇ、と、尽の首筋に腕を絡めてよりかかる。

 私、人肌が好き。さすがに見知らぬ人や男の人相手にはべたべたしないけど、女友達とか身内とかにはついついべたべたしちゃうの。
 酔っていると、特にそれはヒドイみたい。
 尽、何度かこぼしてたから。
 ホントはいい年した女が、あんましこういう事をしないほうがいいって思うんだけど……う〜ん、もう、身についた癖みたになってるの、かな?

「……。ねえちゃん……」

 尽から、ため息。

「どうせ、また、奈津美さんに色々からかわれたんだろ?」

 ああ、もう。尽にはバレバレで。

「うう〜」

 唸る私を、ずるずる引きずって、リビングまで連れて行ってくれる。

 尽は、首に回した私の手をはがして、ソファーの上に、身体をそっと放り投げる。

「はあぅ」


「水、持ってきてやるよ」

 あんた、ホントにいい弟ね〜〜。
 私には勿体無いくらい。
 なっちんじゃないけど、弟じゃなきゃ、私、あと5年待ってたかもしれないわ。ううん、5年なんて待たないでも、尽はもう十分にイイ男。

「はい、ねえちゃん、水」

「ありがと〜」

 起き上がって、コップを受け取る。

「あ、レモン水……」

 レモンのイイ匂い。
 コクンと喉に通すと、すっきりした感じ。もやもやした頭にも疲れた身体にも、スーッとした心地よさが駆け抜ける。

 ホント、気のききすぎる弟。
 コクコクとレモン水を飲み干すと、自然と笑みがもれてきた。

「はぁぁ〜……生き返った〜」

 テーブルにコップを置いてそう言うと、私が水を飲み終えるのを待っていてくれたのか、尽は苦笑しながら私の隣に座った。

 なんか尽って……仕草が大人っぽくなったなぁ〜。身長も高くなったし、体つきもしっかりしてきたし……やっぱり、男の子なんだ。
 じっと尽を見てしまう。

「なに?」

 くすっ。
 小さく笑う尽も、妙に大人っぽくて……なんか、悔しいの。

「なんでもなぁい……」

 ふーんだ。まだ15歳のくせに、さ……。
 ……もしかして、おねえちゃんの私の方が、子供っぽいかも……ううっ。

「奈津美さんさ……」

 ぼそっと、と、尽は話し始める。

 ん? 今日の事、かな?

「ねえちゃんに、随分、男を紹介したがってたよね?」

 ああ……そうね。尽がいる間も、何度かそういう事言ってた気がする。
 でも、結局、なっちんの結論は。

「なっちん曰く、葉月くんか日比谷くんと付き合ったら? だって……。私、ふたりも、そういう風には見られないんだけどなぁ……」

 私が言うと、尽は苦笑い。
 ほら、やっぱり、尽もそんなのヘンだって思ってる……でしょう?

「ああ……日比谷はともかく、葉月は、な……。ねえちゃんにはいい相手かも」

「え?」

 そお?
 なんで??
 っていうか、葉月くん自身が私なんか選ばない気がするんだけど?

「そんな事、ないだろ。あいつが本気になったら、きっと……」

 う?
 何を言いよどむの、尽?

「うん……」

 ヘンな子。
 私の問いかけに、尽は押し黙っちゃった。
 ま、いいケド……。

 そうよね、なっちんがひとり張り切って、葉月くんと付き合え、だなんて言っても……結局、葉月くんの気持ち次第なんだもん。
 恋人として、なんて、絶対私なんかが葉月くんに相手にされないから、いいんだ〜。
 いや、別に不貞腐れているわけじゃなくて……葉月くんって、私にとっては珍しくペースの合うほのぼの友達だから、失いたくないなぁ……なんて。そこに、今のところ恋愛感情なんて、はさめない気がするし。

「ねえちゃんって、今まで好きになった男もいないわけ?」

 私のぼやきに、尽は大きなため息をついた。

 失礼ねっ!
 初恋くらい、さすがの私も………………………。…………。あるような、ないような……。

 尽、完全に呆れた顔してる……。
 ううっ……馬鹿にしてるなぁ、思い切り……。

「小学校の頃の俺の苦労って、なんだんだろうなぁ……。ねえちゃんにせっせとイイ男の情報流してやってたのにさ。ホント、究極のニブさ。俺の努力、実を結ぶどころか、芽も出てなかったのか」

 大仰に肩をすくめる尽。

 むむっ。
 さすがに、私もそこまで言われるとムカツクわよ?

 尽の頬をうにっ、と、引っ張る。
 あ、頬に肉がない……なんか、自分のと比べて悔しい。

「てて……」

 私の手をそっと押しやって、尽は私の頬をつねり返してきた。しかも、両の頬を。
 うっ、倍返し!?右の頬を打たれたら、両頬を打ち返せ!?
 尽、ヒドイ……。

「まったく……」

 うにうにと私の頬肉をつねって弄びながら(いや、軽くつねられているだけだから痛くはないんだけどね)、尽は苦笑する。
 少し、切なそうで……大人っぽい表情。

「ねえちゃんって、ガキ……俺以下か?」

「あんたが、マセてるのっ!」

 むっとして言い返すと、尽はあははと笑う。

「うん。ねえちゃんの先行ってる自覚、あるし」

 小首をかしげて、じっと私を見詰める。

 そう、見詰めるの……。

 ………あ、ダメ……この眼差し……前に見たこと、ある。
 真剣で、ちょっと緊張したような……。

「だから、追いついてきて欲しい……」

 私の頬をつねる手を、今度はそっと両頬に添えて……尽の顔が近づいてきた。

「っ……!?」

 どう、反応していいか考えている間に……また……。

「!!」


 尽に、キスされた。


 私………………抵抗、できなかった。

 すごく……すごく……。
 ………心地、よかった。

 柔らかくて熱い唇の感触が、私以外の人の熱が、敏感な唇から伝わって、全身をほんのり暖かくする。

 キスって、気持ちいい。
 どうしよう、すごく、気持ちいいの。

 尽の唇が動いて、私の唇をそっと吸い上げる。

「っ……んっ……」

 両頬に添えられていた尽の手は、私の背中に回り、身体ごと抱きしめてくる。
 唇が深く重ねられ、舌が、ゆっくり唇の隙間をなぞり、歯列をなぞって……。

「ん、んんっ……」

 入り込んでくるのに、抗えない。

 尽の身体の熱。唇の熱。
 それが、私の熱と合わさって……全身を駆け巡るほっこりした熱が、頭をぼうっとさせている。熱にうかされたように、思考が奪われている。

「んっ!」

 お互い、たどたどしく触れ合う舌は、そのうち、尽主導で互いに絡まりあう。

 はじめてなのに……どうしたらいいか分からないのに……でも、気持ちいい方に気持ちいい方に、勝手に身体が反応して、動いていく。

 やっぱり、人の温度って、気持ちいい……。

「っ……ん、ふっ……」

 そっと離れる唇に、尽の吐息がかかる。

「ねえちゃん……」

 熱気をはらんだ呟き。

「なんで、抵抗しない?」

 少し、苛立ちが混ざってる?

 抵抗……。
 どうして?
 だって、尽が始めたんでしょう?
 私、気持ちよかったし……。

「姉弟でしちゃだめ、って、前に言ってなかった?」

 うん。
 いけないよね。
 でも……どうして、いけないのかな?

「…………姉弟だから、だろ?」

 そっか。
 分かったような、分からないような。
 でも……もう一回、したい……。

「………。……ねえちゃん……」

 そうだ。
 なんで、姉弟でキスしちゃいけないんだろう?
 こんなに、気持ちいいのに……。

 恋人同士なら、いいのにね。
 でも、尽とは、恋人にはなれないの。
 弟だから。

 でも………キス、したいな。
 今度は、私から、尽の唇を求めた。

「ねえちゃ……っ、んっ!」

 大きくなったんだね、尽。
 私より、ずっと。

 背中に回した腕、昔はしっかり抱きしめられたのに、今はしがみつくだけでいっぱいいっぱい。

 私が尽を抱きしめる。
 尽が私を抱きしめる。

 ソファーの上に、ふたり、重なり合って……。

「っ………ねえちゃん……抱いて、いいの?」

 抱く……?
 抱きしめる?

 抱きしめるのは、好き。
 抱きしめられるの、好き。

 人肌、気持ちいいもん。
 だから、きゅっ、って、尽の背中、抱きしめた。

「ねえちゃん……っ!」

 尽の低いうめき声。
 それから、また、尽の唇が重なってきて………。

 すごく、気持ちいいの。

 頭の芯がしびれて、ぼうっとして……。

 私……。

 私…………………。

 多分、きっと………尽が…………………。

  ……………………………………………………。

 …………………………………………。

 ………………………………。

 …………………。
 
  ……。







「ん〜? んん〜〜??」

 あれれ?
 ここ……私の部屋。私のベッド。
 でも、違和感。
  私、なんで服着たまま寝ちゃったの?

 えーと……。

 昨日、私、なにしてたっけ?

 午後からなっちんと会って、喫茶店で長話して、尽が来て3人で長話して、尽と分かれて、カラオケ行って、ご飯食べて、お酒もちょっと飲んで………どうにか、お家帰りついたんだよね? あれれ? で、なんか、尽にレモン水もらったような……う〜〜? えーと……それから、尽とキスしたような……。

 うう……覚えてなぁい……。

 もしかして、私、記憶喪失!?
 それとも、若年性痴呆!?!?

 ………………。

 や、ともかく……起きて、尽に聞こう。
 あ、でも……まだ、6時すぎ。
 あの子が起きて来るまで、まだ時間ある、かな?

 とりあえず、私、楽な格好に着替えて、お風呂はいるために階下に下りていったの。
 そしたら……。

「あれれ? おはよー。尽。早いね〜」

 尽が、リビングにいた。

 めっずらしい。
 この時間に起きているなんて。しかも、ちゃんと服着てる。

 あれ? あれれ?

 でも、なんか、目の下に隈できてない? 疲れた顔、してない?
 あ、もしかして、夜更かし? 徹夜?
 まぁた、ゲームしてたなぁ。

「……………ねえちゃん……」

「ん?」

 暗ぁくて、重ぉい声。
 そんなに、お疲れ?

「もしかして……さ、昨日の夜の事……」

 あ、そうそう。
 うん。
 昨日の夜、何があったのかなぁ、って、尽に聞きたかったの。
 私、いつの間に自分の部屋に帰って寝てたのかな?

「………。ねえちゃん………やっぱり……」

「なぁに?」

「やっぱり、ねえちゃん、激鈍っ!」

 なに〜!?
 朝から、人を侮辱するなんてひどいっ!
 そこはかとなく自覚あっても、傷つくんだからっ!


「もぉ、俺……もたないよ〜〜!!」


 朝から、なに分かんない事絶叫してるの!?
 尽、だからさー、昨日、何があったわけ?

「ねえちゃん、一生独身。確定、な?」

 え? ええっ!?
 勝手に確定しないで。
 つか、なんで、そういう話になるのぉ?

「このままじゃ、ねえちゃん、絶対マトモな恋愛できないって。だから……俺だけにしとけよ、な?」

 意味わかんない、って〜。
 だから、一体、何があったのぉ!?



 ――結局……尽から、聞き出したのは……。

 私は帰ってきてからレモン水飲んで、少しお話した後に、ソファーで眠ってしまった。で、それを尽が私の部屋まで運んでくれた、との事だった。

 どうやって運んだのかといえば……おおっ、激励ものっ! お姫様抱っこ!!!

 すっごぉい、尽!!
 ねえちゃん、感動!!
 いつの間に、そこまで成長したのぉ!?
 今度、してね!?
 起きてる時にっ!

 目をキラキラさせていただろう私に、尽は唇を尖らせた。

「………もう、しばらくしないっ! 腰、痛かったんだからさ!」

 ううっ……そっか、私、重いよね、ごめんね。でも……もうちょっとダイエットするから、お願い〜!

 不承不承に頷いた尽に、私は指きりさせた。

 いいなぁ。
 お姫様抱っこ。
 うっとり〜〜。

 でも……アレレ?
 なんか、もっと、大事な事忘れてるような?
 それだけじゃくて、色々あったよな……?

 無意識に唇を指先でいじってた自分に気付いて、さらに首を傾げた。

 でも……まぁ、いいか。
 尽とお話したっていうんだから、きっと、いつもみたいな姉弟の会話だね♪
 私達、仲良し姉弟だもんね。

 ん? んん?
 尽??
 なんで、ため息??

「いったい、どれくらい待てばいいのかな? 次の秋が来る頃には、もっと、進展あるといいな……」

 ???

 何を待ってるの? ねえ、何?

 何なの!?

 尽? 尽ってば!?

 えええ〜? ねえちゃんに秘密!?

 もしかして、反抗期?

 やだぁ。尽〜〜〜!!

  え?え? あああ〜どこに行くのぉ?

 もぉ! 訳分かんないよぅ!!


 年頃の男の子って、なんで、こう、難しいのぉ!?





「ねえちゃん………ほんと、鈍い……。でも……きっと、俺を追いかけてきてくれてる……。そう、信じていいんだよ、な?」

 




END




--BACK--





<言い訳とか>

まとまりそうで、まとまらない(笑)。
ねえちゃんが、自覚しているかどうかは、甚だ不明。
尽、またも欲求不満、不発にて終わる。
おそらく、この晩、一睡もできなかったんではなかろうかと……(苦笑)。
一日千秋……尽は首をながぁくして待っているようです。
さぁて、いつまで待つのかなぁ?(笑)

ちなみに、この時両親は、在宅でした。
父は自室で母に内緒で買ってきたゴルフクラブを磨き、
母はお風呂&洗濯に(笑)。
ふたりの会話にこれを挿入しようとしたんですが、
雰囲気崩れるのでやめ。
キスして主人公が寝入ってしまった後、
母がひょっこり現れてそう。

とりあえず……秋編終わり、かな?
現実、まだ秋の始まりなのにな〜(^^;)。

またも、続きがどーなるかは……未定。
続けられる……かなぁ(^^;)。多分……。