<オリジナル話・8>
Rio【2】
ふたりの過ごした時間を全て語り尽くそうと思うと、とても長い時がかかる。
だから、月成は一瞬で鮮やかに蘇らせ得る夏目と過ごした全て記憶を、しばらく己の中で吟味した。
ほとんどが、月成自身が見て、感じた生の記憶。そこに少々、後に男達から聞いた夏目の様子も含まれている。
出会いは、まるで少女漫画のようだった。
初めて一人で乗った満員電車。そこで痴漢にあったのを、助けてくれたのだ。
中学生1年生。当時月成はあまり目立たない存在だった。彼女の幼なじみで、保護者のようにいつも一緒にいる斎が、彼女をより目立たない存在にしていた。容姿はもちろん、勉強・スポーツに優れ、年齢より大人びてしっかりした気質は、年上・年下問わず信頼と友愛を寄せられる、そんな存在の斎の影に隠れていればそれで安心だった。困ったことは、大抵斎がなんとかしてくれたし。
けれど、その日はどうしてもひとりで出かけなければならなかった。斎の誕生日プレゼントを買いに行かねばならなかったのだ。
母親がフランス人の彼女の容姿は、本来なら目立つはずのものだった。けれど、もっと幼い頃、現在住んでいるY市とは別の場所で何年か過ごした彼女は、周囲の好奇の目に晒されたのを心の傷とし、自らの容姿を必死で隠そうとした。つまり、本来明るい栗色の髪を黒に染め、色の薄い瞳をメガネでごまかし、いつも俯いているのが癖になっていた。今でこそ外国人の多い、それゆえ混血の人間も希に見るY市での生活でも、その癖は抜けていなかった。
遠縁にあたる同い年で幼なじみの斎にはいつも「リオは綺麗なんだから、自分を隠すようなことはしないで、もっと胸張って堂々としてればいいんだ。」そう叱られたけれど、身についた癖はなかなか直らなかった。
その日も、彼女は満員電車の中で俯いて自分の靴と他人の靴を見比べる作業に没頭していた。
窮屈な満員電車も斎と居るときはいつも、彼女が月成を守るように他人との壁になってくれていた。月成を庇う斎が痴漢にあったことも、一度や二度ではなかったらしいが、大抵、足を踏みつけるか、その手を抓り上げた後、睨み付けると引いていくのだと、斎は語った。また、声を上げるだけでも効果はあるとの事も。
だから・・・。
最初は鞄が当たっているだと思い、満員電車なのだから仕方ないとあきらめる事にした。けれど、そのうち、手が触れてきた。膝丈のフレアスカートをはいていた月成のそのスカートが鞄で器用にまくり上げられ、太ももに他人の手の感触を感じた。足下を見ていた月成は、その手が彼女の背後、汚れた茶色の革靴を履いている、無骨な男のものだと気づいた。
斎の言葉を思い出した。
こういう場合は、足を踏みつけて、睨み付けなければ、と思った。それとも、声を上げれば・・・。
けれど、たったそれだけの事が、月成は怖かった。震えて、声なんて出ない。怖くて、されるがままになってしまうばかりだ。
震えながら俯いて、涙が浮かんでくるのをぐっとこらえた。次の駅まであと数分。それまでの辛抱だと思った。
けれど、抵抗しない月成に、痴漢の男はつけあがり、ついに月成の下着に覆われた部分にまで手を伸ばしてきた。
あと数分。その数分の間に、月成はこれ以上の事をされるかもしれない恐怖に小さく、本当に小さく声をだした。「や、だ・・・、」それが、精一杯だった。
ガタン、電車が大きく揺れる。
「あ、すみません。」
声がしたのはその時だった。声は、月成とそう年の違わないだろう少年のもののように聞こえた。
足元を見ていた月成の足のすぐ横に、使い込まれた、けれど綺麗に手入れされた革靴が見え、次に手帳のような物が月成のパンプスのつま先あたりに落ちた。
痴漢行為は、すっと月成から離れていった。
「あー、しまった。この状態じゃ拾うに拾えない。」
屈託ない声に、月成はやっと顔を上げ、革靴の主を見た。
月成より少し年上くらいの少年だった。柔らかな表情で月成を見ている。
「さすがに、足先で拾い上げる器用さは持ち合わせてないな、ぼく。」
「百合子あたりならやりかねないけどな。」
もうひとりの声が聞こえ、少年はクスクス笑った。そちらは顔はよく見えない。
「ね、きみ、」
突然声をかけられて月成はびっくりして目を見開く。女子校育ちの彼女は、同じ年頃の男の子とあまり話した事はなかったからだ。先ほどの痴漢行為のせいで、赤くなっているだろう顔が、さらに赤らむのを感じた。
けれど少年は月成のそんな様子にお構いなく、親しげに声をかけてくる。やっと声変わりしたばかりの、まだ少年らしさの残る、耳に心地よい声だった。声だけでなく、口調も穏やかで心地よい。
「っ、あ、はぃ。」
声がうわずった。恥ずかしい。
「申し訳ないけれど、次の駅で停車したら、その手帳、上手くホームに蹴飛ばしてくれない? ちょうど降りる駅だし。」
「・・・え?」
「夏目、その依頼はないだろう。だいたい、女の子だろ、相手。」
「でも、普通に拾い上げる方が困難な気がしない、この場合?降りる人にも迷惑だよ。」
「蹴飛ばしてもらったはいいが、踏みつけられて、くたばるかもよ、その手帳。」
「うーん、それは困ったな。一応、色々予定書き込んであるんだけど。ま、それも運命か。」
「あ、あの、」
少年が困った顔をしているのを見て、月成は自分から声を掛けた。
「電車が停まったら、わたし、拾えるかもしれません。ば、バレエ習ってるので、体は柔らかいんです。」
緊張で声は震えていたけれど、上手く云えた。月成は、優しい表情を崩すことのない少年に少しだけ笑って見せた。少年も笑い返す。
「じゃあ、きみに期待してみようかな。あ、でも無理はしないでね。」
初対面なのに、なんて心地よい人だろうかと思った。初対面の人を、ましてや男の子を、そんな風に思うなんて、月成は初めてだった。
それから、ほんの数分、少年たちは自分たちの会話に戻り、月成が痴漢に遭う事はなかった。
さいわい、電車が停車してすぐに、月成は柔らかな体を生かして素早く手帳を拾い上げ、少年に手渡し、本当は降りる予定ではなかったその駅で、少年たちにつられるように降りた。
「ありがとう。迷惑かけたね。おかげで、手帳は無事だった。」
「いえ、こちらこそ。ありがとうございました。」
月成は頭を下げる。
おそらく、この少年は月成が痴漢されているのに気づいて、わざと手帳を落としたのだ。そう確信できていた。
少年は月成のお礼を否定することなく、笑って受け止めた。
「じゃ、帰りは気をつけてね。」
「夏目、間に合わないから!」
少し離れた場所で、彼を待っていた一緒にいた少年にせかされて、彼は行ってしまう。
呼び止めたかった、本当は、もっとちゃんとお礼を云って、自己紹介して、相手の名前も聞いて・・・でも呼び止める勇気が月成にはなかった。
しばらく、彼が去っていく背中を見送りながら、月成はつぶやいた。
「夏目・・・、」
それが、苗字か名前か分からなかったけれど、絶対に忘れないと、そう思った。
自分でもそれが、初恋なのかもしれないと、理解していた。
それから1年と少し、月成の「夏目」を探す日々は続いた。
顔の広い斎にも聞いたし、以前彼と出会った電車に乗り、頻繁にあの駅にも行った。けれど、この人口の多い都会、ましてや観光地でもあるここで、あの少年と出会える確率がいかに低いかを、彼女は分かっていなかった。分かっているつもりでも、運命を信じたい年頃の女の子に理解しろという方が無理だろう。
1年と少しの間に、月成は随分変わった。
しっかりと顔を上げて歩くようになった。
髪を黒く染めるのを止めた。
メガネをかけるのも止めた。
斎の後ろをついて歩く事も、控えるようになった。
その結果、月成本来の容姿と性質がちゃんと現れるようになりつつあった。
そしてまた、痴漢に遭っても、それにちゃんと対応できるようになっていた。
斎は、そんな月成をあきれながらも応援していた。本人曰く、子どもに巣立たれた親の心境だ、と年齢にそぐわない事も漏らしていたけれど、斎が月成を月成が斎を大事にしてる事には変わりなかった。
斎が有力な情報をつかんだのは彼女たちが中学3年に進級した春だった。
武道を習っている斎が、隣のK市での練習試合に参加したときに知り合った地元の同級の女の子との会話の中で彼の名前が出てきたのだという。
「鈴木夏目」
問い詰めて聞き出したところによると、彼女の通う公立中学の一つ上の先輩であり、元生徒会長、成績優秀で人望も厚く、進学先はF市の進学校で名高い公立S高校だという。
それが、月成の云う夏目なのかどうか分からないけれど、そこまで分かったのだ、興味があれば会いに行く事ができる。
さすがにすぐに会いに行く決心はつかず、月成は一月悩んだ後・・・ついに会いに行く事に決めた。
そして、実際それが「夏目」だと分かった月成は、相手が彼女の事を覚えていた嬉しさに浮かれて、その場ですぐに彼に告白をした。面食らってしばらく困惑していた夏目だったけれど、彼特有の穏やかな笑顔で「じゃあ、友達からということで。」ふたりの関係は始まった。
きっと、それはありふれた出会いで、ありふれた始まり、ありふれたつきあいだったのかもしれない。
けれど、そんな客観的な事は彼らにはどうだってよかった。ふたりが一緒にいる時間に幸せを感じられれば、それでよかったのだ。
けれど実際、付き合いだして友達から恋人に昇格するのは月成には困難に思われた。夏目は男友達に対する態度も、月成に対する態度もそう変わりはなかったからだ。更に云えば、女友達に対する態度とも変わらないのが、尚更ショックではあった。
夏目は忙しい人で、放課後やお休みの日は大体アルバイトに追われていた。母子家庭であり、母思いの彼は母親に負担を掛けないために、自分の生活費くらいは自分で稼ぐのだと2種類のアルバイトを掛け持ちしていた。それでも、進学校のS高校において、常に上位の成績を収めている事から、彼の努力家ぶりが分かる。
そんな彼の時間を、自分のために無理に裂いてもらうことは、月成にはできなかった。世間一般に「お嬢様」と呼ばれるような家庭で何不自由なく暮らしている自分を省みて、むしろ何もしていない自分に劣等感こそ感じた。
それでも・・・休日のアルバイトがない日や予定のない放課後、夏目は月成と一緒にいる時間を作ってくれた。そんな日は、月成はバレエやピアノのレッスンが入っていようと、夏目を優先した。滅多に一緒にいる事ができないのに、せっかくのチャンスを不意にしたくなかった。先生や両親に怒られるくらい、どうって事なかった。それくらい、夏目の事が好きになっていたのだ。
そんな関係を続けて一年、月成にも夏目の様々な事が分かってきた。
旅行好きの夏目は、長期の休みごとに旅に出かける。友人の誰かを旅の連れにする事もあったけれど、ひとりで出かけることが大半だった。
決して裕福ではない夏目が、自分のアルバイト代でそうやって旅をするのには目的あった。彼の亡くなった父親が生涯定住せずに旅を続けた手品師であり、最初はその父の足跡なりをたどっていたつもりが、いつの間にか各地の特有の建築物に魅せられるようになって、今は行く先々の建築物を独自に調査しているのだという。
その旅に月成は一度も連れて行ってもらった事がなかった。最初は、恋人になかなか昇格できない月成はやきもきした。実は、だれか他の女の子とは一緒に行っているんじゃないかと。
夏目が誰からも慕われる人間だというのは分かっている。老若男女問わず、彼には友人知人が多い。もちろん、その中には彼に恋心をもつ女の子も多々いる事を、月成は感じていた。
彼の親友たる男達とはすぐに面識ができた。同じ学校、あの出会いの日も一緒にいた多飛本、県内の別の学校に通う月成と同い年の安羅・時屋、県内で一、二を争う名門私立に通う月成よりひとつ下の白熊と、ふたつ年下、夏目の弟同然だという百合子。
本人があまり話さない分、彼らから色々聞いていた。夏目のこれまでのもてぶりと、恋愛に至る鈍感さ。過去、小学生時代から数えて、向こうから告白してきた数人の女の子と付き合ったらしい。けれど、特別も普通も分け隔て無く接する彼に恋をして恋人になったとしても、その関係が一切変わる事がないものだから、大体の女の子はすぐに自分から身を引くのだという。一年持った月成が最長なのではないかと。
正直、夏目が母親の次に大切にしているだろう彼らの事はあまり好きにはなれなかったけれど、あまり多くを語らない夏目の事を知るには、幼い頃から夏目と一緒だったという彼らが一番適任であったのだ。
遂に、旅行の件について、もしかして・・・の内容を聞き出そうとしたら、どの男も口を揃えて「夏目に限ってそれはない。」と云うから、安心はしたけれど、それでも・・・。
恋人に昇格できないまま一年が経とうする春休み前、月成は一度、夏目に旅行に連れて行ってくれるように懇願した。けれど、夏目は苦笑しながら断るのだ。理由は女の子が一緒に出来る旅じゃないから、という事。各地で飛び込みで格安のユースホテルを使ったり、運が良ければ田舎の民家に泊まらせてもらったり。運が悪い時などは、ほとんど野宿同然の事をするという。若い少年ならではのワイルドな旅だ。
言外に、お嬢様育ちの月成では無理だと云う。
夏目のその態度に、月成は少しだけむっとした。だから・・・ある事を計画した。
夏目が母と住むアパートには何度かお邪魔していた。母親というには若く見える夏目の母の美羽子とも「夏目の友人」という肩書きで面識ができた。
だから、夏目が出かけるその日の早朝、アパートの前で月成は待ち伏せた。
「リオ? きみ・・・、」
彼女を認めて、驚きに目を丸くする夏目。それはそうだ。
何しろ、子ども頃から一度も短くした事のない髪をベリーショートに切って、初めて男の子物の服を着たのだ。
「わたしも、一緒に行くから。」
女の子に危険な旅だというなら、男の子としてついていく、とリオは主張した。自分に合わせなくていいから、普段通りの夏目の旅をしてくれるようにとも云いつのり・・・月成自身に何かあったときに使う余分の金銭と携帯電話の常備、家族への連絡を条件に、しぶしぶ夏目は旅の同行を許した。
旅は・・・確かに、お嬢様育ちの月成にはきつかった。夏目はひたすら歩き回り、写真を撮り、図書館や役所に寄っては本や資料を調べ。彼女がこれまで経験する快適で疲れを癒してくれる「旅行」のイメージとはかけ離れていた。
けれど、それでも・・・楽しかった。
夏目と一緒に歩いて、彼が興味を示す物を知り、色々な人と言葉を交わし、ひたすら笑って、時々怒って。疲れた体を安宿の綺麗とはいえない共同風呂で洗い、ぼろぼろの布団で休めて。
わがままを云いたい時もあった。けれど、口に出す前にそれがわがままだと己で悟って、言葉を飲み込んで、消し去った。
くたくたに疲れて大変なのと同じかそれ以上に、楽しさの方が勝っていたのだ。この一年、知らなかった夏目の事をたくさん知れたのも、嬉しかったし、幸せだった。
それに・・・。
今度の旅は2泊3日だった。夏目ひとりだと5日くらいかけるところ、今回は月成が一緒なものだから短縮したのだと、夏目がもらしたのが2日目だった。
宿で月成が謝罪すると夏目は笑って云うのだ。
「いや、今回はきみが一緒で助かった。思ったよりも調査が進んだ。きみが写真を撮ってくれている間、ぼくは調査できたしね。それに、かわいい女の子がいると、おじさんがたも口が軽くなるのは盲点だったね。」
夏目にしては珍しく、安羅のような事を云う。
月成が顔を赤らめていると、不意に夏目が・・・月成の唇を奪った。
一瞬、月成は何が起こっているか分からなかった。唇の熱は、軽く触れるだけで、すぐに離れたからだ。
呆然として瞬きし、それから夏目の顔を見た。長身の夏目は、同年代の女性より背の高い月成でさえ、見上げなければならないほどだ。
夏目の顔は赤くなっていた。そういう風に照れた夏目を見るのは、初めてだった。
「リオは、かわいいよ。きみみたいな子は、初めてだ。いつも真っ直ぐで、時々突拍子もない事をしてぼくを驚かせる。ちょっとわがままで、でも自分のわがままをちゃんと分かって収められる、いい子だ。」
「夏目くん・・・夏目くんが、はじめて・・・、」
恋人に昇格できたのだろうか。
呆然とし続ける月成の頭に夏目の手が置かれた。すっかり短くなった髪を、愛おしげに優しく撫でる。
「もう、自分の部屋で寝なさい。でないと・・・ぼくだって、男なんだ、わかるね? 好きな子と一緒にいて、我慢できなくなると困る。」
夏目らしからぬ言葉に、月成は顔を真っ赤にした。
でも、これだけは聞いておきたかった。
「わ、わたし、夏目くんのこ、恋人に、なれたの・・・?」
自分でもおかしいくらいにうわずった声になった。緊張で顔が強ばっている自覚がある。
月成の言葉に、夏目は苦笑して、頭をかいた。
「・・・いや、ぼくはもうずっとそのつもりだったんだけどね・・・きみを、不安にしてしまってたのかな、やはり。」
「え?」
「もう、だいぶ前からきみの事が好きだったよ。ぼくはどうも、感情表現が下手らしい。自分から口に出して云う事も苦手なようだ。それで、きみに分かれというぼくは随分不遜な男だね。」
「・・・ほんと?」
涙が、こぼれた。声が震えている。嬉しすぎた。
好きで好きで、どうしようもないくらい恋をする相手からの告白に、胸がいっぱいになった。
夏目は優しい微笑みで彼女を見つめ、再びキスをする。やはり、触れるだけのそれは、優しい彼そのものだった。
「ほんとに・・・まずい。きみはもう戻りなさい。」
顔を赤くして、横を向いてしまう夏目に、月成は微笑んだ。夏目とならしたっていいけれど、それを云うと今必死で堪えていてくれるらしい彼の努力を無にしてしまう。
「・・・おやすみ、なさい。」
月成は、幸せでいっぱいになった胸で、自分の部屋へと戻って、眠りについた。白いひつじを見ると幸せな気持ちになる、という夏目が去年のクリスマスにくれた、ひつじのぬいぐるみがリオの夢の中で飛び跳ねていた。
けれど、やはりというか。
両想いだと確認しても、夏目は夏目だ。これまでとなんら変わらない態度で月成に接する。時々は、キスもしてくれるけれど、そこまでだった。
友達の状態でもやきもきしたけれど、両想いになって、逆にそれは余計にひどくなってきたように思われた。
あれから、夏目の旅には2度ほど月成もついていった。夏目もそういう時は、無理なスケジュールを立てず、月成に合わせてくれる。・・・きっと、それが夏目の愛情なのだろうとは分かっていても、月成は苦しかった。自分のわがままに夏目が付き合ってくれているのを実感するばかりなのだから。
そうは云っても、やはり、夏目とふたりきりの旅は楽しかったし、行くたびに色々な発見をして自分自身も人間として色々と成長できている気がした。実際、元々大人な斎にも「リオは随分大人になったな。」と云われるようになった。体つきが豊かになってきた事も含めて、からかい半分で云われる事もあったのだけれど。
やきもきし続ける月成は決意した。
6月の16才の月成の誕生日に、夏目からもらうもの、それは・・・。
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つづく |