一日千秋<前編>



 今日はなっちんとデート♪


 高校卒業してからもよく会うんだけど、なっちんは、会うたびに大人っぽく綺麗になっていく気がする。
 高校の頃からオシャレで流行に敏感な子だったから、ううん、さすが、って感じ。

 で、姉御肌も相変わらず。

 のっけから、色々心配される私って……。

「あんた、まだ、彼氏いないんだって!? たまプーから聞いた」


 ううっ……たまちゃんも余計な事を……。


「あんた、鈍いもんねぇ……。つか、告られても、いつも断って逃げるって話じゃない? 結構もててるって話なのに」


 はうっ。これは、きっと志穂さん情報ね!?

 それにしても……鈍い、って……最近、それとなく自覚、してるけど……。


 それに、私、もててないよ。

 だって、告られるって言っても、冗談交じりだよ? それこそ鈍い私をからかってるだけだもん。
 あんまりよく知らない人からも言われた事あったけど……それは、まず、お友達から、でしょう?

「……ほんと、なんつーか、あんたって……」


 私が言うと、なっちん、額を押さえて大きくため息を付いた。


 ううっ……なんか、私、周りの人間によく似た反応をされる気がするわ……。


「ねえ、なんなら、私がちゃんとした相手紹介してあげるから、一度くらい付き合ってみれば? そうすれば、もっと恋愛のなんたるかが分かるんじゃない、いくらあんたでも」


「でも……」


 まごつく私にびしっと、指差して、なっちんは言い切る。


「今は秋。スポーツに読書に食欲に、そして恋愛に、アクティブになる季節なのっ。だから、今が旬! なにより、恋愛オンチの矯正は、まずは男を知ることから、よっ!」


 えええっ!? ……いや、別に私、知りたくないし……。


「そんなじゃ、いつまでも恋人できないっ!」


 断言されたし。


 ううっ。

 別に、いらないってばぁ。
 今、付き合うつもりないもん。

 それに……。


「尽にも、絶対変な男に捕まるな、って釘さされてるし……」


 ぼそっと呟くと、なっちんは、少し目を丸くして、私を見詰めてきた。


「尽ぃ? そりゃ、弟なら、ねえちゃんにはイイ男に捕まって欲しいわね。つか、あの子、高校時代も散々あんたに色々な情報流してくれてたんでしょう? それで、ひとりもモノにできないあんたも大概だけどさ……。って、そうそう、その尽は元気?」


 ちょっと気になる言葉内容だけれど……話が逸れてくれたみたいで、
私、ほっとする。

 恋愛……興味がなくはないけど、なんか、私には現実味がないの。

 だから……色々世話を焼いてくれるなっちんの気持ちは嬉しいけど、とっても嬉しいんだけど……正直、もうちょっと長い目で見て欲しいな〜……なんて、思ったりもする。

「うん。元気よ。この間一緒に海に泳ぎにいったんだけど、なんか、体つきとかすっかり大人になってて、びっくりしたの」


 私がにこっと笑って言うと、なぜか、なっちんは大層複雑そうな表情をした。


「海に泳ぎに? 弟と、ふたりで?」


「うん♪」


「……」


 え? 私、何かヘンな事、言った?

 どうして、なっちん?
 なんで、そんな苦虫噛み潰したような表情をするの!?

「あんたさ……」


「なぁに?」


「………。あ〜………尽は、あんたと海に行くの、嫌がってないの?」


「だって、尽から誘ってくれたの。尽ももう中3だし、私に構ってくれる事なんてないかなぁ、って、ちょっと寂しく思ってたところだったから、なんか、嬉しくて」


「………なんか、もしかして……ブラコンとシスコン?」


 ぼそり、と、呟いたなっちんの言葉は、私の耳には入らなかった。


 ちなみに、私達は今、街のオープンカフェにいる。


 緩くなった秋の日差しが、心地いい午後。

 紅葉した木々はまだ落ち葉を散らせるには至らない……そんな、季節。

 それから、私達は、ごくたわいない話をして盛り上がり、手元のケーキと紅茶が尽きる頃、ふいとなっちんが遠くにやった眼差しをぱちぱち瞬きした。


「あ、はば学中等部の制服だぁ。懐かしい。それにしても、今時の子は発育いいわねぇ。あの子、ちょっとカッコイイかも」


 なっちんの視線の先を追っていったら……。


 あ、どこかで見た人影。

 あれって、もしかして?
 街路樹の向こうにいるのは……。

「あれ? 尽?」


 同じくはば学中等部の制服を来た男女混合7,8人グループで歩いてる。

 あ、そろそろ下校の時間かな?

「尽? 長い間会ってないなぁ。成長してる? どの子?」


 なっちんは、椅子から立ち上がり、カフェの柵を乗り越えそうな勢いで、まじまじとそのグループを覗きこむ。


「えーと……あの、真中くらいにいる、制服着崩した…………って、あ……」


 尽がこっち向いた。

 でもって、視線が合った。
 尽、目を丸くして驚いたような表情してる。

「え? もしかして、今こっち向いてる子? へええっ!」


 で、周りの友人達に何か言ってから、ひとり、グループから抜けてこっちにやってきた。


「ねえちゃん! それに……もしかして、奈津美さん?」


 カフェの柵越しに声をかけてきた。


「よく分かったわね、久しぶり、尽」


 にっ笑うなっちんに、尽も悪戯っぽく笑う。


「奈津美さん、前から綺麗だったけど、ますます綺麗になったなぁ。一瞬、誰か分からなかった」


「あはは〜。相変わらず、イイ子だわ。ね、こっち来ない? おねえさんがおいしいものおごってあげる」


「え? いいんですか? じゃぁ……遠慮なく。いいよな、ねえちゃん?」


 勝手に進行する話。


「え? ええ、うん」


 突然声かけられても、私頷くしかできないし。


 なんか、もしかして……なっちんと尽、タイプが似てる?

 調子が良くて、流行に敏感で、面倒見が良くて……。
 むしろ、私と尽、より、なっちんと尽の方が姉弟みたいかも……ふぅ。

「尽さぁ、めちゃ格好よくなってない?」


 尽が喫茶店の入り口から入ってくるのを待ってる間、なっちんは言う。


 どうだろ?……毎日顔を突き合わせてるから、そういう感覚、私にはないなぁ……。


「もてそうだね、アレだと」


「ああ、うん。もててはいるみたいだよ。ただ、特定の彼女はいないみたい」


「選り好み激しい、か。もしかして、あんたと同じかもね?」


「ええ?」


 え、私、別に選り好んでないよ!?


「あんたさぁ……前々から思ってたんだけど、絶対、面食い。それに、男の基準が高すぎると思うなぁ……」


「なっ、なんで!?」


「だって…………あ、尽!」


 言い出しかけたなっちんの言葉は、尽を迎える言葉に掻き消えた。


 うっ、なんで、私が面食いで男の基準が高いっていうの……?


 その後、なっちんと尽の見事な連携プレーに弄ばれて、私は精根尽き果てました。

 このふたり、やっぱり、タイプが似てる……。
 会うのが久しぶりだっていうのに、私を間にはさんで、阿吽の呼吸。私、ふたりの言葉に翻弄されるしかなかった……ううううっ。

 で……なっちん、尽の事がいたくお気に召したらしい。

 すごい意気投合してたもんなぁ……。

 本当は、喫茶店出た後「カラオケでも行こ〜!」って、なっちんが唸ったんだけど……尽、明日も学校あるし、そんな遅い時間まで中学生連れ回せないじゃない?

 そう私が言うと、尽は、意外にも苦笑しながらも素直に頷いて、帰宅する事となった。
 なっちんは、すこーし不満そうだったんだけど。

「尽、カッコイイなぁ。欲しいなぁ」


 いや、犬猫じゃあるまいし……欲しいって……。


「うん、イイ男だよ、十分。あと、数年待ったら、もっとイイ男になるね。奈津美サマのお墨付き。まどかがいなきゃ、5年くらいじっくり待ってたね、私」


 5年って……そしたら、私達、もう、26じゃない?


「別に、いいんじゃない? 現状の21と15なら犯罪だけど、26と20だったら自由恋愛。それくらいの年の差カップル、今いくらでもいるって」


 うう〜ん?

 や、それはそうかもしれないけど……。

「なっちんと尽が付き合ったとしたら……私がなっちんのおねえさんに……」


「……オイオイ。また、あんたはなんていう事想像しているのよ! だから、私にはまどかがいるから、って!」


 思い切り苦笑いのなっちん。


 でも、私は不意と考えちゃったの。

 もしも、尽が私と同じか年上の女の人と付き合ったら、私、どうするだろ、って。


 そりゃ、尽の意思でそうするんだろうから、私がアレコレ言えないだろうけど……きっと、悲しいかなぁ、と、思うの。


 夏休みの間に、尽に、好きだって言われたり、キスされたりしたのは……きっと、あの子がおねえちゃんな私を好きだって事でしょう?

 そのおねえちゃんが好き、って気持ちまで、その年上の彼女に持っていかれそうで……私、きっと、悲しい。
 例え、その相手がなっちんだったとしても、私、悲しくてたまらないと思う。
 今だって……そう考えただけで……悲しくなってきたもの。

「って、あんた、何泣いてるのぉ!?」


「え? あ……うん、別に、何でもない……」


 涙を服の裾でごしごし拭いながら、なっちんにえへへ、と笑う。


 やだなぁ……。

 なんか、ひとりしんみりしちゃった。

 ……でも私、この事、なっちんには上手く伝えられそうもない。

 なっちんはひとりっ子だから、分かってもらえないかもしれないし……それに、なんでだろう、夏休みにあった尽との色々な事、なっちんに言う気にはなれなかった。

 尽と私の思い出……ふたりだけの思い出……それが、とてもとても大切なものに、思えて……。



 


 その後、私達はふたりでカラオケに行き(ほとんどなっちんの独断場)、軽い食事をするために、レストランに向かったんだけど……。

 カラオケから出てから目的のレストランまで歩く間、2度、男の人たちに声を掛けられた。

 それって、ナンパだったの?
 2度とも私が捕まって、なっちんがぴしゃりと言い返して、私の手を引いて逃げた形。
 で、私、なっちんに説教くらった。

「あんた、隙だらけ! ああいう手合いはヤる事しか考えてないんだからさ、あんたなんかが捕まったら、思うままよ!? まったく、危ない子。これで、よく今まで無事だったわね……」


 説教されて、感心された。

 なんか……尽にも同じような事言われた気が……。
 そんなに、私って危なっかしいのかなぁ……。
 ちょっと、しょぼんとしちゃった。

「ホント、あんなのに引っかからないためにも、あんたにちゃんとした相手ができる事を祈るばかりなんだけど……ねぇ?」


「なぁに?」


「あんた、高校の頃のヤツらとはどの程度付き合いあるの?」


「ん? えーと……なっちんとタマちゃんはこうしてよく会うし、志穂さんともランチ食べたり、お茶したりするし、瑞樹さんはこっちに帰ってくるたび引っ張りまわされて……」


「じゃなくて! 野郎どもの方!」


「野郎ども……えーと、男の子達?」


「そう」


「えーと……去年の年末、皆で会ったよね?」


「……私もいたから、覚えてる。その後は?」


「姫条くんは、なっちんと一緒に時々会うでしょう? で、葉月くんと守村くんとは大学でたまに会うし……鈴鹿くんと三原くんは外国にいっちゃってるから。あ、日比谷くんは、尽と付き合いがあるみたいで、時々家に来るよ?」


「………」


 私が言うと、なっちんは押し黙った。


 えーとぉ……何が言いたいのかな??


「まどかと守村くん、鈴鹿、三原くんはともかく、葉月くんと日比谷くん……あんた、どっちかと付き合うとか考えない?」


「え? ええっ!?」


 私、本当に驚いた顔をすると、なっちんこそ呆れた顔をした。


 だって、だって!?

 付き合うっ!?
 葉月くんはほのぼの友達だし、日比谷くんは尽に次ぐ弟みたいなもんだし……。
 そういう感覚、ないよぉ?

「あんたの彼氏できない原因は……イイ男が傍にいすぎること、ね……」


 分かった分かった、とでも納得した口調のなっちん。


 それは、何!?

 一体、どーしてよぉ!?

 私、すがるような眼差ししてたかもしれない。

 なっちんは、深く深ぁく嘆息して、肩をすくめた。

「じゃあさ、あんた……アレ、カッコイイと思う?」


 指差した先に、男の子。

 今時風のカッコイイ格好したおしゃれそうな子。
 でも……。

「………え、と……普通?」


「それじゃあ、あの人は?」


 20代のサラリーマン風。綺麗な彼女らしき人と一緒にいる。


「普通、だと、思う」


「そう。じゃあ、アレは……?」


 今度は、どこかで見たタレントさんのCM看板さしてる。

 えーと……私、あんまり芸能情報に詳しくないけれど……タレントさん、特別カッコイイとも思えないし……。

「普通、かな?」


「ふーん……そうか。じゃ、葉月くんは?」


「え? カッコイイよ?」


 うん。それは、当たり前。


「まどかは?」


「カッコイイに決まってるじゃない。……でも、なんで?」


 なんで??

 葉月くんも、姫条くんも、カッコイイよ?
 そんなの、今更言わなくても。

 私が言うと、なっちんはまた肩をすくめた。


「あんたにとって、カッコイイ人以外は全部普通、と。ふむふむ。つーか、あのタレント、今、格好いいって、すっごい人気あるんだけど……そっか……」


 何が"そっか"なの!?

 なんで、ひとりで納得してるの、なっちん!?
 私、わかんないってばぁ!!

「あ、それじゃ、尽はどう? カッコイイと思う?」


 今度は突然、何かなぁ!?


「尽は毎日顔合わせてるから、そういう基準、わかんない」


「でも、格好悪くはない、よね?」


「ん〜? うん、多分」


 改めて思い出す尽の顔。


 いつもの顔。笑った顔、拗ねた顔、照れた顔。それから……いつか、キスされた時に見た、真剣でちょっと緊張したような顔。

 格好、悪いわけない。カッコイイよ、尽は。
 でも、それを口に出すのはなんとなくためらわれて、私、尽の事では、口をつぐんじゃった。

「あんたの基準がよく分かった。高校時代の男友達が全部カッコイイカテゴリーの上、あの弟と毎日顔を合わせてたら、ブラコンじゃなくても基準は勝手に上がるわよ」


 なんか……それって……。


「結論。あんたの基準は規格外。外がカッコイイだけならともかく、皆どれも中身も悪くないしね。だから……いっそ、今フリーの葉月くんか日比谷くんあたりをゲットしなさい。私の手持ちカードにあんたの基準を超える相手はいない。まさか、まどかをあげるわけにはいかないしね〜」


 って、勝手に結論出さないでぇぇ!

 てゆーか、葉月くんも日比谷くんも、そういう対象じゃないし!

 あうあうと反論を口にする私だったんだけど、全部見事に、なっちんに一蹴されたの……ううっ。


 なっちんの、独裁者! ワンマンッ!


 でもって、きっと、なっちんが勝手に出した結論は、今晩中にも皆に回るに違いないんだわ。

 しかも、勝手にターゲッティングされた葉月くんと日比谷くんには、きっと、それとなぁく、ね。
 なっちん、情報操作のプロだもんっ!
 私が太刀打ちできるわけないもん………はうっ。
 




つづく




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<言い訳とか>

「ひと夏の……」シリーズを、いっそひとつのシリーズとして
「四季シリーズ」としました。
で、今回は秋編デス。
ひと秋、という表現はない(と思う)ので、
苦しマギレの四文字熟語。
題名の意味、後編で辻褄は合わせてます、多分(^^;)。
一日千秋は、尽の気持ちです。

今度はねえちゃん語りで。
ねえちゃんの天然っぷり発動中。
世話好き奈津美はやっぱりお世話係。

そして、尽の出番今回はほとんどなし。
 後編は……ちょっとシリアスラブ。またも、尽悲惨かも……?

追記:ひと秋……表現としては存在するようです。
無知でごめんなさい(^^;)。
でも、まぁ、ねえちゃんサイドなんで、
こういう題名って事で(^^;)。