猫少年Z番外編
天使と猫 「メリー・クリスマス♪」 今日も、アンジェリークの家族は平和だ。 両親に、冬休みで帰ってきた兄ランディ……それに、猫のゼフェルを加えてテーブルを囲み、クリスマスを祝っている。 テーブルの上にはママさんお手製の特別ディナー。 そして、アンジェリークお手製の、ちょっぴり(いや、かなり?)形の怪しいブッシュ・ド・ノエル。 残念な事に、窓の外はホワイトクリスマスに至るほど雪は降っていないけれど、身体を芯まで冷やすほどに寒い……それでも、家族全員の揃った家の中はほかほかして暖かい。 シャン、と、音を立ててクリスタルのグラスを合わせた4人+1匹(アンジェリークが、ゼフェルのミネラルウォータの入った容器にグラスを合わせた)、それぞれのグラスに口をつけてにっこり。 ちなみに、アンジェリークの飲んでいるのはシャンメリー。アルコール1%未満程度のもの。 あまりお酒に強くない両親も軽いスパークリングワイン……ただ、未成年のはずのランディだけが、本格的なシャンパンを…………一体どこから入手してきたものやら……。 鷹揚な(言いかえればいい加減かも)両親は何も言いはしないが、このアルコールに強くない両親の一応息子であるからには……調子に乗って、2杯・3杯と進め、ハイペースで1瓶を開け……。 約1時間後。 暖かな歓談と共に、ママさんお手製の豪華ディナーに舌鼓を打つ幸福な時間はあっという間。 猫のゼフェルも、七面鳥をたらふく食べ、アンジェリークからこっそりシャンメリーを分けてもらい……本人、こっそりとランディのシャンパンを盗み飲みしていたりする。 デザートのアンジェリークお手製ケーキを口にする頃には、もう、お腹いっぱい。 だから、食後しばらく時間を置いてからケーキを食べる話になっていたのだが……。 「アンジェリークぅ……!」 ランディ、顔を真っ赤にしている。 そう、すっかりぐでんぐでん。 「アンジェ、俺のアンジェ……なんで俺たちは兄妹なんだろーなぁ……。ああ……小さな頃、アンジェが言ってた、大きくなったら、お兄ちゃんと結婚する! ……そぉ、俺も、できることなら、アンジェと結婚したいぞっ。どこぞの男にやるくらいなら……!」 からんでいる。 一番タチの悪い酔い方かも。 超はた迷惑。 注:年末年始、お酒を飲む機会が多くなるとは思いますが(<や、あくまで20歳以上の方々に向け……未成年は飲んじゃだめよっ……酔っ払うほどまでは)、決して、他人様に迷惑をかけてはいけません。からみ酔い・愚痴酔いには要注意! 「俺のかわいいアンジェ〜〜〜」 酔った勢いで、アンジェリークに抱き付こうと……が、その前に、猫のゼフェルのクリーンヒット。 実は、アンジェリークの膝の上でくつろいでいたゼフェル、ランディの科白にさえも毛を逆立てていたのに、アンジェリークに近寄るタチの悪い酔っ払いには……鉄槌! アンジェリークの膝を蹴って飛び、ランディの顔に……。 「うわぁああ!」 4本×2の赤い筋が、見事なまでに顔を走る。 黙っていれば美形な顔が台無し。 ランディの顔に思う存分赤いラインを残したゼフェル、床の上にスタンと降りる。 勿論、ランディが反撃しないわけない。 が、そこはそれ、酔っ払い。 小さなゼフェルの身体を捕まえる事はできない。 完全にゼフェルの圧勝でしょう。 人間であれば(そして、一昔前の漫画であれば)、あかんべをしながら、お尻を叩いていそうな挑発行為をした後、ゼフェルはリビングの戸棚の上へと掛けあがる。下で戸棚の上のゼフェルを捕らえるため椅子を用意しだしたランディを見て、今度は戸棚を飛び降り、テーブルの下にもぐり込む。はっとしたランディ、椅子を打ち捨て、テーブルにもぐり込もうとするが、目測を誤りテーブルの角で見事頭を打つ。 そんなこんなの追いかけっこで、リビングを何周かしたけれど、結局ランディがゼフェルを捕まえる事は叶わず、酒臭い荒い息をつきながらその場にへたりこんだ。 ゼフェル、ソファーの背の上で、勝ち誇って毛繕い。 ちなみに、他の3人はひとりと一匹をまったくに放っておいて、歓談中。 ああ、なんて平和なクリスマス!! ところで、ランディ、激しい運動をしたため、アルコールが身体の隅々まで回ってしまったようだ。 肩で息をつきながらその場に座り込んで、そのまま意識を遠のかせましたとさ。 「おや? 急に静かになりましたねぇ」 パパさんが言い出してから、のんびり家族はやっと兄ランディの昏倒に気付いたようだ。 ちなみに、ゼフェルは、ランディが昏睡しているのをいいことに、身体の上に乗っかって、得意そうにヒゲをピンとたてている。まるで、獲物を捕らえた後のライオンさんのよう。 「あらあら。こんな所で寝て……困った子ねぇ。どうしましょう」 のんびりママさんが首を傾げている間に、のんびり娘のアンジェは、ぽんと手を打ってリビングを出て行くと、毛布を持って戻ってきた。 この家族にランディくらいの体格の少年(青年)を抱きかかえて部屋まで運べる人間はいない。 ランディの身体にそっと毛布を掛けてやった後、家族3+1人は、形はどうあれ味は中々のアンジェリークお手製ブッシュ・ド・ノエルに舌鼓を打ったとか。 「お腹いっぱい♪」 食後、まだ抜けないシャンメリーのアルコールに頬を染めながら、アンジェリークはゼフェルを抱きかかえたまま部屋に帰った。 冷たい部屋に、ヒーターを入れる。 「寒い寒い……」 言いながら、ゼフェルの身体をきゅっと抱きしめる。 小さくて暖かくて、柔らかいゼフェルの身体。 胸元に抱きしめたゼフェルの身体から、心地よい温もりが全身に広がる。 「ゼフェル、ママのお料理おいしかったね」 ヒーターが効いてきた頃、ゼフェルをそっとベットの上に下ろして、アンジェリークはゼフェルに語りかける。 そう、ゼフェル……猫の姿をしていても、歴とした人間……一応……。 今は猫の姿だけれど、何かの要因で人の姿に戻る。アンジェリークと同い年の男の子。 ……って、分かっているくせに、あくまでもアンジェリークはゼフェルの前で無防備すぎる。 アンジェリークの胸に抱きしめられている時、ゼフェルがどのような表情をしているのか、彼女自身はまったく知らない。その顔ときや、まるでチェシャネコかトトロのようなイヤラシィ笑いを……。ま、知らなきゃ、幸せ。 「ゼフェルも、人間だったらちゃんと食べられたのにね」 言いながら、ごそごそと寝る準備を整えている。 パジャマを出して、布団を整えて。 けれど、ふと、思い出したようにカーテンを開けて、窓の外を見て。 「あ……雪……降ってきた!」 目を丸くして、さらに窓ガラスに近づいて……ガラスに映る自分の部屋に、自分以外の人影を見た。 「……え?」 「よぉ」 少し、掠れた声。 振り向いて、そこに、ゼフェルを、見る。 猫ではない姿のゼフェル。 戻るときは素っ裸なものだから、今は、腰に普段猫である自分のベットに敷かれている布を巻いている。 「メリー・クリスマス」 にっと笑う。 「今日は見事なホワイトクリスマスだな」 ゼフェルが人間に戻れるのは"日の光がない時"。夜でも月(太陽の光を反射して輝いている)のない時でないと、人間に戻れないゼフェル。 が、今日は空は分厚い雲に覆われていて、絶好の人間(になれる)日より。 しかも聖夜! 「ゼフェル……」 どういう表情をしていいのか戸惑い……でも、にっこり笑って見せたアンジェリークが可愛くて、ゼフェルも破顔してみせた。 金の髪・緑の瞳、白い肌。 この聖なる夜に、その無邪気な笑顔を見せられた日にゃ、彼女を天使だと錯覚してもおかしくはない。 と、いうか、天使だろーがなんだろーが、可愛いモンは可愛いし、抱きしめたいものは抱きしめたい!!! で、こう、がばっとね。 広くはない部屋、幸い、すぐ後ろにはベット。 クリスマスと言やぁ、そりゃ、恋人達の日!!! イルミネーションで豪華レストランで食事でプレゼントで夜景と決め込み勿論その後ホテルにしけこんで……………私がプレゼント、うふっ。みたいな。 なんか大幅に違う気もするが、大筋では合っている気もしないではない。(どうだろ?) けれど、アンジェリークは、とりあえず自分をプレゼントに差し出しはしなかった。 スプリングの利いたベットに押し倒され、いきなり首筋にキスされた日にゃ……そりゃ、悲鳴を上げて突き飛ばしもするって。 「ゼフェルのバカっ! 変態!!」 ぷぷっと頬を膨らませ、ピンクに染める。 「ムードも何もないのね、ゼフェルってば! 折角のクリスマスなのに!!」 ムードがあれば押し倒しても良かったのだろうか? 女心はよく分からないゼフェルであるが、まぁ、ムードを満点まで盛り上げて迫れば、嫌とは言わない乙女心もある……のだろう。 「折角、プレゼント、用意しているのよ……」 拗ねた表情のままのアンジェリークのつぶやきに、ゼフェルの中で一瞬妄想が膨らむが――アンジェリークが首筋に大きなリボンを巻いて「私がプレゼント。私はもうゼフェルのものよ。どうぞ好きにしてネ」<勿論、即行(光速?)押し倒して、アレコレを……――いやいや、この大鈍女アンジェリークに限って、それはあり得ない。 「え……あ……と、アンジェリーク?」 ベットの下をごそごそしだし、そこから出した包み。 「はい、これ、ゼフェルに……」 手渡されたその中身は……マフラー。 「あのね、本当は手編みであげたかったんだけど……私、ぶきっちょだから……」 もじもじ言い出す。 そういや、2、3ヶ月前、何やら毛糸で正体不明の塊を編み込んでいたような……。猫の習性で、ついつい毛糸玉にじゃれ付きそうになったので、覚えている。 あれは、マフラーを作ろうとしてたのか。 ひどく、微笑ましく嬉しい。 ゼフェルは、裸の首筋にマフラーを巻き付けた。 裸にマフラー……よく考えたら、いや、考えなくてもビジュアル的にどう見ても変態、であるが……まぁ、このふたりにはこれでもおっけー。 「サンキュ」 ゼフェルも、アンジェリークの心遣いが照れくさいほどに嬉しく、かすかに頬を染めた。 外は雪。 中は暖かな部屋。 とても優しいクリスマスの夜。 恋人未満のふたりは、顔を見合わせて微笑み合った。 そして……互いに互いを想い合っている(アンジェリークは、まだ完全に自覚はしていないようだが)ふたりは、唇を近づけようとして……勿論のお約束。 階段をどたどた上がる音。 「アンジェ……!」 開けられる扉。 そこには、ランディ。 「げっ!」 「きゃ!?」 「…………………!!!!?」 見られました。 ランディビジョンでは、裸にマフラーの変質者的少年が、大事な、大事過ぎる可愛い妹に手を出そうとしている場面。 「おっ、おまええぇぇ〜〜!!」 元々酒に酔っていて赤かった顔が更に真っ赤になる。 そして、拳を握って殴りかかろうとするものの、アルコールでふらつく足では……。 バランスを崩し、こけそうになり、けれど、持ち前の運動神経の良さで体勢を立て直し……ん、がっ、完全に体勢を立て直す前に。 ゴツン!! 鈍い音。 そして、崩れるようにドサリとその場に倒れ伏す体。 「ふぅ、やばかったぜ……」 ゼフェルの手には、アンジェリークが普段使っている整髪料のカンが握られていた。 それで、ランディの頭部を激打したわけですな。見事な容赦ナシ具合。 アンジェリークは唖然としている。 「ま、こいつはとりあえず……」 ランディを数度突つき、完全に気絶しているのを確認してからゼフェルはランディの足を持って、ずるずると……。 「ゼ、ゼフェルぅ!?」 「邪魔だから、こいつの部屋に放り込んどく」 で、呆然として部屋に座り込んでいるアンジェリークの耳にはいってくる物音といえば。 ずるずるずるずる………ゴンッ(多分、ランディの足を乱暴に置いた音)、バタン(部屋の扉を開ける音)……ずるずる、ガンッ(多分、部屋の敷居にランディの頭がぶつかった音)……ずるずる……ゴン(足を乱暴に置いた音)「一応布団くらいは掛けといてやるか。武士の情けだ」 ばさっ(乱暴に布団をかぶせた音)。 そして、すぐにゼフェルは戻ってきた。 さも、すっきりした、と、いうように、手をぱんぱんと払って。 「さぁて、邪魔者はいなくなったし……」 アンジェリークを見てにっこり。 「……え?」 それから、ベットに座ったままのアンジェリークににじりよって……さっきの続きを促そうとするけれど、一度中断されてしまっては……。 アンジェリークは、頬を染めてそっぽを向いてしまった。 ゼフェル、大ショック!! やはり、どーしてもランディを怨まずにはいられない。 心の中で、気絶した(させた)ランディを更にボコにしていると、アンジェリークが上目遣いで見上げて来る。 「あのね……ゼフェル……パパ達、もう寝ちゃっているし……まだ、お料理もケーキも残っているし……良かったら、ふたりでクリスマスパーティしない?」 ふたりっきりのクリスマスパーティ! 確か、さっき、アンジェリーク自身、お腹いっぱいだと言っていたはずだが……それはそれこれはこれ、なのかもしれない。 勿論、ゼフェルが拒否するわけがない。 最近、ゼフェル用にとアンジェリークの部屋に常時置いてあるランディのお古の服を着込み、アンジェリークと共にリビングでふたりだけのクリスマスパーティ。 確かにふたりともお腹いっぱいだったけれど……それでも、とても楽しかった。 当然というか何というか、パーティの後、何もありはしなかったが、寝る前に、アンジェリークは、人間のゼフェルの頬に軽くキスをして頬を染めた。 「メリー・クリスマス……」 かわいいったら、ない。 ゼフェルは咄嗟にアンジェリークを抱き寄せて、耳元で囁いた。 「オレ、おめぇにやるもん何も持ってねぇけど………オレのココロはおめぇだけのモンだから……」 真っ赤に頬を染めるアンジェリーク。いくら鈍いとはいえ、さすがに、ゼフェルの言葉の意味がわかったと見える。 アンジェリークは、すぐに猫に戻ってしまったゼフェルが、アンジェリークの着替えの為に部屋の外に出て行ってしばらく、どきどきと跳ねる胸を持て余していた。 「……ゼフェルってば……もぅ……」 言いながらも、決して悪い気持ちはしていない。と、いうか、むしろ……嬉しくて、嬉しくて、笑みに崩れそうになる表情を止められなかった。 天使と猫……クリスマスの恋人達は、同じ布団の中で心地よい眠りについた。 外は雪。 寒いからこそ、余計に互いの温もりが心地よかった。 翌日。 「あれ? 俺、なんで、いつのまに自分の部屋で寝てるんだ?」 ごく早朝、自分のくしゃみで目を覚ましたランディは、自分の部屋の床の上で布団をかぶって寝ている事に首を傾げた。 記憶をたどって、ゼフェルと追いかけっこをしていたあたりまでは比較的はっきりしている。 そして、何やら嫌な記憶……アンジェリークにプレゼントを渡し忘れた事を思い出して、彼女の部屋に行ったら、見知らぬ変態男がアンジェリークを襲おうとしていたような……。 「まさか……!?」 慌てて、アンジェリークの部屋に向かい、そぉっと彼女の部屋を開け、まだ少女が眠っている事を確認してから部屋に入る。 アンジェリークは……すぅすぅとごく穏やかな寝息をたてて眠っていた。 とても、幸福そうに。 ほっと胸を撫でおろす。 「悪酔いして、ヘンな夢をみただけか……」 かわいいアンジェリーク。 まるで、天使のような妹。 前髪をそっとかきあげ、微笑み、枕元にプレゼントをおいてやる。 愛しくて、しかたない。 「ホントに……アンジェに恋人が出来たら、俺、どうするだろうな……」 苦笑し、その額に口付ようと顔を寄せ……。 「………………!!?」 頬に痛み。 はい、布団の中から顔を覗かせたゼフェルがご丁寧に、ランディの昨日の傷をなぞっていたのでした。 「……!!!」 カッとしはしたけれど、アンジェリークを起すといけない! 卑怯にも、再びアンジェリークの布団の中にもぐり込むゼフェルに、ランディは拳を握り締めつつ、自分の部屋に引き返した。 勿論……アンジェリークが起きてからのゼフェルへの報復アレコレを想像しつつ。 翌朝、早朝からランディVSゼフェルの低レベルな争いが続いた。 ランディの一方的な報復行為だけ出なく、ゼフェルも妙にはりきっていたのは……ランディの首に巻かれたマフラーのせい。 それは、昨日、ゼフェルがアンジェリークからもらったマフラーと色違い、だったのだ。 「あ〜……いいクリスマスですねぇ」 「本当に」 リビングでランディとゼフェルを見ながら茶をすする両親もまた、それと色違いのマフラーをしていたとか。 ――分かっていたけど、分かっていたけど……やっぱ、アンジェリークって、男心がわかっていやしねぇ!!! ゼフェル、横目でチラリとアンジェリークを見た後、思い切りランディのマフラーにとびついてみた。 「ああああ〜!! 折角アンジェからもらったっていうのにっ!! この、バカ猫っ!!!」 今日も、アンジェリークの一家は平和です。 そして、明日からもきっと平和でしょう。 幸せなこの一家に……一応恋人同士(かもしれない)の天使と猫に、メリークリスマス♪ <言い訳> 猫Z、年内更新叶わず、代わりに(?)番外編をば(^^;)。 なんか、パターン化してて、あんまり内容はないのですが、 とりあえず、らぶらぶで幸せなクリスマス話に仕上げてみました。 猫Z本編も後数回、年明けの更新になりそうですが、 見捨てずお付き合いください♪ 読んでくださった皆様にも、メリークリスマス! |