※この二次創作小説についてとオリジナルキャラ紹介
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| <オリジナル話・8> Rio【7】 夏目との出会い。 夏目と過ごした時間。 ばかばかしい己の心の葛藤。 そして、別れと・・・本当なら誰にも云うつもりのなかった病院での再会・・・夏目を失った後。 鳥貝には、己の感情をできるだけ交えず、客観的内容で伝えることができたと思う。 病院での再会も、妹の鳥貝にだから、聞いておいて欲しかった。最悪な別れ方をした相手を、すんなり受け入れられる彼の器の大きさ、心の広さ。彼がどんなに素晴らしい・・・妹の鳥貝にとって、誇れる人間であるかを知ってほしかった。 もちろん、そんな綺麗な姿ばかりを知って欲しいわけではなく、欠点と取れる部分も歯に衣を着せずに語った。長所も短所も含めて、生身の夏目なのだから。 それらの話を語った小一時間、鳥貝は小さな相づちを打つくらいで、ほとんど口を挟まずに聞き入っていた。 月成は頭の中で必死に兄の像を形作っている様子の鳥貝に微笑む。 鳥貝の中で、夏目の像がどんな形を持っているかは分からない。 それが、架空の人物に寄せる憧憬のたぐいでないと良いと思う。・・・いや、利口な彼女だから、きっとそれはない。血を分けた「兄」として、ちゃんと彼女の心に存在を置いていると、そう感じる。 「ユキとの事はどうしようもない笑い話ね。」 話を終えて、息をついたあと、月成は鳥貝を真っ直ぐに見て少しだけ意地悪く笑った。 K市の海岸で初めて会った後、月成の言葉によって、鳥貝が初めて本気で百合子への嫉妬を表した、と多飛本から聞いた。 あの時、月成の言葉で鳥貝は百合子に対する想いと、それが引き起こす様々な己の感情を自覚した。 けれど、そのおかげもあってか、鳥貝と百合子の中は更に深まった・・・ように思えると、百合子自身が自己申告していたという。 今、鳥貝は月成の言葉にどういう表情をしていいか、困惑して微苦笑をしている。 百合子が鳥貝を心から愛しているのは、明白も良いところである。表面的なそれらだけでなく、これまでにないほど全てにおいて彼女に執着を見せる。 あの頃、人を本気で好きになる事をまだ知らなかった男が、今、最愛の存在を手に入れた。 海岸でのやりとりの時にも月成は思っていたが、百合子が彼女に対して随分丸くなったのは、きっとそのせいなのだろう。月成の気持ちが少しなりとも分かったのかも知れない。 そして、鳥貝もその感情表現の薄さ故、分かりにくくはあるけれど、百合子の事を深く愛している。 きっと、鳥貝の愛情は夏目が月成に示したのと同じ種類のもの。深くて、穏やかで、相手を心から思い遣れるものなのだろう。だから、何かにつけて過激な百合子を、優しく抱きしめて受け止められている。 月成は思う。 自分と百合子は似ている。けれど、あの男は絶対に自ら鳥貝と離れる事はなしない。だから・・・。 「あなたたちには、幸せになって欲しいな。」 月成は心からの言葉を鳥貝に向けた。 鳥貝は少し目を丸くした後、ふんわりと笑った。 「・・・あの、でも・・・、」 けれど、すぐに表情を戻して、少し云いづらそうにそう口にする。 何が聞きたいかは分かる。 恋する女とは、そういうもの。身をもって知っているから。 「わたしとユキは、互いを嫌い合っているし、互いを認め合ってもいる。そこに恋愛感情は一切ないのよ。これまでも、これからも。それは断言できる。・・・そうね、もしかすると、少々の共鳴や信頼感情はあるかもしれないけれど。」 鳥貝は目に見えてほっとする。 緩んだその表情が殊更かわいい。 やはり、恋をする女の子は本来こういう風にかわいいものなのだ。 このかわいい少女にこういう表情をさせるのが、あの好ましからぬ男だというのは、釈然としないものもあるけれど。 「・・・どこが、よかったの?」 思わず問いかけると、鳥貝は豆鉄砲を食らったような表情をした。 「えーと・・・どうなんでしょう。」 この鳥貝だから、惚気る事はないと思ったけれど、とぼけているわけでもなさそうなその言葉に月成は苦笑した。 「顔はいいし、頭も良い。それは認める。でも、性格に問題がありすぎよね。」 「それは、わたしもそう思います。けど・・・、結構優しいんですよ、」 「・・・まぁ、好意を寄せる相手にはそうなのかもね。妹の千早ちゃんにもめちゃくちゃ甘いってのは聞いたことあったけど。でも、それ以外には優しくないなんて、最低も良いところよね。」 鳥貝は、はは、と笑う。否定はできない。 けれど、一応恋する百合子の事を、弁護はしたいらしい。 「動物にも優しいですよ。扱い方も上手いし。それに、大学の友達からも結構頼られてるみたいで・・・、」 「動物も、男友達も、総括するとあいつが好意を寄せる相手よね。なんか・・・まるで、春海ちゃんがあいつの保護者みたい。ぼんくら息子を甘やかしてるんじゃないの?」 「・・・ぼんくら、って・・・、」 鳥貝は困った笑い方をした。 鳥貝にとって百合子が特別で大切で・・・恋する相手であるのには違いない。月成が軽口で云う百合子の悪口にはある種の親しみがこもっているのが分かるから、嫌な気分はしないけれど・・・内容を否定はできないけれど、肯定もしたくない。 月成は鳥貝の気持ちを察して微笑む。 「恋心は・・・理屈、だけじゃないのは知ってるけれど、ね。」 くすっと笑い、それから少し遠い目をする。 昔の恋心を思い出しているのか、それとも・・・今は? 鳥貝は思う。 以前浜で会った時に月成は多飛本との関係を「傷をなめ合っている」と云っていた。それが、ひっかかっていたのだ。 恋情で結ばれている鳥貝と百合子とはまた違った関係性が、月成と多飛本の間にはあるのかもしれない。 「あ、あの、リオさんは今、多飛本さんに恋、してるんですよね?」 少し、聞きづらくもあった。 リオは鳥貝の言葉に、少し目を丸くした後、くすっと涼やかに笑う。 「浜でも云ったでしょう。わたしたちの関係は、あなたとユキのそれとは違うの。肉体と、想い出がふたりを繋いでいるだけ。そこに甘い感情はないの。」 快楽や心の穴を埋める為に抱き合う・・・そういう事もあるのだと頭では理解できるようになった、と思う。 けれど、月成と多飛本の関係は、本当にそれだけなんだろうか。彼女が多飛本を語る時の口調や様子が、それだけではないと思わせる。 鳥貝も、百合子に絡む嫉妬の感情を自覚して以来、飛躍的にそこらあたりの感性が伸びてきているのかもしれない。 でも、直接それに触れることは、月成の心の内側に踏み込む気がして・・・鳥貝は見える部分から問いかけてみた。 「想い出って、何ですか? それから、浜で云っていた、傷の舐め合いって・・・、」 少し遠慮がちな鳥貝の言葉。 月成は微笑む。 「夏目くんよ。」 やんわりした声で云う。 ・・・つまり、月成は多飛本に夏目を見ているというのだろうか。 けれど、鳥貝がこれまで見聞きして、知った夏目と多飛本はあまり似ていない。 強いて云えば、似ているのは背格好だけだ。それをこの月成が混同するとは思えない。 困惑する鳥貝を見ながら、月成はしばらく思案している様子だったけれど、観念したように瞼を閉ざして、微笑んだ。 「元々そのつもりもあって今日はここに来たのだし・・・あなたには、全部話して大丈夫よね。あなたの心はきっと、夏目くんに近いから。」 月成は真剣な眼差しで・・・唇だけ微笑ませて鳥貝を真っ直ぐに見る。 「史司くんね、夏目くんの事がずっと好きだったのよ。」 「・・・はい?」 ここで、月成が云う「好き」は、鳥貝が寮の男達に対して持っている感情のように、親しみから発生する「好き」ではないと・・・漠然と理解してしまう。 「それって・・・、」 「ユキが好みの同性に感じるそれと同じ意味で、」 「・・・、え?」 「でも、誤解しないであげて。あの人はユキのように恋愛対象として同性を見ているわけではなくて・・・、相手が夏目くんだったから、なのよ。」 月成は微笑み・・・鳥貝も戸惑いながらも頷く。 同性愛に関して、以前の鳥貝ならば現実味がなさすぎて嫌悪とまではいかないもの不気味さのようなものを感じていたけれど、今の鳥貝は百合子やこの月成、斎などその性癖を持つ周囲の人間に感化され、それを各人の趣味嗜好にすぎないと認識できている。だって、そういった性癖に関係なく、彼らは鳥貝にとって大切な人で、それ以前に人として素晴らしい人たちだから。 だから、月成の告白に驚きはするけれど、多飛本に嫌悪的な感情を持つことはあり得ない。 それに「夏目だったから」の言葉に、リオの感情も含めて読み取る。 「人間として魅力的だったんですよね、兄さんは。」 月成は微笑んで頷く。 「小学校の頃から好きで、中学に入ってから思いあまって告白したけれど、やんわり拒否されたって。逆に「多飛本の事は親友として好きだから、迷惑でなければ付き合い続けたい、それでもいいか」と確認を取られて・・・ますます夏目くんの事を想うようになったって云ってた。・・・だから、わたしは彼に嫌われていたわけよね。あの敵意に近い感情も今だから納得できる。」 くすくすと涼やかに月成は笑う。 記憶の中の夏目と多飛本と自分と・・・幼かった自分たちの関係を懐かしく想い出している。 「どうも、わたしが現れた事がきっかけで、史司くんも夏目くんを思い切って、高校生になってからは普通に女の子と付き合っていたらしわ。・・・わたしと再会するまでも、何人かの女の子と付き合ってる。本人曰く、どの子とも遊びでない程度の本気のお付き合い、だったらしいけれど・・・わたしやユキみたいにのめり込むような恋愛は理解できないと云ってた。」 そこで、少しだけ瞳を細めて寂しそうな笑みをして、でもすぐに悪戯っぽい笑みを鳥貝に向けた。 「春海ちゃんは・・・わたしと史司くんの付き合うきっかけも知りたいわけよね?」 「あ、あの、もし話しても差し支えないなら、」 「春海ちゃんにならいいわ。」 月成はにこにこ上機嫌に笑う。けれどそれは、己の心情を隠すための仮面にも思われる。 「ぶっちゃけて云うなら、成り行き、っていうのが始まりなのかな。前にも云ったけど、ほら、身体の相性が良かったでしょう。だから付き合う気になったのよ。」 「・・・はぁ・・・、」 身体の相性、という部分は鳥貝にはよく分からない。そもそも、百合子としか経験がないし、彼とするのは気持ちよくて当たり前、幸せで当たり前・・・最初の相手とずっと恵まれた関係を続けている鳥貝に分かりようがない。 鳥貝の「よく理解できません、」の表情に、月成は苦笑した。 「春海ちゃんは、幸せなのよね。ユキと相思相愛で。そりゃあもちろん、身体だけじゃなくて、心も相性が良い方がいいわよ。でもね、・・・どちらかだけでも、成立する関係は確かにあるのよ?」 それは、鳥貝も何となく頭では分かる。 例えば、高校時代に付き合っていたNとの関係は心だけで成立していたのかもしれない。ただ、今の百合子との心の結びつきを思えば、Nとの関係がどれほどのものだったのかも疑問でもあるのだが。 鳥貝は実体験していない事柄について、簡単に理解を及ぼせるだけの思考をしていないから。 鳥貝の思案する顔を見て、月成は笑う。 「分からなければね、その方がいい。心だけの繋がりも苦しいし、身体だけのそれは・・・どちらかに心があれば、尚更辛いから。」 月成は・・・多飛本の話をする時、時々苦しそうな表情を垣間見せる。けれど、垣間見せるだけで、悟られる前にすぐに陽気な笑顔を取り繕う。 「夏目くんが亡くなった後、ね、お互いの連絡先を交換したでしょう。わたしは・・・多分、彼も、夏目くんの形見分けの件でだけ会うつもりだったの。お互い、夏目くんを挟んでの間柄だから、彼がいなくなればわたしたちの関係なんてただの顔見知り程度のものだもの。元々、お互い好意的な感情を持ち合わせていなかったし。なのに、変な縁ってできてしまうものなのよね。」 月成は足を組み替えて、思い出した事柄にくすくす笑う。 鳥貝は心地よい月成の声が語る、鳥貝にとって興味を覚えてしまう内容の話に、取り立てて口を挟むことなく、耳を傾ける。 「夏目くんの家で会ってから数日後にね、電話があったのよ。」 意味深に視線を送られて、意見を求められたのだと察した鳥貝は小首をかしげてそれに応えた。 「多飛本さんから? 何か用ができたんですか?」 話の流れからして真っ当な答えである。けれど、もちろん、そんな真っ当な答えを続かせるために鳥貝に意見を求めたわけではない。 「史司くんの携帯から、っていうのは正しいけれど・・・かけてきたのは、当時の史司くんの彼女から、だったのよ。笑っちゃう。」 「・・・え? どうして、」 きょとんとする鳥貝に、月成は「やっぱりね、」と笑う。 「春海ちゃんには、そこの所の女の子の気持ちは理解できないわよね。だって、あのユキの溺愛ぶりったら、」 「・・・えーと?」 「もちろん、人にもよるけれど・・・普通は、恋人の携帯って気になるものよ。浮気とか、変な交友関係とか。特に、挙動の理解しきれない恋人相手だと、疑心暗鬼は膨らんじゃう。・・・春海ちゃんは、愛されまくってるし、挙動もユキ自らが話したくて仕方なくてうずうずしているくらいだし、なによりあなた自身ユキの行動を監視するような事、嫌いでしょう?」 「そりゃ・・・百合子さんには百合子さんの生活がありますし・・・、携帯って、すごくプライベートなものじゃないですか、」 「それはね、あなたが愛されている自信があるから、なのよ。愛されているの、自覚しているでしょ、しっかり?」 「・・・っ、そ、それは・・・だって、百合子さん言葉でも態度でもすごく示してきますし・・・、」 真っ赤になってしどろもどろの鳥貝は、やはり自分の口から惚気るのは苦手らしい。 月成は、そんなかわいらしい鳥貝にかすかな嫉妬を覚える。愛されている女に対する嫉妬だ。 「春海ちゃんは、それだからユキと付き合っていけるのよ、きっと。もっとも、ユキはあなたになら、束縛されても構わないと思っているでしょうけど・・・いえ、むしろ、束縛されたくて仕方ないみたいだけれど。」 くすっと笑う。 何しろ鳥貝は、自由奔放な恋を繰り返してきた百合子が遂に手に入れた、欠けがいのないものだから。 「愛されている春海ちゃんの惚気は後で聞き出すとして、話を戻すわね。」 何かいいたげな鳥貝をわざとスルーして、月成は話し出す。 「そうね、女の子が嫉妬しちゃうのは、全て史司くんが悪いわけだけれど。・・・そもそも、携帯にナンバー登録するのに、恋人でもないオンナの名前をフルネームで入れてるってどうなの。そりゃあ、彼女としたら、彼氏の携帯登録にわたしの名前があったら、普通色々な意味で不安に思うわよ。当時はわたしもまだモデルは辞めてなかったし。偽名で登録しろとは云わないけど、苗字だけとか関係性を裏付ける内容を横にカッコ書きしておくとかくらいはしたらどうなのよ・・・、」 言葉の後半は、今まさに月成が憤っている内容に思われる。つまり、一度は多飛本の携帯のアドレス登録見て不快に思ったことがあるのだろうか。 鳥貝はそんな事を考えながらも、突っ込むのは控えた。話がまた脱線しそうだと思ったから。 「・・・恋人の挙動を不審に思ったら確かめずにはいられないわよね。愚かな女にはなりたくないもの。だから、彼女の行動は仕方ない。・・・で、わたしも反省はしているのよ。ちょうど、モデルの仕事を辞める事で事務所ともめてた時だったから・・・史司くんからの着信を見て、嫌いな男に八つ当たりしてやるつもりで、相手の言葉を聞く前に云っちゃったの。」 その時の事を思いだして、頭をかかえる。 「『この間は、ありがとう。でも、あなたとはあの日限りだと思ってたのだけど、今更何かご用?もしかして、わたしに未練があるとかじゃないでしょうね?なんなら、また一晩くらいなら付き合って差し上げてもいいわよ。』・・・大体こんな感じに。史司くんもわたしの事嫌っているから、きっと皮肉の言葉が返ってくると思ったんだけどね・・・電話の向こうの反応は、息を飲む音。しかも、女の子の。・・・すぐに状況を理解したけど、携帯は切れちゃった。失敗したなぁ、って思っても・・・遅かったの。彼女には本当に申し訳ないことしたと思うわ・・・でも、結局それがきっかけになったのよね。」 月成は小さく笑って鳥貝を見る。 「すぐにかけなおしたんだけど、当然誰も出ず。だから、翌日かけ直したら、史司くん本人が出て・・・ため息をつかれたわ。・・・別れたって。でも、別に怒ってもなければ、悲壮感もなかったんだけどね。・・・結局、彼にとっては恋人なんてそれくらいの存在。別れた所で次の子はいくらでもいるから。彼にとって特別だったのは、夏目くんだけ。それから、男友達も、かな。」 月成の言葉の端々には、時々自嘲が宿る。それは、鳥貝がリオに感じている彼女の表面的な気質とは異なった反応だけれど・・・それも、きっと彼女の本性のひとつ。夏目に恋していた頃の月成に近い気質なのだろうと、鳥貝は思う。 「彼にとってその程度の恋人でも、さすがに悪いとは思うじゃない? その彼女当人には謝罪できないけれど、そっちは彼女も早いうちにこんな男と別れるきっかけになってよかったと思ってもらうとして・・・史司くんにはお詫びにお酒をご馳走してあげたわ。・・・その時に、ふたりで夏目君の事を想いだした・・・お互い彼を愛していたから・・・傷を舐め合うように、体を重ねた。それが、最初。・・・そしたら、あの男、予想外にいいじゃない。堅物だから、もっとツマンナイのかと思ってたのに。」 思いだしたのか、くすくす笑う。 「そうやってわたしが褒めてやってるのに、史司くんったら、わたしの事、見かけ倒しじゃないんだな、って。どこまで行っても失礼。・・・ふたりとも、かなり酔っていたから、結構好き放題。でも・・・体の相性はいいって、お互い認識したのよね。だから、最初はあの男から云ったのよ。時々会わないか、って。」 息継ぎをするように話を止めて、大分ぬるくなった紅茶を口に運んだ。 「・・・何を考えてるのって、思った。でも、悪い気はしなかった。・・・夏目くんの事をしんみり話せるの彼だけだったもの。それに、彼が意外と優しいのが分かったし。・・・だから、モデルを完全に辞めた後、一応恋人としてお付き合いするようになったわ。・・・この指輪は、今年の夏目くんの命日にもらったの。」 左手薬指のシンプルなシルバーの指輪を指先でくるくる回す。 「どうしてか、夏目くんのお墓の前でね。しかも、飴玉でも渡すみたいに渡してきたの。・・・別に、将来を誓う気もないくせに、何を考えてたのか・・・、」 指輪を細い指から引き抜いて、それをしげしげと眺める。指輪から多飛本の真意を読み取ろうとするように。指輪の語る言葉を聞き出そうとするように。 もちろん、それは叶わぬ事。 「あの男、あまり多くは語らないから。・・・特に、自分の本心はね。いつも、はぐらかす・・・、」 鳥貝は、多飛本が月成をどういう風に想っているのか考えてみようとした。けれど、これまで多飛本が月成について語ったことはない。男達なら多飛本の心の内を知っているのかもしれないが・・・プライベートなことを聞き出すのが好きではない鳥貝は、多飛本の心の内を知らない。 だから、切ない表情をする月成にどう云っていいのかも分からなくて・・・。 「あ、あのっ、お茶、新しいの入れてきますね。すっかり冷めちゃってるし。紅茶、美羽子さんからいただいて、結構色々な種類があるので、何かリクエストがあれば云ってください、」 ふんわり笑った月成は、鳥貝のお勧めだという柑橘系のフレーバーティを注文した。 寮の紅茶党は主に多飛本。夏目が母美羽子に影響されてそうだったように、多飛本は夏目に影響されている。だから、大元の美羽子から紅茶の入れ方を教わった鳥貝が入れた紅茶は、多飛本にも受けがいい。 鳥貝も美羽子から紅茶を勧められるようになってから、どちらかというと紅茶党で、多飛本と一緒に紅茶を飲むことも時折ある。 だから・・・その時にでも多飛本の心の内を聞き出せたらいい、と思った。 人の恋路に首を突っ込むのなんてあり得ないと考える鳥貝だけれど、月成の切ない態度は胸に痛かったから、何か自分にできることをしたいと思った。 兄が愛した女性に、鳥貝も好感を持つようになったから。 つづく |