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尽と夢とキスの痕 エキゾチックに陽気な音楽が、見上げると首が痛くなるほどの高い天井に鳴り響く。 白壁に色鮮やかなブルーの蔦葉模様の建物は……どこかで見たような気もする。 ぐるりとあたりを見回せば、すごいな! 建物の中に大きな噴水。しかも噴水とその周囲の泉には、色とりどりの花々が浮かべられている。水の煌きが、色とりどりの花の色彩が、ゆらゆら、ゆらゆら、白壁に映って、揺れて、躍っている。 ううん、躍っているのは、それだけじゃなくて……ほら、実際の女の人たちも! 砂漠の国の女の人たちのように、肌の露出の多い薄い紗の衣装を纏った綺麗な女の人たちが、陽気な音楽に合わせて、くるくる、くるくる、楽しそうに踊っている。 すごく、賑やかだ。 躍る女の人たちを囲んでいるのも、女の人ばかり。 アレレ? 今更だけど、そんな女の人達は、どこかで見たような人たちばかり。 なっちんもいる、タマちゃんもいる、瑞希さんや志穂さんもいる。あと、タレントさんとかモデルさんとか、有名人もたーくさん。 どーしてかなぁ? え? あれ? う〜ん? それに、私、いつの間にこんな格好してるのかな? 躍っている女の人たちと大差ない格好をしてたの。恥かしいなぁ、もぉ、お腹丸出し! でも、まぁ、皆同じ格好だからいいか? なんて、思っていると、不意に自分の肩に置かれた腕に気がついた。 あれ? 男の人の腕? ヘンだなぁ、おかしいなぁ? 女の人しかいないのになぁ? でも、私にこんなに馴れ馴れしく触れてくるのって……ひとりしか、知らないな。 顔上げたら、案の定。 けど……やっぱり、彼もヘンな格好していて……。 えーと、頭にくるくる布巻いてて、前の止めていないベストみたいなの着てて、下も、柔らかそうな素材の丈の短いズボンで……。 あ〜……なんか、この衣装、どっかで見た事ある気がするわ。 なんて、私が頭をひねっていると、彼が私ににっと笑って言った。 「世界一のイイ男になったからには……やっぱ、男の夢叶えたいよなぁ」 夢? そっか、これって夢なんだ。なるほど〜。 そうよね、夢よねぇ〜だって、何もかもが不自然だもんっ! と、納得してる私に、彼は嬉しそ〜に表情を緩めて言葉を続け、うくくく、と、声を出して笑った。 「そう、これぞ、永遠の夢、ハーレム!!」 はい? ちゅん、ちゅん、って、雀の囀りが聞こえたのは、きっと、私の気のせいかも。朝日の中のバックミュージックに最適な音楽だと思ってたから、幻聴かもね。 そうそう、今までのもぜぇんぶ、夢だったのね。 うふふふふ………………ふぅ………。 休日の朝の、目覚ましの鳴らない目覚め。 太陽は随分高く上っているのだろう。カーテンの布地を縫って入り込んできた陽射しは、部屋を明るく照らしている。 案の定、頭の先の時計を見れば、お昼まであと少し、といった時間だった。 上半身を起こし、手を伸ばした先にあるサイドボードに放り投げてあったカーディガンを、裸の肩に羽織る。 目覚めにぼーっとする頭、ぼさぼさの髪をくしゃりとかきあげて、先刻まで見ていた夢を反芻する。 なんで、あんな夢を見たのかは、心当たりがある。 昨夜、一緒に眠りについた彼が冗談交じりに話していた内容そのままだったから。 自分の隣、決して広くはないベットの、今では彼の定位置となったその隙間を見て、そこに手を伸ばしてシーツに触れ、その冷たい感触に、彼が、もうずいぶん前に目を覚まして、この部屋を出て行ったのだのだと悟る。 「あの子、朝早いからなぁ……折角のお休みなのに、さ……」 置いていかれた。 ちょっと寂しい思いがして、拗ねたように呟いてしまう。 「出かけたの、かな?」 もっそり布団から身体を起こして、伸びをする。 カーディガンを羽織りなおして、部屋のカーテンを開ける。 そして……窓の脇にある壁掛けの姿身の中の自分を不意と目に留めてしまって……また、慌ててカーテンを閉めた。 だって……体中に、彼の痕が残ってて……。 なんだか、恥かしかった。 それから、簡単に身支度して、朝昼ご飯を食べに階下に降りていくと……複数の人の声がした。 お客様かな? 人前に出られる格好じゃないから、そっと玄関を覗き込むと、そこに若々しい靴の群。 ああ……尽の友達が来てるんだな。 ……って、一瞬素直に納得したけど……その整然と並ぶ靴を見て私は顔をしかめずにはいられない。 だって……その靴、全部、女の子ものっ! 私、むむっと顔をしかめた。 なんか……なんか……負けらんないっ!! って、勝手に張りきって、こっそりこっそり足音を忍ばせて歓談の声響くリビングの前を横切って、お風呂場に向かって身支度を完璧にした。 お化粧だってばっちりっ。服だって、多分完璧っ! 大丈夫、綺麗だよ、私! 鏡に向かって呟いて、ぐっと拳を握り締め、戦いへの準備に武者震いをする。 で、いざ戦場に!! …………って……。 「ああ、ねえちゃん、今起きたんだ?」 リビングの扉を開けた途端、にっこり笑った尽が手を上げてきて、周りにいた女の子たち……えーと、総勢5人がにっこり笑って「お邪魔してまーす」と声を上げた。 あぁっ……なんか、空気が違う。 春の花畑のように、彩り鮮やか。しかも、まだ、咲き誇る前の蕾たち……。 ……若いっ。 化粧してなくても肌がつやつやぴちぴち。スカートから延びる足だって、誤魔化しなしで綺麗! なんか、それだけでもう、勝てないっ……!! 一瞬にして、敗北した気分になった。 がくーんと、その場に膝をつきたい気分だ。 けれど、そーいうわけにもいかないでしょ? 「いらっしゃい。ごゆっくり」 無理ににっこり笑って言うのが精一杯……ううううっ。 敗・北・感ッ!! リビングから入ってキッチンに向かう途中、ちらりと振り返って尽と女の子たちの様子を伺うと……。 「……で、そう言ってたんだぜ」「やだぁ、尽くんてばもぉ!」「あん、じゃぁ、東雲くん、あの事は?」「あれはねぇ〜……」「尽クンってば、上手いんだから!」 なんか……なんか……ムカツク。 まるで……まるで、そう、この光景って……。 私がキッチンで何か食べるものを物色している間にも、背後から女の子の黄色い声と、尽の嬉しそーな声が。 ムカムカ イライラ コップに牛乳を注ぐ手も震えちゃう。 ああ! さっさと食べ物用意して、部屋に引き返そう!! って、思ってる矢先、ヒソヒソ声が耳についた。 「やっぱり、尽くんのおねえさん、綺麗だね」 「うん。スタイル良さそうだし」 ……!! ふふっ。 ちょっと、気分が向上。 あ〜、そうよね。大人の雰囲気よ!大人の色気よっ! これは、負けらんないわっ。 なんて、ちょっと気分が良くなった所。 「あーまぁ、最近化粧落としたら肌のハリもなくなってきてるけどなぁ。化粧栄えはするみたいだな」 けらけらと笑う尽の声。 ぷつん。 私の中で、何かが切れました。 キッチンから出て、リビングに入り、つかつかと尽に歩み寄って……。 ゴイン と、見事な音がした。 拳で、思い切り、尽の頭をどついたのだった。 「………っ〜〜〜ッ!!! ねえちゃん、何すんだ!?」 「化粧が上手いだけで悪かったわねっ!」 女の子たちが唖然とする中、私はそのまま勢い良くキッチンに引き返し、準備した牛乳とパンを持って部屋に戻った。 つか、牛乳もパンも決して美味しく感じられなかったんだけどね。 だから、外で食べてくる事にした。 尽と女の子達と、これ以上同じ屋根の下にいたくなかった、っていうのが本音かもしれないけれど。 リビングに気配を悟られないように外に出た私は、まだムカムカする気分を拭えないままに、臨海地区まで足を運んだ。そして、あの女の子たちがいつ帰るのか考えながら、腕時計と睨めっこしつつ、ひとりでショッピングモールをうろうろする事にした。 どうせ……若い子には敵わないもんっ。 どうせ……20歳超えてるもんっ。 化粧しないと見られない顔になってるし、肌のツヤやハリだって少しずつ危なくなってきてるし、シミソバカスも増えた気がするし……。 ううううううっ。 尽の、ばかっ!!! がつん、と、近くの壁に拳を叩きつけて……あはっ、ちょっと壁が剥がれて来ちゃった。誰も……見てないよね? …………とんずらしちゃお。うふっ♪ 家に帰り着いたのは、陽射しが落ちかかった頃。 すでに女の子たちの姿はなく、母さんが帰ってきていて、夕食の仕度に取り掛かっていた。 で、尽の姿もなくて……。 「尽ならお風呂入ってるわよ。あんたも、尽が出たらさっさと入っちゃってね」 あ、お風呂。そっか。 お風呂……ねぇ……。 「………」 私はすうっと息を吸い、吐いてお風呂場に続く洗面所の扉を開いた。 「尽……あのね……」 今日、ひとりでふらふらと街中をふらつきながら、色々考えてた。 色々、色々考えてて……尽に聞いてみなきゃ、って思った。 「ねえちゃん?」 お風呂の中から尽の声が反響して響いてきた。 曇りガラスの向こうの肌色の影が動いて、立ち上がって、こっちに近づいてくる。 「でっ、出てこなくていいから、そこで聞いててっ」 「ん〜? 何?」 肌色の影は、曇りガラスの手前で止まって……私の言葉を聞く体勢をとっている。 「あのね……あんた……」 ちょっと……いや、かなり聞きにくいっ。 でも、気になったまま放って置けないし。 思い切って聞いてみた。 「本当に、好きなの……?」 でも、私の口から出てきた声は小さくて、内容も消極的だった。 意気地なしっ! 尽は、黙ってる。 声、聞こえなかったのかもしれない。 でも、同じ言葉を繰り返す気にはなれなかった。 それで、私も黙ってると……。 お風呂場の中から尽の深い溜息が聞こえてきたかと思ったら。 「ひゃっ!?」 突然、扉が開いて全裸の尽が顔を出した。 「ばっ、ばかぁっ! タオルくらい巻きなさいっ!!」 全裸……文字通り、全部裸。 いっ、いくら弟の裸でも、子供の頃は一緒にお風呂はいったりしてたけど、やっぱり、恥かしいでしょ!? しっしかも……目に入った首筋とか胸元の痣みたいな痕って、多分……。 二重に恥かしくて、目のやり場に困って、身体を反転させたら……突然。 「桜……」 名前を呼ばれて、背中から抱きしめられた。 「……っ! ばっ、ばかっ。離してっ。服が濡れちゃうでしょ!?」 しっとり濡れた尽の体が背中に密着してる。 服越しに、伝わってくる……尽の熱が。 「桜、もしかして、妬いてるの?」 笑い含みのしめった声が耳元で囁かれた。 あ……ダメ……この声、弱い……。 ふふ、と耳元で笑う吐息に、私の全身の力は抜けていって尽に抵抗することさえ忘れてしまう。 「俺……すげぇ嬉しいんだけど……?」 弾む声に私の鼓動は激しく脈打ち始める。 「こっ、答えになってないっ」 密着した体から、私の激しい鼓動が尽に響いてしまっているだろう事が恥かしくて、わざと声を荒げてしまう。 そんな私の虚勢に気付いているのだろう、尽は耳元でくすくす笑いを続ける。 「だっ、だからねっ、私は、ただ……!」 「答え、聞きたい?」 笑いながらの声に、むっとしないでもなかったけれど……私は、必死にこくこくと頷いてしまった。 だって、一刻も早くこの状態をなんとかしたかったから。 答えを聞いたら尽が解放してくれるんじゃないか、って、咄嗟に思ったから。 けど、私は、自分の判断力の甘さを後悔する事になる。 尽は、私の身体をいとも軽々と操って、自分の方に反転させた。 結構、力持ちなんだ。改めてだけど……尽って、男の子なんだなぁ、って思っちゃう。 って……思ってる場合じゃなくてっ! だって、目の前に尽の全裸姿が……いや、全裸姿に気をとられていたら、突然、尽に唇を奪われた。 「……!!」 驚いて、抵抗できなかったんだけどさ……私が抵抗できないのをいいことに、重なった尽の唇はより深く重なってきて、しかも舌まで入り込んできて……。 や、もぉ!! 「〜〜っ……んっ〜〜!!」 嫌では……ないの。 嫌ではないんだけどぉ、こんな所でこんな事したらっ……!! 「………っ、は……ぁ。………も、ばかっ! 母さん、いるのにっ!」 「これが、俺の答えにならない?」 焦る私と対照的に、ひどく落ち着いた態度でにっと笑う尽。 キッ、キスくらで、誤魔化されないものっ! むっと睨み上げる私を、尽は見詰め返して……微笑む。 「いつも、言ってるじゃん……」 正面から私に微笑みかけ、抱きしめて……耳に焼け付くくらいに熱い囁きが吹き込まれた。 「愛してる」 ……うっ……。 も、だめ……完全に、尽の手のひらの上……。 「でっ、でも、今日だって、あんなに女の子たちに囲まれて、デレデレしてっ!」 「あいつらは友達…つか、俺のファンなんだってサ。ファンに手、出したらまずいだろ?」 「……でも……あんた、すごく嬉しそうで……」 「そりゃ、好かれて悪い気はしないさ。でも、それと恋愛は別。何度も言うけど、俺が好きなのは……」 また、尽の顔が近づいてきて……。 私、反射的に、えいっ、と、尽の顎を追いやってた。 「桜……??」 「あ……あの、服、濡れちゃったから、私、着替えてくるっ!」 なんか……恥かしい。 不安になって聞いてみたら、返ってくる尽の言葉はなんだかもぉ、赤面しちゃうくらいに甘ったるい言葉で。 ひとりで、カリカリしてた私、バカみたい……。 緩んだ尽の腕の中から逃れて、洗面所を後にしようとしたけれど、また、尽に腕を捕まれて引き戻された。 「わざわざ着替えに行かなくても、一緒に入ればいいじゃん。どうせ、俺の後で入るつもりだったんだろ?」 「っ〜〜! ばかっ! だから、母さんいるから、ダメっ!」 「一緒に入るだけだから、いいじゃん。それに、母さん、夕飯作ってて、こっちにはしばらくこないだろ」 「う〜〜〜っ……」 説得、されちゃいそう……。 そりゃあ……たまには……。 でも、でもでもでも、万が一があるから、ダメなものはダメなのっ。 どうにか私の腕を握る尽の手を引き剥がそうと苦心して………そこで、ついつい、視線が捉えちゃった、その……尽の……。 「……っ!?」 ぐっ、偶然だからね! 見たくて見たわけじゃないからねっ! でも、そんなの、こんな明るいところで見るのは初めてで……しかも、ちょっと……元気になってるっぽい気がして……。 顔だけじゃなくて、全身の血がかあっと、こう、ゆであがっちゃったっていうか……。 「きゃああっ!!」 咄嗟の力って、すごいよね。 思い切り尽を突き飛ばしていた。 でもって、脱兎のごとく駆け出していたわ。 もぉ、恥かしいったらっ。 尽のばかっ。 「ねえちゃんって、ほんとーに可愛いんだから。ねえちゃんが逃げなかったら、あのまま風呂場で押し倒してたね。危なかった。つか、夕飯の最中も、ねえちゃん押し倒すことばっか考えてて、いっぱいいっぱいだったんだけど」 すっきりした顔をして言い切ってくれる言葉は、嬉しいというより……呆れるばかりで。 私を背後から抱きしめてくる尽を肩越しに睨みつける。 あれから結局……いつも通りに姉弟として夕食を取って、家族団欒を終えて、部屋に戻った私にすぐに尽は追いついてきた。そして、ほとんど無理矢理部屋の中に入り込んできて……有無を言わさぬ勢いで……流されちゃった……。 いや、いつもの事なんだけどね……。 でも、まだ、両親は階下で起きているに違いないのに、尽ってば、尽ってば……!! あぁ、私の部屋の真下が普段使われていない部屋でよかったわよ、まったく……って、だから、普段尽が私の部屋に入り浸っているわけなんだけど……。 抱きしめてくる尽の熱を体全体で感じながら、私、でも、まだ、考えてる。一度考え出したら、止まらなくなっちゃって……。 風呂場で囁かれた「愛してる」の言葉を疑うわけじゃないけど……不信感を拭いきれないの。 だって、尽って昔っから女好きだものっ! 物心つくかつかないかの頃から女の子に対してはすごく優しくて、保育園の頃からガールフレンドが何人もいたし、可愛い容姿かつ女性に対して愛想がとてもいいもんだからまた年上のおねーさんからも良くもてて。……って、そいういえば、物心つく前から、女性に対してだけはやけに愛想良かったっけ!? そうそう、母さんも言ってたわ。赤ちゃんの頃、男性に抱っこされると泣きわめいたのに、女性に抱っこされると途端にご機嫌になった、って。 ……筋金入りの女好きねっ!! そんな尽の過去を知り尽くしているから、不信感は拭えないのっ。 今日の昼間のあの女の子達に囲まれた状態、正しく、夢に見たハーレム状態よね!? 私の事も……いや、姉だから、他の女の子達とは存在の意味が違うという点を差し引いて……なんか、手軽に傍にいる女に手をつけた、って事じゃないのかなぁ!? だってさ、同じ屋根の下で暮らしてて、傍にいる時間が長いから、勿論こうやって結構お手軽に……アレコレ……できちゃう、わけでしょ? 尽も、一番やりたい盛りの男の子なわけだし……だからさ、私をキープしてるだけで……。 もしかして、私ってば、都合のいい女になってる!? 尽ってば、私に肉体だけを求めてる!? 『肉体だけ求められる都合のいい女』 の、フレーズに私、眩暈を覚えた。 眩暈がして、そのフレーズが私の思考に全体に染み渡って……私、こみ上げてくる感情を抑えられなくなった。 「ど、どうせ……私は都合のいい女よぉ!」 「……は?」 「十代の子に比べれば、お肌だってどんどん老化していくだけだし、お化粧なしでは出歩けないし、肌だってそろそろ水を弾かなくなってきてるし……それにそれに、胸だって最近、重力に従順になりつつあるしっ……!!」 わっ、と、泣き出した。 「え? ねえちゃ……」 戸惑いを浮かべる尽の声をかき消して、感情的になった私は言葉を続ける。 「どうせ、尽ハーレムの中にいる女のひとりにすぎないわよぉ!」 「……つ……尽はーれむ??」 「でもって、でもって、あと数年もしたら、私、捨てられるんだわっ。自分よりずぅと年下で、ぴっちぴちの若い女の子捕まえてきて。『今まで楽しかったぜ』とかなんとか言われて、手を切られるんだわっ」 「……………えーと……」 背後の尽の呆気に取られている気配にお構いなしに、私はくるりと尽を振り返って、ぽろぽろ涙をこぼしながら尽と向かい合った。 「その時には私、もう嫁き遅れになってて、取り返しがつかなくて……女として一番いい時期を尽に奪われた事を後悔してるんだわっ。振袖も着られない年齢になって、尽の結婚式に出席もできずに、母さん達に怒られたりして!」 「えーと……ねえちゃん……?」 落ち着いて、と、ばかりに私の頭をぽんぽん叩いてくる尽の腕を取って、更に尽をキッと睨み上げる。 「ね、はっきり言って! 都合のいいだけの女なら、私が尽ハーレムの中のひとりにすぎないなら!」 「あ〜〜……」 尽が困惑しきって、視線を彷徨わせているのもお構いなく、私は言い募る。 「どうせ、私おねえちゃんだから、元々あんたとこうしてるの不自然な事なんだし……!」 って、私が言い出したところで、私が握り締めた尽の腕が震えて……逆に、腕を強く捕まれた。 「桜、あのな!」 急に大きな声を出されたものだから、びくんとして押し黙っちゃった私。 「俺が弟で、桜が姉で……それって、こういう時に言うの卑怯。俺がどれだげガキの時から、どれだけ桜に憧れ続けてきたか……もう、散々言い募って、分かってくれてると思ってたんだけど、俺? 年上のねえちゃんに追いつくために、どれだけ背伸びしてきたか、分かってくれたんじゃないのか?」 真剣に言う。 「弟とか姉とか……年齢差とか。俺がそれにどれだけ拘ってきたか、桜は理解しているはずだ思っていたけど……?」 「わっ、私だって、私が年上だとかおねえちゃんだとか、どれだけ気にしてるか……!」 「けど、俺は、もう、気にするのはナシにした。ねえちゃんが俺のものになった日から。俺がねえちゃんのものになった日から。あの日から、二人きりで居る間だけでも、俺と桜は男と女の対等な関係になったと思ってる。妬いてくれるのは、すげぇ嬉しいけど……」 言いながら、きゅっと私の体を抱きしめてくる。 私、尽の体の温もりに、その真剣な言葉に……何も、言えなくなる。 「自分の事、そんな風に卑下して考えんな。俺、桜の何もかも全部が好きなんだから。俺の好きな桜の悪口、言うなよ……頼むから」 ………………………………。 ……ああ……やっぱり、私、尽に愛されてる……。 思って、胸がきゅーっと締め付けられるくらいの嬉しさが心を駆け抜け、ついで、胸の鐘が高鳴り始めた。 私の中の不信感は、その高鳴りに合わせて、吹き飛んでいく気がした。 私も……私も、姉とか弟とか年齢差とか……本当なら気にしたくない……でも、あんたが女の子にもてるすぎちゃうから、いつも考えちゃうんだよ。いつもたくさんの女の子に囲まれてるから……自信が、なくなっちゃうの。 目の前に、尽の首筋があって……そこに見える痣に目を細めた。私が、昨日、つけた痕。もう一度、そこに唇を押し当てる。 「桜?」 お願い……。 私の痕を消さないで。あんたの痕を消さないで。 私があんたのもので、あんたが私のもので……それくらいの安心感、いつも残しておいて。 そしたら、私、ちょっとくらい、自信が持てるから。 すがりつく私をどう思ったのか、尽は私を優しく抱きしめて、額に頬に、暖かいキスを落としてくれる。 私、尽の背中に腕を回して、息をついた。 でも、なんでか、こんな時に………私の頭の中に浮かぶのは……。 「……ね、尽ってやっぱりハーレムに憧れるの? ほら、昨日の夜も言ってたでしょ?」 「……はぁ、なんでまた? そういや、さっきもそんな事言っていたよな? つか……昨日そんな事言ったっけ?」 言ったわよぉ! 何の会話からかは覚えていないけど、回教が一夫多妻可能でも、やっぱりイイ男じゃなきゃ女はついてこないよな、みたいな……。 尽は少し押し黙った後、口を開いた。 「そりゃあ、なぁ。綺麗なおねぇさん方に囲まれたハーレムは、男の夢でしょ?」 「夢? やっぱり、夢に見るの!?」 「いや……つか、一般論で……」 「あぁ、やっぱりっ! 綺麗なおねーさんが肌を目いっぱいみせた衣装着て、妖しく躍ってたり、しどけなく寝転がってたり……!? そんな夢、見てるのぉ!?」 「あ〜〜……」 不潔っ! あぁ、やっぱり、尽ってば、浮気性なんだわっ。 この分じゃ、いつか、ぜぇったい私……!? ………って、私がまた自虐的な考えに没頭しだす前に、尽の唇が重なってきて、強く身体を抱きしめられて……何も、考えられなくなっていったけれど……。 尽、ズル〜イっ! また、夢を見た。 尽が、綺麗なおねーさん達に取り囲まれているの。 でも……私が「尽!」って声をかけると、すごく嬉しそうに微笑んで、その女の人たちを押しのけて、私に駆け寄ってきてくれた。 そして、私をきゅって強く強く抱きしめて、囁くの。 「桜、愛してる」 って……。 END |
<お礼と言い訳>
GSページのカウンタ10000到達記念のキリバンで
頂戴したリクエストより、書かせていただきました。
ラスク様、ありがとうございます(^^)。
もてる尽にやきもちを妬く姉。そして、ラブラブで。
形になっていると嬉しいです。
現段階、大人路線の話しか書けない体質になっているので、
微エロで失礼(笑)。