星光

 

月の光のない夜。ベルベットのように滑らかな漆黒の闇に撒き散らされた、煌く砂粒。

ここは聖地。

時間も空間も、只人とは異なった次元に存在する清浄の地。

けれど、その聖地に在っても、天上に煌く輝きは、同じ。

どこにいても同じ光をたたえる星たちを眺めると、この地も広大な宇宙の一点に過ぎないと実感させられる。

星の輝きは、誰しもに等しく語りかける。

もちろん、聖地にある、いくつかの大きな守護聖の館のうちのひとつにも、星の輝きは届いていた。

―――開かれたカーテンから差し込む、淡すぎる星々の光。

肌に絡みつくようなまったりとした暗がりと、耳に痛いほどシンとした静寂が織り成すのは、居心地の良い空間。

……生ある者たちの気配はわずかに、安穏とした吐息だけ。

天井の高い広々とした室内……窓際に据えられた大きな褥には、重なり合うようなふたつの影があった……。

 

 

心地よい、胎内にいるような眠りに包まれていたアンジェリークは、何気に目を覚ます。

そして……自分を見つめるゼフェルに、出会う。

何より大事なただ一人の男性。

直に感じられる彼の体温と……その、自分を見つめる溢れんばかりの愛おしさを孕んだ眼差しに、アンジェリークは、更なる安らぎを感じて、華の蕾がほころび、開くように微笑んだ。

半身を起こしているゼフェルも小首をかしげて、かすかに微笑む。 

けれど、次の瞬間……彼の紅玉の瞳から透明なしずくが一筋、流れる。

長いまつげをはじくように雫は滴り、きめこまやかな浅黒い頬の、うぶ毛を倒しながら、ゆるゆると滑り落ちる。

わずかな星の光を映して、ゆらゆらと揺らめくような輝きを映しながら……。

どうして?

アンジェリークは、言葉にするよりも、手を伸ばして、ゼフェルの頬に触れた。

白いシーツが彼女の肩を滑り落ちて、まろみのある体の稜線がかすかに現れた。

暖かな、彼の頬。

目じりを指先でそっとなぞると、彼の生暖い涙が指に絡みつく。

はじめは片手で。そして、両手をのばして、彼の頬に触れる。

両手で頬を包み込み、涙の後を辿るように、彼の頬を親指でなぞり、囁くような声で、問う。

「ゼフェル様……?」

ゼフェルは、自分の頬をやわらかに包み込む彼女の手を取って、瞳を細めた。

しばらく、じっとアンジェリークを見つめる。

深い愛情に満ちた眼差し。

「ゼフェル様?」

もう一度、問う。

「……涙ってーのは、感情が昂ぶったと時に出るモンだと思ってたけどよ……そうでも、ねーんだな」

苦笑いを浮かべ、アンジェリークの手を自分の方に身体ごと引き寄せると、自分も体を屈めてアンジェリークに軽く口付けた。

そして、ふたたび、飽きることなくアンジェリークを見つめ、呟いた。まるで、独り言のように。

息を吐くような、呟きだった。

「……おめー見ているだけで、オレ………」

ウエーブのかかった金色の髪を優しく梳きながら……じっと見上げてくる翡翠の瞳を見返しながら……。

「…………幸せを実感したときにも、勝手に出てくるもんだったんだな……」

胸に溢れる愛おしみを隠すことなく……ゼフェルは、囁く。

甘く、優しく……御伽噺を語るように……。

「こうして、おめーが傍にいるだけで、いい。他には、何にもいらねー……。マジで、そう思う……」

アンジェリークの華奢な肩を抱き寄せ、互いのぬくもりを感じ、ゼフェルは、目を閉じる。

アンジェリークが、自分と同じように感じている事を疑いもしないままに……。

ゼフェルの背に回されたアンジェリークの手が、彼の肩甲骨のあたりで所在なげに動き、やがて彼の肩の位置で落ち着く。

アンジェリークのふわふわした髪が、ゼフェルの鼻腔をくすぐった。

そして……ゼフェルは、自分の肩に、暖かな何かが滴り落ちるのを、感じた。

「……ホントね……涙が、止まらない……」

鼻にかかったアンジェリークの声に、ゼフェルは、彼女を抱く腕に、更に力をこめた。

ゼフェルの頬を流れる涙と、アンジェリークが落とした涙は……淡い淡い星の輝きをかすかに映し出していた……。

―――幸せ過ぎても、泣きたくなるんだね……。

 

 

聖地に届く星の光は、どこにいても見える星の光となんら変わりがなく……ずっと煌く。

幸せに溢れた、いくつかの涙の粒が……星の煌きそのものに、彼らを彩っていた。

END

 


<独り言>

始めて書く、短編? てゆーか、ワンシーン。

(仕事中)ふと、こういうシーンが思い浮かんだ。(逃避してたみたい・笑)

とにかく、甘々でメロメロな話にしたかった。けど・・・・・・。いっか・・・・・・。

煩悩まみれっ。最近、鋼様に偏ってきているな<とむねこ

炎様と精神様を押しのけて、風様を蹴落として・・・・・・鋼様、

とむねこのなかで上昇中(笑)。

また、鋼様もの、書いちゃうかもなぁ・・・・・・。