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<オリジナル話・8>

Rio【4】


 ずっと聞きたいと望んでいた声。聞くだけで幸せになれた声。
 今は、聞くだけで、こんなにも苦しい・・・。
「・・・リオ!」
 普段の彼ではあり得ない、苛立ちを含んだ大きな声で彼女を呼ぶ。
「リオ、どこだ!?」
 港にいると云っただけで、ここに来てくれる。それは、夏目もこの公園を月成との思い出がある場所だと認識してくれているせいだ。
 嬉しい。苦しい。
「リオ!」
 人目を気にすることなく、どこにいるか分からない彼女の名前を呼ぶ。こんな必死な夏目を感じられるなんて、思わなかった。肌を重ねている時でさえ、彼は優しくて穏やかで、常に月成の事を気遣いながら愛してくれた。
 彼女はベンチから動かず、夏目が目の前に現れるのを待った。来てくれる確信はあったから。
 乱れた足音が聞こえ。
「リオ!!」
 薄闇の後ろ姿で彼女を判別したらしい夏目が、彼女の前に回り込んだ。
「リオ・・・、」
 肩で息をしている。
 見たことのない必死な形相がみるみる安堵の表情になり、月成の目の前に崩れるようにしゃがみ込んで、そのまま彼女の膝に上半身を預け、彼女の腰に腕を回した。
 激しく脈打つ鼓動と、呼気。熱く火照った体。夏目の荒々しい体の動きが直接月成に伝わる。月成の腰に添えられた手が、彼女の存在をつなぎ止めようと、力強くそこを掴むのを感じる。
「・・・よかった・・・、」
 小さなつぶやき。
 夏目の夏目らしくない行動、それがすべて彼女を心配するあまりのものだと理解できて、月成の鼓動は跳ね踊る。嬉しすぎた。だから、余計苦しくなった。
「きみは・・・、」
 しゃべるのもやっとな弾む呼吸の下から、夏目はそう口火を切った。
「一体、何を考えているんだ、・・・こんな時間に女の子が、しかも、きみみたいな子がここにいて、何かあったらどうする、それでなくても、病み上がりなのに、」
 ぜぃぜぃ云いながらの途切れがちな言葉だけれど、それが完全な怒気を含んでいると分かる。
 怒っているのだ、あの夏目が。
 月成は自分の膝の上の夏目の頭に、海風ですっかり冷えた手を添えた。
 汗ばんで、濡れている。
 ここに来るまで、どれくらい走ったのだろう。焦ったのだろう。
 月成が無事でいた事を安堵した夏目は、言うべきことを言うと、呼吸を整える為にしばらく、月成の膝の上に体を預けた。
 月成は、夏目の頭から背中へと手を移した。
 春先の冷え込む夜なのに、真夏に運動をした人間くらいに汗ばんでいた。
 わき上がる嬉しさに、病んだ月成の心が水を差す。
 様子のおかしい月成を心配してくれたのは確か。けれど、これが例えば、夏目が弟同然にかわいがっている百合子相手でも、同じ事をしただろう、と。いや、百合子や親友達ではなくても、もっと他の、彼の同級生に過ぎない人間が相手でも、同じようにしたのかもしれない。
 夏目がそういう人間なのは分かりすぎるくらい、分かっているのだから。
 荒々しかった夏目の呼気が収まってきて、夏目は顔を上る。眉根を寄せ、目元を険しくし、完全に怒った表情だ。
「・・・リオ、説明は?」
 怒りに震える声。でも、怖くはない。
 リオはうっすら笑う。
「海風に、あたりたかったから。」
「・・・それなら、こんな夜にわざわざ来なくても、明日でもいい。夜風がいいというなら、先に云えば、ぼくが付き合った。」
「すぐにが良かった。」
 静かな口調で、わがままに他ならい事を言う。
「海を見てたら、夏目くんにも、会いたくなった。」
 微笑み、まだ熱の引かない夏目の両頬を、冷たい手で挟む。
 なんて、愛しいのだろう。
 場違いに想う。
 この愛しい人を、壊したくはない。
「わがままなきみだって好きだ。けれど、きみはもっと自分の事を考えるべきだ。ぼくが困るくらいならいいが、きみの身に何かあってはぼくが困るだけじゃすまない。」
 このまま、自分の激しい独占欲を貫けば、夏目が「困る」だけでは済まない事態になる。
「夏目くん、キスして・・・、」
 夏目の言葉を聞き流して云った言葉に、夏目は何か云いかけるが・・・あきらめたようにため息をついて、月成の冷えた唇に熱いそれを重ねた。触れるだけですぐに離れようとするそれを、月成は彼の頬を捕まえて引き寄せて、もっと深いキスを続けさせる。
 夏目の熱が伝わり、キスだけで体が温かくなる。
「夏目くん、わたしの事、好き?」
「当たり前だろ。でなきゃ、こんな事しない。」
 月成の頬に手を添えて、間近で云う。言葉にはひとかけらの嘘もない。彼の真摯な眼差しがそう云っている。
 こんなわがままを繰り返していけば、いつか「嫌い」になってくれるのだろうか。
 もう少しだけ、わがままを云いたい。今晩だけは。彼に云う、これが最後のわがままになる。
「夏目くん・・・汗すごいね・・・行こう。」
 ベンチから立ち上がって、月成は云う。
 夏目はあからさまに「どこへ?」と眼差しで訴える。
「どこでもいいよ。ふたりきりになれる場所。今晩は、ずっと傍に居て欲しい。でないと・・・、」
 わざと言葉を続けず、くすっと笑って遠く、夜の海を見た。
 今ここで夏目が断るなら、本当にそうしてもいいと思っていた。
 夏目も立ち上がって、デニムについた土を払い、ため息をつく。
「せめて、ご家族には居場所の連絡を・・・、」
「斎の家に泊まるって云ってある。いつもの事だから、大丈夫。夏目くんは?」
「・・・今日は母は出かけていたからね。友人の家に泊まるとでもメールしておけばいい。」
「わたしのこと・・・ばかげた電話の事、誰にも云ってないの?」
「それどころじゃなかっただろ。きみが心配で、財布と携帯だけ掴んで来たんだ。電車の中でも気が気じゃなかった。おかげで、こんな格好だよ。」
 確かに。
 いつもの夏目らしくなく、髪はぼさぼさ、アイロンもかけていないシャツとつっかけのような履き物。
 月成はぷっと笑う。
 そして、夏目は月成のその様子に安堵するのだった。
 夏目は、彼女の様子のおかしさを、思春期の少女特有の不安定さだろうと思っていた。だから、この不安定な心が落ち着くまで、彼女の云う事は何でも聞いてやるべきだと考えた。彼女に恋しているからこそ、夏目は彼女に強く出られなかったのだ。


「別れてください。」
 月成は、早朝に切り出した。
 うっすらと日の出が始まったばかりの時間だった。
 シャワーを浴びて身支度をしていた夏目は目を見開いて彼女を見る。
 夕べ、あれから、このホテルに入り、月成の求めるがままに体を重ねた。
 病み上がりで体力の落ちている彼女に無理をさせられないという夏目の言葉は、激しい月成の求めにより、あっさりと消え失せた。
「・・・どうした? 悪い夢でも見たのか?」
 目覚めに発せられる言葉ではないと判断した夏目は、微笑みながらそう云うのだが、月成は真剣そのものだった。
 寝ぼけてなどいない眼差しで、しっかり夏目を見据えていた。
「・・・リオ・・・、」
 彼女の瞳には迷いはなかった。はっきりと決めてしまっているようだ。
 夏目は彼女の性格を把握している。一度こうと決めてしまったら、彼女が後に引くなどありえない。初めて夏目の旅についてきた時もそうだ。
 わがままや思い付きで簡単にこういう事を決めてしまえる女ではない。この真剣すぎる眼差しは、散々考えた末の結果を表しているのだと分かってしまう。
 彼女は、自分の行く道を自分で決める。そういう女なのだ。
 夏目はそんな彼女に恋をした。
 だから、夏目は・・・答える。彼女の心のままに。
「・・・わかった。けれど、君の家までは送らせて欲しい。」
 月成は微笑む。
 夏目ならば、必ずそう言うだろうと分かっていた。
 ・・・少しは、引き止めて欲しいと思っていたのかもしれない。夏目らしくなく、未練がましく引き止めて欲しいと。
 けれど、もちろんそうされた所で月成の決心が変わるわけがなかった。多分、夏目にもそれが分かったのだろう。

 やっと朝日が現れたばかりの早朝。
 夏目と月成は終始無言で歩く。
 これが最後だった。ふたりで一緒に歩く最後。ふたりで過ごす時の最後。
 もちろん、夏目は何も聞かない。月成も言うつもりはない。
 月成は夏目を好きだから別れる事にした。
 夏目も月成を好きだから別れる事に同意した。
 不思議な別れだった。
 閑静な住宅街の一角にある、月成の家の門扉にたどり着いた。
 月成は迷うことなく門扉を開ける。
 これがふたりの最後の時。
 月成は振り返らない。
「さよなら、元気で。」
 夏目は月成の背中に囁くように言葉を向けた。月成は一瞬動きを止めたけれど、それでも振り返らなかった。


 数日後、新学期が始まったばかりの、月成の通うF女学院高等部の門扉で、ちょっとした異変があった。女生徒達がざわざわと騒がしくざわめいていた。
 この春から斎に誘われて生徒会の役員をしていた月成たちの元にその報せが届いたのはすぐだった。
「校門前にS学院の男子生徒がいるんだと。」
 斎が月成を見ながら言う。確信ある口調だ。
 月成もそれだけで分かって、肩をすくめてみせる。
「最近噂の、『氷の貴公子』ですよ。」
 情報を持ってきた1年の女性が頬を赤らめてそんな事を言う。
「は?」
 とは、月成と斎の同時の言葉だ。
「電車通学の子たちの間で噂なんです。S学院の中等部にすごい綺麗な子がいるって。K市方面の人らしくて、電車通学の子たちの何人かが彼に告って、全員ふられたみたいですよ。わたしも見たのは初めてなんですけど、ホントすごい綺麗な子で、」
「ま、そりゃあふられるわよね・・・、」
 とは月成の言葉。だってゲイですもの、と口の中で呟く。
 あれから数日。
 月成は変わったのかもしれない。
 斎には「夏目くんと別れた。」それだけ伝えた。聡すぎるうえ、月成の事を知り尽くしている斎は「そうか。」と云っただけで、他には何も云わなかった。
 そして、月成の急すぎる変化を、自然と受け止めていた。
「大方、おまえ目当てだろう。どうする?」
「あらいやだ。わたし目当てだなんて、照れるじゃない。」
 茶化すように云う。
「つ、月成先輩のお知り合いなんですか?」
 一年の女生徒が声を上ずらせて云うのに、月成は微笑んで、その女生徒の頬に触れる。
「そうかもね。でも、大丈夫、あんな子供に、わたしは興味がないから」
 うふふ、と笑う月成の魅惑的な微笑に囚われない者はいない。
 女生徒も顔を真っ赤にして月成に見とれている。
「行くのか? わたしが行ってもいいが。」
「行くわよ。決着はつけないと。紗織も手出しは控えてね。」
 了解、と斎は手を上げて月成を送り出した。
 今の月成ならば大丈夫だろうと考えつつ、彼女がそうなるに至った原因について思い巡らせる。
「単に吹っ切れただけならいいのだがな。ま、それもあいつの選んだ道か。」

 校門の前、ひどい仏頂面で誰かを待っているS学院中等部の制服の少年。整った美しい面差しをしている。
 下校をするF女学院の生徒たちは、彼を見て一瞬見惚れた後、キャーキャー黄色い声で彼の事を噂しあう。誰かの恋人だろうかと。誰を待っているのだろうかと。
「さて、誰を待っているのかしら? 生徒会を代表して来てやったわよ。」
 月成は少年の前に立ちはだかった。
「お、まえ!」
 掴み掛からんばかりの少年の前に手を差し出して、その手を制する。
「校門前で問題を起こさない。警備のものが来るわよ。ここがどこだか分かって来ているのでしょう。」
「どういうつもりだ、あんた!」
「どういうつもり?」
「夏目と別れたって! なんで・・・!」
「・・・そもそも、あなたはわたしと彼とを別れさせたがっていたんじゃないの?」
「おれは、あんたが気に入らなかっただけだ。夏目があんたを好きだったから、だから・・・、」
「子供ね。だから、夏目くんとよりを戻せと? わざわざそれを云いに来た?」
「違うっ! そうじゃない。じゃなくて、夏目、春の予備校の模試で散々だったんだ。夏目じゃありえないくらい。あいつ、そういう事もある、って笑ってたけど・・・けど、あんたが、原因だろ? 模試の日以来、あいつの様子がおかしいんだ。あんたが、何か夏目に云ったんだ。」
「だから、わたしに謝罪しろとでも? ね、ユキ、あなたも分かってるでしょう。恋愛問題は当人同士の問題。第三者が口を出す事じゃない。」
 ユキ、と月成が彼・・・百合子を呼ぶのは初めてだった。普段、その呼び方は夏目しかしない。以前の彼女ならば、百合子くんと呼んでいた。
 けれど、それは今の百合子にはどうでもよい事だった。
「・・・あんたから、別れたんだろう? その時に何か夏目を傷つけるような事を・・・、」
「云うわけないじゃない。ばかねぇ。」
 くすっ、と明らかな嘲笑をもらす。
 百合子は苛立ちをはっきりとその表情に表せる。
「あんたは、本気で夏目の事が好きだと思ってた。夏目は、あんたに本気だった!!」
 つかみかかる百合子に、月成は抵抗しない。
「なのに、なんでだよ! あいつ、全然平気な顔してみせてるけど、すげぇ落ち込んでる。分かるんだ、おれには。あんなの、夏目らしくない・・・、あいつ受験生なんだぜ。この調子じゃ、あいつの夢、叶わないかもしれない。・・・なぁ、なんでだよ!」
「あとは、夏目くんの問題だわ。彼自身が自分で処理してくれないと。わたしには、関係ない。」
 正論をきっぱりと言い切る。
 そう、それが正論だと、百合子にも分かっている。けれど、まだ少年の百合子は、己の感情の収め方を習得しきれていない。
 激情のままに思い切り、月成の頬をたたいた。
 ふたりの言い争いを周囲で遠巻きに見ていた女生徒たちが悲鳴を上げる。
 頬を叩かれた月成は、それでもにっこり笑った。
「・・・これで、気はお済み? 次は左の頬も出しましょうか?」
 冷静すぎる月成に、百合子の激情も収まっていく。
 さすがに大きな騒ぎになってきた。教師と警備の者が校門に駆け寄って来ていた。
「月成さん、何事ですか!」
 月成は、自分の制服を掴んだままの百合子の手をそっと退けた。
「すみません、先生。何でもないです。弟が来ていただけです。お気になさらずに。彼ももう帰ります。」
「・・・弟・・・っ!?」
「ユキ、あなたが問題を起こして、困るのは誰? こんな事が公になって、夏目くんの耳に入ればどうなる?」
 優しい声音でそれだけ云う。
 激情を収めた百合子は、月成の言葉に息を呑み、拳を握り締めた。
「さぁ、帰りなさい。」
 百合子の肩をぽんと押しやって、月成は百合子に背を向けた。
「あんたは、夏目のこと・・・、」
 ぽつりと呟いた百合子の言葉に、月成は笑った。
「好きだから、別れないわけには行かなかった。模試の結果だけじゃ済まない状態にならないように。」
 月成も呟いた。
 百合子に言葉は届いていたが、月成の言葉を完全に理解するには、まだ彼は、本気の恋を知らなかった。


「なぁに、今度はあなたたち?」
 百合子が現れた翌日だった。
 下校途中、月成の自宅傍に現れたのは、安羅と時屋、白熊だった。百合子ほど激情に駆られていない彼らだから、さすがに学校の校門前は控えたらしい。
「百合子のばかが迷惑掛けたことを先に謝るよ。」
 やんわりした口調で安羅が云う。けれど、目元は笑っていない。
 普段、彼女に対して友好的であった彼らのこの態度の理由は分かりすぎるくらい分かっている。
「そうね。彼にも云った事を、重複して口にするつもりはないかな。で、あなたたちは、何の用?」
 これまで2年、夏目の友人達は夏目を恋い慕う月成を見てきた。彼女は、外見こそ派手に見えるけれど、性格はいたって平凡な恋する10代の女の子にすぎなかった。時々、夏目と彼女の時間を奪う彼らの事を邪魔者を見るように睨み付けている事はあったけれど、夏目の手前それを口に出すことを控える慎みを持っていた。
 けれど、今目の前の彼女はどうだろう。自分の見た目とつり合うだけの高慢な立ち居振る舞い、物言い。そして、彼らの事をひどく冷めた目でみる表情。
 2年間の彼女が嘘であったわけはない。でも、目の前の彼女も、真実。
「百合子とほとんど同じ理由だったんだけどね・・・、今のきみを見て戸惑ってる。」
 月成は彼らの様子にくすっと笑う。
 なんて友達思いなのだろう。親友の夏目のために恋愛事情に口を出さずにはいられないのだ。
 今の月成は、それを無駄なお節介だと感じる。
 けれど、心の奥にある、夏目に恋する心がほっと胸をなで下ろす。彼らがいれば、夏目は大丈夫なのだと。
「当人同士が話すだけでは、誤解が生じて無駄に拗れる事もあるだろう。第三者であるぼくたちが、その拗れを正せればと思ってきたんだけど・・・、」
「離婚の調停みたい。」
 白熊の冷静な物言いに、月成はくすくす笑う。
「でも、そうね。いいわ。別れた理由を云えばいいのよね。・・・そろそろ潮時だと思ったから、かな。」
「何の?」
 むっとした口調で時屋が云う。
 月成りは、笑顔を崩さない。
「モデルをね、する事になったのよ。前々から声をかけられていたのだけれどね。」
 月成のその言葉だけで、別れた理由は簡単に推測できる。
「要するに、交際相手が邪魔だというわけか?」
 フェミニストの安羅ですら、むっとした口調になる。
 彼らから向けられる、憎しみが今は心地良い。
 もっともっと嫌われたい。夏目に二度と近づかなくていいように。
「そういう事になるかもね。・・・ちょうど良い頃合いだったのよ。」
 男達の顔がそろってむっとなる。
「あの人も受験生。わたしの事を構う時間も減るでしょ。わたしもモデルとしてのレッスンで忙しくなる。どのみち、別れていたわ。それが今だっただけ。」
 あまりにあっさりと言い切る月成の表情は、すっきりして見えた。
 彼女の本音がどこにあるのか、当然、夏目贔屓の考えをする男達には見えるわけがない。そのまま見た目だけを感じ取る。
「負担なのよ。重荷になったの。彼への気持ちも、彼の為に使う時間も。彼からも気持ちも。」
 半分は嘘。負担だった。重荷だった。けれど、それでも彼が好きだった。気持ちも時間も、惜しくはなかった。彼の気持ちを感じられるだけで幸せになれた。
 少し面倒くさそうに言い切った月成に、険しい顔をした安羅が身を乗り出して何か云いかけて、同じような顔をした時屋がその肩を掴む。
 普段から、決して女の子に手を上げない、傷つけるような事をしないだろう安羅のその様子が、おかしい。
 きっと、彼らは自分の主義主張に反してまでも、友情を取る。恋人と親友ならば、親友を取ってしまうかもしれない。夏目からしてそういう人物だ。
 だから、と月成は思う。自分が居ない方がいいのだと。
「もしも、彼に何か伝えてくれるなら、伝えて。心配されるまでもなく、わたしは元気だわ、と。」
 月成は男達に背を向けた。
 彼女の心の内は、分からない。誰にも。
 分からなくていいのだ。

つづく